サンロケ多目的ダムプロジェクト
フィリピン先住民族委員会/大統領の諮問機関による
共同調査の報告書(06.27.2001)

→→先住民族権利法の実施細則の解説をみる

サンロケ多目的ダム事業に関するコンサルテーションについて
OPAIPAおよびNCIPが
Presidential Adviser on Indigenous Peoples Affairs (Ambassador Howard Q. Dee)に
提出した報告(2001年6月27日付)

−抜粋(仮訳)−

<<序論>>

○サンロケ多目的ダム事業の先住民族に関連する問題経緯

  • JBIC(国際協力銀行)より、IPRA1997年先住民族権利法)に関連する問題が本事業に及ぼす影響について懸念が表明された。また、事業実施側からも、NCIPNational Commission on Indigenous Peoples)委員大半の任期が切れたため、本事業により影響を受けるancestral land(訳注)に対する補償促進に必要な、合意およびancestral landに対する権利(を公式に認める)証書の発行に影響が出て、本事業に遅れが生じるのではないかとの危惧が出てきた。
  • 2001410日、NPC(National Power Corporation)Presidential Committee on Flagship Programs and Projectsは、OPAIPA(Office of the Presidential Adviser on Indigenous Peoples Affairs)に対し、ベンゲット州イトゴン市で本事業の影響を受けるancestral land請求者の問題に対処するため、NCIPによって行われる必要な手続き/プロセスを補佐するよう要請した。他方、影響を受ける地域社会の代表者らはOPAIPAおよびNCIPに対して苦情を申し立て続けた
  • OPAIPAはこの要請を受け、イトゴンで影響を受ける先住民族共同体において事実確認のためのコンサルテーションを開くよう、Evelyn S. Dunuan弁護士(OPAIPAコンサルタント)とEdtami MansayaganNCIPOffice of the Executive DirectorOIC、コミッショナー)を任命した。

○本報告書の対象範囲

・本報告書は上記コンサルテーション(2001年6月4~7日に実施)の結果、具体的には以下の2点について報告する。

  1. 本事業により影響を受けるICCs/IPs(Indigenous Cultural Communities/ Indigenous Peoples)が十分に知らされた上で自由意思による事前合意(FPIC Free Prior and Informed Consent)(訳注)をしている、という要件が十分に満たされているかどうか

  2. 上記ICCs/IPsおよびその地方自治体に影響を及ぼすその他の問題・懸念

  • コンサルテーションの主要参加者は、直接・間接に影響を受けるICCs/IPs(主としてイトゴン市内)、その地方自治体、そのPOsPeople’s Organizations)(訳注)および支援するNGOs。コンサルテーション/総会/ワークショップはすべて、イトゴン市街で行われた。

  • 主な参加者:@Raul Molintasベンゲット州知事、ARobert Tindaanベンゲット州現副知事、Bベンゲット州議会現議員、CEdna Tabanda次期副知事、D州議会次期議員、ECresencio Pacalsoイトゴン市長、Fイトゴン市議会議員、Gイトゴンで影響を受けるバランガイ・キャプテン(訳注)および役員、Hイトゴンで影響を受ける共同体住民、Iサンロケ多目的ダム事業およびNPC職員/代表、J本事業の問題に関心を持つNGOおよびPOの代表、Kその他政府職員。

 

<<本論>>

A. ベンゲット州議会とのコンサルテーション

・コンサルテーションで明らかとなった主な事実、論点、懸念は次の通り。

  1. 本事業をテーマとしたコンサルテーションは何回か開かれたが、事業が既に開始されてからのことだった。Tindaan副知事は、マニラおよび香港で開かれた本事業に関する会合に出席した。Atos州議会議員は、Ronald Cosalan下院議員が出席した他の会議にも出席した。

  2. 本事業をめぐる論点や懸念について知らされなければならない新議会議員がいる。

  3. Marvin Atos州議会議員は、本事業に好意を持つように思われる人々だけでなく、影響を受ける関係者全員が参加を呼びかけられるような、真の意味でのコンサルテーションを行う必要がある、と述べた。

  4. Edna Tabanda次期副知事は、コンサルテーションで行われる議論は対決的、対立的なものではなく、あらゆる立場の人々が優先度の高い論点について、考えられる最善のアプローチあるいは解決に到達することを考えるべき、と述べた。

  5. 概して、州議会は有権者が望むものを支持する。それゆえ、本事業が以前要求された「コンディショナリティ」に従えば共同体はこれを受け入れるというのであれば、議会はこの「コンディショナリティ」の充足を確実に実施させるべき。

  6. 個別の論点・懸念

Atos州議会議員:i)補償されるべき財産の評価、ii)影響を受ける土地の標高限界を290mslから295mslへと引き上げる提案、iii)DENR(環境・天然資源省)による開発事業向け資金の一部支出は、本事業への賛成を説得するためのものだったのか?残りの資金はいつ供与されるのか?

