政府開発援助(ODA)のうち、円借款業務を担う国際協力銀行(JBIC)が支援する事業、マレーシアのパハン・セランゴール導水事業。この事業をめぐって、先住民族への事業の周知がされていなかった、環境アセスメントに不備がある、事業の代替案の検討がなされていない、といった理由でダム建設予定地近くに住む先住民族27人が裁判を起こしています。
の度、先住民族の起こした裁判を担当する弁護士と、支援する環境団体の方が、「現状を日本政府・JBIC・市民に伝えたい」と緊急来日しまし、ODAの担当省庁である、外務省、財務省、経済産業省やJBIC、
国会議員等との面談を行いました。
以下、来日メンバーによるプレス・ステートメントです。
プレス・ステートメント
JBIC融資案件 ケラウ・ダム事業について
(翻訳:FoE Japan)
2008年2月28日
マレーシア西部の先住民族である2部族(原住マレー族のテムアン族、および、セノイ族のチェウォン族)は、ケラウダム事業に関する環境影響評価(EIA)の承認という環境庁長官による決定の正当性を争う申立てをマレーシア高等裁判所に起こした。テミル川にある村に暮らすテムアン族とその周辺の丘陵に暮らすチェウォン族は、パハン州(マレーシア中西部)にある先住民族保護区に居住している。パハン州からセランゴール州への水供給を目的とするケラウダム事業は、先住民族保護区とラクム森林保護区の一部を含む場所に建設が予定されている。事業のEIAによると、先住民族の80%以上の土地が水没し、ラクム森林保護区の1,549ヘクタールが破壊されることになる。
ラクム森林保護区は、数億年も昔からの初期の熱帯雨林であり、スマトラ虎、ウンピョウ、アジア・ゾウ、サイを含む多数の絶滅危惧種や準絶滅危惧種の生息地である。
先住民族保護区の土地は、狩猟や採集をしたり、古代から先祖を埋葬しながら、2つの部族が生活・利用してきた土地である。
マレーシアの環境庁長官は、先住民族が見掛け倒しの環境社会影響調査であると主張しているものに基づき、日本の国際協力銀行(JBIC)が融資している(マレーシアの)国家事業であるケラウダム事業に関するEIAを承認した。
JBICの環境社会ガイドライン(注:旧経済協力基金(OECF)の『円借款における環境配慮のためのJBICガイドライン(1999年10月)』)は、事業が保護地域で行なわれてはならない、また、保護地域への影響は最小限でなくてはならない、と明確に規定している。また、同ガイドラインは、事業へのJBIC融資の条件として、事業借入国(マレーシア)の法的要件を満たしていなくてはならないと規定している。
2部族の先住民族は、同事業と作成されたEIAが、マレーシアの環境基準法(1974年)第34A(2)項の要件をないがしろにし、深刻な違反を犯したと主張している。以下、手短かにその理由を述べる。
1. EIAにおける環境および生物多様性に関する環境影響についての調査が、不適切かつ短期間である。
2. EIAにおける環境および生物多様性に関する調査が通り一遍のものであるため、植物相・動物相の絶滅危惧種や準絶滅危惧種への配慮がより不十分なものとなっている。
3. EIAは、パハン州でのダム建設による水供給の必要性について、時代遅れの矛盾するデータに依存している。
4. ダム建設以外の方法で、水需要を満たす他の選択肢に関する分析も詳細な調査もなされていない。
先住民族は、EIAの作成過程において、法で要請されている協議を受けていない。政府は、事業により、彼らが深刻な影響を受けると十分知っていたにもかかわらず、EIAの作成時、彼らの意見は完全に無視された。ダム建設の直接的な結果として、先住民族が生活をし、何千もの伝統的な方法で狩猟を行なってきた先住民族の伝統的な土地を破壊することになる。それに加え、世界最古の熱帯雨林の一つであるマレーシアの熱帯雨林はすでに激減しているが、その熱帯雨林のさらなる破壊につながる。
私達は、日本の市民と日本政府が、同事業がマレーシアの法、また、JBICのガイドラインをないがしろにしているかどうかを自分自身で判断できるよう、書類と他の証拠を持ってきた。先住民族は現在、一般に世界の政府、そして、特にマレーシアおよび日本政府に対し、この地球で主権をもつ市民としての先住民族の生活様式や伝統により大きな尊敬を払い、この地球上から姿を消すことも考えられる熱帯雨林やその動物相の神聖さを神聖なものとして保護するよう、呼びかけている。
カマルル・ヒシャム・ビン・カマルディン(弁護士)
ズビル・ビン・ハルン(ラクム森林保護地域アクションコミッティ代表)
リム・コン・キーン(弁護士)
裁判に関連する参考資料
>裁判の概要とJBIC環境ガイドラインへの違反
>チェウォン代表による宣誓供述書 要約(和訳)
>チェウォン代表による宣誓供述書(英語 原文)
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