予備スタディー:他機関の環境ガイドライン分析
米連邦輸出入銀行(US-EXIM)



1. 特徴

1992年に連邦議会でUS-EXIMの憲章改定が行われた折に、環境レビュー手続きの設置及び理事会が環境影響を考慮して支援決定を判断することが定められた。これを受けて1995年に「環境手続きとガイドライン(Environmental Procedures and Guidelines)」が策定され、1998年4月に改定が行われた(2001年4月2日まで有効)。

長期案件及びプロジェクトファイナンスの特定カテゴリーが環境レビューの対象となっており、その手続きは「不必要なペーパーワークを避け、アメリカの輸出者の競争力が最大限保たれるよう」策定されている。

また1997年には再生可能エネルギーや温室効果ガス削減等に役立つ輸出を促進する「環境輸出プログラム(Environmental Exports Program)」を導入したり、99年から支援プロジェクトからの温室効果ガス排出量を測定するなど、(排出量取り引きへの評価は別として)地球温暖化問題には積極的な取り組みが目立つ。原子力関連プロジェクトについて独自の基準・手続きを採用している点も特徴的である。

基本姿勢:US-EXIMは、自国の「輸出者の国際競争力を保持」する一方、「支援するプロジェクトが環境面で責任ある(仕方で行われる)ことを保証する」よう、深刻な環境影響のあるものは支援しないとする。同時に、この目的のために、世界のECAが共通の環境手続き・ガイドラインを採用するようリーダーシップを取り、OECDにおける合意を図ると述べている。

2 現在定められている環境政策

基本的な環境政策として、98年に環境手続き及びガイドラインが策定された。このほかに原子力関連や環境輸出プログラム等が制定されている。

・環境ガイドライン

US-EXIMの環境ガイドラインは、@大気A水利用及び水質B廃棄物処理C自然災害D生態系E社会経済・社会文化フレームワークF騒音の7つの環境要素について、量的・質的に影響をはかる手法を示す。これにより一定の量的・質的な水準が確保されるのである。

US-EXIMは数量的及び質的ガイドラインの2種類を用いている。数量的ガイドラインは排気、水質、騒音の効果を、質的ガイドラインは@危険・有害な固形物質及び廃棄物の管理A自然災害に対するプロジェクトの耐久能力の評価B社会、経済、科学的な調査、予測などの結果に基づく分析を基礎とした、プロジェクトの潜在的な生態学上の影響、社会経済的、社会文化的影響を検討するために用いられる。

下記に示す付表1-9では特定の産業セクター別に、上記の7つの環境要素に関する数量的および質的なガイドラインの概要が示されている。

@一般的産業プロジェクトおよび総合的な環境ガイドライン(以下の個別セクターに当てはまらないカテゴリーB/Cプロジェクト)
A紙・パルプ
B製鉄・製鋼
C採鉱・砕石
D石油・ガス開発
E火力・ガス・エンジン発電所
F森林管理・伐採
G石油精製・石油化学プラント
H水力発電・水資源管理

原子力関連手続き・ガイドライン
US-EXIMは原子力関連プロジェクトについて、1998年4月に特別の手続き及びガイドラインを制定した。これは原子力関連輸出を規制したり、プラントの最終的安全について責任をとることを目的とするものでなく、自国企業の核関連産業での競争力を維持しつつ環境配慮を十分に行うために設置された。

その他の基準
アメリカ領土、準州、領有地及び南極大陸の人間環境の質に重大な影響を与える可能性のあるプロジェクトについては、アメリカ環境政策法(NEPA)の基準を満たすこととされる。

3 環境アセスメント

3−1. スクリーニング(長期取り引き及びプロジェクトファイナンス(リミテッドリコース))

USEXIMの環境レビューの対象となるのは長期プロジェクト及びプロジェクトファイナンスである。特に深刻な環境影響が予測されるのでない限り、中・短期プロジェクトは環境レビューの対象外となる。

環境レビューを必要とする長期取引及びプロジェクトファイナンスは所定のスクリーニングフォームを申請時に提出し、これにより下記の4カテゴリーに分類される。

カテゴリーN:

原子力発電関連プロジェクト・設備及び核燃料製造に関わる取り引き。

カテゴリーA:

重大な環境影響を起こさないと考えられるもの。航空、通信、鉄道、医療施設、コンサルティングサービス等。特定の使用目的に限定されない材の輸出もこのカテゴリーに含まれる。

カテゴリーB:

環境影響を受けやすい地域内またはその近くにおいて実施されるプロジェクト。原生林、熱帯林、国定保護地、珊瑚礁、マングローブ林、絶滅危惧種生息地、世界文化遺産、少数民族等保護地、大規模再定住を伴うもの等。ダム開発や水資源管理プロジェクト、プロジェクトファイナンスは一般的にこのカテゴリーに分類される

