予備スタディー:他機関の環境ガイドライン分析
経済協力開発機構(OECD



1. 特徴

OECDでは、1985年からの一連の環境アセスメントに関するOECD理事会勧告を受けて、1991年に環境と援助に関するOECD開発援助委員会のガイドラインの一つとして「開発プロジェクトの環境影響の評価のための実施要領」が策定された。この中で開発プロジェクトを実施するにあたって、各国の機関が取るべき理想的な環境アセスメントについて紹介されている。
特に、環境アセスメントがプロジェクトの計画において必要不可欠なものであり、
1)環境アセスメント手続きによって、プロジェクトの確認、計画、実施、評価において環境の側面を考慮することを求めている。
また、適切なアセスメント手続きを実行していくための実施機関の実施体制について2)プロジェクトを承認するか否かを決定するとき、EIAの結論は十分かつ適切に考慮されること3)責任の明確化を図るための効果的な手続きの開発や適切な人材と財源を確保することが求められている。
参加や情報公開に関しては、4)可能な限り、プロジェクトに関する地元住民の見解が得られるように情報へのアクセスを含め、積極的な措置が取られるべきであること5)特に公式な組織からは入手し得ない情報に関してはNGOの参加を奨励することが求められている。
また、環境アセスメントは6)ゼロ案を含めた代替案や移住措置、モニタリング措置も考慮されなければいけないこと、など幅広い考察が必要であることが求められている。

2.環境政策の目的

「著しい環境影響を伴いそうなあらゆる経済社会部門の意思決定の早期の段階において、環境への配慮が組み込まれることを確保し」、「環境の悪化の防止を支援するために、すべての国、特に開発途上国と最大限可能な限り協力を継続する」。また、環境問題を扱う際の共通の原則を加盟国が採択し、開発途上における環境アセスメントの利用を支持、支援する。

3.現在定められている環境政策

1)援助と環境における開発援助委員会(DAC)のガイドライン
OECDの開発援助委員会(DAC)は、開発と環境の使命を統合する加盟国の政策を改善し、調整することを求めている。開発援助委員会は開発援助と環境のワーキングパーティを通じて、援助と環境に関する一連のガイドラインの提案を行っている。これらのガイドラインは、一連の国内、地域、国際レベルの環境問題を改善するための戦略を検討している、ドナー機関や途上国における政策決定者や実施者を支援するために策定された。
これまでに、以下の9つのガイドラインがDACによって承認されている。

No. 1 開発プロジェクトの環境影響の評価のための実施要領
No. 2 国別環境調査と戦略のための実施要領
No. 3 開発プロジェクトに伴う立ち退き及び再定住に関するに開発援助機関のためのガイドライン
No. 4 地球環境問題に関する開発援助機関のためのガイドライン
No. 5 化学物質の管理に関する開発援助機関のためのガイドライン
No. 6 農業害虫および農薬管理に関する開発援助機関のためのガイドライン
No. 7 災害緩和に関する開発援助機関のためのガイドライン
No. 8 海洋及び沿岸環境の開発と保護における地球的・地域的局面に関する開発援助機関のためのガイドライン
No. 9 熱帯及び亜熱帯地域の湿地の保護と持続的な利用の向上に関する開発援助機関のためのガイドライン

2)環境アセスメントに関するOECDの勧告

1985年6月 「開発援助プロジェクト及びプログラムに係る環境アセスメント
  に関するOECD理事会勧告」
“その性格、規模及び立地場所のために環境に著しい影響を及ぼす可能性のある開発援助プロジェクト及びプログラムについては、
可能な限り早い段階において、適切な程度に、環境の観点からアセスメントが行われること
1986年10月 「開発援助プロジェクト及びプログラムに係る環境アセスメント
  の促進に必要な施策に関する理事会勧告」

