国際協力銀行
総裁 篠沢 恭助
殿
フィリピン・サンロケダムへの融資凍結についての要望書
貴職におかれましてはますますご活躍のこととお喜び申し上げます。
私ども、国際環境NGO
FoE Japanは98年からフィリピン、サンロケダムに伴う社会環境問題について取り組んできました。サンロケダム事業について、去る6月22日にプロジェクトサイトで行なわれた「マルチステイクホルダーによる会合」に参加し、多くの問題が解決されないままに進められてきた本事業について、改めて問題の大きさを痛感し、プロジェクトによって影響を受ける地元住民が表明されていたように、事業に伴う問題の解決は、「事業の中止」以外にないのではないかという意を強くいたしました。
○会合の開催形態の偏り
今回の会合では、これまでの話し合いと何ら変わらず、問題への具体的な対応策は提示されず、反対住民にとっても非常に不満の残る会合となりました。また、会合の開催形態にも疑問が残りました。会合には、事前登録により賛成派住民(灌漑部門事業の受益者)が50人程出席し、事業の利益を主張しました。それに対し、反対派住民は12人の代表団のみの出席でした。この出席者の偏りは明らかに意図的に生み出されたものであり、話し合いはフェアに進められるような状況ではありませんでした。
○生計手段の喪失から事業中止を要請
会合開催時、サンロケダムの建設により土地や砂金採取などの生計手段を失い、現在、学校に子どもをやる費用にも困るほど生活の困窮を訴えている下流の人々は、会合の会場内に入れず、ダムの建設現場入口のゲート前で約500人規模のデモを行っていました。彼らの代表団は会合で、「過去3年間に被ってきた損害に対し適切な補償を求める正当な権利があること」、また、「この4年間、生活支援プロジェクトはどれもうまくいっておらず、どの代替の生計手段も以前の生活を補償するものにはなり得ないこと」を訴えました。そして、彼らにとっての唯一の問題解決策が、砂金採取の地域として現在残っている貯水予定地域の確保、つまり、「事業の中止しかない」ことも重ねて主張されました。
○灌漑事業についての不十分な説明
会合では灌漑部門の利益が強調されていましたが、下流の人々が必要とする灌漑設備について、サンロケダムが唯一の解決手段なのか、その代替案の検討は行われていません。また、「サンロケ多目的ダム」は4つの目的を持っておりますが、その事業全体を考えたとき、当然終えられているべ地域住民、特に灌漑用水路などによって悪影響を受ける人々への十分な説明や話し合いが行なわれてこなかったことが明らかになりました。
○先住民族や地元自治体による事業への合意
上流のイトゴン町の先住民族も事業開始当初から反対運動を続けてきたことを訴えました。イトゴン町が1999年1月に提示した17条件については、今年1月10日、町の評議会がその条件の履行状況について評価を行っており、17条の1項目「多様なコンサルテーションが開かれたことは、問題の解決が効果的に行われたということにはならない。」、5項目c)「環境社会に関する補足調査は、フィリピン環境天然資源省の環境応諾証明書などに反映されることもなく実質的な問題解決の方向へと結びついていない。」など、17条件が依然として満たされていない状況が明らかにされました。
○フィリピンの法律への違反
また、地元先住民族グループは、上流の自治体が事業を快諾していないことから、依然として事業が(1)地方自治法に抵触する可能性があること、また、先住民族の事前合意が欠如していたことから、(2)先住民族権利法に対しても抵触している可能性があることについて、住民側が裁判に訴える可能性を示唆しました。さらに地元の先住民族グループは、先住民族の生活の権利を奪うという人権侵害に関して、国連の人権委員会に調査依頼を行なう予定です。
○必要とされない民間セクターによる発電
電力供給過剰(40%)の状態にあるフィリピンにおいて、民間セクターによる発電は必要とされていない事実も地元NGOによって明らかにされました。民間セクターとフィリピン政府との間で結ばれてきたフィリピン政府に不利な電力購買契約(PPA)は、電力売買調整費用としてフィリピン消費者一人一人の負担となっています。効率化を促進するはずの発電の民営化は、市民の電力料金を2倍にまで引き上げる結果となっており、フィリピン国民の不満も高まっています。このように、現在、民間発電事業であるサンロケダムの必要性も疑問視されています。
○FoE
Japanの見解
今回の会合では、現地でこれまでに指摘されてきた問題が依然未解決のままであることが浮き彫りとなりましたが、事業者は今後、7月末から8月初めに貯水を開始する予定と聞いております。この4年間、問題の解決がうまく図られてこなかった状況を考えても、このまま貯水が始まり事業が進んでしまえば、現状が改善されないことは十分予想できます。私たちは、このような杜撰な事業に国際協力銀行が融資を継続していることに非常に危機感を強めています。事業の必要性自体も疑問視され、アグノ川流域の数万人の人々の生活を危機的な状況に追いやり、彼らの生活の権利を脅かす本事業への国際協力銀行の融資を凍結していただけますようよろしくお願いいたします。篠沢総裁の本件への真摯なご対応をよろしくお願いいたします。
国際環境NGO
FoE Japan
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