2007年初頭、パハン・セランゴール導水事業に反対するマレーシアの住民約5000
人が以下の覚え書きに署名し、在マレーシア日本大使館に覚書を提出しました。
JBICは2005年3月31日、同事業に対する円借款の供与を決定しましたが、この覚書では、同事業に対してJBICが融資をしないよう求めています。
しかし4月19日現在、日本政府はこの覚書に対し返信をしておらず、現地からの懸念に対して説明責任を果たしていません。
同事業の総事業費は約1000億円といわれていますが、そのうちの820億4000万まではJBICによる融資で賄われることになっており、従って、日本政府の同事業における役割・責任は非常に大きいです。
現地では、住民のみならず、多くのメディアが同事業の必要性や環境社会影響に疑問を投げかけています。
現地住民の理解を得ていないだけでなく、反対が起こっている事業に対して日本がODAを供与する意義は一体どこにあるのでしょうか。
覚書
パハン・セランゴール導水計画のためのケラウダム建設への反対
駐マレーシア日本大使
今井正様
ラクム森林保護地域保護のための行動委員会
イントロダクション
将来の水不足に対応するためのパハン州からセランゴール州への導水計画について、マレーシアや日本の関係団体の間で、これまで、何度も話し合いや交渉が行われてきました。
10年前、セランゴール州や首都クアラルンプールでは、給水制限、干ばつ、清潔な水の不足などのひどい事が起こりましたが、これらに対する適切かつ迅速な対策をとらなければ、再び同じ事が繰り返されてしまいます。
話し合いの中で最も大きな部分を占めてきたのが、パハン州ケラウ地区でのダム建設です。ケラウダムは、生態系を確実に変化させてしまうものであり、周辺の環境、特にオランアスリへの影響が懸念されます。
先住民族が、先祖伝来の土地を立ち退くことを条件に、コンクリート製の新しい家の提供等、より良い住環境、報酬、その他の特権を与えられることが約束されたとしても、導水目的のダム建設の決定は、その利点よりも多くの害をもたらすと考えます。
この巨大プロジェクトへの円借款をマレーシア政府に供与することによって、同計画に直接的に関与する日本政府は、ダム建設への支援を中止するべきです。海洋生物、植物相、動物相などの自然遺産を保護し、環境問題への取り組みに関して大いに尊敬されている日本政府は、特にマレーシア政府、そして日本企業に対して、ダム建設から撤退するよう厳しく勧告するべきです。
ケラウダム計画は、ラクム森林として知られる、200年以上も自然保護地域に指定されてきた手付かずの森林をも何千ヘクタールに渡って確実に破壊することになるでしょう。さらに、もしも同事業がこのまま進んでしまえば、先住民族が自らの利益をすて、とりあえずの補償を受け取っても、事業はその後の先住民族の収入を奪ってしまうことになるでしょう。
この他にも、ダム建設が実現した場合には、30年以上もの間住んできたフェルダの住民によって守られてきた何千ヘクタールという油やしのプランテーションが消滅することになるでしょう。
ケラウダム建設の提案による影響
ケラウダム建設計画による影響は、ラクム森林保護地域の森林伐採を含め、主に以下の4つの影響があります。
1. 大気の質、水質、そして騒音
建設中に水質への影響がある河川としては、パハン州ではテレモン川, ケラウ川、ビルット川の下流,
セマンタン川、ベントン川、そしてセランゴール州ではランガット川が挙げられます。
さらに建設中には、乗り物や機械から排出される煙、異臭、一酸化炭素、そして他の排気によって大気汚染が進行するとみられます。また、特に乾季には、工事車両の通行が周辺地域の大気の性質に大きな影響を及ぼすと予想されます。
騒音問題も建設中に私用される機械や交通渋滞から引き起こされる問題です。さらに、その騒音問題は野生生物を驚かせてしまうでしょう。
2. 植物相と植生
