ケニア円借款案件(ソンドゥ・ミリウ水力発電事業)
現地視察 報告(2001.3.8―12)

   3月8-12日の現地視察で、多くの課題を聞いてきました。NGOの追求もありようや く問題の全体像が明らかになりつつありますが、具体的な解決策はこれからです。 にもかかわらず、外務省、経済産業省は問題解決の枠組みは見えたとして追加の円借 款に問題はないとしています。 NGOは今の枠組みで本当の問題解決につながるのか懐疑的です。ODAプロジェクト に伴う多くの社会・環境影響が明らかになった今、地域住民や NGOも納得した上 で今後の対策を練っていくことが問題解決にあたっては不可欠だといえます。   

>>>>>>>>>>>>以下は報告書の概要です。<<<<<<<<<<<<

地球の友ジャパン

松本郁子

調査日時:200138日(木)―12日(月)

調査の目的:
地元NGOによって指摘されている本事業の問題について、影響を受けている地元住民から直接に話を聞き、現場を訪れ、本事業に関わる課題の整理を行うこと。

調査の概要:
影響を受けている地元住民との会合、工事現場付近の住民の居住区の視察、地元のTechnical CommitteeTC)のメンバーとの会合、工事現場の視察、地元住民からの聞き取り、オディノの滝の視察、NGO Coalitionのメンバーとの会合、日本大使館およびJBIC、工事のコンサルタントとの意見交換

川の流水量変化による社会・環境影響調査の不備

・水力発電事業のためにソンドゥ川から取水した後、ソンドゥ川の平均流水量は40立方メートル毎秒から0.5立方メートル毎秒へと大きく減少することになり、これによる流域生態系への影響および地元住民への影響は多大なものとなることが予想される。

・しかし、地域住民がどのように川を利用しているのかについて十分な調査が行われておらず、したがって流水量変化によって地域住民の生活にどのような影響があるのか明らかにされていない。

・飲料水や家畜、漁業などのためにソンドゥ川を利用している地域の住民が、水力発電事業による川の流水量変化について知らされていない。

・川の流量変化により川に生息する魚や、魚の遡上など河川生態系にどのような影響があるのか十分な調査が行われていない。

・地元住民が祖先の神がやどる神聖な場としているオディノの滝を保護するための措置が検討されていない。地元住民はケニア電力公社に、少なくともオディノの滝を涸れさせないだけの水は川に残して欲しいと願っている。

現在すでに起こっている問題

1、立ち退き等に伴う補償の問題

  • 土地対土地と土地対金銭の選択の余地があったわけではない。地域の住民はケニア電力公社によって、ダム工事のために1エイカー45000Kshsで土地を取得することになると知らされた。人々は受け入れられないと拒んだが、受け入れないのであればどちらにしろ政府によって土地は取り上げられ一切支払いは行われないと脅されたため、条件を受け入れた。選択の余地はなかった。土地の権利書を騙されて取り上げられてしまった人もいる。

  • 土地を失ってしまったら農業を行っていたものはどのように生計を立てていけばよいのか途方に暮れているが、工事現場での雇用も優先されているわけではない。

  • 事業によって被害を受けている地域に、適切な生活補償が行われるように配慮が行われるべきだ。ベースキャンプ付近ではすべての土地を失ってしまった人が大勢いる。

  • 土地の買い上げ価格は新しい土地を買うのに十分な金額ではなかった。1エイカー45,000Kshsで売ったが、今同じ価値の土地を購入しようとすると1エイカー60,000から65,000Kshsする。

  • ほかの土地に移り住むことは大変難しい。現在の土地を離れれば家族や親戚からも離れることになり、地域で共同で利用しているものなどを自由に使うこともできにくくなり家畜を自由に放牧することも難しくなる。

  • 土地や果樹、樹木など一括して補償金が支払われたため、個々の補償が適切に行われているのかどうかが不明確。

  • ケニア電力公社は土地所有者の一部の土地を土地所有者が全く知らない別の人に貸し出していたことにして、その土地の保証金の一部を借り手の名義で騙し取っていたことが、最近になって明らかになった(参考資料4)。この問題は土地補償の問題の氷山の一角に過ぎない。

2、雇用・賃金の問題

  • 最近まで工事現場で仕事をしていた労働者は労働条件、賃金の件で300人ほどでストライキを行い18日に解雇された。

  • 鴻池組のチェリオットというスタッフが組合の結成を厳しく規制しており、現場では労働組合の結成は許されない。組合が外から入ろうとしても入れず、組合を結成するとすぐに解雇される。

  • 現場での賃金は非常に安い。ガードマンが2000Kshs/月、普通の車の運転手が5550Kshs/月、大きな車の運転が8000Kshs/月、土木工事従事者が4095Kshs/月。ガードマンの賃金は2000年のケニアの最低賃金、3,367Kshs/月を下回っている。