Copas州議会議員:i)影響を受ける人々に対する関心を示すため、政府はイトゴンで本事業の影響を受けるancestral land請求者だけにでなく、より上流の市町村に居住する請求者に対しても、CADTs/CALTsCertificate of Ancestral Domain Titles/ Certificate of Ancestral Lands Titles)(訳注)を発行すべき。

Tindaan副知事:i)本事業に影響を受ける地域だけでなく、コルディリエラ地域についてもCADTs/CALTsが与えられるよう、IPRAが完全実施されるべき、ii)本事業に対しベンゲット州議会が反対しているのは、「コンディショナリティ」が充足されなかったから。

Golingab州議会議員:i)本事業の問題はイトゴンだけに限定されるべきでなく、ベンゲット州全体として考えるべき。州内の他の市町村、おそらくはイフガオ州のTinocも影響を受けるだろう。こうした懸念は、必ずしも金銭補償を意味するものでなく、開発および保護プログラムは影響を受ける他の地域についても検討し、含めるべきだということ。

Inso次期州議会議員:i)「コンディショナリティ」の大半が充足されていないということは、政府が不誠実であることを示している。本事業の開始はずいぶん前のことだが、人々は依然として政府が約束を守らないことに不満を抱いている。政府が人々に対する関心を示せば、反対も止むだろう。

B. イトゴン市議会とのコンサルテーション

・イトゴン市会議員の1人が次のように説明した。

  1. イトゴン市が以前に本事業の実施を支持したのは、既に着工しており、当時の政府に対し中止させるような方法があるとは思えなかったから。事業が始まる前にコンサルテーションがあったなら、必ずやイトゴン全体が抗議していただろう。というのも、鉱山やアンブクラオおよびビンガ両ダムの存在により、あまりにも長い間にわたって「精神的苦痛を受けてきた」からだ。

  2. 支持を打ち出したが、共同体や人々に対してあまり不利が生じないよう保障するため、イトゴン市議会は17項目の「コンディショナリティ」を本事業に関して課した。しかし、あまりにも充足されてこなかったため、同議会は20009月、本事業支持を取り消す第182号決議を可決したが、この決議は市長の拒否にあった。これに対し、同議会は2001110日、市長の拒否権発動を無効にする第4号決議を可決した。何らかの理由により、この決議のコピーは未だ、NPC、サンロケダム、その他関係者に対し正式に届けられていない。

    ・また、次のような指摘もあった。

  3. ラモス、エストラダ各大統領は、自分を信用するようにと言い、開発やサービスについて政府として約束をしたが、何も生じていない。今回、アロヨ大統領もパンガシナン、ベンゲット両州で信用するよう呼びかけているが、イトゴン市議会および人々は欲求不満を募らせている。

  4. その他の論点・懸念

Trazon S. Fianza市会議員(本事業の影響を受けるancestral landの所有者でもある): i)問題は錯綜している。NPC77人の請求者を特定しているが、その大半は地元住民にさえ知られていない人々である、ii)請求者には(補償が)支払われた人もいれば、まだ支払われていない人々もいる。NPCの支払計画はどうなっているのか?、iii)一定の土地請求について調査が行われていないことについて、NPCNCIPは互いに責任を転嫁しようとしている、iv)大半の「コンディショナリティ」は充足されていない、充足されたものでもごく最近行われた、v)イトゴンには土地会議(land congress)があり、各バランガイから選ばれた代表が本事業の問題に対処することになっていた。しかし、なぜ無視されてきたのか?なぜ、KAKAIT(というグループ)がイトゴンの人々を代表しているのか?

