旧日本輸出入銀行
「環境配慮のためのガイドライン」へのコメント
輸出信用機関改革国際キャンペーン
1999年9月に旧日本輸出入銀行(輸銀)は「環境配慮のためのガイドライン」を発表した。これは、輸銀が環境面で問題のあるプロジェクトを支援することに対する批判が高まっていること、法的及び政治的に輸銀の改革を求める国内外の声に応えたものであろう。輸銀はこれまで、また現在も、中国の三峡ダム、フィリピンのサンロケダム、コロンビアのオセンサ・パイプラインプロジェクト、ブラジル・ウルクのガス・石油開発プロジェクト、トルコのイリスダムなど、環境面で大きな問題のあるプロジェクトに関わってきた。
以下は、輸銀の「環境配慮のためのガイドライン」を、世界銀行グループ[のIFC(国際金融公社)]、国連環境計画(UNEP)、経済協力開発機構(OECD)等の基準と比較し、また輸出信用機関改革に取り組む国際NGOによる「メセム宣言」(注)の精神と目標に照らしてコメントするものである。
輸銀が他のECAに先駆けて改革の第一歩を踏み出したことは評価できるが、この新しい政策には、以下のように根本的な欠陥が見受けられる。
? 環境保護と、国際的に認められた基準・保全策は「配慮」されても実行は必要とされていない。
? チェックリストは「配慮」のためだけで、国際基準を満たすためのものではない。
? あいまいな表現、不適切なアセスメントプロセス、弱い基準、透明性の欠如。こうしたことは国際機関や他の政府機関、NGOが考える国際的な基準からは外れている。
? 環境政策の適用が恣意的で首尾一貫しないため、輸銀の支援を受ける企業や他のステイクホルダーが踏むべき手続きがはっきりせず、これまで輸銀が引き起こしてきたような環境問題を防ぐことができるという保証はない。
? 借入人の主観的な情報に頼りすぎており、輸銀や市民社会による客観的な分析が不十分〔になる恐れがある〕。
われわれは、輸銀がすべてのステイクホルダーとの適切な協議を経てから環境ガイドラインのドラフトを公開すべきであるという日本のNGOの立場を支持するものである。輸銀とOECFとの合併はいっそうの改革の機会を提供するものになるだろう。
(注)1998年3月、ドイツのメセムに46ヶ国163のNGOが集まり、二国間輸出信用・保険機関の改革に取り組む国際キャンペーンを旗揚げした。「メセム宣言」はキャンペーンの目標やねらいを述べたもの。
1 ガイドライン策定過程における市民社会との対話
メセムNGO宣言
「・・・したがって、われわれは各国政府及びOECDに対し、自国内及び受け入れ国において、市民社会との率直かつ建設的な対話に臨むよう呼びかける。」
輸銀ガイドライン(総論−2. 環境ガイドラインの目的):
「本ガイドラインは、本行が実施する環境配慮の確認のための手続きおよび方法についての指針を示したものである。本行の役割は、我が国の輸出入若しくは海外における経済活動の促進又は国際金融秩序の安定に寄与することにある。」
輸銀は国内外のNGOとの会合に多少応じたことはあっても、日本の産業界以上のステイクホルダーを認識していない。こうした認識はガイドラインの策定に関して未だに正式な協議が行われていないことにも現れている。輸銀は10月にパリで行われた会議に出席し、環境配慮の問題について話し合った。こうした〔国際的場での〕協議や、日本でより正式で透明な協議プロセスを持つことは、ガイドラインが国際的なモデルとして認められるために必要な最初のステップである。輸銀は世界最大の金融機関として意思決定プロセスにステイクホルダーとの協議を取り入れるべきである。
2 環境スクリーニングとアセスメント
メセムNGO宣言
「・・・特定の有害物質また環境面で有害なプロジェクトへの金融支援を防ぐための環境スクリーニング手続き、また透明かつ独立に作成された参加型環境影響評価は、OECD諸国では公的資金・保証の適切な適用を保証するために広く用いられている。こうした手続きは輸出信用・保険機関の活動にも適用されなければならない。」
(1)環境アセスメントの原則
UNEP環境アセスメントの目的と原則
「環境に重大な影響を及ぼすような活動が権力によって公認決定される以前に、そうした活動の環境影響が十全に考慮されるようにすること。・・・計画されている活動の範囲や性質、立地が環境に重大な影響を与えると考えられる場合、包括的な環境アセスメント(EIA)が以下に述べる原則に添って実施されなければならない。・・・」(注)「『原則』には、スクリーニングの基準と手続き、評価の対象となる環境関連事項の決定、EIAに最小限含まれるべき事項、不偏性、パブリックコメント、最終決定が書面で公開されること、適切な監視、情報交流、境界線にとらわれない協力、適切な実施手続き等が含まれる。」