  • 現場では事故が絶えない。先日も左指2本を切断してしまったビクターという男性(ダム工事の仕事をしていた)は負傷後すぐに解雇されてしまった。病院は近くに無くキスム(現場から車で2時間程度)まで行かなければならない。多くの人が工事現場で怪我をしているが補償はない。

  • 4ヶ月ほど前には、サージタンクで仕事をしていたOwaka Thomusという男性が上から落ちて死亡した。もう一人はトンネル車に巻き込まれて死亡した。地元での聞き取り調査によると、これまでに2名が工事現場での事故で死亡している。

  • ケニア電力公社のリエゾンオフィスで雇用を促進するために仕事をしていたKabondo出身のOwidi Wugu氏は雇用斡旋のために710000Kshsの仲介料を取っていた。

  • 現場での雇用の優先順位が、1)事業によって直接に影響を受ける人、2)影響を受ける地域の人、3)それ以外の人、の順になっておらず、直接に影響を受ける人の雇用は全体の4―8%にすぎない。

  • みんな仕事が欲しいので問題を大きな声で外に出さない。

3、アクセス道路周辺の埃の被害の問題

  • divisionの保健施設に相談して、地元住民は埃による身体の影響について調査を依頼した(2000818日付のレポート、参考資料3)。当初、ケニア電力公社に対応を迫るように州政府に相談したが、州政府は調査のお金はないといって問題を取り上げたがらなかった。

  • レポートではキャンプサイト付近から取水堰付近までのアクセス道路から500メートル以内の両端の11件ずつの家での埃による人体、家畜、水、農作物、衣服、植物など影響を報告している。報告は事態は深刻であり至急に対策がとられる必要があると結んでいる。

@住民が屋根から取水している雨水が汚染され、飲料水や家事に適さなくなっている。
A
井戸からの水も台所に保管しているものが埃まみれになってしまっていた。
B家屋の中の食料や衣服、寝室も埃まみれになっている。
C
家畜は特に羊やヤギ、子牛などが視力を失うなどの影響が出ている。
D
幼少の家畜が埃にまみれた草などを食べたために死亡したと主張する人もいる。
E22件の全ての家族が肺に痛みを感じ、咳が続き、鼻水、鼻づまりが起こり、目が痛み、特に目をこすった後涙が止まらなくなり、常に目に炎症を起こしている。特に子どもの喘息や肺病は深刻で、病院で埃が原因の肺病と認定された子どももいる。道路際のWater Kioskの管理を行っている女性が片目の視力を失うなど事態は大変深刻である。

4、保健衛生についての問題

  • アクセス道での埃など工事に伴う健康被害が深刻で、環境アセスメント報告書でも事業に伴う水系伝染病やマラリア等の増発の恐れが指摘されているにもかかわらず、保健施設の充実などそれに対する適切な措置が取られていない。

  • ケニア電力公社は地元住民に保健施設の改善など多くの約束をしたが、その約束は守られていない。ベースキャンプ内の保健施設はフェンスで囲まれ公的なものではない。

  • 周辺地域に住み込んでいる労働者のトイレは汲み取り式ではなく、地面に穴を掘っただけのものであるため、衛生上の問題が懸念される。

  • アクセス道での埃対策のための水撒き用のタンク車は、週に2―3回、トイレの汚物の回収も行っている。汚物は特定の場所で処理されるが、その後タンクは一度水で流すだけで、同じタンクに水を溜めアクセス道の埃を抑えるための水撒きに使っている。タンクをすすいだ水はベースキャンプにそのまま垂れ流している。

5、工事の排水による土壌、水質汚染の問題(Adit2周辺)

・丘が少しなだらかになったところにバナナや小さな畑を作っていたが、工事の汚水が流れ込んだためにそうした場所が水浸しになってしまい畑をすることが出来なくなってしまった。また、家畜が汚染された水を飲んでおりその影響が心配される。

・別の場所から出される工事の汚水は地域住民の芋畑を流れ、畑をだめにしてしまった。昨日になって急に汚水のための溝が掘られた。今日の日本からの訪問者にあわせてのことではないかと住民は話していた。

6、トンネル工事周辺での小川、泉の枯渇(Adit2周辺)

・トンネル工事の始まった昨年の10月頃から、穴を掘ればきれいな水が湧き出ていた場所から水が湧かなくなってしまった。また、地域を流れていた小さな小川もこれまで年間を通して涸れることはなかったが、すっかり涸れてしまった。これはトンネル工事によって、地下の水脈がたたれてしまったためではないかと住民たちは話している。

・住民の飲料水も、家畜に飲ませる水も、畑の水も遠方まで汲みに行かなければならなくなってしまった。すぐ側を工事用の水道管が通っている。Water Kiosk(工事用水確保のためのパイプの一部から水を供給する仕組み)を設置してこの水を地域の人も利用できるようにしてもらえないだろうか。

7、地元住民の往来のための道の破壊(ベースキャンプの側)

  • 工事のための新しい道が東西南北に走り、地域の往来のために役に立つということで土地を取られたが、これらの道は地域の往来をよくするものにはならなかった。

  • 工事現場へのアクセス道にあわせて代替の道が作られる計画であったが、実行には移されていない。通常使っていた道がなくなっただけでなく、土壌の侵食によって土砂に埋まってしまった道もある。

