旧日本輸出入銀行の
「環境配慮のためのガイドライン」 (99年9月策定)に対するコメント 国際協力銀行総裁 保田 博 様 日本の国際金融活動に関心を抱く私たち市民グループは、貴銀行の「国際金融業務」部門となった旧日本輸出入銀行(以下「輸銀」)が先に発表した「環境配慮のためのガイドライン」に関して、いくつかのコメントを述べたいと考えます。 輸銀と海外経済協力基金(以下「OECF」)との統合によって、世界銀行を超える世界最大の国際金融機関「国際協力銀行」が誕生することになりました。この折りに輸銀が新しくガイドラインを定めることは、国際社会に対する責任に基づいて透明性と市民参加を高め、持続可能な社会・環境に向けて努力していく日本政府の姿勢を示す機会にもできたはずです。 しかしながら、旧輸銀のガイドラインはこのような私たちの期待を裏切るものであったと言わざるを得ません。環境・社会影響への配慮の姿勢は全般的に弱く、市民社会に対する責任の認識が欠如しています。特に、国際協力銀行が世界の人々と環境に及ぼす影響の大きさを考えると、透明性や市民参加に関してガイドラインが一言も触れていないのは、ほとんど危険であるとさえ言えます。 旧輸銀が作成したこのガイドラインは、今後に予定されている海外経済協力業務との統一ガイドライン作成過程において見直されることになります。私たちは以下に旧輸銀ガイドラインにおける最も重要な問題点のいくつかを指摘し、今後の統一ガイドライン作成過程でこれらの点が改善されるよう要請いたします。 1 「環境配慮のためのガイドライン」へのコメント (1)持続可能な環境・社会、人権保護に対する責任ある姿勢 平成11年度予算によると国際協力銀行の年間予算は約3兆円、このうち旧輸銀の出融資額は約2兆円に上る。巨額の輸銀融資は主に日本企業の海外進出支援を主目的としているが、近年は構造調整や民営化の支援、アジア各国の公債保証など世界経済秩序維持における役割をますます拡大するようになっている。 このように世界の社会や環境に多大な影響力をもつにもかかわらず、旧輸銀は市民社会の関心に応えようとせず数多くの持続不可能なプロジェクトを支援して、多大な環境破壊や人権侵害、膨大な債務をもたらしてきた。これは国際的に模範的と認められる行動基準から大きくかけ離れており、一刻も早い改善が必要とされている。 しかしガイドラインにおける旧輸銀の「基本的考え方」は「プロジェクト実施主体者による配慮が適切になされていることを確認する」という姿勢にとどまっており、社会環境被害を防ぐ責任を認識していない。プロジェクトが「環境に著しい影響を及ぼす恐れがあると判断される場合」にすら、出資等を行わないとの判断も「ありうる」としか述べていない。 国際協力銀行は公的機関として「深刻な環境・社会影響や人権侵害をもたらすようなプロジェクト等に対してはいっさい支援を行わない」という明確な原則を示すべきである。ガイドラインはそのような問題のあるプロジェクト等への融資を防ぐために策定されるものである。
旧輸銀はその活動や政策に関するほとんどの情報を一般に公開していない。プロジェクトによって直接影響を受ける住民も、十分な協議や参加の機会を保証されるどころか必要な情報を手に入れることさえ難しい。旧輸銀はこれまで情報公開と住民参加の拡大を、借り手である企業や相手国政府の守秘義務を理由に拒んできた。しかし借り手の守秘義務は、輸銀が支援するプロジェクト等によって引き起こされる深刻な問題を正当化する理由にはなりえない。 また、国際協力銀行の多額の貸付資金は日本の人々の年金や貯蓄を原資とする公的資金であることを心にとめる必要がある。実際に日本の対外債権は繰り延べを続け、政府は深刻な赤字財政に直面しているのであり、国際協力銀行は環境や人権問題に関心を寄せる多くの人々の声に応えて公的資金の適切な利用につとめる責任がある。しかし現状では日本の市民は多額の公的資金の使途についてほとんど知らされていない。 したがって、このガイドラインが情報公開や住民参加に関する規定を全く欠いていることは、プロジェクト等によって影響を受ける可能性のある人々にとっても、活動資金を提供することになる日本の人々にとっても、とうてい受け入れ難い。今後策定される共通のガイドラインにおいては、環境影響評価書を含む案件関連情報を融資決定前に十分な期間公開すること、また、直接影響を受ける現地の人々への情報公開と協議、住民参加が明確に位置づけられるべきである。 (3)環境アセスメント及びスクリーニング 環境アセスメントはプロジェクト等による社会環境被害を防ぐという目的に基づき、案件のスクリーニング、想定される環境影響やリスクの分析、情報公開と協議、代替案の検討、プロジェクトの改善、モニタリング、影響緩和措置など一連の手続きを含むものでなくてはならない。しかし輸銀のガイドラインはこれらの国際的に最低限必要とされる規定を欠いており、社会環境被害防止という目的を達成するには全く不十分である。 輸銀は、原則として借入人の提供する情報がプロジェクト所在国の環境基準等を満たすことを確認するだけである。環境影響評価書(EIA)が要求されるのは、カテゴリーAプロジェクト、及びカテゴリーBについては「日本の基準または国際的な基準と比較して大きく乖離している場合」または現地基準がない場合のみに限られている。 しかし「大きく乖離している場合」が具体的にどういう場合か明らかでない。輸銀はこのようなあいまいな規定を廃し、最低限日本の基準や世界銀行基準などの国際的基準を遵守させるべきである。また輸銀が「カテゴリーA」としている原生林、国立公園、先住民族居住地など「Sensitive Area」におけるプロジェクトは、国際的な常識からは一切の融資を禁止されるべきカテゴリーである。輸銀はこれらを融資を禁止するカテゴリーとして明示すべきである。現在カテゴリーBとされている多大な環境影響を及ぼしうるプロジェクトについては、全て環境影響評価書(EIA)を要求してより厳格なスクリーニングを行うべきである。 2 今後のOECFとの統一ガイドライン作成に向けての要望 上に述べたように、輸銀の作成した新ガイドラインは、日本の市民と世界の人々に対して責任ある行動をとるためにはきわめて不十分であるといわざるを得ない。また旧OECFはいくぶん進んだ環境ガイドラインをもっているとはいえ、実際の行動は十分に社会環境上持続可能なものとは言い難く、特に情報公開と住民参加に関しては全く不十分である。したがってこの2機関のガイドラインを統一する過程においては以下の原則を採用するよう、強く要請します。
また統一ガイドラインを作成する過程においては、十分な期間を設けてNGO等関心を持つグループの参加を保証すべきである。ガイドライン作成の過程は、日本市民に対してだけでなく国際社会に対して十分に透明性を保って行われるべきである。 |