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融資決定についてJBICへの意見書 「ダムの必要性に疑問あり!」 |
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3月31日に調印されたパハン・スランゴール導水事業への融資契約に関して、FoE Japanから国際協力銀行の総裁にあてて意見書を提出しました。事業の必要性や先住民族の移転問題などについて、現地専門家の調査結果、世界ダム委員会の報告書をもとに様々な問題点を指摘し、この事業において適切な環境社会配慮が確保されるよう要請しています。
以下、意見書の本文です。
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2005年4月21日
国際協力銀行
総裁 篠沢 恭助 様
パハン・スランゴール導水事業に関する意見書
2005年3月31日、国際協力銀行(貴行)は、「パハン・スランゴール導水事業」に関し、マレーシア政府との間で820億4,000万円を限度とする円借款貸付契約に調印しました。同事業に関しては、これまで私達は現地NGOと共に、事業の必要性や環境社会影響に関わる問題を指摘してきましたが、これらの問題についての十分かつ適切な議論がなされていないにもかかわらず、貴行が融資契約の調印に踏み切ったことは大変遺憾なことでした。
同事業に関しては、これまで主に以下の問題に関する懸念があげられてきました。
1.事業の必要性と代替案の検討
マレーシア政府は将来の水需要予測を理論的根拠にあげ、同事業の必要性を主張してきました。しかし、この主張に関しては主に、これまで、以下のような事業の必要性と代替案の検討に関する疑問が現地よりあげられてきました。
・ 水需要予測が、非常に楽観的な経済成長や高い人口増加予測に基づいて、不当に見積もられている可能性がある。
・ 事業による環境社会への影響を考えた場合、新たなダム建設による水需要の確保よりも、税率を利用した水道料金の改定等の水需要管理計画、さらに、40%というマレーシアの高い無収水率への対策等による水供給管理政策を検討すべきだが、これらの代替案について、具体的かつ十分な議論がなされていない。
以上の水需要性や代替案の検討に関しては、貴行が有用な参考資料としている、世界ダム委員会の報告書(WCD報告書)の戦略的優先事項2「総合的選択肢評価」の効果的実行のために適用すべき方針原則において以下のように述べられています。
2.1 水およびエネルギー資源開発の選択肢を特定、評価する前に、開発のニーズと目的を、開かれた参加型 プロセスを通じて明確にする。
2.2 開発目的全般を考慮に入れた計画アプローチを用いて、すべての政策、制度、管理、技術上の選択肢
を評価する。これはプログラムあるいは事業に実施の決定が下される前に行われる。
2.3 選択肢評価にあたっては、社会、環境の側面を、経済、および財務的要因と同様に重視する。
2.4 選択肢評価プロセスにおいては、既存の利水、灌漑、エネルギーシステムの効率と持続可能性を高める ことを最優先とする。
さらに、貴行の「環境社会配慮のための国際協力銀行ガイドライン(ガイドライン)」 においても、対象プロジェクトに求められる環境社会配慮としてその代替案の検討が以下のように求められています。
「プロジェクトによる望ましくない影響を回避し、最小限に抑え、環境社会配慮上よりよい案を選択するため、複数の代替案が検討されていなければならない。」
しかし、パハン・スランゴール導水事業においては、こうしたWCD報告書及びガイドラインが尊重されていません。代替案は、既存の利水の効率を高めることが最優先とされていませんし、依然として同ダム事業の必要性にも疑問が残っている状態のままです。
2.JBICの不十分な説明責任
上述の事業の必要性や代替案の実効的な検討に関する疑問が指摘されてきたにも関わらず、未だに水需要予測の根拠となるデータの十分な公開がなされていません。
貴行は、同事業に関して自らが行なった調査である『パハン・セランゴール導水事業E/Sに係る案件形成促進調査(SAPROF)最終報告書』の中で、同事業の妥当性の確認と提言を行なっています。私たちは同最終報告書の情報公開法に基づく部分開示の通知を、2005年3月29日付けで受け取りましたが、当該文書を未だ受け取っておらず、同案件の必要性の議論は依然としてできていません。
同事業に対しては820億4000万円(限度額)という、一つの案件に対する融資としては過去最大の円借款が供与されることになりました。しかし、その事業の必要性、また、融資の必要性について、JBICは十分な説明責任を果たしたとは言えません。
3.先住民族の住民移転の問題
