2005年5月16日
スリランカ・南部ハイウェイ建設事業
ADB・遵守調査パネル
政策違反を認め、遵守を勧告
5月6日、アジア開発銀行(ADB)の新しい異議申し立て制度であるアカウンタビリティー・メカニズムの遵守調査パネルは、スリランカで建設中の南部ハイウェイ建設事業に関する調査を終え、同事業におけるADBの政策遵守に関するドラフトレポートを出しました。レポートでは、現地住民が申し立てたADBによる政策違反の多くを認め、今後の政策遵守のための勧告を提言しています。
今後の予定としては、6月13日までにADBの事務局と異議申立人が遵守調査パネルにこのレポートに対するコメントを提出し、遵守調査パネルはそのコメントに基づいた最終レポートを作成することになります。その後、最終レポートはADBの理事会にかけられ、7月には、ADBの理事会が、事業に関する政策遵守・不遵守とその対応に関する最終的な判断を行うことになります。
元のドラフトレポートの本文は約60ページにも及んでいます。以下は、ドラフトレポートにおいて指摘されたADBによる政策違反と、今後の政策遵守に向けた勧告の一部の要約です。
>ADBによる政策違反
>ADBへの勧告
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▼ADBによる政策違反
(1) 環境配慮に関する政策における違反
関連する政策:OM Section 20 issued on 7 January 1997, OM F1 of 29October2003
・EIAでは最終ルートがカバーされていないにも関わらず、事業に含められており、最終ルートの選定段階で、政策の不遵守があった。
・理事会での事業承認前、ADB事務局は、事業の大幅な変更(第二ルートから最終ルートへの変更等)について認識していたにも関わらず、その事業変更を理事会に通知しなかった。そして、1999年11月、変更前の事業計画に基づいた情報に基
づいて理事会は融資を承認した。ADB事務局は、事業変更を踏まえた情報をADB理事会に提出するべきだった。法律的及び技術的にどのような理由があろうとも、ADBのとった行動は環境配慮政策の精神に違反している。
・南部ハイウェイからゴールへのアクセス道路のEIAが実施されていない。
(2)非自発的住民移転に関する政策違反
関連する政策:OM Section 50 issued on 7 January 1997, OM Section 47 issued on 7 January 1997、OM Section 40, issued on 12 December 1995
・ADB事務局は、最終ルート選定の際、住民移転を最小限に抑えることや住民へのコンサルテーションの実施に関して注意を払わなかった。また、融資契約にも書かれている「住民移転計画」の実施のための独立委員会の設立を進めなかった。
このような住民移転に関する重大な過失は、ADBが政策遵守のための適切な対応策をとらなかったことを意味しており、現段階で事業が政策を遵守しているとは言い難い。
・移転以外によって引き起こされる事業の問題に関しては、Grievance Redress Committee(GRC)によって対処され、GRCは2003年の終わりには設置される予定だったが、現在も設置されていない。政策では、ADBスタッフは政策を遵守させ
るため、あらゆる手段をつくさなくてはならないことになっているが、2005年現在も、ADBはこの設置のための効果的な取り組みをしていない。
・2004年5月の時点で、スリランカの財務省は道路開発局に対して1900万ドルを払っているが、この額は、本来支払われるべき金額よりも、2140万ドル少ないものである。この点、融資契約において、「移転実施計画」を実施するために適切
な予算をスリランカ政府は事業実施者であるスリランカ・道路開発局に与えるように示されてある。それにも関わらず、ADBは、期日どおりに補償のための資金が道路開発局に支払われるようにスリランカ政府に適切に要求していない。
(3)ガバナンスに関する政策違反
関連する政策:OM Section 54 issued on 13 January 1997
・最終ルート決定前に、最終ルートに関する住民への通知が確保されるよう、アシストする責任がADBにあった。
・スリランカ政府が適切に事業に関する情報を公開し、住民が事業プロセスに関われるよう、アシストする責任がADBにあった。
・OM Section 54 では、政策遵守を決定する明確な基準を提示していないので、ここでは、ADBがより注意を払うことが出来た項目に関して少し述べた。ガバナンスに関する政策の重要な部分に関しては、OM Section 40 と OM Section 20に含まれているので、そこで政策違反を指摘している。
(4)経済分析に関する政策違反
関連する政策: OM Section 36 issued on 12 November 1997
・OM Section 36に関する政策違反はない。
(5)モニタリングと評価に関する政策違反
関連する政策:OM Section 22 issued on 7 January 1997、OM Section 47 issued on 7 January 1997.
・最終ルートに関する社会調査など、各種調査が実施されており、モニタリングと評価に関しても言及されているが、2000年に実施された社会影響評価は不十分である。最終ルートにおける受益者のベースラインデータを確定する追加的な評価が必要である。
(6)ジェンダーと開発に関する政策違反
関連する政策:OM Section 21 issued on 7 January 1997、OM Section 47issued on 7 January 1997.
