イバロイ族の懸念(99.5.11)
1999年5月11日 サンロケダム建設によるフィリピン先住イバロイ民族の主な懸念事項< 1. 影響を受ける地域と人々 フィリピン電力公社、サンロケパワー社と政府関係者はイトゴン市の人々はサンロケダムによって、ダルピリップ村とアンプカオ村で62世帯が影響を受けるだけであると主張している。しかし、これは事実ではないとわれわれは考えている。より多くの家族が、1)生産的な先祖伝来の土地、生活の糧および生活の源の浸水によって、2)年間を通じて上流より蓄積する堆積によって、あるいは3)水系地域の開発によってサンロケダムの影響を受けることになるだろう。私たちは、イトゴン市だけで2万人の人々が影響を受けることになるだろうと見積もっている。これらの人々はプロジェクトの合意を得るために小規模のプロジェクトを与えられた以外は、フィリピン電力公社の計画で考慮されてさえもいない。フィリピン電力公社は、ダルピリップ村や他のイトゴン市の共同体は影響を受ける地域外にあると認識しているため、これらの共同体への影響を想定することさえもしていない。 1) 浸水 ダムの高さは海抜297mとされている。2000人の人々が暮らすダルピリップ村は海抜300-360mに位置している。ダルピリップ村の一番低いところにあるトゥバ集落は貯水池からわずか5kmのところに位置している。ダルピリップの村全体も貯水池からわずか10kmのところに位置している。アンブクラオダムの建設時、バラコバック村およびバンガオ村はダムの水位からかなり上方の、貯水池から数km離れたところに位置していたが、この2つの村は現在ダムやアグノ川上流からの土砂や堆積物の蓄積によって浸水してしまっている。貯水池のすぐ側に位置しているダルピリップが、遅かれ早かれサンロケダムによる水位の上昇によって浸水してしまうことは明らかである。特にサンロケダムの上流部では鉱山が操業中であり、このために侵食はますますひどくなるだろう。 2) 堆積 こうした直接的な浸水に加えて、より多くのアグノ川の上流地域も土砂の堆積によって移住を余儀なくされることになる。今も続くイトゴン市やトゥバ村でのベンゲットコーポレーション、スヨック鉱山およびフィレックス鉱山による大規模鉱山開発は、結果的に大量の採掘汚泥をアグノ川に投棄している。サンロケダムの建設は、堆積や水の流れを塞き止めることによってすでに深刻化している堆積の問題をより深刻化することになる。アグノ川の多量の堆積は、米作地、家、祖先の墓やその他の財産のある川岸の洪水の原因となっている。ダムの建設に伴って土砂は行き場を失って貯水池や川底に堆積し、水位を上昇させ、結果としてすべての土地や財産を破壊することになるだろう。 3) 流域の開発 サンロケダムに伴う流域開発計画対象地域は、パンガシナン州とベンゲット州の39,504ヘクタールに及ぶ。フィリピン電力公社は、域内には居住者がいないことを前提に、これらの流域が森林法に基づいて公的な管理下におかれるとしている。実際には、何千家族もがこの水系流域で生活をし、生活のために土地を利用している。彼らの経済活動は公的管理下における流域内ではもはや許されなくなってしまうため、これらの人々も皆サンロケダムの建設によって影響を受けることになるのである。 2. 先住イバロイ民族の地域共同体としてのダルピリップ村の重要性 ダルピリップ村は先住イバロイ民族の地域共同体で、残された数少ないイバロイ文化の拠点となっている。この地はイバロイ部族の豊かな歴史の集積地域となっている。ダルピリップ村はイバロイ民族のリーダーの集まる地域であり、ベンゲット州全域より部族の集まるところである。ここはイバロイ部族の生活の中心であり、イバロイの政治的な会議および社交的な活動の中心地でもある。ダルピリップ村はベンゲット州全域、特にアグノ川流域のイバロイ文化の地なのである。この10年間、他のイバロイ地域共同体は移住を余儀なくされ、開発の名のもとに搾取されてきた。「カファグウェイ」はバギオ市の観光都市となり、アンブクラオやバギオでは2つの巨大なダムを建設することになった。イトゴン市は巨大採掘企業によって鉱山の開発を進めることになった。トゥバ集落は現在ゴルフコースや住宅開発が目白押しである。イバロイ民族は繰り返し移住を余儀なくされ、搾取されてきた。そして今、ダルピリップ村がサンロケダムによって搾取されようとしているのである。ダルピリップ村を失うことは、イバロイ民族にとって得がたい場所を失うことである。人々は再びこうしたことが起こることを許さないだろう。 3. 先住イバロイ民族先祖代々の土地の重要性 コルディリェラ地方のもう一つのイゴロット部族であるイバロイ民族は、彼らの先祖伝来の土地と深いつながりを持っている。