国会議員から外務大臣への要望書 2001年1月11日
外務大臣 河野洋平 殿
新規円借款案件:ケニア、ソンドゥ・ミリウ水力発電事業に関する申し入れ
貴職におかれましては益々ご活躍のこととお慶び申し上げます。 さて、この度私は、日本政府が円借款供与を検討中の「ソンドゥ・ミリウ水力発電事業」に懸念を抱くものとして、外務大臣のご見解を賜りたく、申し入れをさせていただく次第です。 ご承知のように、ダムによるとり返しのつかない生態系の破壊は川の上流、下流に及び、流域に暮らす人々の生活文化に大きな影響を与えていることは、国内の事例を見ても明らかです。また、ダムによる環境や流域住民の生活に対する影響の大きさに比して、建設の必要性や経済性についての検討が不十分であるとの批判は益々顕著となってきております。 さらに、本年11月16日に発表された世界ダム委員会の最終報告書は、大規模ダムが建設推進者側の主張ほど、発電、水供給、洪水制御などを実行できていないことを十分な調査報告をもとに明らかにし、こうした大規模プロジェクトは頻繁にコスト超過や事業の遅れを伴っていることを指摘しています。 本事業に関しては、地元住民やNGOによって、強制立ち退きや事業によって影響を受ける人々への不十分な補償、不正な土地評価、工事により汚染された水で家畜が死んだり、女性の水汲み場が遠くなる、工事現場からの排水、廃棄物による肺炎の流行、水系伝染病の発生、先祖に対する心の拠り所であるオデイノの滝の枯渇、事業に伴う汚職など多くの社会・環境問題が指摘されています。 さらに、ケニアの延滞債務は2000年11月のパリクラブでリスケジュール(債務繰り延べ)が決まったばかりであり、干ばつの影響により経済状況は悪化していると考えられます。また、ケニアは拡大HIPCイニシアティブ適用可能国であり、このプロジェクトのための新規円借款も帳消しされる可能性があります。円借款削減を検討している中で、国民の税金や財政投融資をこのような新規円借款に使うことは大きな問題です。 また、昨年12月26日には事業における社会・環境問題を指摘していた地元の活動家が事業の建設を請け負っている鴻池組の警備員に暴力を振るわれた上に、地元警察によって左腕を銃で撃たれて逮捕されました。彼はその後、その傷の手当ても受けられないままに7日間留置所に拘束されて拷問を受け、家族や弁護士とも連絡を取れないというODA事業にあるまじき重大な人権侵害が報告されています(別紙参照)。これは明らかにODA大綱の中で謳われている「人権の尊重」に反するものであります。 したがって、以下の内容について中立的な機関による詳細な分析を行ったうえで、政府の慎重な判断を求めるものであります。ご見解をいただきたく、ご多用中かと存じますがよろしくお願い申し上げます。
(1)事業によって移住を余儀なくされる人々や土地を奪われる人々への補償は十分に行われているのか。 (2)事業が地域社会を貧困化させることはないか。 (3)ダム建設に伴う社会・環境影響は十分に緩和されているのか。 (4)事業の必要性、妥当性、正当性についての検証、評価は十分になされているのか。 (5)ケニアの中長期的な経済発展に資すためには、債務削減がいいか、新規円借款供与がいいか、十分な分析をすべきではないか。 (6)事業に関わる人権侵害についての実態調査を行うべきではないか。
以上
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