チベット入植プロジェクト、ついに取り下げ!(2000.07.06)


世界銀行は資金援助続行を否決 日本も反対票 

著しい社会・文化・環境影響が予想され、大きな問題となっていた中国の「貧困削減プロジェクト」について、7月6日、世界銀行の理事会は支援を続行するかどうか最終討議を行いました。デモ隊が世銀ビルをとり囲む中での長時間にわたる討議の結果、中国はプロジェクトに対する支援要請を取り下げました。中国は、今後自己資金でプロジェクトを行うとしています。

計画段階から問題が多く、政策にも明らかに違反するプロジェクトが世界銀行の融資で実行される事態は避けられたわけです。理事会ではアメリカと並んで日本が支援続行に強く反対の立場を示しました。世界中のNGOが長期間にわたって運動を続けてきた成果は確実に上がったと言えます。

地球の友ジャパンも、他のNGOとともに日本政府や理事へのロビイングを行いました。昨年の時点では日本理事はまったく合理的な見解を示さず情けない思いをしましたが、今回、日本が政策の遵守を重視し、明快に反対の立場をとったことを評価したいと思います。同時にこの件は、開発機関の政策遵守という課題も明らかにしました。この経験を、国際機関における日本の意思決定や国際協力銀行に生かしていく必要があるでしょう。

プロジェクトについて


このプロジェクトは、5万8千人の貧しい中国人農民を、青海省からチベット自治区ドゥラン市に入植させ、ダム建設や地下水利用により、乾燥地帯で大規模な灌漑農業を行おうとするものです。ここではチベット人・モンゴル人が遊牧を営んでおり、大規模な漢民族の移住と灌漑農業は、この地の民族構成や土地利用のあり方を根底から変えることになります。

世界銀行がこの計画に1億6千万ドルの融資を考えていることが明らかになると、亡命チベット人組織を中心に激しい反対運動が行われました。彼らは、世界銀行のプロジェクト支援が、この地の民族構成を変えてチベット民族の文化的抑圧をはかる中国政府の計画に荷担するものと考えたからです。

1999年6月18日には世界銀行の独立審査パネル*に苦情申し立てが提出されましたが、理事会では融資の承認が決定されました。この時、日本は中国との外交関係から賛成に回っています。しかし審査パネルがプロジェクトの調査勧告を提出したため、理事会は調査が終了するまで資金提供は実行しないことを決めました。

独立審査パネルの報告書


パネルの報告書は、プロジェクトが世界銀行の政策に従って行われたかどうかを判断するものですが、それ以外にも多くの深刻な問題を指摘しました。先住民、非自発的移住、環境アセスメント等、6つの世銀政策について違反が認められ、環境スクリーニングの判断が誤っていたこと、現地では人々が政府を恐れていたため実質的な住民協議は行われなかったことなどが指摘されました。 また、世銀のスタッフ内にも政策の遵守に関して異なる見解があったことなど、組織的な問題も明らかにされています。

世銀の業務部は、中国政府に対していくつかの条件を課すことでプロジェクトの続行を認める考えを示していましたが、7月6日の理事会では日本とアメリカの理事が、プロジェクトの重大な政策違反を重く見て強く反対しました。理事会は合意に達することのできないまま、中国が条件付き融資も受け入れ難いとして、支援要請を取り下げました。世界銀行内部でどのように政策を徹底させ、プロジェクトの質を保つかという問題は今後に引き継がれます。

*独立査察パネル:世界銀行は業務の実施において政策が確実に遵守されるよう、苦情申し立てを受けて独立に調査を行う委員会を設けている。

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