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開発金融と環境プログラム>資源開発と先住民族の権利 連続セミナーシリーズ 第2回議事録全文
イベント
第1回
「先住民族の権利保護に関する国際的な動きとフィリピンの実情」議事録要約
第2回
「ニッケル開発による先住民の危機と国際動向」議事録要約
第3回
「資源開発とCSR
〜環境社会影響とその対策〜」開催情報
資源開発と先住民族の権利 連続セミナーシリーズ 第2回議事録全文
                                                                                                                                                                                                                                                                                 
マプー 私はニューカレドニアから来ました。ニューカレドニアはシドニーから飛行機で二時間、東京から7時間のところにあります。 私はヤテという村で生まれ育ち、1990年から1995年の間に村長を、2002年始めにニューカレドニアの先住民省の大臣になりました。 その後、現在の活動はこの地域の環境保護と先住民の権利保護を中心としています。
ニューカレドニアの人口は現在24万人、そのうちおよそ10万6千人が先住民のカナック人です。
ニューカレドニアのGDPは5000億フレンチ・パシフィック・フラン(フランス海外領土の通貨)でおよそ、510億米ドル 5千8百億円です。人口と比較すると高く思えるかもしれませんが、実際には格差が顕著です。 経済の中心はニッケル産業、観光、日本人観光客も多いですが、その他には水産業です。 本日のお話はこのニッケル鉱山についてです。最初に少し、カナック人についてお話しましょう。この地域はだいたいメラネシア人の地域で、また太平洋の諸国の民族とほとんど変わらない文化圏です。
3千年以上前からカナック人はここに住んでいます。カナック社会の構成単位は基本的には氏族です。 基本的な哲学はトーテム思想と呼ばれるもので、トーテムと言うのは各氏族が特定の動植物を崇拝し同一化することです。その動物は、たとえばサメや木であったりするのですが、そのトーテムに私達の命がめぐっているというのが基本的な考え方です。
こういった基本的な考え方にもとづき、自然に根ざした生活をしていました。1950年代から、ニッケルや金などを求めて鉱山開発がはじまりました。 日本との関連で申し上げますと、鉱山開発の中で鉄の開発では、日本人の瀬尾彰さんという方が、今日の話で焦点となるゴロ地区と同じ場所で戦前に鉄鉱石の開発調査を行い、製鉄会社を設立し日本に鉄を輸出していました。
余談ですが、妻の旧姓はタカダともうしまして、彼女の祖父は開拓農夫としてニューカレドニアに渡り生涯を終えた日本人です。子ども達も日本人とよく似ています。 ニューカレドニアの大地から何百万トンものニッケル鉱石が掘り出されたわけですが、そのあとには公害がのこっています。写真であるように廃棄物から大雨が降るたびに真っ赤な濁流が河に流れ込み、そして海へとたどりつきます。
現在も、昔の鉱山跡がそのまま残されていますが、その地域で住んでいるカナック人には何の損害賠償もされず、大雨の降るたびに真っ赤な濁流が起こるようなそんな状況におかれています。
1990年までは主に軽ニッケル鉱が採掘され、SLNという現地の会社が精錬し、数千トン単位で住友などを通して日本に輸出されていました。 90年代ごろからはラテライトという鉱石も採掘・利用が可能になり、おもにオーストラリアのQNI社に輸出されています。ここ二年ほど、世界の資源ブーム、ニッケルブームでの値上がりにより、より品質の低い鉱山も開発され、中国やインドにもまもなく輸出されます。
今、すでにレスレフ社というのが既存の工場でありますが、このほか二つの大規模工場が作られようとしています。ニューカレドニアのような小さな島に3つも大工場が作られるのは限界を超えているように思えます。2011年までにニッケル金属18万トンを生産する計画ですが、これは環境の容量をはるかに越えるものです。 それでは、現在のニューカレドニアの政治的状況についてふれたいと思います。
 ニューカレドニアはもともとフランスの領土、植民地ですが、1998年から脱植民地化の過程に入っています、20年間で脱植民地化に向けた移行を行っていこうとするものです。2014年から18年の間に国民投票を行って独立するか否かを決めようとしており、それにむけて少しずつ権利の移譲が始まっています。この投票はカナック人が独立するかどうかを決めるものです。
 現在、この合意に基づいて、行政権、あるいは政治権が3つの州に分割されています。北部州、南部州、島礁州です。このように、3つの州に権限が分割されたことにより、我々の環境保護の活動もやりにくくなりました。
