同事業に関する内閣への質問主意書(4月18日) →→この質問主意書に対する内閣の答弁書をみる
→→首藤信彦衆議院議員の質問主意書(5月23日)をみる 2001年4月18日 質問第56号
ケニア共和国、ソンドゥ・ミリウ水力発電事業に関する質問主意書
提出者 保坂 展人
現在、ケニア共和国西部キスム地方のソンドゥ川において流れ込み式の発電所、ソンドゥ・ミリウ水力発電事業建設が進んでいる。本発電事業は、国際協力事業団(JICA)の支援によって1985年にマスタープランが作成された「ソンドゥ川多目的開発計画」の中で最初に実施される事業であり、旧海外経済協力基金(現国際協力銀行)によって1989年10月には技術協力の所要資金として6億68百万円、1997年3月には第一期分の調達資金として69億33百万円の借款契約が調印されている。現在、国際協力銀行はさらに追加の106億円の借款供与を検討中である。
ところが、本事業に対して、地域住民及びNGOから強い懸念の声が出されており、事業がむしろ地域を貧困化させているとの声もある。一方、重債務国であり拡大HPICs対象国であるケニアへの新規円借款供与に関しても疑問の声が上げられている。政府開発援助が十分な透明性と説明責任を確保し、人権を尊重し、十分な社会・環境配慮と住民参加のもとに進められるべきものであり、貧困削減に寄与するために供与されるべきものであるとの視点において、以下質問する。
(1)本事業への政府からの支援のうち、これまでに、何のためにどれだけの金額が使われているのか、項目ごとに具体的に示されたい。 (2)今後、政府の支援はどの部分にどれだけの金額が使われる予定なのか具体的に示されたい。 2.河川の転流による流量変化について →→答弁書の該当部をみる 1985年12月国際協力事業団によって行なわれた『ソンドゥ川水力発電開発計画調査書 主報告書』によるとソンドゥ川の1946年から1983年までの1JG1測水所における月平均流量の平均値は41.59立方メートル毎秒となっている。ソンドゥ・ミリウ水力発電に必要な水量は40立方メートル毎秒であるから、ソンドゥ川の流量のほとんどは発電用に取水堰から導水管を通って発電に使われることになる。特に1月から3月にかけての乾季および10月から12月にかけての少雨季の間、6ヶ月間は川の流量が大幅に減少することになる。 (1)取水堰から発電に利用された水がソンドゥ川の本流に戻されるまでの約10キロメートルにわたって、ソンドゥ川の生態系に大きな影響を及ぼすと考えられるが、その影響についての分析があれば示されたい。 (2)流量の減少によってソンドゥ川の生態系に及ぼす各々の影響について、どのような緩和策が取られているのか示されたい。 (3)1991年7月に日本工営株式会社によって行なわれた『環境アセスメント報告書』にはソンドゥ川を遡上する魚種バルバス(Barbus)とラベオ(Labeo)は30年にわたる乱獲のため絶滅してしまっているとあるが、1985年12月の「ソンドゥ川水力発電開発計画調査書第6巻 社会経済及び環境についての調査報告書」によるとアレステス(Alestes)、クラリアス(Clarias)、シルベ(Schilbe)も洪水時に川を遡上する魚として記述されている。これらの魚種にはどのような影響が予測されているのか根拠を示されたい。 (4)また、その影響についてどのような緩和策が取られているのか示されたい。 (5)1991年7月の環境アセスメント報告書によると、ケニアの水資源開発省(The Ministry of Water Development)の基準により流域住民の水利用のために4.0立方メートル毎秒の水を取水堰の下流に流す必要があるが、ニャカチ水供給プロジェクトの改善、およびソティック水供給の拡大により流域住民には飲料水の供給が可能になるため、飲料水用の4.0立方メートル毎秒の水は流す必要がない、とあるが、これらの水供給プロジェクトの進捗状況について示されたい。 (6)大幅に流量が変化することになるソンドゥ川の中流には、オディノの滝と呼ばれる地元住民にとって文化・宗教的に重要な場所が含まれているが、この滝を保護するためにどのような措置が取られる予定か、具体的に示されたい。 (7)この滝の周辺を生息地とする生物及び微生物に具体的にどのような影響があるのか。影響を受ける具体的な生物名・微生物名をあげるとともにこれらに対する影響を示されたい。