IFC
IFCもまた、プロジェクトが「環境的に安定し持続可能である」ことが確認されるよう、そして「意思決定」を改善するために、環境アセスメントを要求している。UNEPと同様、IFCもEIAの原則と構成要素を述べている。(それによれば)環境アセスメントはプロジェクトがもたらす可能性のある環境リスクと影響を吟味し、代替案を検討し、プロジェクトの選択や立地、デザイン等を改善する方法を明らかにし、プロジェクトの実施過程を通じて環境面への悪影響を管理するものである。IFCは、悪影響に対する緩和・補償措置よりも、可能な限り予防措置を優先する。IFCはまた、汚染を予防・削減するための確実な手続きと遵守すべき排出レベルとして、世界銀行の汚染防止・削減ハンドブックを採用する。(環境影響が最も大きいと思われる)カテゴリーAプロジェクトについては、プロジェクトのスポンサーは、EAを実施するためにプロジェクトとは関係のない独立の専門家を雇わなくてはならない。
輸銀(総論)
「本行は、環境配慮の確認を行なった結果、当該プロジェクトの環境配慮が適切ではなく、環境に著しい影響を及ぼす恐れがあると判断される場合には、借入人等を通じて、プロジェクト実施主体者に対して環境配慮の改善を求める。さらに出融資等を行わないとの判断もありうる。」
(カテゴリー毎の環境配慮確認:【1】融資承諾前の環境配慮確認):
カテゴリーA:「『Sensitive Area』の持つ特性に留意し、借入人等から提供される『スクリーニング用フォーム』、(英訳または和訳された)環境影響評価書(EIA)、さらに必要に応じて住民移転計画、先住民開発計画等の情報に基づき、『環境チェックリスト』を活用しつつ、『Sensitive
Area』の持つ特性に関連する環境影響に対する配慮の確認を行なう。・・・」
カテゴリーB:「借入人等から提出される『スクリーニング用フォーム』に基づいて、プロジェクト所在国の環境関連の基準等が満足されていることを確認する。プロジェクト所在国の環境基準等が満足されない場合、日本の基準または国際的な基準と比較して大きく乖離している場合、または、現地基準が定められていない場合には、「環境チェックリスト」を活用しつつ、必要な情報(特にEIA)を借入人等を通じ入手し、必要に応じて現地実査を行い、環境配慮の確認を行う。」
輸銀は、環境に著しい影響を及ぼすプロジェクトには支援を行わない場合もあるとしているが、支援禁止カテゴリーのリスト(たとえば原生林や保護対象湿地等におけるプロジェクトなど)や、実施国の基準に対する数量的/質的基準も示されていないことを考えると、これはいささか弱すぎる言い方である。輸銀はあいまいな言い方をしているが、結局、環境が「配慮」されさえすれば、実際にどんな影響があるかに関わりなくプロジェクトは進められると述べているのである。また輸銀は、国際的基準の適用を考慮するが、それでそのプロジェクトは進められると言っている。実際には国際基準の適用は、プロジェクト支援に関する決定には何ら影響を及ぼさないのである。
環境アセスメントに関しても、輸銀の基準は不十分である。カテゴリーAプロジェクトは借入人のスクリーニングフォームに加えてEIAを提出することになっているが、その他の国際的に認められた基準、たとえば移住政策や先住民族計画や専門家の現地派遣などは、配慮される事項ではあっても、必ず必要とされる事項ではない。また輸銀がEIA作成過程や輸銀自身の審査のプロセスの透明性について何も触れていないことは、EIAとしての要件を欠く原則的な問題である。輸銀はEIAがどのような基準を満たさなければならないかを明確に述べるべきである。こうした透明性は国際的に認められたEIA基準の重要な要素であり、それを欠く輸銀のガイドラインは国際基準を満たしていると言えない。
カテゴリーBは輸銀が支援するプロジェクトのなかで環境影響があると考えられるものの大部分を占めるであろうが、輸銀の定義は国際的に認められた基準からはるかに劣っている。輸銀がカテゴリーBとしているものは、世界銀行の基準では全てカテゴリーAとされるだろう。保護地区に影響を及ぼすものだけがカテゴリーAとされるべきではない。むしろ、環境や健康、安全の面で重大な影響を及ぼすプロジェクトがカテゴリーAとされるべきだが、これらは現在全てカテゴリーBになっている。さらにカテゴリーBのリストを広げて、OPICと世銀が一般的に使用しているものと同様〔の定義〕にすべきである。またEIAはすべてのカテゴリーBプロジェクトに要求すべきである。石炭火力発電所のようなプロジェクトが借入人の記入するスクリーニングフォームしか要求されないというような考えは、全く不適切である。
