シンポジウム「環境教育+自治体の公費節減+CO2削減=フィフティ・フィフティ」
〜次世代を担う子どもたちへのご褒美〜
2006年8月25日開催報告
平成16年度より開始したフィフティ・フィフティの全国普及活動も3年目となりました。
ドイツ人1人あたり(1日)のCO2排出量
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2005年2月に開催した前回のシンポジウム「エコロジーでエコノミーな省エネ教育」では、札幌市、和歌山県など先進事例を紹介、また、杉並区とFoE
Japanとのモデル事業についての報告を行い、多くの自治体関係者、教育現場の方々の反響を呼びました。その後、実施自治体も増え、35箇所を超えるまでになりました(FoE
Japan2005年7月時点調査)。
今回のシンポジウムでは、各地に広まるこのしくみの魅力を発祥国ドイツの例を挙げて伝えるだけでなく、自治体調査結果から読みとれる傾向や課題についても紹介しながら、プログラムへの発展を話題にしました。
第1部 「ドイツの学校の気候保全プロジェクト フィフティ・フィフティ〜その成果と展望」
第1部では、ドイツの環境問題独立研究所(UfU)よりハルトムート・オスヴァルト氏を招き、ドイツのフィフティ・フィフティの状況について基調講演をいただきました。(オスヴァルト氏プロフィールはこちら)
ハルトムート・オスヴァルト氏
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冒頭では「今なぜ省エネなのか」、「学校でのエネルギー消費の実態」などについて触れ、学校での省エネプロジェクトが温暖化防止に果たす役割についてお話頂きました。
次にフィフティ・フィフティの概要をハンブルクの例、UfUとベルリン市の連携によるモデル事業の例などを引きながら紹介。しくみについてのポイントとして、「開始当初の基準値と変えないこと(節減できたからといって基準値を変えない)」、「環境教育的側面も評価し、モチベーションを維持すること」を、オスヴァルトさんは強調しました。
NGOなど第3者のサポート内容や、行政による条件の違い、などについても実際に関わっている立場からお話いただきました。UfUは、現場での取り組みのためのチェックリスト作成、教職員向けのワークショップおよびセミナー、指導書の作成などを行いベルリン市のサポートを行っています。学校と学校管理を行う行政側担当が直接組んでいるハンブルク市と、間に幾つかの管理機関が存在するベルリン市とでは、プロジェクト実施体制作りにもやはり違いが出てくるそうで、それが成果にも反映されています。日本でも自治体によって体制に違いがありますが、これは当然のことであるといえます。
また、UfUはベルリン市との協業と併行して、気候連盟(Climate Alliance)と共同で、フィフティ・フィフティプラスというプロジェクトも実施しています。これはフィフティ・フィフティ全国普及のためのプロジェクトで、各地の学校をつなぐ情報交換のためのネットワークづくりや、コンテストの実施など、学校同士の横のつながりを持たせたり、数年実施して停滞してきた取り組みを活性化させる役割も果たしています。
「学校の省エネの潜在的可能性はまだ残っている」とオスヴァルト氏は言います。気候保全をテーマとした環境教育を促進すること、学校でのエネルギー消費を抑え将来的に再生可能エネルギーを導入すること、これらを持続的に実現するために世界のネットワークを作りましょう、という言葉で講演を締めくくられました。
第2部 「日本の光熱水費節減分還元システム例」
第2部では、日本各地の光熱水費節減分還元プログラムの事例を特色別に紹介いただきました。
「所沢市の環境教育」
埼玉県所沢市では、平成14年度から小中学校4項で学校版ISOを試験導入しました。翌年度からは全48校で導入しています。各校は、ポスターや呼びかけを行い省エネに努めます。
学校版環境ISOプログラムには、環境部門も協力して環境学習出前講座などを行っていますので、学校はサポートを受けながら、総合的な環境学習をテーマにおくことができます。
評価については、各校の電気水道の削減量を算出し、削減金額に換算。学校の規模を考慮して児童生徒一人当たりの金額に直します。その上で48校の順位を決めます。
還元する予算(所沢市では環境教育推進費)金額は年度によって異なり、順位の高い順に10万円程度をめどに還元を行ってきました。この還元予算を、多くの学校は環境緑化等に充てているそうです。
所沢市のユニークなところは、このランキングでの評価と、「地球にやさしい学校」認定です。学校版環境ISOに取り組んだ学校の校長は申請書を教育委員会に提出、教育委員会は推薦書を市長に提出します。市長は内容を審査の上、学校に対して認定書を発行して学校を評価します。各校は認定を更新するために毎年独自の取り組みを行ってきました。 全校での実施が5年目となる今年度からは「地球にやさしい学校大賞」という表彰制度を設け、予算の還元から表彰というインセンティブに切り替えをしていく予定だそうです。