Gerald S. Coronel市会議員: i)CALTSの発行が、ancestral land請求に対する支払いの基礎となるのか?、ii)CALTSの発行前に事業に対するFPICを与えなければならいのか、あるいはFPICの前にCALTSの発行が来るのか?、iii)(本事業の問題に対処するため)当該共同体/バランガイから選出された代表は、認められていない、ないしは関与させられていない。

Michael Tauli市会議員: i)イトゴン市議会は実際のancestral land請求者に関する正しい情報/リストを持っていない。当初は77人だったが、NPCによれば300人以上となっている。請求者は、土地所有者、小作、建造物所有者などで、支払われたものもいれば、未払いの者もいる、ii)イトゴン土地会議で(本事業の問題に対処するため)選ばれた代表者は適切に認められていない、関与させられていない。

Alfonso Aroco弁護士: i)最近のMOA草案には、イトゴン市は関係者として含まれておらず、共同体を代表するのはKAKAIT(署名役員David Martin, Estacio Wakit, Venancio Aritao, Juanitp Masing, Antonio Gina Pili)になっている。コンサルテーション総会で望まれるなら、MOA提出の用意がある。

C. 本事業サイト視察/本調査団への説明

(省略)

D. ベンゲット州知事とのコンサルテーション

  • Raul Molintas州知事は、本事業に関するコンサルテーションが続く一方で、様々な政府機関が対立的な動きを示すことにいらだちを示し、問題解決のために政府機関が一致協力するよう望んでいる。

  • 州内の先住民族は、ビンガ・アンブクラオ両ダムおよび鉱山の経験から、大規模開発事業には警戒している。本事業に対する反対は以前からあったが、事業開始を阻むのに十分なほど大きくはなかった。ダムの構造的安全性が専門家によって保証されており、環境への悪影響を最小限に抑えるセーフガードを実施すると政府が約束したので、地元住民の大半が本事業を受け入れるようになった。イトゴンで影響を受ける地域住民の過半数が、17項目の「コンディショナリティ」が遵守されることを条件に水没地に対する補償を受け入れる意思を示した。州政府も同様な立場を取ることにした。

  • 同知事は、以下について懸念を表明した。

  1. 影響を受ける家族の土地評価に関する問題、A建設の構造的適切性、B本事業が原因となって事故/破壊が生じた場合の責任・損害賠償、CNPCは約2年前から操業停止しているアンブクラオ・ビンガ両ダムをどうするのか?、D生計、所得向上プロジェクトの機会、E共同体の環境・文化に適合したエコツーリズム、F雇用(例えば、流域の土地請求者を森林保護官/レンジャーとして雇用)、Gイトゴンや他の影響を受ける共同体を対象とする開発公社設立可能性。

  • 報道にあるベンゲット州に対し供与された資金は、本事業の承認を得るための「賄賂」ではなく、本事業収入から「将来ベンゲット州が得られる取り分を先取りした資金援助」であった、と指摘した。

  • 本事業に対する批判に対応し、ダム建設の構造的安全性の問題をクリアーするためにも、独立調査/検査を実施すべき、と提案した。

E. PAPS、KAKAIT、その他本事業を支持するグループとのコンサルテーション

  • 本事業に対する支持を公言している共同体/グループをバギオ市でのコンサルテーションに招いたところ、PAPSProject affected Persons)の代表、KAKAITKaikaisa daguiti Kakailian ti Itogon)リーダー、Ampucao Ladies Circle役員、Veritas Research Development InstituteKAKAITを支援するコンサルタント・グループ)リーダー、Baguio-Benguet Vicariate Social Action Center代表、その他が参加した。

  1. Helen Inway (Ampucao Ladies Circle) このグループは約3年前、本事業を監視するためのMulti-tripartite Monitoring Teamに参加した時に設立された。最初、女性たちは会合に参加を求められていたが、後になって招かれなくなった。他のメンバーも同じような経験をしており、Bokodでの経験に基づいて本事業に反対した。個人的には今も反対しているが、共同体の多くの人々が、とにかく事業が既に実施に移されているからと説得されて補償に合意したので、抗議しないことにした。現在の関心事は、実施側およびイトゴン市間で合意された条件などの遵守を確実に実施させることにある。

  2. Venancio Aritao (KAKAITリーダー兼PAP代表) KAKAITのメンバーはイトゴン全域にわたり、約35団体および?4(訳注:判読不可)のクラン(訳注:氏族)から成る一種の連合体である。メンバーの大半は個人的には本事業に反対しているが、現実として本事業を受け入れるようになり、事業実施に関する条件に対する支持で合意している。