また、影響なしとする場合、その理由を定量的なデータや科学的知見に基づき示されたい。 (8)当方が入手した情報によると、大幅な流量変化が予測されるソンドゥ川の流域の住民は、工事が始まって2年以上たった今も流量変化について知らされていないと聞いた。事業開始前に、川の流量変化についてなど地元住民に説明がなされたのか。 3.事業に伴う立ち退き等について →→答弁書の該当部をみる (1)当方が入手した情報によると、立ち退きを余儀なくされた地元住民はこれまでの生活を継続するために適切な代替地を提示されることもなく、政府の事業だということで強制的に立ち退きを強いられた。さらに土地の買い上げ価格(40,000Kshs/ha)は新しい土地を買うのに十分な金額(65,000Kshs/ha)でないなど、不当な立ち退きが進められたと聞いている。 (2)適正な土地補償が行なわれていないとの住民からの批判に対応するため第三者機関を設立し、調査を行うなどの方法があるがどう考えるか。 (3)立ち退きを余儀なくされた住民、特に土地のほとんどを失ってしまった農業従事者などの住民に今後の生活設計のためにどのような対策が取られているのか具体的に示されたい。 4.工事現場での雇用・労働条件等について
→→答弁書の該当部をみる
(1)当方が入手した情報によると、取水堰のコンクリート部門で仕事をしていたMauvice Odehiambo氏(労働番号647)は、労働条件や賃金について事業者側と交渉するために300名ほどの労働者と一緒にストライキを行い、他の数名と伴に2001年1月8日に解雇されている。本事業の工事現場では組合の結成は硬く禁じられており、組合を結成するとすぐに解雇されるとのことだが、これは事実なのか。
(2)2001年3月現在、工事現場では1559名が雇用されているが、事業によって直接影響を受ける世帯からの雇用は63名と全体の4%に過ぎない。こうした現状を見る限り、事業によって直接影響を受ける人々、地域からの優先的な雇用が進められているとはいえない。このような状況は今後改善される予定なのか。 (3)2001年3月に行った聞き取り調査によると、工事現場のガードマンの給与は2,000Kshs/月でありケニアの最低賃金3,367Kshs/月(2000年)を下回っているとの報告を受けているが、これは事実なのか。 5.工事に伴う地域環境への影響について →→答弁書の該当部をみる
(1)2000年8月18日付でOboch保健所から出された報告書は、キャンプサイト付近から取水堰付近までのアクセス道路から500メートル以内にある両端の11件ずつの家族を訪問し、アクセス道路からの埃による人体、家畜、水、農作物、衣服、植物などへの影響を調査した結果を報告している。この報告書によると、工事現場へのアクセス道路付近の埃の被害によって子どもに喘息や肺病が発生する、道路際のWater Kioskの管理を行っている女性が片目の視力を失う、家畜が視力を失うなど事態は深刻で、至急に対策が取られる必要があるとしている。こうした事態に対応するためにどのような対策が取られているのか示されたい。 (2)また、すでに深刻な被害を受けている人々にどのような補償が検討されているのか。 当方が入手した情報によると、トンネル工事付近(Audit 2)からの汚水によって、バナナや芋などを栽培していた地域住民の農地耕作ができなくなったとの報告があるが、これは事実なのか確認されたい。また事実であればこのような被害が広がらないために、今後どのような対策が取られる予定か。
(3)2000年10月のトンネル工事の開始後に、トンネル工事付近(Audit 2)で年中涸れることのなかった周辺地域の泉や小川が突然涸れると事態が生じた。地元住民から、トンネル工事によって地下の水脈が断絶されてしまったのではないかとの指摘がなされているが、こうした泉や小川の枯渇とトンネル工事との因果関係について現在調査が進められているのか。 (4)1991年7月の『環境アセスメント報告書』によると、工事現場のアクセス道路の整備は地元住民への利益として書かれているが、実際にはアクセス道路からの埃の被害は周辺住民に広がっており、深刻な健康被害をもたらしている。さらに、これらのアクセス道路は土壌の侵食などを伴い従来住民が使っていた道を破壊してしまっているとの報告を受けているが、これは事実なのか。 (5)また、工事のために特定の地域で大量の砂を採取したために土壌の荒廃が進み、その地域では農地に適さなくなってしまったとの指摘があるがこれは事実なのか。 6.地域の保健衛生について →→答弁書の該当部をみる 1991年7月の『環境アセスメント報告書』において事業に伴うマラリア、水系伝染病や住血吸虫病等の増発の恐れが指摘される一方、工事現場へのアクセス道路における埃など工事に伴う健康被害の深刻化があるにもかかわらず、保健施設の充実など地域住民の健康に対する適切な措置が講じられていないが、今後改善の予定はあるのか。 7.事業に伴う汚職について →→答弁書の該当部をみる