 この環境を守ろうとする動きの中心として、レーグヌーウ委員会というのを結成しました。これは2002年にこの地域の長、大族長であったアティティという方が設立し、ゴロ地域のニッケル開発による環境破壊を止めるための団体です。
 この地域での鉱山開発、工場建設は1970年頃から存在し、推進側にとっては夢の計画であり、それに反対の声をあげるには非常に大きな勇気が必要でした。  このニッケル鉱脈というのは非常に大きく豊かなもので、フランス政府は1991年にわずか1フランという安価な価格でカナダのインコ社に売却しました。 ゴロニッケル社は1999年に、建設に先立つパイロットプラントを作り、そのとき会社側が環境調査を行いましたが、その結果は全く公表されていないので見ることができません。
環境影響調査の場合には最初の段階、工事をはじめる前のもともとの状態の調査が重要ゼロ状態での調査は全くされていません。そして、本格的な工場の建設は2001年に決定されました。
決定の直後から1600ヘクタールにおよぶ森林伐採がはじまりました。行政当局からこの建設許可が降りたのは工事が始まってから2年以上経った2004年の10月でした。
このとき、ICPEという建設および創業許可の前提になる許可を行政が出していますが、このICPEは、後の我々が提訴した行政裁判の判決で取り消されました。 行政裁判所からこのような決定がおりたのにも関わらず、会社側は自己責任で、ICPEなしに工事を続行するとし、中止しませんでした。
これは少し日本の方にはわかりづらいかもしれませんが、行政裁判所が取り消したのはICPEだけで、建設許可そのものは取り消したわけではありません。建設許可の権限を持っているのは南部州の州政府ですが、彼らは行政裁判の判決にも関わらず、建設許可を取り消さなかったので、結果としてゴロニッケル社は工事を継続しました。 工場による環境破壊のひとつが廃液の海上流出です。この廃液には重金属が含まれています。これに関して、我々の働きかけにより第三者調査を行うことができました。その結果に基づき、当初廃棄所のマンガン濃度をリットル当たり100mgとしていたのを10mgまで低減させることができました。
しかし、このほかにも懸念される汚染の原因があり、例えば工程で様々な溶剤が使われていますが、どんな溶剤が使われているか全く公表されていません。また、クロンやコバルトも廃液中に混ざっています。
もうひとつ我々が反対しているのは、固形廃棄物の貯蔵場です。これに関してもパリの高等工業学校、エコール・デ・ミニというエリート校に再調査を委託し、調査の結果は我々の心配を裏付けるものでした。固形廃棄物により地下水汚染のリスクがあること、生態多様性が豊かな湿地帯が破壊される可能性が裏付けられました。
もうひとつの不安材料は、鉱山のサイトのこの山の向こう側に村がありますが、採掘により地すべりが起こる可能性があります。
また、もうひとつは大気汚染です。大気汚染の基準が先進国の基準より甘いものになっているし、さらに我々の国は熱帯にあるので北方の先進国に比べて、植物が汚染に弱いと考えられます。
もしこの計画が進められれば、カナック社会の伝統的な文化や助け合いの価値観は完全に破壊されるでしょう。これについても、被害が少なくなるように要求しています。
もうひとつの問題は、経済的な問題です。この計画からは、ニューカレドニアにはほどんと恩恵がないのです。これについてはあとでもう少しお話しましょう。
反対運動を進めているわけですが、その手段は多様です。まず、文化的な戦いです。この地域の人たちに反対運動に参加してもらうために、彼らのトーテム、神話に訴えかけてこの計画が我々にとっていかなるものかを伝えました。そういった、文化的、宗教的な活動を足がかりに反対運動をすすめています。
また、先程申し上げたように、法廷闘争、法律による闘争も進めています。フランス政府側は、あるいは会社側は我々反対運動がフランスの法律を犯していると何度も攻撃してきましたが、我々はそれに対抗する裁判闘争を行い、その最大の勝利は先程お話したICPEの取り消しでしたが、それだけでは開発を止めるには及びませんでした。
もうひとつは、工事現場の封鎖運動でした。武器を使ったものではなく身体を張った実力行使でしたが、カレドニア政府、フランス政府は機動隊を用いて徹底的に弾圧しました。特にゴロニッケル社は警備隊という名で用心棒集団、元軍人を集めた警備会社から警備隊を雇い、フランス政府は軍隊で構成される機動隊を常駐させ工事現場のパトロールを行わせています。
こういった色々な形での戦いを6年間続けてきましたが、工場の建設工事はいまだとまっていません。今のところ、2008年に操業開始となっていますので、背水の陣という形で運動をすすめています。
しかし、工場の操業開始を遅れさせたということはいえます。というのは当初の計画では操業開始は2005年だったからです。 我々の働きかけによって、南部州の州政府と工場の所有者であるCBRDというブラジルの企業は交渉を始めることを受け入れました。その交渉は公の交渉で、オランダの国際NGOクレタを正式の仲介役として行う予定です。 レーグヌーウはかなり進んでしまったこの計画を、できる限り環境面また社会的側面で先住民にとって持続可能なものにするために交渉をする予定です。
