国際協力銀行(JBIC)の
社会・環境ガイドラインの
目的・原則に関する意見書

(ガイドラインは何のためにあるのか) 2000.10.18



1. JBIC自身の環境配慮責任――「セーフガード」の考えかた

現行の国際金融等業務(IFO)及び海外経済協力業務(OECO)のガイドラインは、いずれも環境配慮が実施主体者の責任であることを強調し、自らは「確認」を行うのみとしている。これとは対照的に、世界銀行/IFCやUS-EXIM,OPIC等の環境ガイドラインや環境政策文書は、まず環境・社会配慮に対する自身の姿勢や政策を明らかにした上で、実際の業務がその方針に沿って行われる必要を言明している(Box参照)。

  • JBIC
    OECO「プロジェクトの環境配慮に関わる最終的な責任は借入国自身にあるが、JBICはプロジェクトの審査の際に借入国側が行う環境上の所要の措置等について・・・確認を行う」。IFO「実施主体者による適切な環境配慮が行われていることを確認する」。「本行は、・・・環境配慮の確認を効率的に行うことを目指している」。

  • 世界銀行/IFC(国際金融公社)
    世界銀行のセーフガード政策は、世銀の業務が人々と環境に対して被害を及ぼさない(“Do No Harm”)ことを確保するために役立てられる。これはIFCにおいても同様である。「すべてのIFC事業活動は環境と社会に責任ある仕方で行われる(必要がある)」という政策に基づき、プロジェクトはIFCと世界銀行の環境・社会・情報公開政策を満たすように行われなくてはならない。(IFC Procedure for Environmental and Social Review of Projects)

  • アメリカ・海外民間投資公社(OPIC)
    OPICは、支援するプロジェクトが安定した環境と労働者の権利に関する基準に沿うことを確保する。プログラムを実施する上では各国の人権の尊重に関する政府や議会の指示を考慮する。「環境ハンドブック」の目的は、OPICの環境ガイドラインやアセスメント、モニタリングの手続きを、企業や関心のある市民に知らせることである。
    (OPIC Environmental Handbook)

  • 米国輸出入銀行(US-EXIM)
    支援するプロジェクトが環境面で責任ある(仕方で行われる)ことを確保する。
    (Environmental Procedures and Guidelines)

JBICは自らの環境配慮に関わる責任をより狭く限定的にとらえているが、こうした姿勢では開発支援機関としての最低限の責任を果たすには不十分ではないかと私たちは考えている。その理由は第一に、どういう原則と基準により「確認」が行われているのかが明らかでなく、したがって、社会・環境面の懸念や影響が、JBICの意思決定にどのように反映されているかが不明であるからである。

第二に、環境アセスメント実施をはじめ個々のプロジェクトの社会・環境配慮を行う主たる責任が実施主体にあることは事実としても、それは、支援機関自身が主体的に社会・環境配慮を行う責任を免除するものではない。これは、先に挙げたいくつかの機関に共通する理解である。

統合環境ガイドラインを策定する機会に、JBIC自身が環境・社会配慮に対するより踏み込んだ姿勢を示すことは非常に重要であると私たちは考える。ついては、支援するプロジェクトが現地の人々や環境に対し被害を与えることのないよう確保することをガイドラインの目的として掲げるよう提案したい。世界銀行/IFCが一連の社会・環境政策を「セーフガード」政策と位置づけているように、「プロジェクトによる被害の防止」は、開発支援機関として果たすべき最低限の責任として考えられるべきである。

2. OECO・IFO共通の社会・環境配慮の原則

JBICは様々な形態の金融業務を行っており、特にIFOには民間セクターを直接支援対象とする業務が含まれるため、JBICが環境配慮を行う手続きにはその形態に応じた差異が生じるかもしれない。しかし環境・社会配慮を行う目的や原則については、IFOとOECOの両方に共通するものであることが確認されるべきである。業務形態の違いはJBICが行う環境・社会配慮のレベルの低下やそのことによって生じる被害に対する理由とはなり得ないからであり、また少なくとも、JBICという同じ機関の下で矛盾した政策がとられたり、矛盾した結果が生じることは避けられなければならない。

世界銀行グループも、公的セクターと民間セクターの双方を支援対象としている。民間セクターを支援対象とするIFCは、「貧困削減と持続可能な開発」という基本的開発目標を世界銀行と共有しており、環境・社会セーフガード政策も基本的に世界銀行と同じものを採用している。その上で、民間部門支援という活動に対応できるよう独自の修正を行うが、これは、同じ政策を遂行するための異なるアプローチと理解されている。