カテゴリーC:

上記に区分されない、すべての長期プロジェクト。

短期・中期案件

主要債務が$10,000,000以下、返済期間が7年未満のプロジェクト。信用保証ファシリティーによって、または輸出信用保険によってカバーされている個別の短期、中期案件、および、アメリカ輸出業界に対し稼動資本協力を提供しているような業務はUS-EXIMによる環境レビューの対象とならない。ただし副総裁及び技術環境部が環境に重大な影響を与える恐れがあると判断したものについては例外である。

禁止物質

US-EXIMは法律で禁止または厳しく制限されている害虫駆除剤及び化学薬品について、輸出信用保険の適用から除外している。

3−2.必要とされる環境情報

カテゴリーA

環境情報の提出は必要とされない。

カテゴリーB

環境影響評価書(Environment Assessment)が必要。事業者は他の国際金融機関や実施国政府などへの提出用に作成されたもののコピーを提出する。技術環境部はその他に必要な情報があればスポンサーに通知する。EAはプロジェクトがガイドラインを満たしていることをdemonstrateするものと考えられている。

環境影響評価書に含まれるべき項目例(Guidance Outline on Environmental Assessmentより)

@ Executive Summary
A プロジェクトの記述:
立地、タイプ、目的および規模、現場及びその他の構成要素、工事及びプロジェクト遂行のための技術やスケジュール、申請者および受入国政府の役割
B 既存の環境についての記述:
プロジェクトが立地される場所の規模、立地要件、物理的、生態学的、社会経済/文化的状況、立地監査(行われた場合)
C 提案されたプロジェクトに対する潜在的な環境インパクト:
プロジェクトに与える正および負の影響およびその重要性、緩和策、適当な緩和策がない場合の影響分析
D 規制および許可:
US-EXIMや実施国内、地域レベルでの規制の枠組
E モニタリング:
既存のモニタリングプログラムおよび追加モニタリングのスコープ及び有効性
F 環境マネジメントおよび訓練:
緩和プログラムを評価、監督、履行できる現地スタッフ

カテゴリーC

技術環境部スタッフの指示に従いレビューに必要な環境情報を提出。技術環境部スタッフはケースバイケースでガイドラインと照らし環境レビューを行う。ひとたびカテゴリーCと区分されても、環境調査中に新たに得られた情報によってカテゴリーBと判断されれば、技術環境部は申請者に環境影響評価書の提出を求める。

・設備の拡張や近代化プロジェクトの場合は、そのことによる環境影響に焦点をあてた情報を提出する。

3−3. US-EXIMによる環境情報確認

・できるだけ早い段階で技術環境部スタッフは事業者にどの程度の環境情報が必要とされるかを伝え、早期提出を求める。情報が提出されなければ審査も遅れるため、早期情報提供は申請者の利益でもある。もし完全な環境情報が用意されていなければ、USEXIMの最終コミットメント前に提出させる。

・必要な場合には、USEXIMはアメリカ政府機関や多国間金融機関と協議を行い、必要な環境情報を入手する。

・第三者から環境情報の提供があった場合には、技術環境部はその情報を考慮に入れて審査を行う。特にその情報が重大な環境懸念を指摘するものであれば、申請者に追加情報を求めることもある。

 プロジェクトが同銀行の環境ガイドラインのすべての要件を満たしていない場合、理事会は重要な影響緩和効果や状況を考慮し、ケース・バイ・ケースで環境影響をレビューする。緩和策の実行を条件として融資が承認される場合がある

以下にプロジェクトファイナンスと長期案件別の環境情報確認に関わる手続きを示す。

プロジェクトファイナンス

カテゴリーA以外のすべてのプロジェクトファイナンス事業は、環境影響評価書を提出し、環境ガイドラインの基準を満たしていることを示すよう求められる。スポンサーは環境影響評価書をできるだけ早く、最終関与決定より前に提出しなければならない。

・技術環境部は申請の早期段階から関与して、US-EXIMの目的やガイドラインに沿って環境問題に対処し、プロジェクトデザインや緩和策を作成することができるよう助言を与える。US-EXIMがプロジェクト予備段階書簡(Preliminary Project Letter :PPL)を発行する段階の一部で、技術環境部は当該プロジェクトへの融資を環境面の理由から拒否するような重大な環境問題の可能性があるかどうかを判断する。そのような問題が見つかった場合には、同銀行はその旨をスポンサーに告げる。

・技術環境部スタッフは評価書(environment assessment)をレビューし、必要であれば追加情報の提供を求めたうえで環境査定書(environment evaluation)を作成する。これには当該プロジェクトに支援を与えるべきかどうかに関する理事会への勧告も含まれる。