このような戦いというのは、我々のような小さな民族にとっては大それた賭けでありますが、どうしてもこの戦いには勝たなくてはいけないと思っています。工場側に現存のやり方を変えさせる必要がありますが、そのためには日本の投資している会社、世界の人たちにこの問題に注目してもらい、ヨーロッパや日本の大企業に行動様式を変えるようにお願いしたいです。
具体的にいかに変えるかというと、まず環境面で、その計画が環境と両立しうるのか、環境に影響がないのかどうかということを事前に調査することです。 もうひとつは、社会文化面での適合性です。その計画が周辺の住民とその文化を尊重しているのかどうか、また、色々な視点からみたときにその地域の住民に本当の発展をもたらすのかどうかを確かめてほしいと要望します。
それから、その計画が純粋に経済的な面でも持続可能なのかどうか、ニューカレドニアに経済的に寄与するのかどうか確認する必要があります。 この表は、この計画が純粋に経済的に見ても地元に利益をもたらさないことを示しています。既に、建設費は当初の見積もり、14億ドルの倍以上の32億ドルと今では見積もられています。この資本の調達方法、財源はまず所有者であるCBRDが69%を出資、そして日本の三井物産、住友金属が21%、そして残りの10%をニューカレドニアの北部、南部、島礁州、3州が株式を取得するという形で出資します。しかし、この配当は本来の費用に全く見合わないもので、というのは先程申し上げた通り、このニッケル鉱山は実質的にただで会社側に譲られたものです。また、2001年当時のニッケル鉱物国際相場というのは1パウンドあたり米ドルで3.5ドル、それが2007年現在では7ドル以上になるだろうと見積もられています。
さらに、公的援助として、フランス政府から1.8億ドルの計画への補助金がでていて、ニューカレドニアの地元政府も工場の儲けに対する税、つまり事業税を15年間にわたって免除するとしています。それは総額で10億円になると見積もられます。このように、地元にとっては経済的にみても意味のない計画なのです。
地元政府がなぜこのような経済的メリットのない計画を推進しているかというと、この南部州というのは圧倒的多数が独立反対派、つまりフランス系なのです。この計画によって外部から人が流入してきて、カナック人の人口を占める比重を少なくすることがねらいだと思います。 このあたりは摩訶不思議としかみえないでしょうが、フランス政府はこのような地方政府の動きを後援しています。全く経済的利益もない、公害だけが残る、このような計画を地元政府が推進しているのです。
持続可能性のもうひとつの条件としてガバナンスという問題があります。先程、国連での先住民の権利に関する宣言についてのお話がありましたが、こういった地元住民や先住民の権利が十分に生かされる形で計画が進められる必要があると思います。特に、インフォームドコンセントのコンセプトが非常に重要だと思います。
ニューカレドニアの例というのは、世界的に見た場合には最悪とはいえません。もっと悪い例がいくつもあるのです。例えば、パプワニューギニアでは中国による開発で全く何の処理されていないままで廃棄物が垂れ流しているという状況が現在進行しています。我々としてはそういった地域の住民達とも連帯感を持っています。我々が今、ニューカレドニアで戦うことが他の地域の住民を助けることになると考えています。我々のような非常に弱い先住民の戦いを、ぜひ先進国の住民に支援してもらいたいと思います。
この機会に、当面私達が進めている二つの取り組みについて、できれば皆様から資金的援助をしていただければと思います。その取り組みのひとつというのは、私達レーグヌーウの弁護士を勤めてくれているブーケーターニュという方が今、国際的な法律家グループを結成しようとしています。この法律家グループというのは、私達のような資金のない小民族が様々な地域で同じような多国籍企業から被害を受けていますが、そうした民族が国の内外で裁判闘争を展開するのを支援するためのグループです。もうひとつの取り組みは、すでにかなり生態系が破壊されているわけですが、現在カナックにおける生物多様性を守ったり、促進したりする為の財団を設立しようとしています。
最後に申し上げたいのは、この会もそうですが、各国では色々なNGOが活動し、様々な運動がありますが、今それらを互いに結びつけるのは地球全体の問題です。我々のような弱い小さな民族の戦いを先進国の市民が支援することによって、多国籍企業の行動様式を変え、それによって現在の地球規模の環境破壊も改善に向かうのではないか、ということです。
神崎 マプーさん、通訳をしてくださった真島さんどうもありがとうございました。  ニューカレドニアはよく天国に一番近い島と形容されますが、そのイメージからは想像もつかない状況が現地で起きているということがよくわかりました。
このあと、質疑応答の時間を最後に設けたいと思いますが、まずここで一つ、二つ質問を受け付けたいと思いますが、どなたかございますでしょうか?
