NGO・市民連絡会からの提言 2001.1.25.地球の友ジャパン
このペーパーで議論の対象とする「環境審査」は、JBICが借入者から要請を受けてから、支援についての正式な意思決定を行なうまでのプロセスを指す。JBICによるプロジェクト審査は、経済的・財政的・技術的側面も含めて総合的に行われるものであるが、ここでは特に、環境および社会面に関するプロジェクト審査に焦点を絞る。 このプロセスでは、JBIC自身の環境・社会政策と基準に照らして事業による影響およびその対応策を確認し、また審査結果を意思決定に反映することにより、支援するすべてのプロジェクトが環境・社会面から持続可能であることをJBICの責任において確保することが求められる。 この役割を十分に実行するために、ガイドラインでは以下について示すことが必要であると思われる。
以上の点を踏まえた上で、3つのポイントから詳細を述べる。
I. 環境審査のポリシーと基準
1.環境審査に関する基本的考え方 1−1.環境審査の目的 @ 支援する事業が環境や社会、人々に被害を与えないことを確保するため、すべてのプロジェクトについて環境審査を行なう。
A支援を要請されている事業の社会・環境影響は十分に予測されているか、影響を最小限で受け入れ可能な範囲にとどめるための対応策は適切に検討されているか、環境・社会対策を含むプロジェクト管理の効果的で十分な実施が期待できるか、ステイクホルダーの意見が十分に反映されているか等について確認する。
B事業者による環境調査や対策が不十分であると判断される場合には、必要な情報の提出や、追加的行動を求め、それが達成されない間は審査を中断する。
CJBICは、環境審査に基づき当該プロジェクトの支援が環境・社会の持続可能性の観点から照らして妥当なものであるかどうかを判断する。審査が完了するまで、「事前通報」など最終的な支援のコミットメントは与えない。
D審査結果を、ローン・アグリーメント(L/A)等、支援提供に関する最終意思決定文書に確実に反映させる。
EJBICは、支援を受けようとする事業主体に対し、プロジェクトの早期段階から必要な環境・社会配慮の基準を通知しアドバイスを与える用意があることを知らせる。また、そのための能力構築に努める。 1−2.審査の原則
@最新の科学的知見に基づき客観的な判断を行なうこと。
A審査のスコープと基準を明確にする。
B審査のための情報源は、事業者によって提出されるスクリーニングフォーム、フィージビリティー・スタディー(F/S)、EIA等に限定されない。広い視野から客観的な情報確認を行なうため、地域住民やNGO、専門的知見を有する関係者などから有益な意見や情報を求め、最大限に活用する。 C当該国の法制度や社会慣習、通例を十分理解した上で審査を行う。 D手続きや役割分担を明確にすることで、チェック・アンド・バランスの考え方に基づき多様な意見・情報を収集する。 E責任ある判断を行ない、審査プロセスの透明性とアカウンタビリティーを確保するため、審査情報は整理して文書化し、公開することを原則とする。 FJBICは、この原則に沿って審査を行うための体制と能力を備えるようにする。 2.審査において考慮されるべき事項
2−1.環境・社会影響評価のスコープ
JBICの支援が求められている事業が、それと一体不可分なプロジェクトの一部をなしている場合(大規模植林・伐採と一体不可分なパルプ工場建設、ダム建設に伴う灌漑プロジェクト等)、あるいは他事業との関連で累積的な影響が予測される場合には、関連する事業についても環境情報を求め、ガイドラインに沿って確認を行う。全体として環境への影響が受け入れがたいほど大きい場合、可能であれば改善を求め、不可能であれば支援を行わないこととすべきである。
2−2. 影響評価の基準 影響評価の基準として、一般的には次のようなものがある。
さらに各項目について、具体的な基準を示す必要がある。
2−3. 提出された情報の質
@予測やモニタリングの基礎となるベースライン情報
Aゼロ・オプションを含む詳細な代替案が適切に検討されているか BF/Sおよび環境アセスメントは当該国の所定の手続きに沿って正当に行なわれたか。 CF/SおよびEIAのTORと作成者が明記されていること。 D事業実施に関わる法律や環境計画等の一覧 EF/SおよびEIAの情報の新鮮さ