このように、教育委員会と市長部局の連携により実施している埼玉県所沢市は、フィフティ・フィフティの制度を市の環境方針にバランスよく取りいれているようです。
「無理なく無駄をなくすエコリンピック開催事業」
愛媛県松山市では、エコリンピック開催事業として電気を対象に還元プログラムを導入しています。平成15年度に、8人の学校の先生から成る「総合学習における環境問題導入検討委員会」より8つの事業提案がありました。その1つがこのエコリンピック事業です。
電気使用量を金額に換算し、前年度比で削減できた4割を各校の物品購入費に充てます。単年度予算として処理するため、実施期間は6月から11月までの半年です。
最初の2年間は希望校による実施でしたが、参加していない学校の使用量が増えているのに対し、参加校では合計1,000kWh以上減らすことができました。18年度からは教育委員会の協力により、市内の全小中学校90校が参加しています。
松山市には、エコリンピック開催事業以外に、エコな学校発信事業というものがあり、5年生には各クラスに「身近なことから温暖化対策」という冊子を配布して、環境新聞の募集なども行っているそうです。松山市には、フィフティ・フィフティ導入の受け皿が既にあったといえます。
「玉野市における環境教育推進事業」
岡山県玉野市では、平成16年度から還元プログラムを導入しています。 この背景には、札幌市の選考事例をもとに議員からの提案を受けたということがあったそうです。ごみのポイ捨て禁止条例の制定や、岡山県でいち早くISO14001を取得するなど、環境保全にはこれまで積極的に取り組んできた玉野市において、この提案についてもまずやってみようと検討を始め、翌年度には試験的に導入しました。
基準年と比べて5%減の電気使用量を目標値として設定し、削減できた場合に一部予算を学校へ還元しています。小学校では主に5年生の総合学習の時間を使って環境教育を行う一環で実施しており、幼稚園でも、園児に使わないときに電気スイッチを切ることを指導したり、水の大切さを指導するなどが行われています。還元の対象は電気のみですが、現場では実際は様々な場面で省エネの取り組みがなされているそうです。
電気以外(水やコピー機の使用)も対象にしたらどうか、などと学校側からの意欲的な提案もあり、現場での関心も高まっている今、還元のしくみなども含めて改善する余地がでてきそうです。
「酒田市型環境にやさしい学校づくり〜学校から地域へ」
山形県酒田市では、平成16年度FoE
Japan主催のシンポジウムに出席し、その情報を元に酒田市のフィフティ・フィフティ事業を検討、17年度より実施しています。
還元のしくみは過去3年間を基準としたフィフティ・フィフティです。実施にあたり、教育委員会から校長会・教頭会・事務担当者への説明、PTAを含めての事業説明と、徹底的に説明を行っています。また、教育委員会、学校、児童・生徒それぞれの役割が具体的に明文化され、月1の学校担当者からのメーター数値報告、それを受けての教育委員会からのフィードバック、省エネナビ設置関連の教育委員会のフォローなど、現場と管理側の体制がきちんと整備されています。
酒田市は、フィフティ・フィフティ制度の導入と併行して財団法人省エネルギーセンターの省エネ共和国事業に市全体で参加し、学校のみならず地域全体で省エネに取り組んでいます。現在は、担当者が足繁く現場に行き、課題やニーズを探りながら、改善を図っています。具体的には、現在はトイレの擬音装置や省エネ型蛍光灯の設置などを検討しているそうです。 ※なお、山形県では、フィフティ・フィフティ制度の導入や実施において県の温暖化防止活動推進センターのバックアップ体制があり、複数の自治体で導入がされています。
第3部 「還元システムを生かした環境教育の未来」
第3部のパネルディスカッションでは、これらの報告を受け、よりよいしくみ作りや環境教育に話を展開しました。
「環境課が担うか、教育委員会が担うか」
FoE
Japanの調査では、この制度を管理する部署の約7割が、教育委員会内の学校予算を管理する部署、ということです。環境サイドの関与が必要である反面、予算管理部署の関与は不可欠です。それぞれのメリット・デメリットについて様々な意見がでました。
・ いくら環境サイドで取り組もうと思っても、教育委員会・学校の協力・理解がなくてはまったく進まない。
・ 予算の処理や執行などで教育委員会の協力をもらう必要がある。
・ 環境サイドから教育委員会に事業を持ちかけた例が過去にあったので、スムーズに連携体制が取れた。
・ まずは始めることが肝心。率先してやれば環境サイドもついてきてくれる。
・ 普段付き合いのない環境サイドは学校に遠慮がちになってしまうが、教育員会は学校担当者と日頃から会う機会があるので、頑張らないと来年の予算削るよなどと冗談を言いながらやっている。
教育委員会のみ、環境部のみ、双方の連携体制、いずれにせよそれぞれの役割を明確にして、学校とコミュニケーションをとりながら進めることがコツであると言えます。
