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紫坪鋪ダムに関する要望書

国際協力銀行総裁
篠沢恭助 殿

中国四川省、岷江流域に建設予定の紫坪鋪ダムに対する国際協力銀行の関与の質問にお答えいただき大変ありがとうございました。

 お答えの中で、中国政府機関は御行に対し、環境アセスメント(EIA)の公開を認めないとあり、中国の二つの機関の連絡先を頂きました。国際河川ネットワークがこれらの機関、中国国家環境保護総局と四川省紫坪鋪開発有限責任公司に連絡をしたところ、これら両機関とも環境アセスメントの公開は出来ないとのことでした。
 
 もし、御行がいまだにEIAを公開できないとのことであれば、EIAを公開していただける他機関のご紹介を頂くことができますでしょうか。EIAを公開しないことは、御行の事業方針や規範を損ねかねるのではないでしょうか。
 つきましては、322億円を融資予定のこのプロジェクトに関する以下の質問にお答えいただきたいと思います。

住民移転問題
 このダム建設にあたり、約4万人の人々が移転を迫られ、またその中には、アバチベット地域やジアン自治国も含まれています。少なくとも、この地域の14%はチベット民族であると予測されています。チベット民族をチベット地域から他の地域へ移転させることは、彼らをより排斥し、社会的により不利な立場におくことになる可能性があります。

  • このプロジェクトにおける環境や社会的リスクに対する御行の評価プロセスについて詳細に説明していただけますでしょうか。
  • チベット民族は移転させられるのでしょうか。
  • チベット民族でない人々がチベットの地域に移転した場合、チベット自治区の人口統計バランスにどのような影響が出るのでしょうか。
  • 御行はこのプロジェクトにおける住民移転計画を入手されていますでしょうか。
  • 御行は住民移転計画を公開される予定はありますか。
  • この計画が世界ダム会議の勧告にどのようにコミットしているか説明いただけますでしょうか。
  • 移転やプロジェクトによって影響を受ける人々と適切な協議が行なわれ、合意がなされたのでしょうか。もしなされていないのであればどうしてでしょうか。

発言の自由が制限され、政府プロジェクトに反対することが政治的な反抗とみなされる中国では、意味のある社会環境影響評価を行ううえで、基本的な問題が多く残されています。先例で、世界銀行が一時的に中国への融資を認めたプロジェクトがあります。このプロジェクトは、約5万8千人の非チベット民族をチベット自治区に移転させることを含んでいました。チベット民族支援グループや環境保護団体、人権擁護団体、世界銀行の活動をモニタリングしている団体の連合は、このプロジェクトは世界銀行のガイドラインに違反しているというで、プロジェクトの融資停止キャンペーンを行いました。2000年に、独立機関である世界銀行の独立審査パネルは世界銀行の基準により移転をともなうプロジェクトの社会影響評価が行われたチベット地区を訪れ、後に"チベット民族が恐怖の中で生活している"という報告を出しました。これにより、以前の影響評価は信用を失いました。上記の連合により世界銀行はこのプロジェクトのもたらすリスクを再検討し、中国政府が融資要請を取り下げたことにより、世界銀行は融資承認を行なわないことになりました。

下流に対する影響
 プロジェクト担当官によると、156mの高さを誇る紫坪鋪ダムは下流にある灌漑設備「都江堰」に重要な影響を及ぼすことはないと発表されています。この「都江堰」は2000年にユネスコの世界遺産にも登録されている、非常に重要な遺跡です。これに対し、技術者からは、紫坪鋪ダムは水および堆積を10億立方メーターほど溜め込むことになるため、このダムは「都江堰」の周辺の約1100万エーカーへの灌漑を止めることになりうるとの警告が出されています。

 完成したEIAを公開して公に審査することがなければ、私たちは紫坪鋪ダム建設による都江堰や下流地域の影響をどのように回避するのか理解することができません。

  • 紫坪鋪ダムによる都江堰への影響をどのように回避し、世界遺産を保護していくのか、また、周辺地域への影響をどのように緩和していくのか、具体的に説明していただけますでしょうか。
  • 下流地域のコミュニティーとこのプロジェクトやこのプロジェクトがもたらす影響について、適切な協議が行なわれているのでしょうか。
  • 影響を受ける人々との合意はWCDの勧告するガイドラインに基づいて協議が行なわれた結果なのでしょうか。

そしてもうひとつの、大きな懸念は、紫坪鋪ダムの下流に建設予定の第二ダムです。このダムは、都江堰の上流700mの地点に建設予定であり、紫坪鋪ダムの発電量を40%増加させるものです。この第二ダムの計画は現在取りやめられているとのことですが、JBICへの融資返済が紫坪鋪ダムからの電力売買を通じてなされるために財政的な側面から、その返済のために、第二ダムのプロジェクト計画が復活するのではないかという強い懸念があります。

  • 第二ダムが建設されないという保証はあるのでしょうか?

また、第二ダムがなくても、紫坪鋪ダムは下流に対し、非常に大きな環境的、社会的影響を与えることが予想されます。具体的には、放水による洪水の波による漁業への影響、川底の地形変化や、下流の流れへの影響などがあげられます。

  • 下流への影響を示したEIAは第二ダムを考慮しないで作られたものなのでしょうか?

最後に、紫坪鋪ダムに対するコメントですが、プロジェクト関係者がダムの環境と社会へのリスク調査を発表したくなければ、彼らはJBICからの融資がなくても、民間銀行から自由に資金調達を求めることができます。日本国民は環境破壊と人権侵害を犯してはなりません。
 
 私たちは、御行に対し、すべてのリスク評価が公に発表され、影響を受ける人々がきちんと説明を受け、彼らの抱える不安や問題がすべて解決されるまで、さらには、中国国民やチベット民族の方々が受ける影響がすべて調査されるまで、紫坪鋪ダムに対する融資を認めないことを要求します。

 私たちは、対話や協力を通じて、よりよい理解が得られることを心から願っています。御行は持続的な開発のために大きな役割を果たせる機関です。この問題に対する御行の取り組みに感謝するとともに、質問に対する回答をお待ちしています。ありがとうございました。

2002年11月1日

 国際河川ネットワーク            国際環境NGO FoE Japan
 Doris Shen                   松本 郁子

 Students for a Free Tibet
 John Hocevar

他、賛同団体(5カ国17団体)
Free Tibet Campaign, ECOtibet, International Campaign for Tibet,
Tibetan Association of Chicago, World Tibet Day Foundation, Students for a Free Tibet,
India-Tibet Friendship Society, The Milarepa Fund, United States Tibet Committee,
Tibet Justice Center, Songtsen Gampo-Causa Tibetana, Interfaith Call for Universal Religious Freedom and Human Rights, Himalayan Action Committee for Tibet,
Mekong Watch, Japan Center for a Sustainable Environment and Society (JACSES), Action for Solidarity, Equality, Environment, and Development (A SEED) Japan, The Milarepa Fund

>中国・紫坪鋪ダムプロジェクトとは?

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