環境アセスメント政策の正式な採択を積極的に支持し、計画、実施、監督における責任体制を確立し、時宜を得た費用効果のよい方法で実施するのに十分な人的、財政的リソースが供与されることを確保すること。”
1989年2月 「二国間及び多国間援助機関におけるハイレベルの意志決定者用
  の環境チェックリストに関する理事会勧告」
“二国間及び多国間開発援助にあたって資金援助が提案されている開発プロジェクトおよびプログラムの確認、計画、実施、評価において環境の側面が考慮されることを確保すること”

4.環境アセスメント

1)環境アセスメントの位置づけ
環境アセスメント(EIA)を「提案されているプロジェクトの環境面のプラス、マイナス両面の重要性を調べ、プロジェクトの計画にこうした重要性が考慮されていることを確保するための手続き」と位置づけている(5)。

EIAは、プロジェクト計画プロセスの必要不可欠な部分としてレビューされなければならない。

また、「EIAでは、環境緩和措置または環境保護対策とともに代替プロジェクト(「ノン・アクション」を含めた)が考慮されるべきである」としている。緩和措置や保護対策は、プロジェクト計画に統合されていなければならない。

アセスメントはプロジェクト計画のもっとも早い段階で始められる場合にもっとも有効であり、プロジェクトの最初の調査と共に行なわれるべきである、としている。EIAはプロジェクトの実行可能性調査(F/S)より早く始められ、計画が詳細に行われる前に完了するべきである。

EIAプロセス及び基準は、プロジェクト計画及び実施に関係する相手国、援助機関及び研究機関の意思決定プロセスに統合されることを意図している。

2)対象
「EIAが評価するものは、人間の健康や自然環境、およびその土地固有のものなどへの及ぼしうる影響である」としている。

● 環境影響適用範囲

- 人間の健康や幸福、環境メディア、生態系(生物相、動物相を含む)、農業及び建物(保護を受けている建物)に影響するもの
- 気候や大気に影響するもの
- 自然資源の利用(再生資源や鉱物資源)に影響するもの
- 残留物及び廃棄物の活用及び処理
- 関連した上流、下流そして国境を越えた影響の他に、再定住、考古学的(調査のための)遺蹟、景観、モニュメント、社会的意味合いで重要なものなどの様相

3)環境アセスメントのツール

・EIAでは相手国の「国別環境調査及び戦略」が入手可能な場合は、その結果が考慮されるべき。
・たくさんの小規模プロジェクトが累積的環境影響を生み出すと予想される場合、フォロー・チャートが有効。
・すべての実行可能性調査(F/S)は、少なくとも環境やそれに係る社会影響について別の章を設けなければならない。特に重要な環境問題を伴うプロジェクトに関しては、環境への影響について非技術的な概要を準備しなければならない。

4−1スクリーニング

環境アセスメントは、徹底した環境影響評価が必要とされるか否かを決定するためのスクリーニング・セッションから始めることが奨励されている。スクリーニングのプロセスによって、自然または物理的環境への重大な影響をもたらすプロジェクトの環境調査に焦点を当てることができる。

ある一定の援助活動は環境調査から自動的に除外されることがある。また逆に、環境的に見て受け入れ不可能なプロジェクト、またはマイナス影響が援助利益を超えるプロジェクトを最初の段階で拒否することが可能である。

注意の行き届いたスクリーニング、スコーピングは、環境アセスメントの最初の段階で重大な環境問題や最も重要な結論を認識し、プロジェクトの遅れやプロジェクトの遅い段階での追加費用を避けるために非常に有益である。

A. EIAを最も必要とするプロジェクト

‐再生可能資源の利用における重大な変更をもたらすプロジェクト(農業生産、森林、牧草地への土地の転換、農村開発、木材生産など)
‐耕作法及び漁法の重大な変更をもたらすプロジェクト(新作物の導入、大規模な機械化など
‐水資源の開発利用(ダム、灌漑・排水事業、水及び流域管理、水供給など)
‐インフラストラクチャー(道路、橋、空港、港湾、送電線、パイプライン、鉄道など)
‐産業活動(金属精練工場、木材加工工場、化学工場、発電所、セメント工場、石油精製・化学工場、農業関連産業など)
‐採掘産業(鉱業、砕意志、泥炭、石油及びガスの採掘など)
‐廃棄物の管理及び処分(下水同施設、廃棄物埋め立て地、家庭ごみ処理施設および有害廃棄物処理施設)