「評価基準における課題」
フィフティ・フィフティから始まった浮いた予算の配分割合。ドイツでも日本でもその自治体の制度や事情によって配分がまちまちであることが確認されました。学校以外に外部のアドバイザーにも配当するケース、学校をランキングで評価するケース。重要なのはその配分パターン自体ではなく、学校の努力をどう財政的に評価し、また、財政的以外でどう評価するかということです。
質問の絶えないパネルディスカッション
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経済的インセンティブ以外の評価方法としては、オスヴァルト氏や所沢市よりコンクールがあげられました。量的にどれだけ節減したかということではなく、質的なものを問おうということです。
「フィフティ・フィフティの考え方自体がとても楽しく、大切なこと。人間は自分の行動を認められたり褒められたりすると楽しい。それが励みになってさらに成長してゆく。さらにそれを見ている周りの人たちが、すごいな、自分にもできそうだなと、新たに工夫をして頑張る。人間をよい方向に伸ばしていくのが大切。」(所沢市)
ドイツでは日本より寒く、そのため暖房のための熱使用が電力需要の10倍です。日本でも燃料使用の多い自治体では、原油価格の高騰や暖冬の影響により暖房使用の基準が設けられないということがあげられました。それに対しては、酒田市よりCO2排出量ベースでの基準作りができるとの発言がありました。金額はどうしても変動するが、自治体財政への影響への理解も学校側に求めながら協力して進めていく、ということです。
「小学校就学前の子どもに対して何ができるか」
一般的に学校で環境学習を開始する年齢は、小学4、5年生が一般的です。
幼稚園も省エネに取り組んでいる玉野市では、園児に水の大切さを教えたり、園庭プールの水を植木やプランターへの水やりに使用するなどしているそうです。
一方ドイツでは、NGOのサポートにより、就学前の子どもたちに対しての教育も随分となされているようです。ベルリンを中心にフィフティ・フィフティのサポートをしているUfUでは、箱詰めの環境教育キットを開発し・提供しています。たとえば、就学前の子供たちに対しては「太陽の子どもたち」という小さな太陽電池におもちゃの洗濯機やラジオを接続したり、遊びながら太陽エネルギーを体で感じられるようなものがあります。次の段階のアプローチとしては、小学5、6年生から温暖化や、CO2と絡めたものになってきます。
「これから」
導入時の苦労や評価の際方法の難しさなどが語られたパネルディスカッションですが、最後に各パネラーの方へ今後の方向性を伺ってみました。
・人事異動で自治体担当者や先生が変わるのが一番の課題。これから必要なのはNPOや家庭、PTAへの情報公開の場を作って、つながりを持って進めていくということ。
・ 教員はとても忙しく、いろいろなことをやらなければならないので、その助けとなる立場から企業やNPO、地域の方々がそれぞれの役割を担ったり、子供たちが中心となるなど、フィフティ・フィフティの考え方に協力していけるといい。
・ 競争心の激しい先生などもおられるが、これはあくまで環境教育を目的としたもの。
・ ハードに対する補助ではなくソフトに対する国からの補助を。
・ 「環境教諭制度」というようなものをNPO主体で法制度化するなどすれば学校でも取り組みやすくなるのでは。
フィフティ・フィフティが、学校での省エネ活動による短期的な省エネ・経費節減・CO2削減を狙うだけのものでなく、そこで環境教育を受けた子どもたちが将来的にも継続的に地球に優しい行動を身につけることによって得られる成果、そこで子どもたち自身が得ることができるもの、さらに学校から地域へと発展していく大きな可能性に注目していってほしいと思います。
【開催日時】 2006年8月25日(金) 【会場】 国立オリンピック記念青少年総合センター国際会議室(東京・代々木)
【プログラム】
第1部 基調講演「ドイツの学校の気候保全プロジェクト フィフティ・フィフティ〜その成果と展望」
環境問題独立研究所 ハルトムート・オスヴァルト氏
第2部 事例報告「日本の光熱水費節減還元システム例」
埼玉県所沢市 教育委員会学校教育部学校教育課 山口 勝彦 氏
環境クリーン部環境総務課 前田 広子 氏
愛媛県松山市環境部環境事業促進課 半田 丈士 氏
岡山県玉野市教育委員会庶務課主査 河田 正人 氏
山形県酒田市教育委員会管理課管理係 白崎 好行 氏
第3部 パネルディスカッション「還元システムを生かした環境教育の未来」
質疑応答
※プロジェクト詳細についてはこちらをご覧ください。
このシンポジウムは平成17年度WWF日興グリーンインベスターズ基金の助成により開催しました。
【主催】 国際環境NGO FoE Japan
【後援】 環境省、財団法人省エネルギーセンター、ドイツ大使館
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