質問者@ マプーさんどうもプレゼンテーションありがとうございました。 二点あります。一点は先程ゴロニッケル計画の資金の図がありました・・計画の財源として二番目にある三井住友がありますが、三井物産、住友金属に例えばマプーさんが助言をして、止めてもらうという話はもうしましたか?
マプー 投資を止めてほしいとまでは要求しませんでしたが、今回も両社を訪れて、みなさんに聞いてもらったような現状を伝えました。現地の政府がこの計画を推進していますので、非常に困難な状況にあります。
質問者A 二番目の質問ですが、日本においでになって要請されたもののひとつとして、国際的な法律家によって裁判をするその費用を援助してほしいというものがありましたが、これは具体的に言うとインコ社を相手にしてカナダで裁判を行い、計画を止めさせるということでしょうか?
マプー 確かに我々の裁判闘争を支援するということもありますが、単にそれだけではありません。今のところ、ブーケーターニュ弁護士はオーストラリア、コロンビア、カナダなど弁護士とコンタクトをとって法律家グループを結成しようとしていますが、このグループというのはゴロニッケルだけが対象ではなくこういった同じような例、弱小の少民族ですので法律家を雇うお金のない他のケースも含めて、このような裁判を先住民がすすめていくのを一般的に支援するという目的で作られようとしています。
神崎 まだ質問おありかと思いますが、後にさせていただいて、藤岡美恵子さんにお話をしていただきたいと思います。藤岡さんからは先住民族の権利をめぐる最近の国際的動向と、その実現のための課題を中心にお話していただきます。先程マプーさんのおっしゃった、インフォームドコンセント、先住民族の合意を得るということについて特にお話していただきたいと思います。藤岡さんよろしくおねがいします。
藤岡 ご紹介いただきました藤岡美恵子と申します。今、神崎さんからお話があったように私のほうでは先住民族の権利と資源開発がどういう関係にあるのかお話させていただきたいと思います。すでにマプーさんのお話でもでてきていましたが、実は先月、国連総会で、国連先住民族宣言というものが採択されました。これについて何かニュース、新聞でもちらっとでましたが、何かお読みになったかた、記事を見たなど、いらっしゃいますか?
日本ではそんなに大きな話題としてとりあげられていないのが残念ですが、この国連先住民族権利宣言はほぼ四半世紀にわたって、世界各地の先住民族が国連を舞台に、その制定を求めてきたものです。それがようやく、国連総会によって採択されたというものです。この権利宣言は様々な先住民族の権利を規定していますが、その中で最も重要な原則があります。それは自決権といわれる原則です。英語で言うと、right to self determination、 自らのことがらを自らで決めるという、簡単に言えばそういう権利なのですが、国連の採択した先住民族権利宣言では自決権というのは次のように表現されています。先住民族は自決の権利を有する、この権利に基づき、先住民族は自らの政治的地位を自由に決定し、ならびにその経済的、社会的、文化的発展を自由に追及するとあります。
非常に簡単な表現ですが、政治的地位も含めて全領域にわたって、たとえば自分達がどんな経済発展をのぞむか、どんな社会を作るかについて自分達が決定するという権利なのですね。この自決権は世界の先住民族が今、最も求めている、最も重要、不可欠な権利です。今日のテーマである資源開発との関連においてもこの自決権と言うのは、非常に重要なテーマになってきます。というのは、今マプーさんのお話にも有りましたように、例えばカナキーで先住民族の人たちはそもそもフランスの植民地化を経て今のような状況になっているわけですね。植民地化というのは要するに自決権を剥奪するとうことに他なりません。
植民地化というのは、今の近代的な国民国家のシステムができる過程で、自分の意志とは関係なく無理やり今の国民国家に組み入れられてしまうことで、それを植民地支配と呼んでいるのです。その意味で言うと日本ではアイヌ民族は先住民族です、沖縄の人たちも先住民族であると私は考えていますし、また多くの沖縄の人達もそう考えています。 先住民族の人々はそのような植民地支配を経て、自分達の主権をまず奪われてきました。そして、単に政治的主権だけでなく自分達の領土、伝統的に暮らしてきた領土の中で、例えば今問題になっている鉱山開発をする、しないというような意思決定の自由を奪われてきたのです。ですから、先住民族にとっては、この自決権の実現というのは、決して抽象的な話ではなく、今起きている、例えば鉱山開発、ダム建設など様々な開発事業の中で、自分達の生活や社会が壊されていっている、それに対して自分達の主権を取り戻して開発をやめさせる、あるいは自分達が望むようなかたちにしたい、それを実現するための権利が自決権なのです。