B. さらに徹底したEIAを必要とするプロジェクト

‐大気・水質汚染のために健康に影響する開発援助プロジェクト
‐危険におびやかされた植物や動物、またはその重要な棲息地、保護エリア、生物学的多様性などに悪い影響を及ぼすプロジェクト

C. 特別の考慮がなされるべきプロジェクト

- 熱帯林、湿地、マングローブの沼沢地、さんご礁、半乾燥地帯など。

4−2必要とされる環境調査

・プロジェクトが提出する最重要の環境問題(社会的問題を含むことが多い)、必要とされる分析のタイミング及びその範囲、関連専門知識の入手先、そして緩和対策の提案などを確認する。
・可能な限り地元の環境コンサルタントはアセスメント・チームに加えられるべき。
・実行可能制調査の環境部門あるいはこれとは別の環境アセスメントの業務指示書は、可能であれば受け入れ国の環境に関する政府機関のアドバイスおよび承認を得て作成されるべきである。

●環境影響評価レポートに含まれるべき内容

a. プロジェクトと取り巻く状況の説明及び将来の影響が評価されうる環境のベースラインとなる状況
b. プロジェクトに対して水、エネルギー、素材等を供給した場合の環境面の影響評価
c. ジェンダーの問題を含めたプロジェクトによる地元住民への影響
d. 廃水、固形廃棄物、および排出物の処理の評価
e. 金銭的に可能であれば、その重要性を示したプラス、マイナスの環境影響の確認
f. 環境向上の機会の分析
g. 主催国の環境基準およびこうした基準についての議論と共に必要な許可手続きなどを含めたほう、政策面のフレームワークの提出
h. 環境関連の関係価格相場制策、税金、助成金などの影響調査
i. 結果としての影響評価と判断の基本に使われた基準の特定
j. 基本代替案の検討及びプロジェクト完全放棄の結果評価
k. 負の環境影響を制限するための十分な緩和策または代替計画案。運営とモニタリングの提案を含む。
l. 環境への悪影響を取り除く潜在的な方法、関連資本循環コスト、現地の状況との適合性、制度、トレーニング、モニタリングの必要性についてのプロジェクト代替案と緩和策の比較
m. 関係住民グループの保護そして/または再定住に対する対策説明。また、こうした問題の暗に対する住民の反応を示す。
n. EIAに必ずしも含まれていない関連問題がどこで、どのように扱われているかということに関しての説明
o. 主な提案を含めた非技術的な概要

4−3環境アセスメントのレビュー

評価は、いかなる場所の途上国でもそこに可能な限り一般の参加を促し、プランニング・サイクルを通して続けられるべきである。モニタリングおよび事後監査評価によってフォローアップが行なわれるのが理想的である。

●外部審査
特に大規模プロジェクトの場合、可能であれば、外部の独立した機関による環境アセスメントの審査は、手続きをうまく運ぶことになるだろう。この評価の目的は参加するさまざまな団体の特定の利益、そしてしばしば矛盾する利益についての公平な判断をすることであり、不必要なコストや遅れを避けることである
審査は、最終のEIAレポートが援助機関や相手機関によって検討される前に行われることが求められている。外部審査を行うかどうかについては受け入れ国の判断に任せられるべきである。

●内部審査
ドナー機関は、環境アセスメント手続きに関する一般ガイダンスを提供し、最終EIA文書の妥当性と質を保証する責任を負う中心となる機関を設立するべきである。重要なEIAが取り行われるときはいつでも、そうした機関は幅広い学問分野(生態学、生物学、農業、森林、生物化学、健康管理など)からの専門コンサルタントを含め、自由に使える資格を持ったスタッフを配置するべきである。こうした専門家はドナー機関の常任スタッフである必要はない。