  3. Val Paredes他(Veritas Research Development Institute): この組織は、影響を受ける家族・共同体に対し、土地の損失、立ち退きに伴う補償で最善の便益を得られるように直接支援し、また、新生活をスタートできるよう支援するコンサルタント・グループである。情報の普及や共同体に対する教育から始め、合意された「コンディショナリティ」の実施・成果に関する交渉においてイトゴン市の立場を補佐している。また、影響を受ける家族/共同体に対する生計プログラム・プロジェクトにより関心がある。

  4. Lorenzo Abela Jr.神父(Social Action Center): 当該教区では当初から本事業に反対し、人々の反対主張を確かめるための広範囲に及ぶ事実確認調査さえ行った。後に、地元共同体が本事業を受け入れる意向を示したので、人々の側に立って支援しなければならなかった。前司教は、政府に対し、environmental guarantee fundとして一定の金額を積み立てるべきと提案してきた。

  5. その他の論点・懸念:

i)CALTsの発行を望んでいる人々に対し、NCIPは申請が処理されて行くと確約したが、NCIPの現状に鑑みると、人々はどのように自分たちのancestral landを保護していけばいいのか途方に暮れている、ii)NPCは(土地の)区画調査を行っているべきなのか?、iii)土地分類の問題、iv)イトゴンは集水域内にあるので、大統領に対してProclamation No.2320の取り消しを頼むのが容易だが、他方で人々はCALTs/CADTsの方を好んでいる、vIWMP(総合流域管理計画)は、環境関連のコンディショナリティの一環として行われている、vi)MOAについては、補償支払い用のものと、上流共同体に影響を及ぼす条件用のもとに分けるべき、vii)立ち退きさせらる人々の再定住に対する懸念、移転の際にあると助かる迷惑(disturbance)料を受け取っていない家族もいる。

  • KAKAITに属す組織は概して、政府機関に協力することを決めており、17項目のコンデイショナリティが遵守されるなら、本事業の実施には反対しないだろう。

F.本事業に反対するグループとのコンサルテーション

  • 本事業の実施に対する反対を公言していたバランガイのリーダー、共同体、NGOPOその他のグループを招待し、Santannay Indigenous poeples, IIBA(Itogon-Inter Barangay Alliance), United Concerned Citizens of Ucab, Dinteg/ Cordillera Indigenous Peoples’ Legal Center, Cordillera Peoples’ Allianceなどが参加した。

  1. Arnu Longgapus (Santannay Indigenous Peoples, Dalupirip) 共同体の人々は本事業に反対してきたが、政府は好きなように続けている。地元行政は事業の建設を許しており、自分たちの共同体が本事業に同意していないことを知っていても、中止させるために何もしようとしない。地元住民は本事業から何も得ない。電気がタダで配給されることはなく、その一方で土地は失う。人々が必要なのは、貧しい人々が益する開発プログラム。

  2. Luisa Besitan (Dalpirip) ダム建設によりTabuからの自然の流れが阻害され、鉱山から出る堆砂が狭い水路にたまる恐れがある。

  3. Norma (Tabu) 17項目の「コンディショナリティ」は、イトゴン市の役人が作成したもので、人々が作ったものではない。また、人々は、土地を所有できるようになるCALTsを本当に必要としているわけではない。本事業が続いて欲しくない。ビンガダムの影響を受けた人々でさえ、その多くには今もって電気が来ていない。

  4. Fernando Mangil Itogon Inter-Barangay Alliance書記): 本事業への反対が生じたのは最近のことではない。1995年には、共同体からの強い反対があった。IIBAが反対し続けているのは、立ち退き、環境破壊、社会的悪影響のためである。植林をしても、堆積による損害を回復できない。

  5. Patricia Canie 受け継いだancestral landは先祖代々の汗の結晶なので大事なもの。たとえお金を積まれても、反対を取り下げることはしない。

  6. Lorenzo Dimot ダムにより洪水が生じ、そこらじゅうの土地が破壊されることになるだろう。アンブクラオ・ダムの経験によれば、立ち退きのためにヌエバ・ビスカヤ州に移住した人々の中には気候と飢えのために死んだ人がいる。他の人々も、居心地が悪いためにベンゲット州に戻ってきた。

  7. Virgil Aniceto United Concerned Citizens of Ucab会長、Bayan Munaコーディネータ): 補償や土地保有の保証に関するNPCおよび政府の約束を人々は信用していない。本事業は完成間近だとしても、反対は続くだろう。