(2)スクリーニングのメカニズムと禁止条項
IFC
IFCは「適切な環境アセスメントの範囲とタイプ」を決定するため、すべてのプロジェクトのスクリーニングを行う。カテゴリーAは、影響を受けやすく〔不可逆的な〕、多様で、または前例のない重大な環境影響〔を伴うものである〕。カテゴリーAプロジェクトは、環境への否定的な影響を予防し、最小限にとどめ、緩和し、または補償するため、また環境面でのパフォーマンスを向上させるために必要な手続きを提言しなくてはならない。カテゴリーBも環境に否定的な影響を与えるものだが、一般的に言ってより立地特定的であり影響緩和措置がはたらきやすい。カテゴリーCプロジェクトは影響が微細あるいは全くなく、それ以上の検討は必要とされない。
IFCは原生熱帯雨林での商業伐採や伐採機器の購入〔に対する支援〕など、多くの禁止条項を定めている。
OPIC
OPICは、「環境への悪影響や立地上の懸念のため支援しない」禁止カテゴリーを定めている。「そのようなプロジェクトの例として、生態系を破壊する大規模ダム、原生熱帯林や保護地区、破壊されやすい環境地域などでのインフラ設備または資材の採取などが挙げられる」。また、世界遺産地域内あるいはそれらに影響を与えるプロジェクトも禁止される。さらにOPICはIFCのプロジェクトスクリーニングの原則にも従っている。
どの環境基準を採用するかを決定する上では、OPICは「まず世界銀行のような国際機関が採用しているガイドラインや基準に」、そして特定の分野については「専門知識を持つNGOに」従う。OPICは森林に関わるプロジェクトについては独立の第三者による環境〔面での適切性について〕証明を要求し、またIUCNが保護地に分類した特定の土地で行われたり、あるいはその地に影響を与えるプロジェクトは、その分類の目的と合致するよう求める。さらにカテゴリーAプロジェクトは最初の3年間、独立の第三者による監査が必要とされる。
米輸銀
米輸銀は、47の禁止事項と7つの厳しく制限される事項とを、輸出信用保険が適用されない「除外リスト」として掲げている。また大気、水質及び土壌汚染の最大許容度を示し、また騒音のレベルを定義する数量的ガイドラインを採用している。また、質的ガイドラインを用いて、危険で有毒な固形物質と廃棄物の管理や、自然災害による影響に対するプロジェクトの耐久性、そしてプロジェクトが自然環境や社会経済的、社会文化的な意味合いにおいてもたらす影響を評価している。これらの評価を行う上で、USEXIMは一般的には世界銀行やそれ以上に強力なガイドラインを採用している。米輸銀は原生熱帯林での商業伐採の支援を禁止しており、また絶滅の危機に瀕している種の生息地は破壊されたり傷つけられたりしてはならないことになっている。米輸銀はIFCと類似のスクリーニング手続きをとっているが、原子力関連プロジェクトに関しては特定のスクリーニングメカニズムと要求項目を定めている。
UNEP環境アセスメントの目的と原則
「UNEP環境アセスメントの目的と原則」の第4原則は、EIAには最低限、計画がもたらすと思われる、あるいはその可能性のある環境影響の評価と代替案が記載されなくてはならず、それには直接的・間接的・蓄積的・短期・長期的影響が含まれるべきであるとしている。また第6原則においては、これらを行うために提出された情報はプロジェクトに関する最終決定に先立って公平に検討されなければならないとしている。スクリーニング手続きはこのプロセスの中心的要素である。
輸銀
(2. 環境ガイドラインの目的):「本行は、本ガイドラインに示すようなスクリーニングや「環境チェックリスト」によるスコーピングの手法を適切に活用することにより、環境配慮の確認を効率的に行うことを目指している。」
(3. 環境配慮確認の手続き):「本行は、借入人等より提出された「スクリーニング用フォーム」に基づき、環境配慮確認の対象となるプロジェクトのスクリーニングを行い、カテゴリー分類に応じた環境配慮の確認を行う。スクリーニングおよびモニタリングの必要性についての検討結果は、環境担当部署により確認される。」
