先進国には、歴史的、かつ現在の温室効果ガス排出への責任があり、積極的に途上国の気候変動対策を支援することが求められています。しかし、気候変動対策のための事業なら何でも良いということにはなりません。事業を立案する前に、過去の様々な開発事業から失敗や成功の事例を学び反映していくことが大切です。自然環境や地元社会への影響を回避するために、事業の最上流の計画段階から、その必要性を含めて客観的に評価する。そのために可能な限り戦略的環境アセスメント(SEA)*1を導入するべきでしょう。また、地元社会には十分な情報提供を行い、自らの自由な意思に基づく、事前の合意(FPIC)を得ることが重要です。 *1)戦略的環境アセスメント(SEA)とは
SEAとは、可能な限り早い段階で、政策や計画に関する意思決定において環境影響を考慮するプロセスを指します。事業の実施直前に行われる従来の事業毎に実施されている環境アセスメント(事業アセス)よりも早期の段階で環境影響を考慮し、事業の必要性や代替策を含めて検討していこうとするものです。事業アセスでは、既に様々な意思決定が行われており柔軟な事業変更等が難しいこと、また複数の事業によって引き起こされる累積的影響に対応することが難しいこと等の限界が認識されるようになったことから、SEAの必要性が説かれました。 最近では、欧米各国だけでなく、中国、韓国、ベトナムなどアジア各国もSEAを導入しています。また開発援助の分野では、世界銀行やアジア開発銀行は事業アセスの限界を早くから認識しており、1990
年代初期からSEA 的な手法を導入し、現在は積極的にSEAを推進・実施しています。そのような中で、日本はSEAの導入が遅れています。 *2)地元住民に対する情報提供と合意の必要性
FPICとは、英語の“Free, Prior and Informed Consent”の略で、一般的には、事前に事業やその正及び負の影響等、住民が適切に意思決定するために十分な情報を住民に与え、他人から精神的にも身体的にも圧力を受けない当人の自由な意思による「合意」を意味します。先住民族の人々は、先祖代々受け継がれてきた土地に住んでいますが、近代国家の法制度の中では必ずしも土地権、資源権が認められていません。そのためFPICは、国家や企業が、その土地、文化、生活様式等を不適切におかすことのないようにするための重要なツールとなっています。 2007年9月に国連総会で採択された「先住民族の権利に関する国連宣言(先住民族権利宣言)」にはFPICの概念が含まれています。法的拘束力は無いものの、先住民族にとって歴史的な第一歩となりました。今後、FPICが、開発事業に関わる機関において政策として取り入れられ、また確実に実施されることが望まれます。また、FPICは、先住民族だけではなく、事業が影響を及ぼす住民にも適用されることが望まれます。
FoE Japanは、日本政府や援助機関、企業、NGOが途上国に対して気候変動対策支援を行う際に以下のチェックポイントを心がけること提案します。
責任ある途上国支援のための提案
□チェックポイント1・・・自らの削減を優先しましょう。 途上国での事業が免罪符やオフセット、宣伝の道具になっていないでしょうか?さらに、先進国においては温室効果ガス排出削減には、資源消費量の根本的な削減が不可欠です。 □チェックポイント2・・・対象事業の中身をよく知りましょう。
途上国支援によって得るクレジットを売買する際には、事業のイメージやCO2の数値だけで判断しないようにしましょう。売り手は事業の負の影響も含め、事業について十分な説明を行い、買い手はその内容を十分に理解して判断してください。 □チェックポイント3・・・対象地域の土地の権利に注意しましょう。
事業が実施される途上国における土地や森林の権利に十分に配慮し、また、汚職腐敗にも注意しましょう。 □チェックポイント4・・・対象地域の自然環境と社会の現在ある生活に注意を払いましょう。
社会配慮のため・利害関係者の特定と影響住民の事業計画段階からの参画、可能な限りFPICが適用されているかを確認して下さい。 □チェックポイント5・・・SEA
対象事業のみならず、将来にも渡り、当該地域全体・セクター全体の自然環境や社会を考慮するべきです。この手段として、SEA。環境配慮のためHCV(保護価値の高い生態系)を特定し、対象地域の自然環境を壊さないようにしましょう。
| *上記提案は、緩和対策・適応対策支援を対象としています。
*途上国における気候変動対策の現状と提案をまとめたパンフレットを配布しています。
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