資源開発に関連して、先住民族権利宣言の中には非常に重要な権利が規定されています、それが宣言の第32条で全文の翻訳をレジュメに載せました。この第32条では、土地、領土、資源に対する権利を規定しています。まず最初に、先住民族は、彼彼女らの土地、領土及び他の資源の開発または使用のための優先事項と戦略を決定し、かつ展開する権利を有する。自分達が住んでいる土地をどう開発するか、そこにある資源をどう使うか、するかしないかを決定する権利を持っているということなのですね。
そして、この二番目のところが今日の実は、本題ですが、国家は特に鉱物、水、または他の資源の開発、利用、採掘に関連して先住民族の土地、領土、及び他の資源に影響を及ぼすいかなるプロジェクトの承認にも先立ち彼彼女らの自由でかつ情報に基づく合意を得る為に、関係する先住民族とその代表機関を通じて誠実に協議し協力するものとする。
これがいわゆる今日とりあげている、FPIC、英語でFree Prior Informed Concentと言われる原則です。この2というところに書いてあるように何か資源開発をしようとするときにはその地域の先住民族の自由でかつ情報に基づくな合意を得なければいけない、そのために誠実に協議し協力なければならない、そのことを国家に義務付けるわけです。この自由でかつ情報に基づく合意 しかもプロジェクトが承認される前に、先立ちとありますから承認するより前に得なければいけないのです。これを概念化したものがFree Prior Informed Concent、つまりまず 自由意志に基づくものでなければならない、自由な選択権がまずそもそも与えられていなければいけない、十分な情報を与えられた中で事前に合意して初めてプロジェクトができるということです。もしこの便宜上FPICと言っておきますが、この原則がずっと以前が存在したのなら、もしそれが誠実に、例えばカナキーの場合でもゴロニッケルの開発でもあてはめられていたのなら、今お話になっていたような問題は起こっていないのですね。ですので、今、世界各地の先住民族は資源開発、特に石油天然ガス、鉱物資源に関してはこのFPICの原則を適用させる、それを採掘産業などの企業、採掘権を与える国家、そしてそれにお金をだす例えば民間銀行や国際的な開発機関、例えば世界銀行とかそういうものに対してこの宣言、原則を守らせようとしています。各国の法律の中に入れさせる、企業の行動考慮に入れさせる、または投資機関の融資ガイドラインにきちんと入れさせる、それを目指した活動を今、世界の先住民族は行っています。 
今日はマプーさんのお話を聞いたわけですけれども・・今ここで、私がグアテマラで活動しているものですから、グアテマラの鉱山開発の例を少しお見せします。私自身はグアテマラの鉱山開発に関して特に何か行動しているわけではないですが、ここ数年、中米のグアテマラでも鉱山開発が極めてさかんになっておりそれに対する先住民族たちの反対運動も急激に今高まっているところです。現地の支援団体や、日本でもそれを支援している団体があるのですが、そのような方々の協力を得て少しだけですがご紹介したいと思います。これは金鉱山の露天掘りを行っているところです、バルリン鉱山と言いまして、地図がないのでお見せできませんが、グアテマラのサンマルコス県というところでほとんどの住民が先住民であるような地域で行われている鉱山開発です。2005年の10月に操業開始しました。この操業をしている会社はモンターナ・エクスポラドーラという現地の法人で親会社はアメリカ合衆国のグラミス社という大変有名な多国籍採掘企業です、もともとはカナダの会社が持っていたのですがそれがグラミス社に買収され、現在はグラミス社が親会社になっています。こんな感じで、ご覧のように露天掘りになっていますが、露天掘りというのは環境に対する影響が極めて大きいので世界各地で問題になっています。ダムが見えていますね、右手下のほうをご覧になれば分かりますけれども家々、建物が少し見えます。掘っているところの一番上の縁当たり、実はそのすぐそばには人家がありまして、そこの家なんかは グアテマラは雨季になりますと激しい雨が続いてすぐ山すべり、山崩れが起こって問題になるので、もし雨が降ったらおそらくすぐ山崩れを起こしてしまうだろうなというようなところです。これが工場の様子ですね。ここは金鉱山なのですが今グアテマラではここ4,5年の間、すごい勢いで、あちこちで採掘権が認められて採掘が始められています。銀、金もあったと思います。鉱物の採掘以外にもダム建設計画などもめじろおしという状態です。この写真が示していますのは、今グアテマラではこういう鉱山開発に対して地元住民が地元の自治体とは関係なく、自分達の意志でいわゆる住民投票をするという運動をしています。これをスペイン語でコンスルタと言い、住民による協議を各自で行っています。この4つの写真もそうした住民による協議の一部でして、先程お見せしたバルリン鉱山とは別の地域で行われている鉱山開発に対して、住民投票をしているところの様子ですね。去年行われた住民投票でした。こうした投票ではほとんどの場合反対と言う声が賛成を上回っています。