JBICには、設立法に「わが国および国際経済社会の健全な発展に資する」とある以外、環境・社会に関する基本政策は未だ策定されていないが、OECO業務に関わる「ODA大綱」は、環境・社会面に関してすでにいくつかの基本理念・原則を掲げている。この中には、「貧困問題(へのよりいっそうの取り組み)」、「環境保全の達成」、「地球的規模での持続可能な開発」、「基本的人権及び自由の保障状況に十分注意を払う」こと、開発における女性の参加などが含まれており、また「中期政策」においては、特に貧困撲滅とジェンダー公正に関する社会開発面の取り組みが強調されている。

OECOの行うODA業務においてこれらの環境・社会政策が十分に実現される必要がるのはもちろんのこと、IFOの行う非ODA業務についても、少なくともこれらの原則と矛盾した政策を持ったり、矛盾する結果が生じることのないよう確保することが必要であろう。なお、これらの原則については、他のECAの中にも基本原則として取り入れる動きが見られる(Box参照)。

また、現在見直しが進められている国の「環境基本計画」も、ODA及びOOFの双方についてよりいっそうの環境配慮の必要について確認する方向であると思われる。この基本計画もまた、OECOとIFOに共通する環境配慮の原則を提供することになるであろう。

  • イギリス輸出信用保証局(ECGD)
    ECGDの「使命」について見直しが行われた結果、イギリス政府の持続可能な開発、人権およびグッドガバナンスに関する目的に添って活動を行うよう確保する旨の「目的」が設けられることが決定した。これに伴い、ECGDは一連の「事業原則」を設置し業務の監督・報告を行うことを検討中。

  • カナダ輸出開発公社(EDC)
    EDC自身の述べるところによれば、カナダが明文化している外交政策は各国の人権状況を考慮することとしており、EDCもこれに従うこととなる。カナダ政府とEDCは、特定の国における人権問題について情報を得、特定の活動に関する人権への影響をよりよく評価することができるような方法について検討中である。

3.アカウンタビリティーのツールとしてのガイドライン

開発支援機関のガイドラインは、JBIC職員や関連機関及び支援を受ける実施主体への適切な指針を提供するだけでなく、同時に市民に対するアカウンタビリティーを確保する役割も果たしうる。たとえばOPICは、環境政策を記述した「環境ハンドブック」を、「クライアントや市民が環境問題に関してOPICとインターアクトするためのフレームワークを提供する」ものと位置づけている。

この観点から特に重要なのは、明確な環境レビュー手続きが定められることである。レビュー手続きは、プロジェクトが進行する流れに沿って、どの段階でどのような環境配慮や環境レビューが行われなくてはならないかを明らかにするものであり、多くの機関では、環境ガイドラインあるいは一連の環境政策文書の重要な柱として文書化されている。この点、JBIC/IFOのガイドラインでは、手続きの一部は説明されるがプロジェクトの流れに沿った一連の手続きが判然とせず、大幅な改善が必要であると思われる。

手続きを示す上では、IFCが公開している環境レビュープロセスを参考にすることを提言する。プロジェクトサイクルに沿ったレビューステップが環境部・投資部の責任も含めて示されており、添付図のように各ステップで作成されるべき環境文書の情報も明示されている。こうした手続きを確定し情報を開示することにより、実施主体や市民はJBICの手続きを正確に理解することができ、JBICにとっても情報のクロスチェックを行う機会が増えることになるだろう。

 

新ガイドラインへの提言

1. JBICの支援するプロジェクトが現地の人々や環境に対し被害を与えることのないよう確保することを、ガイドラインの目的として掲げるべきである。この目的に沿ってJBICの業務及びプロジェクトの質を高く保つべく、ガイドラインは内外に明確な指針を与えるように策定されるべきである。

2.JBIC業務が貧困撲滅、環境保全、地球規模の持続可能な開発という原則と矛盾しないよう行われることを確保すること、事業を行う上では、基本的人権及び自由の保障状況および女性の平等な参加を含む社会公正に十分注意を払う旨が明記されるべきである。

3.ガイドラインが、JBIC職員や関連機関及び支援を受ける実施主体への適切な指針を提供し、かつ内外の市民に対しアカウンタビリティーを確保するものとなるように、環境レビュー手続きは、関係者の役割や作成される文書情報も含めて明確に説明されるべきである。またこの考えかたは、ガイドラインの中に明記されるべきである。