(4. スクリーニング):「スクリーニングは借入人等より提出されたスクリーニング用フォームに基づいて、環境影響の大小、および本行の当該プロジェクトへの関与の大小に応じて、本行の出融資等の対象となるプロジェクトをA、B、Cの3つのカテゴリーに分類する。カテゴリーAおよびBに属するプロジェクトはこれまでの本行の経験等に照らして環境影響が大きくなり得ると考えられるプロジェクトである。
カテゴリーA: 開発途上国で実施されるプロジェクトで、以下の特質を持つ地域(以下「Sensitive Area」という)に立地するもの。原生林、熱帯雨林、国指定の湿地、珊瑚礁、マングローブ林、干潟、保護対象地、国立公園、国指定の海岸地域、貴重種の生息地、世界遺産、少数民族あるいは先住民族の居住地、または大規模な非自発的住民移転を引き起こす地域。
カテゴリーB:開発途上国で実施される、本行の「環境チェックリスト」に示すセクターに該当するプロジェクト。但し、カテゴリーAまたはカテゴリーCに分類されるものを除く。
カテゴリーC:次の(1)から(4)のいずれかに属するプロジェクト。但し、カテゴリーAに該当する場合については、原則としてカテゴリーAとして扱う。
輸銀は貴重な公的資金をカテゴリーAとされているプロジェクトなどに使うべきではない。カテゴリーAプロジェクトは、そのまま支援を禁止するカテゴリーに変えるべきである。OPICがいい例になるだろう。そしてカテゴリーBプロジェクトは、EIAを厳密に審査し、世界銀行の基準と業務政策に基づいて検討されるべきである。輸銀は実施国の基準が「大きく乖離」している場合は国際基準か日本の基準を用いると述べているが、それが何を意味するのか明確に定義すべきである。輸銀は、借入人から提出されたスクリーニングフォームとチェックリストの情報に基づいてこのように主観的な決定を下すというのだが、これではあまりに恣意的になりすぎる。これを変えるには2つの政策が必要である。ひとつはチェックリストとスクリーニングフォーム、EIAを透明にすることで、これにより借入人の記述はより厳密で信頼性が増すだろう。2つめに世界銀行の基準を最低限の基準とすることで、何が「大きく乖離」しているのかについて主観的な判断を下すことはなくなるだろう。日本や実施国が世銀より厳しい基準を持っているならそれを採用できる。
輸銀のガイドラインの論理に字義通り従えば、実施国の環境基準で利害関係のある人々がコメントできるようにEIAを公開するよう定められていなければ、それこそ国際的に認められた基準から「大きく乖離」しているということになる。
カテゴリーCは、世界銀行の基準以下のプロジェクトで拡張を伴わないものに対して抜け道を提供することになる。たとえば、石炭火力発電所の機能を向上する場合、実施国や世銀の基準に合っていなくても環境面の検討を行わなくてすむことになってしまう。
3)高い透明性とEIAにおける住民参加
メセムNGO宣言
「市民社会及び影響を受けたり利害関係を持つコミュニティや集団に対する環境・社会影響情報へのアクセス[の保証]、協議、参加は、投資と経済開発を支援する公的機関の基本的原則である。透明性を欠き、影響を受けるコミュニティや関心を持つグループとの協議を避けることは、プロジェクトのリスクを増大させるだろう。それこそは、これらの輸出信用・保険機関が避けようとしてきたことに他ならない。」
UNEP環境アセスメントの目的と原則
原則7「ある活動について決定がなされる以前に、政府機関や公衆代表〔議会〕、関連分野の専門家及び利害関係を持つグループは、EIAに意見を述べる機会を与えられるべきである。」
原則8「計画を公認したり実行するための決定は、原則7及び12によるコメントを考慮するために適切な時間をとらないでなされてはならない。(原則12は境界を超えた協議を述べている)」
IFC
カテゴリーA及びBプロジェクトについては、プロジェクトの出資者は影響を受けるグループ及び地域のNGOと環境問題について協議を行い、彼らの見解を考慮に入れて環境評価の決定に反映させなければならない。協議はプロジェクトの実施期間を通じて必要に応じて続けられなければならない。IFCは協議と情報公開に関する「望ましい実施要領」を作成している。〔プロジェクトの〕EIAは理事投票の少なくとも60日前には世界銀行本部のインフォショップで閲覧することができる。
環境と持続可能な開発に関する金融機関によるUNEP声明
「我々は環境問題に関し、株主や従業員、顧客、政府及び一般の人々との開かれた対話を促進する」