ケラウダム建設は1549ヘクタールに及ぶラクム森林保護地域の皆伐を含みます。さらには、この建設は植物相と植生を破壊することにもなります。ラクム森林保護地域は49科からなる88種の生態系が記録されていますが、その中には、薬効のあるもの(18種)、毒性のあるもの(2種)、食用となるもの(4種)、そして野生動物の食料となる果物がなるもの(8種)などがあり、その一つ一つの種が樹脂加工や着色などの重要な役割を果たしています。なかには、4種の上昇植物や5種の着生植物があります。
ダム建設の提案には、このような植物や森林種を守るために、これらの植物への移転計画などが含まれていましたが、そのためにはそれに関して熟知した専門家が必要であり、非常に高い費用を要します。これらが成功する確率はとても低いと思われます。
3. 動物相と野生動物
ラクム森林保護地域を囲い込むことによって、絶滅危惧種をさらに絶滅の危機に晒してしまうような人口島がいくつもできてしまうと思われます。最も大きな影響がでるのは、高い土地に追い込まれる可能性のある、動きが遅く、緩慢な動きをする動物です。ラクム森林保護地域の多くの動物相や野生動物の重要性はその多様性にあります。
周辺地域にいる野生動物としては、Bonded monkey、ダスキールトン、The
helmeted、 サイ、黒いサイチョウがあげられます。他にも、バク、Kijang、Sambar deer, インドヤギュウ、
クマ、ネズミジカがいます。鳥類に関しては、通常、森林地帯では見られないような種類もあり、良好な生物多様性がみられます。
4. 洪水の可能性の高い危険な地域
私達は、ダム建設が及ぼす特定の地域への影響について気付くことはめったにありません。ダムの建設とは、旧来の方法であり、私達の近年の生活環境に適しているとはいえません。
このことはWorld Water Associationの副代表を努めるザイーニ・ウジャン博士(教授)をはじめとした、様々な地元・国際的な環境専門家によって明らかにされました。これらの研究によって、フィリピン、中国、タイ、インドネシアにあるダムが、とくに豪雨や台風の時に、洪水の原因となっていたことが明らかになりました。そして、そのようなダムは、先住民族のみならず、植物相や動物相にも影響を与えます。
2年前には、パーリス州で、Timah Tasoh Damが豪雨に耐えきれず、あふれた水がパーリス州の75%を飲み込んでしまうという、歴史上最もひどいことがありました。このような問題はトレンガヌ州でもKenyir
Damによって、また、ジョホール州でもBatu Pahat Damによって起きています。
私達は、以上の理由から、パハン州からセランゴール州への導水を目的としたケラウダム建設の根拠を受け入れられません。環境専門家のザイーニ・ウジャン教授は、他にもパハンからセランゴールへ導水する方法はあると述べています。
結論
私達は、深刻な問題を引き起こしたバクンダムと同じような環境問題が起こってしまうことは避けたいと思っています。バクンダムでは、強い反対の抗議が起こり、特にサラワクの住民と政府の間で不和が生じました。歴史は繰り返されてはいけません。私達は、将来の世代にはこの多民族社会でより良い生活を送って欲しいですし、あらゆる場面において発展を享受して欲しいと思っています。同時に、生態系を破壊するような不必要な事をせず、 きちんと保護された環境で生きていって欲しいとも思っています。
私達は、この覚書によって、パハン・セランゴール導水事業に関して近い将来何が起こるかということに関して全体像をご理解いただけることを、心から望んでいます。この導水事業の主要な関係者として、在マレーシア日本大使館と日本政府は、パハン州にある私達の自然遺産である生態系や環境への影響とその負の影響をもたらす開発のうち、特にダム建設を支援しないという一貫した立場を維持し、そのための中心的な役割を担うべきです。
ZUBIR HARUN
議長
ABDUL MALEK ABDUL MANAN
副議長
MOHD RIZAL BAHARIN
主事
ANUAR DARUS
副主事
ZULKIFLI KILAU AHMAD
会計担当
KHAIRUL ANUAR
会計担当補佐
2007年1月31日
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