現行のJBICのスクリーニング手続きの
問題点と改善への提言(案)



1. スクリーニング手続きの意味

(1)カテゴリー分類とアセスメントのレベル

OECD/DACのガイドラインによれば、スクリーニングとは以下の意味を持つプロセスである。

・あるプロジェクトに、徹底した環境影響評価が必要とされるか否かを決定し、影響が大きいと考えられるプロジェクトの環境レビューに焦点を絞る。

・受け入れ不可能なプロジェクトを最初の段階で拒否することを可能にする。

具体的には影響評価のレベルを決定するため、カテゴリー分類により@徹底した影響評価を行うもの、Aそれよりも低いレベルでの評価を要するもの、B影響評価が必要ないものを選別するのが一般的なプロセスと言える。

これに対し、現行のJBIC/国際金融等業務(IFO)のスクリーニングプロセスは、環境影響評価のレベルを決定するものではない。カテゴリーAにはフルEIAが当然要求されるものと思われるが、カテゴリーBも場合によってはEIAが要求され、それがどのような場合か判断基準は明らかでない。JBICによる環境レビューのレベルは、アセスメントのレベルとは明確な対応関係にないカテゴリー分類によって決定される。このため、なぜ同じように多大な影響が予測されるプロジェクトに対し、JBICがEIAのレビューをする場合としなくてもいい場合があるのか、判断を客観的に評価することは難しい。

(2)カテゴリー分類とレビュープロセス

スクリーニング手続きが重要なのは、影響評価のレベルだけでなく、それ以降のプロセスにおいても環境配慮のレベルが決定されるためである。たとえば世界銀行/IFCにおいては、重大な環境・社会影響が予測されるカテゴリーは、プロジェクトのあらゆる段階(環境アセスメント、IFCによるレビュー、コンサルテーション、情報公開、監督)において十分な配慮が行われるよう、他のカテゴリーよりも厳しい手続きがスポンサーとIFCの双方に課されている。

JBICの場合、カテゴリー分類とアセスメント・レビュー以降のプロセスにどのような対応関係があるのかは全く明らかでない。特に、環境影響の大きさに関わらず情報公開が行われていないことから、スクリーニングは内部手続きとしての意味しか持っていない。これは外部からの検証機会と、影響の大きさに応じたプロジェクトのマネジメントを向上させる機会を失わせることになる。

2.各カテゴリー分類の基準について

(1)禁止カテゴリー

IFCやOPIC, US-EXIMは支援しないプロジェクトの種類を明記する。特にOPICの禁止カテゴリーは広く、環境や健康、安全性に「主要なあるいは非合理的な」悪影響を与えるものとして、原生熱帯林を損なうものや大型ダム、5千人以上の移住を伴うもの、世界遺産に影響を与えるもの等を含む。これは、ほぼ旧輸銀のカテゴリーAに相当する。こうした禁止カテゴリーを定めることのメリットは、どのような場合には支援を行なわないかを申請者と外部に明らかに示しておくことにあるだろう。

(2)環境要素によるスクリーニング

もっとも慎重な環境配慮を必要とするプロジェクト(JBICにおけるカテゴリーA)のスクリーニング基準として、世界銀行/IFCやOPICは、環境・社会影響の質的な大きさを用いる。その判断は影響が立地特定的か、不可逆的か、緩和策を取りやすいものか等を総合的に考慮して行なわれる。これは、US-EXIMやJBIC/IFOの採用するプロジェクトサイトの特性も考慮の条件に含めた、より総合的な基準といえる。

JBIC/旧輸銀のスクリーニング基準はUS-EXIMに近く、サイトの特性を基準としているが、US-EXIMが環境・社会的にsensitive な地域への影響を問題としているのに対し、こうした地域内に立地しているかどうかのみを問題としているため、さらにスコープが狭くなっている。

旧OECFの基準は、総合的影響の大きさ、サイト特性、セクターの3要素複合型とみることができるだろう。3つの視点から多くの項目を具体的に書き出し、重要なものがひっかかるような「細かい網の目」になっている(もっとも情報が公開されないので実際の運用状況は不明)。

(3)除外カテゴリー(環境アセスメント・レビューを原則として必要としないカテゴリー)

機関ごとに何を含めるかに違いはあるが、一般的に環境影響を伴わないと考えられるタイプのプロジェクト(たとえばコンサルティングサービスや技術支援など)を特定して書き出す方法(ポジティブリスト)が一般的にとられている。

JBIC/IFOの除外カテゴリーは、先進国で行われるものや既存施設のリハビリ等、他機関と比べるとかなり多くの要素を含んでいる。また重点産業セクター以外のものは除外される(ネガティブリスト)など、より広い範囲のプロジェクトが除外されると推測される。

(4)特殊なプロジェクト

特別の手続きを必要とするような、特殊な金融形態やプロジェクトタイプ(金融仲介、民営化、既存施設のリハビリ等)については、別の規定やカテゴリーを設けている機関が多い。特に金融仲介(financial intermediary)は審査時点でプロジェクトが特定できないことからIFCやOPICは別カテゴリーを設けている。

新ガイドラインへの提言

スクリーニングプロセスは、重要な環境影響の予測されるものを選別して十分な環境アセスメントを行い、環境情報のレビューやコンサルテーション、情報公開、モニタリング等あらゆる段階で十分な配慮が行われることを可能にするように作られるべきである。具体的には、世界銀行等と同様に、カテゴリーA:フルEIAを要するもの、カテゴリーB:それよりも狭い範囲のアセスメントを要するもの、B影響評価が必要ないものに分類するのが基本とされるべきだろう。このように考える場合、ODAと非ODAでスクリーニング基準が異なるのは非合理であり、また情報公開が伴わなければこのプロセスの意味は十分に果たされないと考える。

以下に各カテゴリー分類についての提言を記す。

  • カテゴリーA:世界銀行/IFCのように、環境影響の質的大きさによって総合的に判断すべき。その際、実際の運用能力に問題があると考えられるので、旧OECFのようなセクター、サイト、質の3要素による項目リストを併せて用いることが望ましい。
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  • 除外カテゴリー:旧輸銀の除外カテゴリーはあまりに多くの要素を含み、広すぎる。少なくとも先進国で行なわれるもの、既存施設のリハビリ等の除外は非合理的である。影響がほとんどないと考えられる種類のプロジェクトはポジティブリストで明示すべき。
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  • 禁止カテゴリー:禁止カテゴリーの設置は、支援の基準を明らかにする意味で有効と思われる。旧輸銀のカテゴリーAに挙げられている多くの項目は禁止カテゴリーとして検討されるべき。
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  • 特殊形態ローン:JBICの特殊形態ローン(ツーステップローン、アンタイドローン、商品借款等)は、資金の流れが不透明、責任分担があいまい、環境レビューの抜け穴となる、等の点で問題が非常に多い。これらについては他機関に習って個別に詳細な手続きを示し、必要であれば特にカテゴリーを設けるべきである。