ケニア円借款案件(ソンドゥ・ミリウ水力発電事業)
最新情報(2001.9.5)

サウス・チャイナ・モーニング・ポスト

「利権」 ダムの追及に燃える改革派大臣

ピーター・ハドフィールド

【香港】 2001年9月5日(水)

 視聴者にとって、政治のニュースはおもしろいものではなかった。しかし今、人々は毎日のようにTVの政治ニュースにかじりついている。それは外務省改革を目指す田中真紀子氏と、外務省族議員の鈴木宗男氏との対決を観戦するためである。

 これまで鈴木氏は、外相の失敗ひとつひとつをあげつらって攻撃し、そして外相が新しい政策が出せばそれに反対してきた。しかし彼はいま、防戦一方の態勢に追い込まれている。

彼はいま、他の外務委員会の議員3名ともにケニヤを訪問中。ODA「利権」として批判され、外相も追及の姿勢を見せる現地事業をまとめあげるためである。

その「事業」とはケニヤ西部に建設中の水力発電所のこと。60Mwの工業用電力を供給する計画である。1985年に日本政府に円借款の要請があり、1995年に鴻池組を含む合弁企業が第一期工事を落札した。

鈴木氏は1999年、内閣官房長官補佐としてナイロビを訪れており、第二期工事においても継続して円借款を行うとモイ大統領に約束。

そして鈴木氏はその決定に従うよう外務省に強要したと言われている。

では、なぜ鈴木氏はこの事業にそんなに熱心だったのか。ある野党議員のひとりは、鈴木氏と鴻池組の間に裏取り引きがあったためだと指摘している。鴻池組が第一期工事を落札してから鈴木氏が第二工事への追加融資を政府に要請するまでの間、彼は実に150億円もの政治献金を鴻池組から受け取っている。

しかし「利権」がらみは鈴木氏と鴻池組だけではない。外務省もまたこのODA事業について何らかの“裏取り引き”をしていた節がある。ジャパンタイムズは、1999年7月付けの外務省関係の書類に「(ケニア事業は)ユネスコでの選挙対策から言っても極めて重要である」 との一文があったと報じている。その後行われたユネスコ事務局長選挙では、ケニアの支持を得て日本側の候補者が当選した。

いっぽう財務省は、ケニヤは債務返済能力が低く、返済不履行の場合日本の納税者にしわ寄せが来るとして、この水力発電事業へのODA供与に反対してきた。事業費総額は日本円にして、約200億円。これはケニヤ年間国家予算の実に約6%に相当する。

保坂展人議員(社民)は「各々のODA案件をすべて詳しく調査したいと思っているが、必要な数字が公開されておらずできない状態だ。」と話す。「今回のケースについても、どのように資金が使われたのかなどの詳しい情報は、日本側からもケニア側からも一切公開されていない。」

さらに保坂氏はジャパンタイムズの記事の中で「他の多くのODA案件と同じく、このケニアの案件も“日本企業による日本企業のための”事業であり、そのツケを払わされるのは納税者。まるでムダな公共事業の海外版だ。」と指摘している。

財務省の反対をかわすため、外務省は第U期工事への融資を「特別環境案件」に指定した。これにより事業の経済性が問われなくなり、代わりに入札は日本企業に限られる「ヒモ付き」となる。ケニヤ企業の受注は工事現場での下請けのみだ。特別環境案件の指定を受けるためには、融資主体である国際協力銀行および外務省自身により、事業の環境証明が認可される必要がある。だが国際協力銀行は外務省と強い関係を持つ政府系金融機関である。

【訳者註】特殊法人である国際協力銀行(JBIC)の主務官庁は財務省だが、ODA業務を行う開発部門の前身は海外経済協力基金(OECF)であり、外務省との関わりが強い。

今年6月に現地視察を行った外務省調査団は、事業への反対意見は無いと報告。これにより特別環境案件への指定が確実となった。しかし現地の環境保護団体によると、実際には住民の間には反対意見もあるのだが、脅されて声が出せないような状態なのだという。ジャパンタイムズによると、2名の日本人記者が地元住民の「違法」集会を取材しかどで逮捕、さらにケニヤ人ジャーナリストも銃撃を受けている。NGOグループは、工事による粉塵被害やダムによる下流の流量減少(約5万人が影響を受けるとされる)、また移転住民への補償が不十分であることなど、いくつかの事業の問題点を指摘している。

こうした批判をよそに、鈴木氏はケニアから帰国する今週には、約106億円の追加融資を政府に要求する構えだ。各メディアはこの事業を、旧来型外交の典型として見ている。つまり外相への対抗策として、鈴木氏がケニアのダムを利用しているというわけだ。そして田中外相が有権者の中で人気があるのもこうしたバトルのせいなのである。

 
 

 

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