このグアテマラの住民投票に関して、二年前、2005年の6月、先程お見せしたバルリン鉱山のすぐそばで行われた住民投票があったのですが、この住民投票に対していわゆる鉱山開発推進側の方が、憲法裁判所にこんな住民投票は憲法違反であるという訴えを起こしたのです。で、その判決が出ました。この判決では、この住民投票は地方自治体の権限を越えていると言う理由に基づいて、この住民投票の結果が無効であるというという判断を下しました。グアテマラの憲法において地下資源は国家のものと定められており、その利用はエネルギー鉱山省の管轄にあると定められているのを根拠にしています。つまり グアテマラではせっかく住民達が反対の意思表示をしても、地下資源は国家のものであってそれに対して意義を唱えても認められないという結果が出てしまったわけですね。ただし同じ判決の中で手続き的側面に関しては、違憲にはあたらないという判断を下しています。
つまり住民投票というのが、グアテマラでは法律できちっと整備されていません。そのような状態の中で、しかもグアテマラは後で触れますけど、先住民族の権利について定めた唯一の国際条約であるILO169号条約を批准しています。ILO169号条約 はこうした鉱山開発やその他の様々な開発事業に関して、先住民族と協議しなければならないということを定めています。ですので、グアテマラが批准したILO169号条約に定められている先住民族との協議、そのための法制度が整備されていないとして議会に法制度の整備を求めました。つまり現状は憲法には違反していない、しかし地下資源は国家のもので、ただ協議に関しては手続き上の立法が必要ですよ、という判断が下されました。この自由で事前の情報を得た上での合意という、FPICの原則は具体的に実施しようとすると、今のグアテマラの件もカナキーの件でも実際上はものすごく困難なわけですね。その困難さが特にどういう点にあるのか、具体的にどういう点がFPICの原則を阻んでいるのかについてレジュメの一番下のほう箇条書きで書き出していますが、昨年行われた国連の先住民族常設フォーラムの会議で、フィリピンの先住民族団体が次のような発言をしています。FPICの原則というのは原則としては存在しても、実際上それが守られていない、どういう点が一番困難かというと、まず事前の情報を与える場合でも、情報が先住民族の言語で書かれていない、例えばグアテマラでいうと、スペイン語だけで書かれていて、地元の人の言葉で説明されなければわからない。そもそもグアテマラでは先住民族の言語には文字がない場合があるので、文字による情報伝達自体に極めて問題があるのですけれどね。そういう情報伝達における言語の問題、それから期待される成果ばかり強調されて負の側面に触れない。これも非常によくあることですが、環境影響評価などが、非常に過小評価されて情報が出される場合もよくあると思います。その次に、これは現地で非常に大きな混乱を生む要因ですが、開発推進側が先住民族の同意をとりつけるためにでっちあげの組織やでっちあげのリーダーを作ってその人の同意をとりつけて全体の同意を取付けたと言う風にしてしまう。これはFOEJも関わっているフィリピンのサンロケダムなどでもやっぱり同じようなことが指摘されていますし、各地で同じような状況が起こっています。このことは先住民族にとっては、極めて深刻な長期的な影響を与えます。というのは、少し想像すると判ると思いますが、同じ村の中で村人が賛成、反対派まず分断されて、その中で外部からやってきたよく分からない人たちがリーダーになり、住民の間の信頼関係などをずたずたにしてしまう。先住民族の組織や地域社会の分裂や混乱を生んでいきます。そのことがその後、対立構造としてずっと先住民族の社会に残されてしまうという場合も非常に多くあります。それから、女性や若者が参加できない場で協議が行われる。これは先住民族自身にとっての問題でもあるのですが、若者や女性が参加しにくいような条件の中であえて協議会を開くとかですね、そういうことがよくあります。また、非常に細かいことのようですが大事なことで、文書のコピーがとても限られていて全戸に行き渡らないとかですね、共同体の中で協議する時間が非常に短時間に限られてしまっている、先住民族の共同体では多くの場合意思決定が話し合いを経て行われ、したがって非常に時間がかかる場合が多いのですが、そういう先住民族の意思決定における慣行文化が尊重されていないという問題があります。さらに、政府が、公式に苦情は申し立てられているにも関わらずFPICの認証を発行してしまう、それから認証を取得する際に何らかの不徳や不正の行為が行われた、それでFPICを認証してしまった後に取り消す仕組みが何もない。