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砂金採取の補償交渉の背景 (2005.07.03) |
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・砂金採取が事業の影響を受けた補償対象と認められるまで
砂金採取は、サンロケダムの周辺地域(パンガシナン州サン・ニコラス町、サン・マニュエル町、ベンゲット州イトゴン町)だけでなく、ダムの上流・下流で広く行なわれてきた。(サン・ニコラス町、サン・マニュエル町だけでも、その数は3000名以上と言われている。)
しかし、砂金採取は多くの住民の重要な生活手段の一つであったにもかかわらず、事業の開始当初(1998年)は、補償の対象とされていなかった。
砂金採りが本格的に禁止され始めた2000年頃から「砂金採取は自分たちの権利」とする住民の機運が高まった。そして、2001年3月に設立されたパンガシナン州の農民組織「TIMMAWA(アグノの自由な流れを取り戻す農民運動)」が中心となり、「砂金採取に対する正当な補償」、つまり、
・正当な金銭補償
(2000年に砂金採取が禁止されてから現在まで年間57,000ペソずつ)
・(今後の)実効性のある代替の生計手段
を事業者に求める運動も強まっていった。(TIMMAWAの他にも、サン・ニコラス町やサン・マニュエル町で、町長や町評議員を中心とした補償獲得の動きもあり、そちらに参加していた住民もいた。)
2002年に入り、事業者は、「砂金採取者319名について、『生活支援プログラム』の対象とする」ことに方針を転換。しかし、事業者の319名の認定については、1999年と2001年にアグノ川沿いで行なった視覚調査を根拠としていたことから、その認定の仕方には多くの問題があった。(1999年、2001年には、すでに砂金採りを止めていた住民も多くいたため、正確な人数を把握するのは不可能。)
そのため、
・砂金採取者の人数の適切な認定
・生計手段の提供だけでなく、過去に喪失した収入機会の金銭補償
・実効性のある生計手段の提供
等の点をTIMMAWAが中心となり、事業者に求めている。
・サン・ニコラス町のみでの砂金採取者の認定作業
2004年5月の選挙で、TIMMAWAのスタンスと相容れなかったサン・ニコラス元町長が破れ、新しい町長になったことを契機に、新町長の支援を受けたTIMMAWAは、サン・ニコラス町のみだけではあったが、SNGPF(サン・ニコラス砂金採取者組織)として砂金採取者の認定作業を進めてきた。
<スクリーニング委員会の結成に合意>(2004年8月)
サン・ニコラス町長、事業者、TIMMAWAのリーダー(各村毎)ら、各村長らをメンバーとした認定(validation)のための委員会が作られた。
委員長 サン・ニコラス町長
副委員長 NPCの担当官
各バランガイ・キャプテン(村長)
TIMMAWAのリーダー数名
各バランガイ(村)の砂金採取者リーダー
<認定作業:事業者の質問票への回答>(2004年9月〜2005年1月)
上記の委員会で話し合った結果、砂金採取者の認定作業として、事業者の用意した質問票に各個人が回答することに。その結果も踏まえて、砂金採取者として認定するかを話し合い、認定された場合には、一家族当たり30,000ペソまでの生活支援プログラムの提供がなされるという話がなされた。
質問票の内容は、一般的に行なわれる社会調査のようなものだったが、
・砂金採取者の選定に必要ない質問項目が多い
・答えにくい質問がある
Ex.「サンロケダムを支持するか」
など、住民団体側から不満の声が出たため、9月に一度、認定作業は中断した。
その後、質問票は同じものを使用するかわりに、
・一つの質問について深く詳細まで質問しないこと
・質問票を使って質問をするスタッフの数を増やすこと
により、認定プロセスの時間を短縮することで、10月に妥協がなされ、認定作業が続けら、2005年1月にサン・ニコラス町の12村での認定作業が一通り終わった。
期間:2004年9月3日〜2005年1月12日
対象:サン・ニコラス町の12バランガイ(村)
主にTIMMAWAのメンバーのうち家族長1375名
回答者:999名
<質問票の回答を基にした事業者の認定結果>(2005年3月)
質問票の結果を事業者が編纂する作業は、当初、2週間と言われていたが、最終的には、2ヶ月たった3月後半にスクリーニング委員会で、事業者側の認定の判断が出された。事業者側の提出したペーパーは以下のとおり。
・認定委員会で設定した砂金採取者の基準
−サン・ニコラスの住民であること
−TIMMAWA、もしくは、San Nicolas Gold Panners Federation(SNGPF)のメンバーであること
−砂金採取が事業開始前の主要な生計手段であること
・上記の基準を満たすのは999人中456人(45.64%)のみ
しかし、事業者は、質問票の回答の中で自分の所属組織を間違えて、「San Nicolas Gold Panners Association(SNGPA)」と答えた住民も切り捨てるような結果をだした。(実際、「SNGPA」と答えた人数は、210人にものぼる。)
<住民組織から事業者へ回答者999名全員を対象とした生活支援プログラムを提案>(2005年4月)
住民組織は、事業者の出してきた結果を受け入れることができないことから、
・回答者999名全員を正当な砂金採取者として認めること
を要求として明確に示し、また、生活支援プログラムの提供・進め方を示した提案書を事業者に提出した。
プロジェクト提案書
(1)養豚プロジェクト
サン・ニコラス砂金採取者組織
プロジェクト総費用:13,267,955.00ペソ
2,500ペソ/頭の豚を4頭/人(1,996頭を購入)
受益者:499人
その他:100日以内に売ること
(2)牛の飼育プロジェクト
サン・ニコラス砂金採取者組織
プロジェクト総費用:15,610,000.00ペソ
15,000ペソ/頭の牛を2頭/人(1,000頭を購入)
受益者:500人
<事業者側の回答・提案>(2005年5月)
上記の提案を受けた後、事業者の回答は以下のようなものだった。
・個々人ではなく、協同組合を通して生活支援プログラムを提供
・予算は110万ペソ(約220万円)を用意
・技術的支援としてトレーニング・セミナーを提供
・資金調達の方法として、銀行やJICAなどに協同組合から申請
しかし、住民側が提案した生活支援プログラムの予算は約2800万ペソ。認定数の結果に引き続き、事業者の対応が真摯でないと、住民側からは不満が示されている。
・事業者・JBICに求められる今後の対応
<砂金採取者の人数の適切な確定>
現在、事業者と補償交渉を進めているサン・ニコラス町の住民組織のメンバーではない住民も、砂金採取者として影響を受けた。そうしたすべての砂金採取者の適切な認定が行なわれる必要がある。現在のように、対象者を縮小していくような姿勢は問題外。
<JBICのガイドラインに沿った「影響住民の生活向上」>
JBICのガイドラインに準じたレベルの補償措置を取るためには、これから拡大する対象者も含めて十分にケアするための、追加的な資金を用意することが必要だ。しかし、現在、事業者が用意している「110万ペソ」では不十分。例えば、同事業の再定住地の一つで行なわれている生活支援プログラムの中に、同じ110万ペソという予算で行なわれている以下のようなものがある。
養豚プログラム
人数:35名
事業者からの拠出金:110万ペソ(これ以外にも追加拠出あり)
開始時期:2003年7月〜
しかし、昨年(2004年)1年間の収入から計算すると、35名の参加者が養豚プログラムから得た収入は平均して月300〜500ペソにとどまるレベルだ。
十分な実効性のある生活支援プログラムを提供できるかという問題もあるが、110万ペソで多くの砂金採取者の補償措置を適切に行なうことは難しいと言える。
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