・事業による女性への影響が重大であるにも関わらず、政策が要求している事業準備段階においてジェンダー分析が実施されていない。従って、理事会の承認時にも、さらにその後の事業実施やモニタリングにもジェンダーの側面が考慮され
ていない。
・第二ルートに関してジェンダーの側面が適切に考慮されたとはいえないし、さらに、最終ルートに関してはジェンダー分析が実施されていない。
(7)融資提案のプロセスに関する政策違反
関連する政策:OM Section 34 issued on 13 January 1997
・政策では、事業のプロフィールをアップデートすることが要求されているが、事業が2001−2年にインスペクションにかけられた時も、「住民移転計画」が完成したときも、事業のプロフィールはアップデートされなかった。ADBは、この
ように、事業について適切に情報公開してこなかった。
(8)協調融資に関する政策違反
関連する政策:OM Section 29 issued on 12 December 1995
・協調融資に関する政策違反はないが、協調融資のアレンジメントがより明確に記述・計画されるべきだった。
・JBICとの協調融資のアレンジメントにおいて、ADBの監督権やモニタリングの役割が不明確である。例えば、同事業におけるJBICによるエンジニアリング・サービスの融資は、協調融資の計画やアレンジメント等で考慮されるべきだった。
・ADBは、事業における自らの役割を'lead agency'としているが、JBIC区間における事業の建設中に、ADBが「住民移転計画」をモニタリングし、ADBの環境政策をJBIC区間に適用できるかどうかは、明確ではない。
(9)事業範囲と実施アレンジメントの変更に関する政策
関連する政策:Project Administration Instructions (PAI) No. 5.05 issued 1 June 1995、Project Administration Instruction No. 5.04 issued December 2001
・ADBは、1999年12月から現在まで、最終ルートへのルート変更が事業スコープの変更を要するかどうかを確認する努力をしなかった。
・事業スコープに変更があった時(CTからFTへの変更の際、JBICの融資が120Mil$から180ML$に増加した際E、Environmemntal Findings Reportによって環境影響とその緩和策に変更があった際、移転世帯が増加した際)に、ADBは事
業スコープや実施アレンジメントを変更をしなかった。ADBは、道路開発局による最終ルートへのルート変更の決定を知らされた時点で、事業スコープの変更を決断すべきだった。
▼ADBへの勧告
これらの政策違反を元に、遵守調査パネルは計16もの勧告をだしています。
まず、過去の政策違反に関しては、以下の3点の項目が挙げられています。
(1)過去5‐10年の道路事業への融資でも、その事業範囲において大幅な変更があり、そのことがADBによるセーフガード政策遵守を困難にさせているのかレビューすること。もしも、他の事業においても同じように一定の変更があるよう
ならば、セーフガード政策を修正すること。
(2)協調融資の取り決めが事業の政策遵守を妨げているかどうかを確認するため、STDP及びその他のプロジェクトにおける、協調融資に関する取り決めをレビューこと。また、政策遵守を強化するための制度上の改善策にも取り組むこと。
(3)ADBの「移転ハンドブック」の追加的版を作成し、実施機関による移転実施及びモニタリングにあたって必要な、実施機関の適切な組織能力と手腕に関する取り組みについて言及する。
さらに、南部ハイウェイ建設事業の政策遵守のために必要なこととして、以下の13点の勧告が出されています。
(4)ADB区間においてルート変更のあった部分、またゴールへのアクセス道路に関する環境影響評価の実施(*1)
(5)(1)の評価の結果とそこで勧告された緩和策を、事業の環境管理計画に含めること
(6)ジェンダー分析の実施と、ジェンダーの側面の配慮に関する評価の実施
(7)全被影響住民が移転前に補償の支払いを受け取れるよう、主張すること
(8)Project Administration Instruction No.5.04で示されているように、事業スコープの変更の有無を直ちに決定すること
(9)「移転実施計画」が要求している通り、Management Information Systemを通じて、生計回復プログラム、また、世帯別のベースラインデータの確立に、より直接的に関わること。
(10)事業に関する全ての情報(特に「移転実施計画」の中核となる部分に関して)を、全ての被影響世帯に、適切な言語で提供すること。
(11)独立機関による移転実施のモニタリング体制の確立
(12)再定住地における、電気・ガス・水道などの公共設備の設置
(13)特に女性に関して、「移転実施計画」と生計回復プログラムを重視し、必要な場合には、それをモニタリングするスタッフを配置することを強く主張すること。
(14)モニタリングと評価に関する詳細な事業のフレームワークを用意すること。その際、社会的な問題に関する成果などを含めること。
(15)モニタリングと評価のためのベースラインデータを確立するため、最終ルートにおける事業受益者の追加的評価を準備すること
(16)事業に関する情報に関して、ADBのホームページでは、最後にアップデートされているのは2000年3月15日である。事業において政策が遵守されるまで、事業に関する全ての情報を今後少なくとも一ヶ月に一回はアップデートすること。
*1 最終ルートに関する事業の補遺版環境影響評価に関しては、既に実施されている。
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