この取り消す仕組みが何もないというのは非常に大きな問題だと思うのですね。FPICの認証が出てしまって、例えば操業が開始したあと、それをもとにもどすというのは極めて困難、ほとんど不可能に近いことなのです。ましてやその操業をしている最中に出てしまった環境への影響や人体への健康被害というのは後で取り消しても、元に戻しようがないわけですね。また、そういう影響というのは、実は、厳密にいえば保障のしようがない、取り戻しようがない被害となってしまいます。だからこそ事前の合意 というのが非常に重要な原則となるのですが、これが今申し上げているような具体的な問題のためになかなか実施されない、原則が認められていた場合でも実施されないという現状があります。
今、こうして極めて具体的な例をお話していますが、実はですね、こうしたことは決して瑣末なことではないと思います。例えば先住民族の言語を尊重するとか、先住民族の意思決定慣行文化を尊重するとか、そういうものというのは実は先住民族が 総体として今まで主権を剥奪され、権利を奪われ差別されてきた、その歴史的な経過の上に現状があるわけですよね。したがってこういったひとつひとつのことが、先住民族の権利を守るという上で、極めて重要な争点になってきているのです。先住民族の権利宣言ができたことで、まぁ宣言ですから条約と違って各国がそれを批准するということではありませんし、そういう意味では厳密には法的な拘束力はもたないという風にも解釈できますけれども、ほぼ四半世紀にわたって各国の政府、先住民族の団体、専門家の委員などが入ってようやく出来上がった合意としてあるのですから、先住民族の側はこれを使って、たとえばこういう自分達の望まない開発をとめさせるための武器として使いたいと考えているわけです。
実は今、資源ブームですので、世界的にこうした資源開発が異常な勢いで増えています。資源開発に流れる資金というのものも世界的に非常に増えています。特に日本のお金はかなり、資源株に流れています。そういう意味でますます先住民族の権利が資源開発によって侵されうる割合が高くなっている。そういう状況にあると思います。ですから余計にですね、私達、お金を出す側にいる、資源によって、ニッケルならニッケルによって、私達の生活がその上にあるわけですから、そういった資源を利用して生活している私達がですね、やはり先住民族の権利という観点からこうした資源開発を少しでもやめさせる、あるいは食い止める、そしてそこであらためて先住民族の声が聞かれるような仕組み作りの為に、私達ができる選択をしていくことが非常に重要なのではないかと思います。
神崎 藤岡さんどうもありがとうございました。Free Prior Informed Conceptという言葉に、非常に重みのあるちゃんとした考え方が含まれていると感じました。藤岡さんもおっしゃったように、今や途上国への援助である、政府開発援助も 資源確保のために活用するべきだという議論もされている中で、私達が認識を高く持って気をつけるべきことがたくさんあると感じます。 では藤岡さんのお話に対して何かご質問があればお願いいたします。
質問者B FoEJapanの深川です。二つありますが、まず一つはFPICの認証というのは各国の政府ごとに出されるという認識で正しいでしょうか?またFPICの認証に関して、手続き的な側面である一定のレベルのものを整備するというか、国際的なスタンダードを作る動きがあるのかどうかということ。もう一つは、この国連の宣言を日本の中で法的に整備しようというときに、例えばどこかの国で投資、融資する、あるいは原料調達をするというときに、参考になるような先進事例をご存知でしたら教えていただけますでしょうか?あるいは、日本の中で国連の宣言をどういった形で法的に位置付けていくのかという点に関して、何かお考えがあればお聞かせください。
藤岡 まず、FPICの認証についてですが、実は私もまだFPICの個々の認証に関してまでは詳しく勉強していないのですが、個々の政府で出されるものです。そもそもまずFPICの原則というのを認めて、開発事業者に対してその認証を与えるという、そういうスタンダードができていなければ、そもそも認証騒ぎではないという状態ですね。現在FPICについて、その内容を精査してスタンダードを作ろうという動きはあります。FPIC原則を先住民族の視点から見て、こういう点が必要であるというのは勧告として出しています。それは後で、必要でしたら資料をお見せできます。それから二番目のポイントは実は非常に大きな問題なので、私が簡単にお答えできる問題ではないと思うのですが、むしろ会場にいらっしゃる園原先生は国際法の専門家なので、ぜひ後でお答えいただければと思います。とくに海外の投資に関して、先進事例があるのかということですが、先進事例というのは他の国で似たようなガイドラインがあって、それが日本の参考になるかどうかということでしょうか?