2−4. 環境・社会配慮のための対策
@負の影響を回避する方法は十分に検討されているか。どうしても回避することができない場合、その種類と規模、回避できない理由が説明されていなければならない。さらに影響を最小化→代償する措置についても同様に検討すること。
A影響予測に対応する詳細な環境アクションプラン(コスト調達や実施時期の情報を含む)が検討されているか
Bコスト調達やスケジュール等の面から実行可能でよりよい対策が選択されているか。その効果は科学的に十分な裏づけがなされているか。実施することにより新たな問題が起きる可能性はないか。 C対策と併せて、予見される影響と対応する十分なモニタリング計画を作成すること。
2−5. 事業実施者の能力 借入国/人および事業実施者の環境管理能力についても、実施中あるいは過去のパフォーマンスなどを参考にして考慮に入れる。
2−6. 借入国の環境関連制度 環境アセスメント制度など借入国の環境関連制度の質、また環境省等の管理能力など。
2−7. プロジェクト実施に影響する現地状況(人権、ガバナンス等)
2−8. 情報公開と協議
@EIAやF/Sは当該国で公開されたか。その時期と方法、言語は。 A公聴会等、住民に直接情報提供し、意見交換する機会はあったか。 Bステイクホルダーは資源に対する権利や影響を受けるリスクに照らして適切に選択されているか。 Cプロジェクトの必要性、詳細計画、影響等について、ステイクホルダー、特に直接影響を受ける実施地域の住民に対し、協議に先立って十分な情報を提供すること。 D聴取された主な意見はそれらに対する回答とともに記録し、最終案に反映すること。
II. 環境審査の手続き
1.手続き策定に関する基本的考え方
2.スクリーニング(詳細については別紙意見書を参照)
3.金融形態に応じた手続き
4.情報公開と意見の受け付け
@支援検討プロジェクト情報の公開 JBICに対する支援要請があった時点もしくはJBICが審査を開始した時点で、少なくとも次の情報を公開すること。-----プロジェクト名称、場所、実施者、資金規模・調達、事業概要 (ODAでSAPROF対象案件の場合は、その前に余裕を持って情報が公開されること?) Aカテゴリー分類およびその根拠 (カテゴリー分類の決定後すぐに) B環境アセスメントレポートおよびF/Sレポート 申請者より提出があれば即時に、最終決定の少なくとも120日前までに公開。 C審査の所見を記した書類(=役員会提出資料?) (役員会開催○○日前に) D交換公文(E/N) EL/Aと環境・社会関連契約事項(契約締結後) Fモニタリングレポート(到着後すぐに) その他
5.審査ミッション カテゴリーAプロジェクトは必ず、カテゴリーBも必要に応じて、EIAその他の文書審査に加え、環境社会開発室が参加する審査ミッションを派遣する。この際、直接影響を受ける住民や関心を表明しているグループ等とも会合を持ち、広い視野から社会環境影響の確認を行うこと。
6.審査結果の反映
7.環境社会開発室と業務部の役割
8.審査の独立性の確保 特に影響の重大なプロジェクトや異論の表明されているプロジェクトについては、審査の質を高めるために独立した審査委員会を組織し、意見を求めることができるような制度を確立すべきである。この際、審査のプロセスの透明性が確保されなければならない。
III. 借入者向けの要求項目とガイダンス
JBICは借入者に対し、環境審査の項目に沿って環境配慮を行い十分な情報を提示することができるよう、最低限の要求項目を明示すべきである。特に以下については明示して実施を求めるべき。
環境アセスメントは、望ましい結論に向けて当事者間の情報交流を行い、社会的合意形成をはかる手続きであり(原科、1994。寺田、1999)、多くの開発支援機関はアセスメントの適切なプロセスを確保するためのグッド・プラクティスを示している。事業者に対し適切なアセスメントの実行を求めることは、審査による開発の遅滞や多大な追加的コストを避けることになり、実施主体者および金融機関の双方にとってメリットであるとも認識されている。JBICは世界銀行やOECDのガイドラインなどを参考にし、国際的に認められた水準を満たす環境アセスメントのグッドプラクティスをガイドラインに示すべきである。
3. ガイドライン・マニュアル等の充実
|