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●サン・ニコラス町 〜橋・堤防の損害と農業被害〜
サンロケダムの貯水池が位置するサン・ニコラス町では、アグノ川、また、アグノ川に合流するアンバイオアン川、サバガン川の3つの川が流れています。そのうち、アンバイオアン川では、約20年間、唯一サン・ニコラス町の中心部と北部の村々を結んできた橋の一部が、10月9日(金)深夜、流されてしまいました。この橋の崩壊で、北部の村々は孤立した状態になってしまいましたが、11日(日)、村人らが竹等を使って、人が1列になって渡れる程の小さな橋をかけました。しかし、救援物資等も届くなか、この橋を歩いて渡らなければならず、なかなか救援活動にも苦労している状況でした。
また、10月9日(金)深夜にアンバイオン川沿いの堤防が壊れ、川の水が直接流れ込んできたサン・ラファエル村は、孤立した北部の村々の中でも、さらに孤立した状態に置かれています。
その他、サン・ニコラス町の被害状況は、以下のとおり(10月13日時点)。
・農業等の被害
21の村にわたる約400ヘクタールの水田(2,000万ペソ=約4,000万円の被害)
野菜等の畑(40万ペソの被害)
家畜(ヤギ、牛、ブタ、水牛、鶏等)(200万ペソ)
・インフラの被害
アンバイオン川沿いの堤防2、3kmを始めとする各河川沿いの堤防
電気は停電したまま(町の南部は1週間で、北部は1ヶ月で復旧する見込み)
水田では、強風と流れ込んできた水で、稲が倒されてしまっている風景が目に付きました。農民の多くは、田植え時から種、肥料、殺虫剤などの費用を借金しており、収穫後に利子を付けて返済しなくてはなりません。現在、農民らは、倒れた稲から少しでも収穫を得ようと、倒れた稲を優先しながら収穫に追われています。
●ロサレス町 〜深夜の突然の増水と無意味だった事前警報〜
今回の洪水で最もひどい被害を受けた町の1つがロサレス町でした。ロサレス町は、アグノ川の支流3本がアグノ川に合流する直下の町です。アグノ川にかかる橋は首都マニラから北部の町を結ぶ主要幹線道路になっていますが、橋近くの幹線道路沿いは、10月14日の時点でも、生々しい被害の光景が残っていました。この町では、9日、商業施設であるSMモールの1階が洪水になってしまい、避難していた住民らが2階に孤立してしまうなど、メディアでも何度も報道されていました。
サンロケダムの事業者らは、「事前に警報を鳴らした。」と説明していますが、事前の警報について、ロサレス町の住民は、こう話してくれました。
「10月8日の午後、すでに家の外は膝下くらいの水位で普通に洪水状態になっていた。その後、確かに10月9日深夜にサイレンが鳴り、何かを伝えるアナウンスは聞こえたが、何を言っているのかは聞き取れなかった。それから、みるみるうちに水位が上昇し、自分達は着ていた服1枚で小学校に駆け込むしかなかった。その後2日間は、濡れた服のまま、何も食べずじまいだった。」
私自身、2007年にサンロケダムが放水した際、サイレンの音を聞いたことがありますが、それ程、けたたましいものではなく、どちらかというとソフトな音で、豪雨の中では、かき消されてしまってもおかしくはないと思いました。
●「アグノ川沿いに砂金が戻ってきた!」
今回の膨大な水量の放水は、ダム上流(の鉱山)からダム下流に金も一緒に運んできたようです。洪水が引き、雨も止んで快晴となった11日(日)頃から、サン・ニコラス町、サン・マニュエル町、アシンガン町などのアグノ川沿いでは、砂金採りに勤しむ住民らの姿が見られるようになりました。その数はだんだん増えています。
ダムが建設される以前、アグノ川沿いでは雨季、乾季にかかわらず、年中、砂金採りが行なわれていました。特に洪水後には、大量の土砂が上流から運ばれてくるので、より多くの砂金が採れていました。今回は、サンロケダムが過去にない水量を放水したことから、「ひょっとしたら」という住民の思いが的中しました。
砂金採取に必要な道具「Kuskus(クスクス)」は、すでに処分してしまっていましたが、町で材料を買って自分で用意した人(2,000ペソ程度の支出)、あるいは、村の金の仲買人が用意したクスクスを買った人(500ペソとのことでした)もいました。ただ、「道具を用意するお金も今は無いから。」と砂金採りを断念している住民も少なからずいるようでした。
川沿いで採れた砂金は村の仲買人に売るわけですが、ダム建設前は1グラム250〜300ペソ程度だった金額が、今は800〜1,000ペソ。サン・ニコラス町では、2日間、2人1グループで作業し、27グラムも採れた住民もいるそうです。
サンロケダムの建設によりカマンガアン再定住地に移転した住民は、次のように話してくれました。
「再定住地では、他に仕事がないからね。砂金が採れるなら、前のように川に行って仕事をするさ。3日間、5人1グループで作業して、一人3,500ペソずつの分け前だったよ。」
また、やはり、サンロケダムの建設で、砂金採りができなくなったサン・ニコラス町サン・フェリペ・ウェスト村ムーギン集落の住民は、こう話してくれました。
「以前は、こうやって砂金を採って生活できたんだけどね。今回も、すぐに砂金は無くなってしまうだろうから、そうしたら、また木炭作りで食べて行くしかないんだよ。」
一時的なものではありますが、住民の生活が少しでも楽になるよう、できるだけ多くの砂金が採れればと思います。
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<アンバイオアン川の壊れた橋と竹の道を渡る住民>(2009年10月12日 サン・ニコラス町にてFoE
Japan撮影)
<水で押し流れた道沿いの石で損害を受けた水田>(2009年10月13日 サン・ニコラス町にてFoE
Japan撮影)
<ロサレス町の幹線道路沿いのガソリン・ステーション>(2009年10月12日 ロサレス町にてFoE
Japan撮影)
<放水を続けるサンロケダム。ゲート1門のみ開門していた。>(2009年10月13日 サン・マニュエル町にてFoE
Japan撮影)
<砂金採取をしている住民ら>(2009年10月13日 ムーギン集落にてFoE
Japan撮影)
<砂金採取をしている住民。シャベルの上に砂金が出てきた。>(2009年10月13日 ムーギン集落にてFoE
Japan撮影) |
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