質問者B ガイドラインであるとか、法律であるとか、自国の海外での活動に関して何か拘束する法律を制定している国があるのかということですね。
藤岡 個別の国の法律でそのような制定がある例は、あんまり聞いたことはないですが。
園原 たとえば受入国が各国の援助、もしくは投資で鉱山開発をして先住民の権利に影響を与える場合の問題を処理する為に例えばフィリピンには先住民権利法はあります。それから先住民族権利宣言が案の状態であったとき、フィリピン政府と先住民族の間で交渉して議会で成立した法律があります。それから自国の企業なりが他国に行って鉱山開発などをして、悪影響をもたらす、その土地の先住民族の権利を脅かす場合は、当然その土地の政府が法律的政策を行いますが、それが間に合わないときは国際人権訴訟の枠組みで、例えば先ですと人種差別撤廃条約という国連の条約がありますが、それに基づいてカナダの企業がアメリカの先住民族の土地で、廃棄物処理の事業をしようとしたときに、それはその人たちの権利を脅かす、環境を脅かすものであるということで、国連の人種差別撤廃委員会で決定を下し、勧告をだした事例はあります。しかし、それは国際的な機関の決定であって、各国の法制度になるかどうかは勧告を受けた側がどうするかということになります。
藤岡 付け加えれば、最後の国際条約に基づく例ですが、たとえばアメリカ大陸の場合ですと米州人権裁判所というのがありまして、米州人権条約に基づいて、起こされた訴えに対して裁判所が裁定を出すのですが、例えばニカラグアの先住民族の森林伐採に関する訴えでしたが、これに関しても米州人権裁判所が事前の同意を経ずに森林伐採の、開発の権限を与えてはいけないという裁定を行っているのですね。似たような裁定は他にもあります。ただ問題は国内で各国がそれを受けて、どう対処するか、国内法の問題になってしまうのでそこが一番の問題ということです。
神崎 ありがとうございました。それでは、お二方、両方への質問、またはコメントをお受けいたします。ご質問、コメントがございましたら挙手いただければと思いますが、いかがでしょうか?
質問者C 一つ質問があります。非常に聞きにくい質問ですが、今のこの藤岡さんのお話にあったような、似非組織、似非リーダーを作って、要するに開発を進めるスタンスを作って、先住民族の社会、共同体を分裂させるということのひとつとして、雇用の問題、すなわち、今回のゴロニッケル計画で工場の施設建てられる際に、現地の人たちが雇われ収入を得て、その結果共同体の中で分裂が生じているかどうかと言うことを聞きたいのですが。
マプー もちろんありました。こういった手口というのは世界共通で、我々の場合も反対のない間は特にないですが、少しでも反対が生まれると色々な申し出がすぐきます、さらに反対運動がどんどん強くなっていくと、開発基金を作りますがいかがでしょうなんていう、一億八千万円ぐらいの額を提示してこれで開発基金にしてくださいなんていう話があります。世界共通の手口ですね。
神崎 ありがとうございます。他に何かご質問ございますでしょうか?
質問者D インドネシア民主化支援ネットワークの久保と申します 日本はニッケルについてはニューカレドニアとインドネシアから一番輸入していると思うのですが、インドネシアもやはりインコ社が1968年から起業権を得て、開発を行っています。インドネシアの方の人たちは2001年にカナダの銀行投資者の株主総会などに出席して、こうした環境問題などを訴えたことがあったのですが、このニューカレドニアについてもCBRD本社に対して何か働きかけているのでしょうか?
マプー カナダのMiningWatchというNGOが、私達は株を持っていませんが、株主総会に招待してくれました。2年前にカナダに株主総会に代表を送ったのですが、一日中議論される中で、この問題について話す時間はほとんどなく、たいした成果はあげられませんでした。
神崎 そろそろ最後の質問にさせていただきたいと思います。
質問者E グリーンアクション埼玉のものです。初歩的な質問になってしまいますが、最初のニッケル鉱山開発が起こったときに具体的に住民にどのような被害がもたらされたのかお聞かせください。
マプー まず物理的な被害ですが,鉱山が掘り出された後、雨が降りますよね、雨が多い地域なので、真っ赤な泥になって流れてきます。ニッケル粉というのは非常に細かい粒子で、これが川に流れ込み、それが海に流れこみ、漁ができなくなってしまうということがあります。経済的、社会的な面では、建設工事に地元住民が雇われるわけですが、その間は仕事がありますが、ところが終わってしまうとその人たちは村に帰ってくる、すると仕事が全く無い。それまであった継続的な村の生活が完全にかき乱され、不安定な社会になってしまいます。
 もう一つ加えますと、計画が降って沸いたように落ちてくるのと、計画に参加するというのは全く違います。参加する場合には、同意するか否かを決めることができますし、将来自分達がどのようになっていきたいか計画、準備することができますし、その後の様々な変化に対しても自分の選択として、心の準備もできます。ところが、単に降って沸いたように押し付けられる場合には全くそうはいきません、何が起こっているか分かりませんし、結果を受け入れさせられるだけになります。これは地域社会にとっては非常に大きな違いなのです。
神崎 それではもう8時半も過ぎましたので、このあたりで終了させていただきます。 最後に、お話をしていただいたマプーさん、藤岡さん、長時間に渡って通訳をしていただいた真島さんに拍手を贈りたいと思います。ありがとうございました。
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