先住民族オラン・アスリのテムアン一族325名が住んでいる地域は、貯水池の近くに位置するものの、ダムによって水没はしません。テムアン一族は「現在の居住地が水没しないなら、移転はしたくない」と望んでいたにもかかわらず、これまで「移転しなくてもよい」という選択肢をマレーシア政府から知らされずにいました。この点については、2月15日、当団体との会合の中で外務省が、「オラン・アスリは移転の必要はないが、すでに再定住先の用意がなされているため、彼ら自身が移転を望んでいる」と理解していることに対して、オラン・アスリ問題センターのコリン・ニコラス博士が2つのコミュニティへの聞き取り調査を実施し、2005年3月17日付の貴行に対する書簡の中で、以下のオラン・アスリのポジションを確認しました。
・ オラン・アスリは移転以外の選択肢を与えられなかった。
・ ダムはオラン・アスリのコミュニティに影響を与えない。
・ オラン・アスリは移転を望んでいない。
・ オラン・アスリはダムを望んでいない。
この点、貴行は、今年3月25日付けコリン・ニコラス博士へのレターの中で、オラン・アスリの移転に関して、以下のように返答しています。
・ 先住民族オラン・アスリの家は水没しないので、移転しないか、もしくは、移転地に移る選択肢を与えら れている。
・ 関連住民・NGOの参加する定期モニタリング会合で今後、移転計画も含めた社会環境問題が議論され ることになっている。
・ オラン・アスリの意見も事業実施にあたって考慮される。
この貴行からの返信に対し、コリン・ニコラス博士は、3月28日付けで貴行へ再度レターを送っており、そこでは、「オラン・アスリに移転しなくても良いという選択肢が与えられていることは喜ばしいが、オラン・アスリはどうしてその選択肢を与えられているということを知らされていないのか、非常に疑問である。」と述べています。
WCD報告書の戦略的優先事項1「社会の支持を得る」の戦略的優先事項の効果的実行のために適用すべき方針原則では、以下のように述べられています。
1.1 権利の認識とリスクの評価は、利害関係者を特定し、エネルギーおよび水資源開発に関わる意思決定に
参加させる上での基本である。
1.2 情報を得た上での意思決定プロセスへの参加を可能にするために、情報へのアクセス、法的その他の支
援をすべての利害関係者、特に先住民族、部民族、その他社会的弱者が利用できる。
1.3 あらゆる主要な決定に対する社会の明らかな支持は、開かれた透明なプロセスで交渉を行い、合意を形
成することで得られる。このプロセスは、すべての利害関係者が情報を与えられた上で参加し、誠実に行 われる。
1.4 先住民族、部民族に影響を与える事業に関わる決定は、公式および非公式の代表団体を通じて、十分な
情報に基づく事前の自発的同意によって進められる。
しかし、オラン・アスリの移転については、WCD報告書で勧告されているような「情報を得た上での意思決定プロセス、開かれた透明なプロセスで交渉を行うことによる合意形成、十分な情報に基づく自発的同意による先住民族による決定」が確保されてきませんでした。
4.JBICのモニタリングの問題
3.で示したように、貴行が理解しているオラン・アスリのポジションと、現地専門家であるコリン・ニコラス博士が実際に聞き取り調査を行った結果としてのオラン・アスリのポジションに相違がありました。このことは、貴行による現地状況の確認の方法、つまりは貴行によるモニタリング体制に問題があることを示すものであり、現状のモニタリング体制のまま事業が進行した場合、オラン・アスリの移転に関する問題を始め、事業による環境社会影響のモニタリングを貴行として適切に実行できるのかどうか、懸念を感じざるを得ません。
5.現地からの懸念の声
今回、貴行が融資契約を調印したことに対しては、現地専門家やNGOからも懸念を示す書簡が相次いで提出されました。4月7日付でオラン・アスリ問題センターが、また4月11日付でConsumers'
Association of Penang とFoE Malaysiaが各々、以上の同事業の懸念が払拭されない状態での貴行による円借款貸付契約の調印に対して、強い懸念を示す書簡を送っています。
このように、同事業については様々な懸念が解消されておらず、また現地NGOからも懸念の声があげ続けられている状況において、今回貴行が融資契約の調印をしたことは、大変遺憾であります。上記の事項について、再度十分な説明責任を果たしていただきたくお願い申し上げます。最後に、今後は、同事業における適切な環境社会配慮を確保するため、貴行によるモニタリングにおいて、透明性とアカウンタビリティーが適切かつ十分に確保されることを強く望みます。
以上
連絡先:
国際環境NGO FoE Japan(担当:清水規子)
〒171-0031 東京都豊島区目白3−17−24 2F
Tel: 03-3951-1081, Fax: 03-3951-1084
Cc: 外務大臣 町村信孝 様
財務大臣 谷垣禎一 様
経済産業大臣 中川昭一 様
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