  • 工事のアクセス道のそばは非常にうるさい。

8、砂の大量採取による土壌の荒廃(ベースキャンプの側)

地域で大量の砂を採取したために、土壌が荒廃し農業が出来ないような状況になってしまっている。

9、トンネル工事による家屋への亀裂

トンネル工事の側、ペンストックの側などの家屋に亀裂が入っている。事業のコンサルタントは家屋を訪れ亀裂は工事によるものではないというが、毎日のようにトンネル工事による振動でその影響を受けている。これまで家屋に亀裂が入ったことはなかった。


●事業に関わる暴行事件など

  1. 20001226日のNGOメンバーの逮捕

  • 20001226日、NGOのメンバーが許可なくプロジェクトサイトへ立ち入ったとして逮捕されたが、彼が逮捕された地点までに許可書などをチェックするゲートはなく、逮捕された地点のすぐ側にはWater Kioskがあり、地域住民が自由に行き来している場所である。彼はこれまでにも何度も同じ道を行き来しており、なぜ1226日だけ許可書の不備を指摘される事態にいたったのかは非常に不鮮明である。

  1. 124日の住民集会後の暴行事件

  • 工事現場の元労働者のMauvice Odehiambo124日の会合で不当な解雇があったために雇用の問題について発言した。会合を早目に引き揚げようとベースキャンプの外に出るとナイフで数人の若者に襲われた。そのまま逃げて途中で車に乗せてもらって帰宅したため、警察には届けなかった。

  • Fredrick Otienoという男性も124日の会合後にベースキャンプの外で襲われている。彼は襲われた時に土地の権利書を奪われた。会合で特に発言はしなかったが、会合後ベースキャンプのゲートを出たところで40名ほどの若者から暴行を受けた(参考資料7)。頭や顔、腕などに傷や痛みがあったため、警察に届け出た。

  • 日本工営のSchofield氏は、124日の会合に参加したケニア電力公社に雇われていた青年が、会合後、理由も無くゲートの外で2名の会合参加者を襲ったことは、手紙(参考資料8)が届いたので知っていた。

3、問題を指摘しようとする住民への圧力など

  • 39日の住民集会の前夜、ケニア電力公社のスタッフが地域を回り、明日の会合は非合法な会合で参加者は逮捕される、参加してはいけないと話してまわっていた、との話を聞いた。

  • 3月上旬のJBICの環境ミッションの前にもケニア電力公社のスタッフが地域を回り、JBICに問題を話すと問題解決のためのお金が来なくなってしまうので問題を話さないようにといいまわった、との話を聞いた。
  • 問題を指摘する住民への締め付けなど、警察やケニア電力公社による地元住民への圧力で事業に伴う問題が外に出にくくなってしまっているのではないかと感じた。

●NGOの役割

  • NGOは直接に影響を受けている地元住民から大変信頼を受けて活動している。週に1度は現地を訪れ、住民の抱える問題を聞いてまわり相談にのっている。

  • 地元住民への聞き取り調査の中で、問題解決が出来るのはNGOと日本人だけだ、という話を何度も聞いた。39日の住民集会でも、NGOの活動の成果について賞賛の言葉が多く聞かれた。

  • 事業に伴う問題解決を進めていく上で、地元住民の様子について詳細にわたって情報を把握しているNGOと協力することは不可欠ではないかと感じた。

問題解決に向けてのNGO Coalitionの提案

1、TCとケニア電力公社とのMOUの締結
TCで出された提案の実施を確実なものにし継続的なモニタリングを行っていくために、TCはケニア電力公社と法的拘束力を持つMOUを締結すること。

2、TCの再編
現在、TCの構成メンバーにケニア電力公社が入っているため、TCとケニア電力公社との間でMOUを結ぶことは困難である。また、問題を解決に導くべきTCChairmanがケニア電力公社のスタッフであるため、ケニア電力公社の利益を保護する傾向にあることもTCの課題である。よって、この点に考慮したTCの再編が必要である。

3、鴻池組によるNGOメンバーの告訴の取り下げ
今後、NGOと事業主体は協力して問題解決にあたっていく必要がある。しかし一方で、NGOのメンバーであるArgwings Odera氏、 Pireh Otieno氏、 Duncan Odima氏の3名は鴻池組によって、昨年1226日に許可なくプロジェクトサイトに立ち入った件、および1211日に河野外相宛てに出された19項目にわたる問題点を指摘した手紙の内容に誤りがあったという件、で告訴されている。今後NGOが事業主体と協力して問題解決に取り組んでいこうというときに、一方で事業の請け負い企業体から告訴されていることは、信頼関係を持って協力していくことを大きく妨げる要因となる。協力して問題解決に取り組むにあたって、3名の告訴は取り下げられなければならない。

4、以上の条件が満たされなければ、NGOメンバーはTCから撤退する。

以上


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