OECD開発プロジェクトの環境影響の評価のための実施要領
第7条は「実施国のNGOの参加を奨励することが重要である」(34項)として、地域の機関とターゲットグループを巻き込むことを推奨している。
米輸銀及びOPIC
両機関とも環境影響をもたらすプロジェクトの最終判断を下す前にEIAを公開することを定め、それぞれがガイドラインでNGOからのインプットの価値を認識している。OPICはIFCの「望ましい実施要領」を満たすことを推奨している。
輸銀ガイドラインは透明性と住民参加に関して何も述べていない。輸銀の環境チェックリストは、一方の利益を代表する借入人側に住民への影響を尋ね、いかなる関心によるものか、「NGOの動き」について質問している。
「UNEPによる環境アセスメントの目的と原則」や、世銀グループの手続き、OECD/DACガイドラインはいずれも、人々の生活環境に影響を及ぼす活動において透明性と住民参加を確保することが民主主義の基本的な原則であることを示している。これとは対照的に、輸銀は住民参加をかってに裁量し、情報へのアクセスを閉ざして、重大な環境影響を及ぼすかもしれないプロジェクトの意思決定における情報公開と住民参加を確保しようとしない。
輸銀の規定は、透明性を保つことや、重要な技術的・社会的知識を与えてくれるはずの地域の影響を受ける人々・NGOとの協議を避けている。こうした政策はいっそうの環境・社会問題と、人々の間に疑念と反対を引き起こし、結果的にプロジェクトリスクを高めることになるだろう。透明性と市民社会との対話の欠如は、他の多くのECAにも共通する根本的な問題である。輸銀は常に人々と合意しなければならないわけではないが、国際的な基準は、ECAがプロジェクトごとに人々と対話することを求めている。
4 社会の持続性
メセムNGO宣言
「公的支援を得る民間セクターの投資は、工業国ならびに途上国双方の公的利益に資するものでなくてはならない。これは、他に多くの使い道のある希少な公的金融支援を使用することに対する、ごくシンプルな条件である。公的資金・保証・保険は、コミュニティや市民に否定的な環境・社会影響を及ぼしたり、直接・間接に人権侵害をもたらす投資を支援してはならない。」
IFC
IFCは以下に規定するような強制労働及び児童労働を伴うプロジェクトを支援しない。プロジェクトは実施国の国内法を満たさなければならず、これにはプロジェクトの労働基準や、その実施国が批准した関連条約も含まれる。IFCはこの政策を実施するため、契約書類に必要な条項を取り入れる。これらの基準はILOの強制及び義務労働に関する第29規約の第2条と、児童の権利に関する国連規約第32条第1項に基づくものである。
さらに世銀グループは貧困化を防ぐための社会環境安全策を多く設けている。たとえばIFCの業務政策は決して十分であるとは言えないが、OP4.04「野生動植物の生息地」、OP4.09「害虫管理」、OP4.10「先住民族」(策定予定)OP4.11「文化財の保護」(策定予定)、OP4.36「森林」、OP4.37「ダムの安全」、OP4.12「非自発的移住」(策定予定)、OP7.50「国際河川プロジェクト」などにより、なかないい基本線を示している。
これらの政策は他でも適用可能であるから、環境に影響を与えやすい採取・インフラプロジェクトを多く支援している輸銀は、世銀の非自発的移住及び動植物の生息地に関する業務政策を採用すれば、野生動物の生息地を破壊することも少なくなり、とりうる最後の手段になるまで移住を強いる(適切な補償を用意して)こともなくなるだろう。
輸銀
(6.環境配慮の適切性を確認するための基準等)
:【1】自然環境:「プロジェクトの自然環境に関する項目については、原則としてプロジェクト所在国の法律等により規定されている環境関連の基準の遵守を確認する。プロジェクト実施国の環境関連の基準が、国際的な基準(世銀の環境ガイドラインに示されている基準等その妥当性が国際的に認知されている基準)や日本の基準から著しく乖離している場合や、プロジェクト実施国において現時点で規制が確立していない項目がある場合には、我が国の基準や国際的な基準を参照し、環境配慮の適切性の確認を行う。」
【2】社会環境(特に住民の非自発的移転):「自然環境への配慮だけではなく、社会環境、特に非自発的な移転を余儀なくされる住民及び周辺住民に対して、説明が十分なされるなど、住民の同意が得られるための適切な配慮がなされていることが必要であり、本行はこれを確認する。何らかの問題が生じた場合には、本行は、配慮の適切性について、国際的に認知されている考え方・手法を参考にしつつ確認する。」