  8. Joan Carling Cordillera Peoples’ Alliance事務局長): 反対グループは、本事業に直接、間接に影響を受ける人々および共同体から成っている。すでに明らかになっている悪影響や他の人々が述べた理由のほかにも、考慮すべき主な異議申立ては次の通り。i)現在まで補償されていない、あるいは移転されていない立ち退き対象者の存在、ii)環境への回復不能なダメージ、iii)鉱山の廃滓などの堆積、あるいは2つの断層線間にあるといわれるサンロケダムの崩壊によって生じる大災害の可能性、iv)納得のゆかない本事業の経済的妥当性、v)NPCの民営化で同公社を購入できるのは富裕層だけであり、天然資源利用において独占を招く。ダムが既にそこにあるので、これを人々は受け入れるだけだという考え方は間違っている。本事業の悪影響は、決して緩和できないと言われているし、政府による十分な補償も行われていない。

  9. Mrs. Inocencio (Dalupirip) 立ち退きをしたくない。Dalupiripは、イバロイ民族に残された唯一の土地であり、守って行きたい。

  10. Lulu (女性グループのリーダー) 本事業について、政府が一度も事前のコンサルテーションを行わなかったことを嘆き悲しんだ。今になってなぜ、NCIPおよびOPAIPAFPIC原則の下で人々の合意を取ろうとしているのか?以前に行っておくべきだった。NCIPおよびOPAIPAは、政府・NPCが犯した誤りを隠すよう強いられているかのように見える。人々の抗議が通らなければ、事態はそのまま推移するだろうが、間違いは間違いのまま残っていく。

  11. Norma Mo-oy (Tabu) Kamanggaanの再定住地を見てきたが、そこでの条件はひどいものだ。Tabuを離れたくないし、再定住地に住みたくない。自分のマンゴー樹を持って行くことができないから。

  12. Simplicio (IIBA) 他の参加者の意見すべてに同意する。あらためて本事業への反対を表明する。

  13. Rosita Vargaso (Gumaldangバランガイ・キャプテン兼IIBA会長) 影響を受ける共同体の苦情や懸念を共有しているが、それに加えて、彼女自身が直接的に悪影響を受ける。小規模な鉱業を営んでおり、本事業が完成すれば生計手段を失う。

  14. Art Aladize (Dinteg) 外国政府からの融資を受けている本事業に基本的に反対する。最終的に、融資を返済するのはフィリピンの民衆である。

  15. Isaac (Dinteg) 本事業は、先住民族に対して長期的に数多くの悪影響を及ぼす。IPsを保護する役所であるNCIPは、先住民族の側に立つべきである。1995年鉱山法が無効となっていない以上、価値のないIPRANCIPは見直すべき。IPRAが先住民族のためのものでなければ、これを廃棄すべき。

  16. Esther Tecne 大統領が事態を本当に懸念しているのであれば、人々に会って現実を直視する努力をすべき。

  17. Mary Carling (CPA) CPAおよび本事業に反対する共同体は、これまで抗議の嘆願書を30余り提出してきた。

G.コンサルテーションと総会

  • イトゴンで影響を受ける先住民族共同体代表との総会・コンサルテーションをイトゴンで行い、登録者だけで約355人(大半が直接影響を受ける地域の住民、イトゴンのバランガイすべての代表を含む)が集まった。市長を初めとする役人および市会議員、本事業およびNPCの代表者も参加。州DILGおよびNGO、地元住民もオブザーバー参加した。

  • オープンフォーラムであがった論点・懸念

  1. 本事業が始まる前に、人々からの合意を取りつけるためのコンサルテーションは行われなかった。

  2. 本事業が既に始まってから、なぜ政府・NPCは人々のFPICを必要とするのか?

  3. イトゴンの人々は、アンブクラオ、ビンガ両ダムおよび1900年代初頭からの鉱山といった、いわゆる開発事業によりベンゲット州の中でも最も苦しんできた。

  4. 地方政府のリーダーおよび特定のグループは、本事業を中止するためにできることは何もないと信じ込まされ、影響を受ける家族が少なくとも補償を受けられ、悪影響が最小限に留められるよう、本事業継続のための一定の条件に合意した。

  5. 「コンデイショナリティ」の合意にも拘らず、特にDalupirip, Ucab, Ampucaoの特定グループは本事業反対を続けている。

  6. 大半の人々は、「コンデイショナリティ」が遵守されていないと思っている。

  7. 大半の住民は、政府の約束を疑っており、コンサルテーションや会合(だけが続くこと)に辟易している。

  8. IPRAは適切に実施されているのか?

  9. 大半の住民はCALTsの発行の方を好み、DENR(環境・天然資源省)が出す他の土地保有書などを拒否している。

  10. 土地区画調査が延期されているのはなぜか?