これはイゴロット部族が多額の補償を与えられるといっても先祖伝来の家や土地と離れることを拒否するゆえんであり、彼らがこの生活を続けることに命を賭けているゆえんである。チコダムは、マルコス大統領が彼の持てる限りの政治権力を持ってしても、コルディリェラ北部で建設を押し通すことに失敗した事例である。というのは、人々は政府がすべての金銭的、物質的な誘惑を与えようとしても先祖代々の土地をあきらめようとはしなかったからである。そして、軍隊がかれらを追い出そうとしたとき、政府は彼らが喜んで戦い、彼らの生存と先祖伝来の土地を残す権利のために死を覚悟していることを知ったのである。この時と同じ状況がイトゴン市ダルピリップ村にはある。もし我々が先祖伝来の土地から追い出されることになれば、私たちは最後まで戦い、我々自身の死に同意する前に戦って死ぬことになるだろう。 4. 生活の源 私たちにとって先祖伝来の土地への執着は単に感情的なものだけではない。私たちの先祖伝来の土地は、人としてそして共同体としての実質的な生活の源である。私たちの食料(米、果物、野菜など)は私たちの土地からくるものである。私たちの家はこの土地の上に建っているのである。私たちは補足的な収入のためにアグノ川で魚を捕ったり、砂金を取ったりする。家畜は土地の草を食べる。私たちの文化全体が祖先からの土地によって育まれるということを基盤にしている。先祖からの土地がなければ、私たちは今日ここにいなかっただろう。先祖代々の土地以外に私たちに行くところはない。別の場所に移住するということは私たちにとって受け入れられることではない。1950年代と60年代の始めにアンブクラオダム、ビンガダムによって移住を余儀なくされた私たちの兄弟は、いまだに適切な移住地も補償も与えられていない。もはや適当な土地が無く、何百万人という土地を失った人々が国中にあふれているこの時に、移住を余儀なくされる私たちはどうしたらいいのか。私たちのダルピリップでの生活はけして楽ではないが良い生活である。わたしたちはどうしても移住したくない。私たちは私たちの孫が今後もこの土地を育み続けてくれることを願っている。そして、イバロイ共同体として協力して生活し続けることを願っている。 5. プロジェクトの環境コスト 世界の大規模ダムが、修復しきれない環境への多大な影響を与えているということが立証されてきている。水位の上昇によって最終的に逃れることができないと、生物の多様性、動植物の種は脅かされることになる。巨大な貯水池は「地震を誘発する貯水池」として地震の発生を促すことにもなる。現在、損傷を回復させ元の環境に戻そうという試みのもと、世界各国でダムの撤回や大型ダムの取り壊しが行われてきている。世界的に巨大ダム建設に対する懸念および反対の声が高まる中、世界ダム委員会(1998年世界銀行によって設立)は、現在ダム建設におけるすべての課題について研究を進めている。イトゴン市の人々は孤立してサンロケダム建設を中止するキャンペーンを行っているわけではない。私たちは毎年連携を強めている国際的な動きのなかで、世界中の環境活動家、NGO、ダムによって影響を受ける人々と共に活動をしている。 6. プロジェクトの経済性 1984年のサンロケダムの環境影響評価ではサンロケダムの寿命を40年としている。しかし、これはイトゴン市とトゥバ集落の鉱山会社が採掘を拡張せずに、1998年までに操業を停止するという理想的な条件のときのみにおいて言えることである。この条件下では、彼らに採掘汚泥をリサイクルし、アグノ川にこの採掘汚泥を投棄しないことになっている。しかし、こうした理想的な条件は存在しない。1984年以来、ベンゲットコーポレーションはロアカン村の露天掘りを行うために、イトゴン市での採掘事業を拡充し、アグノ川に数百万立方メートルトンの廃棄物と採掘汚泥を投棄している。また、1998年6月に操業は停止しているが、露天掘りの現場での修復作業は行われておらず、アグノ川への堆積が続いている。フィレックス鉱山も銅、金の採掘事業を拡充し、今後20年近く採掘を続けることにしている。ダムの寿命はこうした理由で疑問である。ダムが40年間ピークの容量で始動し続けることができるかどうかも疑問である。私たちはダムの短い寿命とそのダムによってもたらされる発電、灌漑、洪水制御及び水質改善といった利益は、プロジェクトの莫大な費用と計り知れない社会、文化、環境のコストに優るものではないと信じている。 私たちは日本輸出入銀行、日本政府及び日本の市民のみなさんに訴えます。みなさんの胸に手を当てて良心をもって、私たちの請願に耳を傾けてください。
1. サンロケダムへのすべての融資を停止し、支援を撤退してください。
サンタナイ先住民族運動(SSIPM) <来日者のプロフィール>
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