5.住民参加

徹底したEIAが必要とされるプロジェクトにおけるスコーピングにおいて、受け入れ国における国レベル、地域レベル、地方レベルの適切な機関からの包括的データ、懸念、専門知識の収集がなされるが、そうした情報は影響を受ける地域の市民グループやNGOの代表、EIAに責任を負う専門家からも収集される。

ドナー国や受け入れ国は、プロジェクトの計画、実施に向けて国の状況の多様性を考慮しつつ、地元で入手しうる十分な専門知識をフルに活用して作業を行うべきである。

途上国の環境組織は可能な限り環境アセスメントのプロセスに参加すべきである。理想的には、プロジェクトの提案や初期調査において、適切な組織や関連基準について触れられていることが望ましい。

関係住民(他の関係グループ、ターゲットグループなど)の男女の参加が求められるべきであるとされる。さらに、その結果が、援助プロジェクトの計画、非官僚的経路や開発の新しいパートナーの選択において、さまざまな変化が援助政策や援助プログラムの優先事項として導入される必要があるとされる。

受入国における非政府組織の参加を奨励している。特に、公的な組織からは入手し得ない専門知識がある場合はそうあるべきである。また、受け入れ国の価値及び政治的手続きに対して正当な考慮がなされるべきである。

プロジェクトが地元の人々の士気を高め、実際のニーズや条件を確実に充たすために、例えばコミュニティや他の地元の組織を通じてのエンド・ユーザーや受益者の積極的な関与は欠かすことはできない。

6.情報公開

可能な限り、環境面で顕著な影響があると思われるプロジェクトに関する地元住民の見解が得られるように情報へのアクセスを含め、積極的に措置が取られるべき

7.モニタリング、監督

EIAは、評価の正確なことをテストし将来の調整のための基礎を提供すると共に要求事項との一致を保証するために、プロジェクトの操業中のモニタリングや監査のための提案をその中に含んでいなければならない

提案には責任者及び資金源が明示されていなければならない。環境影響及び環境説明についてのモニタリングは、可能なプロジェクトの修正や将来の類似プロジェクトのための有用な情報を提供しうるものである。

モニタリングや監査にあたって、以下のような内容がドナー国と受け入れ国の間で認識されていなければならない;

- プロジェクト計画では審査とモニタリングのために必要な手段、設備、道具が特定されていなければならない。
- モニタリング活動のための組織的ユニットが指示されるべきである。
- 必要とされる調査にはプロジェクトスポンサーおよび正当な権限を持つ機関の各自の責任を指示され、その調査の概略が示されていなければならない。
- モニタリング用機具の信頼性については特別な関心が払われるべきである。
- 検査及びモニタリングは運営職員のトレーニングに含まれるべきである。
- 外部検査及びモニタリングはできるなら地元機関によって実施されるべきである。

8.実施責任

プロジェクトの環境面での行政責任は明確にされるべきである。

EIAプロセス及び基準は、プロジェクト計画及び実施に関係する相手国、援助機関及び研究機関の意思決定プロセスに統合されることを意図している。

スクリーニングのすぐ後、スコーピングが行なわれるが、ここでプロジェクトにおけるもっとも重要な環境問題(社会的問題を含むことが多い)、必要とされる分析のタイミング及びその範囲、関連専門知識の入手先、そして緩和対策の提案などを確認し、EIAの責任及びスケジュールを確認する。

ドナー機関は、環境アセスメント手続きに関する一般ガイダンスを提供し、最終EIA文書の妥当性と質を保証する責任を負う中心となる機関を設立するべきである。

プロジェクトを承認するか否かを決定するとき、EIAの結論は十分かつ適切に考慮されなければならない。また、環境審査を保証する中心機関はあらゆるケースにおいて、EIAの結論に正当な配慮が払われていることを保証するべきである。