  11. イトゴンで本事業の影響を受けるancestral land請求者は、当初77人だけが補償を受けることになっていたが、今では300人余りについてNPCが登録しているのはなぜか?77人以外の人々は誰か?

  12. NPC−事業体は、本当のancestral land請求者に対して補償を支払っていないが、構造物だと言われるものに対する他の請求者には既に支払いをすませており、差別をしている。

  13. 大半の人々はMOAについて知らない。先のMOA草案にイトゴン市は関わっておらず、KAKAITが交渉したと言われている。

  14. コンサルテーション/総会は、(第3次)MOA草案については議論しない。

  15. KAKAITは、イトゴンの人々/共同体から代表の権限を与えられたのか?

  16. Veritasという集団は何か?事業実施にどのように関わっているのか?

  17. 本事業に関する会合/交渉で、任命された市会議員および共同体/有権者から選ばれたバランガイ代表の役割はどうなったのか?

  18. IPRAが先住民族に対する第一義的な法律であるならば、他の官庁がancestral domain内での土地利用、集水域、鉱山開発請求といった各々のプログラムに固執しているのはなぜか?

  19. 本事業により影響を受ける上流の地域/共同体の特定では、水没地域だけでなく、事業により何らかの影響を受ける人々がいる、また生活様式が影響を受けるイトゴンの他バランガイ、そしてベンゲットおよび周辺州の自治体も含めるべき。

  20. 先住民族の権利、特に影響を受けるイトゴンのIbaloisKankanaeysKalanguyasの権利は、どのようにしたらより良く守り、促進することができるのか?

21)政府は、イトゴンおよびコルデレラの貧困問題に真摯に取り組むことをどのように証明できるか?

22)このコンサルテーションの結果は、OPAIPAから大統領に具申されるのか?

  • ワークショップの結果

a)合意の有効性

  1. イトゴンの人々は、サンロケダム着工以前に本事業に関して意見を求められなかった。求められていたら、事業に対して反対を表明していただろう。ダム着工以前に、本事業に対する合意を人々から取りつけるためのコンサルテーションは開かれなかった。

  2. 現在、本事業に対する共同体の態度は分かれている。合意された17項目の「コンデショナリティ」遵守を条件に、事業を受け入れざるを得なかったグループと、ダム建設に反対し続け、本事業の中止を求めるグループ/共同体である。

  3. 本事業に反対する理由は次の通り。

i)先住民族の命の源泉であるancestral land/ domainの喪失、

ii)離別あるいは立ち退きによる、家族/クラン/共同体の伝統的な相互扶助システムの喪失、その結果としての先住民族共同体・生き方の喪失

iii)住居、財産、聖なる埋葬地の喪失

iv)環境への悪影響

v)経済、社会面の問題

b)明らかにされた問題点

  1. 立ち退き、再定住問題、A環境破壊、悪影響、B多くの生命・財産の喪失につながる、洪水、ダム決壊といった大災害が起きる可能性、C経済的悪影響;土地・住居の喪失;農業、焼畑、小規模鉱業、砂金採取といった生計手段の喪失、D共同体の社会的・文化的側面への悪影響、E本事業対象地域の範囲外で事業の影響を受ける地域に対し、注目・関心が十分に払われていない、F先住民族権利の侵害

c)全体会議で合意されたその他の事項

  1. 影響を受ける人々および共同体の反対/異なる意見を尊重する

  2. 関係者は、異議申立て(苦情)があれば、その原因を取り除くために、地方、国あるいは国際レベルの他の合法組織/機関を利用できる

  3. 今後の対話・コンサルテーションのために、コミュニケーションがいつでも取れるようオープンにしておく

H.追加のコメント

・本事業に関する記録・資料および地元役人・本事業を良く知る人々からの聴取を行った。

  1. 地元(イトゴン市)およびベンゲット州の役人も、本事業の実施以前に、影響を受ける共同体とのコンサルテーションが開かれなかったことを認めた。しかし、事業が始まってから、特に17項目の「コンディショナリティ」に関する交渉、環境および生計関連プログラム・事業の実施に関し、コンサルテーションが行われた。