・最終申請を行う際、カテゴリーBプロジェクトのスポンサーは、情報公開用に商業上の守秘事項を含まない環境影響評価書を作成する。

・プロジェクトファイナンス案件に関する金融・技術レポートがプロジェクトの適切な環境影響の評価を行うために必要だと判断されれば、EXIMはスポンサーに対し、外部の専門家による独立したレポートを作成する費用を要求することができる。

長期案件

長期案件は(a)Letters of Interest (LI)、(b)予備コミットメントPreliminary Commitment(PC) (c) 最終コミットメントFinal Commitment の2-3段階を経て手続きされる。スポンサーはできるだけ早期の段階で環境情報を提供するよう求められる。

(a) Letters of Interest (LI)

LIはEXIMが申請を受け取ってから7営業日以内に発行される拘束力のない文書。この時申請者は所定の環境スクリーニング書類を提出する。LIでEXIMの環境要件が申請者側に示される。

(b) 予備コミットメントPreliminary Commitment (PC)

PCは金融上の安定性、技術上の実行可能性および環境面での効果を米輸銀スタッフと役員会が分析した上で発行される。申請者は環境スクリーニング書類を提出していなければならない。 技術環境部はこれをもとにカテゴリー及び必要な環境情報を申請者に通知する。この時点で必要な環境情報の全てが入手できない場合には、技術環境部の勧告を受けて、補足的環境レビュー等のコンディションをPCにつける。

(c)最終コミットメントFinal Commitment:

すべての金融・技術・環境分析が終了した時点で米輸銀から発行される。LIやPCが発行されていない場合には、申請者はこの段階で環境スクリーニングフォームを提出する。十分な環境情報が提出され、ガイドラインに照らして審査が行われない限り最終コミットメントは発行されない。

4.住民参加

森林及び森林セクターのガイドラインには、「すべての地元住民の移住は現地の法律及び世界銀行のOP4.30等国際基準に則って行われること」とある。プランテーションや地元からの雇用を優先するなど、影響の防止・緩和よりも補償に重点が置かれている。

また水力発電/水資源開発セクターのプロジェクトについてのみ、先住民や地元住民との協議を行い、生計への影響を可能な限り緩和することを求めている。

5 情報公開

カテゴリーBあるいはCプロジェクトについて、米輸銀は最終申請を受け取ってから、プロジェクト名と立地場所をホームページ上のペンディングリストに掲載する。また98年7月からは、カテゴリーBのプロジェクトについて、環境アセスメント報告書の有無も掲載されるようになっている。関心を持つもののために、入手方法も示される。

ただし国際競争利益に関わる情報(輸出者、契約額、製品等)は明らかにしない方針である。このため、申請者はスポンサーの承認を得て、環境影響評価書の公開用(秘密情報を除いた)バージョンを作成する。

環境面で影響を受けるあらゆる利害関係者は、米輸銀技術環境スタッフに対し、発生しうる環境問題やプロジェクトに関連する諸問題についての情報を呈示する事ができる。ただし、この情報は米輸銀の意思決定プロセスに参加する法的根拠を持つものではない。同銀行は当該情報を考慮するが、その提供者に対し回答はできない。

6. モニタリング、監督、評価

森林セクターについてのみ、スポンサーが環境影響についての記録を取り、保持することが求められている。この情報はスポンサーが森林経営を改善し、EXIMの基準や実施国の法律を遵守していることを報告するためであり、EXIMの求めがあれば提出しなければならない。

7. 技術環境部(Engineering and Environment Division)の役割

・特に中小の輸出者や借り手に対し、US-EXIMの環境ガイドライン・手続きに沿って事業を行うためのアドバイスやカウンセリングを行う。特に環境レビューを必要とする長期案件・プロジェクトファイナンスでは各案件に一人の環境スタッフが割り当てられ、事業者へのアドバイスを行う。

・技術環境部に所属する環境専門家は、環境手続きの実行等、環境問題に関する銀行内での技術的リーダーシップに責任を持つ。

・環境専門家は環境問題に関して、政府やNGO等との主なリエゾンの役割を果たす。

・技術環境部のスタッフエンジニアはそれぞれの専門知識を生かしてプロジェクトの環境影響を評価する。

8 その他環境プログラム等

環境輸出プログラム(Environmental Exports Program)

環境面で良い効果をもたらす財・サービス(温室効果ガス削減プロジェクトを含む)の輸出に対する支援のレベルを引き上げるという目的のために、US-EXIMは97年3月に環境輸出プログラムを設置した。対象となるのは大気・水・土壌汚染の削減・緩和・コントロールや有害物質の処理に役立つ事業や設備の輸出である。

二酸化炭素ガス算出およびその報告

グローバルレベルでの温室効果ガス放出の管理を補助するために、US-EXIMは1999年会計年度から、支援を提供した電力セクタープロジェクトから排出されるCO2の見積もり量を記録し、実質的な限度で、CO2を生産する重大な要因となる他のセクターにおけるプロジェクトからの排出を記録している。