(1)土地への補償金支払いの際に、土地所有者の一部の土地を土地所有者が全く知らない間に別の人物に貸し出していたことにして、補償金の一部を借り手の名義で騙し取るというケニア電力公社による汚職が告発されているが、これは事実なのか。 (2)ケニア電力公社の職員が雇用の際に不当な仲介料(7~10,000Kshs)を徴収しているとの報告を受けているが、これも事実なのか。 (3)こうした汚職に関する告発を受けて、事業に関わる汚職についての実態調査を行う予定はあるか。調査を行なわないのであれば、その理由を明確に示されたい。
8.事業に関わる人権侵害について →→答弁書の該当部をみる
(1)2000年2月に開かれた本事業に関わる地元での住民集会は「違法集会」とされ、集会に参加した住民数十人が逮捕された。この時集会を取材していた日本人記者(朝日新聞及び共同通信社)も住民と共に逮捕され一時拘束されたが、彼らの話によると彼らを警察署まで搬送したのは工事を受注した日本企業「鴻池組」の車両だったと聞いた。政府はこのような事業に関わる人権抑圧をどのように捉えているのか。
(2)2000年12月26日、本事業の社会・環境問題を指摘しているNGOのメンバーの一人、Argwings Odera氏が地域住民が自由な往来をしている場所において、「許可なくプロジェクトサイトへ立ち入った」として、鴻池組の警備員から暴行を受けた上に銃で撃たれて逮捕され、拷問を受けた。彼はその後留置所を転々とさせられて、7日間家族や弁護士と連絡を取ることも許されなかった。政府はこのような事業に関わる人権侵害をどのように捉えているのか。
(3)このような人権侵害は、ケニア国内法においても違法ではないのか。ケニア国内法人権侵害関連規定を詳細に示し、ケニア国内法上の問題を示されたい。 (4)また、国際人権規約上本件のような人権侵害は問題ではないのか。国際法上の問題点を示されたい。
(5)2001年1月24日の住民集会で工事現場での不当な解雇について発言した地元住民は、会場の外で数十人の若者にナイフで襲われた。若者達はケニア電力公社に雇われていたとの報告が地元住民からなされている。これ以外にも日本政府関係者、NGOなどに問題を指摘しないようにとのケニア電力公社による地元住民への脅しが続いているとの報告がなされている。こうした、問題点を指摘しようとする人々への脅しは事業における問題を解決の方向に向けるどころか、問題を歪め、対立を助長していると考えるが、政府としてはこのような事態を受け、どう対応されるのか。 (6)政府は事業に関わる人権侵害についての実態調査を行うべきではないか。実態調査を行なわないのであれば、その理由を示されたい。
9.事業のモニタリング →→答弁書の該当部をみる (1)1999年9月に政府は本案件への第2期分の借款供与についての「事前通報」を行なっているが、この時点で事業に伴う社会・環境問題、人権問題についての確認は行われていたのか。 (2)行なわれていたのであれば、その確認を行った者の氏名と役職名を示されたい。 (3)また、確認内容について具体的に示されたい。
10.環境特別金利の適応について →→答弁書の該当部をみる (1)本案件には環境特別金利が適応されているが、その適応基準を具体的に示されたい。 (2)問題の多い本事業に対して環境特別金利が適応される理由を述べよ。
11.まとめ →→答弁書の該当部をみる
(1)以上の点を十分に考慮した上で、事業の必要性、妥当性、正当性についての検証、評価は適切に行なわれているのか。行なわれているのであればその検証、評価内容を示されたい。
(2)今後、こうした問題を事前に防ぐために政府としてどう対応されるのか。
右質問する。
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