  2. イトゴン市のAloysius Kato副市長が議長を務める、本事業に関する活動を調整するための省庁間サブ・タスクフォース(NPCDENRNCIPSRPC、イトゴン市、その他のグループから構成)は、1999年半ばから現在まで会合を開いてきた。

  3. 2000712日にはバギオで省庁間タスクフォースの会議が開催され、州知事のほか大統領官邸の主要顧問、実施側の幹部、影響を受けるバランガイの代表などが参加した。SRPC(サンロケ・パワー社)のRay Cunningham氏は、本事業により影響を受ける先住民族がいるのでFPICは必要だと述べた。R.V.Cuano博士より、Woodward Clydeが行った堆砂調査の結果が発表された。

  4. 200132日の会議では、土地の評価・補償の問題、IWMPの実施、影響を受ける家族の生計プログラムに重点が置かれた。

  5. NCIPは「コンサルテーション」、省庁間サブ・タスクフォースに関わってきた。

  6. NCIPは、IPRAで定められている要件を遵守し、イトゴンの先住民族に与えられるべき優先土地保有に関する法律文書であるCALTsを発行するため、FPICのプロセスを行う責任を有することになっていた(これらの業務は、1999年に省庁間タスクフォースからNCIPにまかされた)。

  7. また、NCIPは、ancestral land請求者間の争いを解決し、影響を受ける地域の土地区画調査を補佐する責任をもたされた。

  8. イトゴンではこれまでland congress2回開かれ、最近のものは20003月開催。CALTの方を好む請求者のためにワークショップが1回開かれた。

  9. 補償に関する問題は十分に解決されていない。請求者の数や金額が膨れ上がったとの主張がある。

  10. イトゴン市会議員の中には、NPC‐事業体が十分に満たしたコンディショナリティは1つだけ(本事業の社会的受容性に関するSLU調査の市議会負担分返済)との主張がある。他方、事業体、各機関は各々が責任を持つコンディショナリティを満たすべく活動を開始したように見える。

  11. 本事業への協力に同意した共同体に対するコンサルタント/支援を行うVeritasは、そうしたグループの組織化、「情報・教育」プログラムの実施に積極的に関わってきたことで知られている。こうした関わり方のため、本調査団はVeritasが事業実施側に「雇用」されている、あるいは使われているのではないかとの疑念を抱いた。

  12. CPAはダムに反対する立場で知られる。影響を受けるイトゴン住民の中には、CPAの熱心な支持者もいる。政府その他の機関に対する嘆願書の提出をまとめてきた。人々の本事業への反対を支援する文書/調査も提出してきた。

  13. Mario G.Aglipayは、パンガシナンおよびベンゲット州で影響を受ける地域の土地・建造物の補償に関し、NPCおよびSRPCが犯したといわれる異常・不正行為について詳細な報告をした。

  14. イトゴン市会議員の大半は、どの地方政府も含まれていないMOA草案(第3次)作成に参加していないと主張した。

I. 結論

・上記事実、論点、懸念から、次の結論が導き出される。

  1. サンロケ多目的ダム事業の実際の実施/着工以前に、NCIPあるいはその他の政府機関によっても、ベンゲット州イトゴン在住で影響を受けるICCs/IPsの同事業に対する合意を取りつけるための手続きは一切行われなかった。

  2. 現在に至るまで、直接あるいは間接的に影響を受けるICC/IPの特定個人、グループ、共同体は本事業に異議申し立て/反対を続けている。

  3. イトゴン市のICC/IP共同体すべてから、本事業の継続を認める合意を得るのは極めて困難であろう。

  4. 本事業の実施を継続した結果、イトゴンの先住民族にとってより多くの問題が発生し、リーダおよび共同体間に亀裂が生じた。

 

2001626日、マニラ首都圏で提出。

 

Atty. Evelyn S. Dunuan Consultant, Office of the Presidential Adviser on Indigenous Peoples (署名済)

 

Edtami Mansayagan (Commissioner, OIC, Office of the Executive Director, National Commission on Indigenous Peoples, Quezon City) (署名済)

 

→→サンロケダム問題の詳細をみる