原則:「なお、本行は、出融資等の対象となるプロジェクトについて環境面での配慮が適切になされていることの確認を行なう一方で、地球温暖化ガス排出削減に貢献するプロジェクトを含む環境改善プロジェクトのための融資については、これを積極的に取り上げる方針である。」
輸銀自体は人権について何も判断を下さず、国際的に認められた最低限の社会環境基準を確実に満たすためのいかなる規定も定めていない。このガイドラインは、そうしたことをただ配慮するよう求めているに過ぎない。輸銀のガイドラインは、内部のスタッフが主観的に配慮し、実行しなくてもすむようなものではなく、意味のある基準とされるべきである。
アファーマティブな政策として温暖化ガスの削減を進めるのは評価できるが、この政策を説明し実行するためには透明なプロセスで基準を策定しなければならない。われわれはまず、輸銀が支援するプロジェクトが気候[変動にもたらすであろう]効果を知るために、すべてのプロジェクトについて温室効果ガス計算を行うことを提言したい。その上で持続的再生可能エネルギーと炭素削減プロジェクトのねらいと目標を設定することである。
5 共通の社会環境基準
メセムNGO宣言
「上記の原則に基づき、われわれは各国政府に以下を行うよう求める。
G7やOECD等の場において輸出信用機関共通の社会環境基準に合意するよう働きかけること。合意に達するまでの期限を2年以内に設置すること。世界銀行グループやODECDの開発援助委員会など、公的・私的投資を支援する他の公的機関が持っている基準を、基準合意の最低ベースとして採用すること。このような環境基準合意の対象を投資保険機関にも拡大すること。これらの機関はOECDにおける議論の対象とはなっていないが、ベルンユニオンや信用・投資保険国際ユニオンなどで共通の議論の場を設けることが可能である。」
IFC
(4月12日及び13日付の国際金融機関会議に関するIFC総裁ピーター・ウォイジケの手紙):「会議参加者は、国際金融機関の環境政策・基準・手続きにばらつきがあることを認めたが、これは民間セクターの取り引きが特にインフラ投資においてますます複雑化していること、またこれらの機関が協調行動を取る機会が増大しているため、問題を引き起こすことがある。支援を求める企業や政府、NGOは、共通の基準と手続きを設けることが望ましいと指摘している。」
米輸銀
米輸銀は、最低限の基準として世界銀行の環境基準を採用している典型的機関である。さらに米輸銀の環境手続き及びガイドラインでは、「米輸銀は引き続きOECDの枠組みにおいて、海外プロジェクトへの金融支援に関する環境問題に適切に対応するため他の輸出信用機関との合意を探る」と述べられている。
海外民間投資公社(OPIC)
OPICは世銀の汚染防止・削減ハンドブック及びIFCの業務政策を遵守するよう求めている。さらにOPICはベルンユニオンの場や、ドイツやカナダなど個別の金融機関との会合において環境問題を取り上げている。環境面で有益なプロジェクトへの融資にも高い関心を持ち、「アジア環境プログラム」というパイロットプログラムを発足させている。
輸銀
(6.環境配慮の適切性を確認するための基準等):【1】自然環境:
「プロジェクトの自然環境に関する項目については、原則としてプロジェクト所在国の法律等により規定されている環境関連の基準の遵守を確認する。プロジェクト実施国の環境関連の基準が、国際的な基準(世銀の環境ガイドラインに示されている基準等その妥当性が国際的に認知されている基準)や日本の基準から著しく乖離している場合や、プロジェクト実施国において現時点で規制が確立していない項目がある場合には、我が国の基準や国際的な基準を参照し、環境配慮の適切性の確認を行う。」
輸銀は、国際的に認められた環境基準を単に「参照」するだけである。世界最大の輸出信用機関として、またOECFとの統合により世界最大の金融機関となるだけに、輸銀はすぐにも国際議論をリードする役割を果たすことを考えるべきである。しかし、最近になってもサンロケダムのような問題の多いプロジェクトへの支援を決定し、OECD輸出信用ワーキンググループでも改革議論に口をつぐんだままでいることなどを見ると、多国間において透明かつ意味ある解決に到達する上で輸銀の果たす役割は疑問視せざるをえない。
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