▼レポートの背景
第四回ニシコククジラ顧問パネル(WGWAP-4)は2008年4月22日から25日までスイスで開かれた。前回WGWAP-3からはパネルと管理経営者が一名、構成員が二名変更になった。また、WGWAP-3で表明した通りパネルは既存のニシコククジラ保護のためのサハリンエナジー社(SEIC)への提言活動のほか、独自の作業計画の作成に力を入れている。前回の会合からの間には主にSEICの2007年実施細則の確認と地震探査タスクフォースの作業の継続が行われた。
▼指摘された問題点(抜粋)
多変量解析
これまでの多変量解析は事業からの距離、海底の状況や食料状況などによるクジラの自然分布パターン、船舶に届く他の音源の影響などの複雑な要因により工事の騒音の影響を確実に結論付けるにいたっていない。工事の騒音に関する疑問を解決するにはデータの更なる解析が必要である。
継続的な騒音のモニタリングと管理
2007年騒音最終レポートは確認が行われおり、シーズンを通しての音響結果が議論できなかった。また、これまでの度重なる指摘にもかかわらずまたしても高品質録音が可能な機器の設置が遅れたことに懸念を感じる。さらに、SEICは、SEIC・ENL(エクソン・ネフチェガス社)共同調査プログラムによって集められたデータをパネルの検証のために公開することをENLが許可していないと述べたが、それらも全てパネルに公開されることが重要である。しかし、最大の懸念は騒音レベルの予測がクジラの密度・分布調査地域から遠く離れた場所で取られたデータをもとにしたものであることにある。
WGWAP-3で発表された事前データが示した通り、2007年にPAB-20で記録された騒音レベルはパネル継続的騒音基準を超えていた。しかし、ピルトゥン及びオドプトゥPA-Bにおける騒音レベルは許容範囲内であり、これは少なくとも部分的にはSEICによる緩和策によるものと思われる。SEICはこの調査法の有効性に疑問を挙げたが、分析の結果は十分なモニタリングの重要性を再確認させるようなものであった。
SEICの騒音管理と緩和プログラムの進化と教訓
SEICの騒音モニタリング及び緩和プログラムに用いられている音響モニタリング機器の充実度に疑問があるが、以前からの二つの提言が未だに実践されていない(「行動・音響同時モニタリング」の第三項(IISGレポートp.22)と提言書WGWAP
3/031)。この機器に関する事項は提案されている2009年地震探査、及びモニタリングライン近辺の空砲シグナルの届く範囲、そしてそれらシグナルの音域を考えると特に重要である。よってパネルは現在の機器では不十分であることを危惧している。
海底モニタリング
環境モニタリングは、事業による慢性的な影響を見つけ、ニシコククジラの採食エリアへのダメージを回避するために欠かせない。また、データ間の数的関連性を調べ、生態系特有の機能を検知するために環境モニタリングタスクフォース(EMTF)を設立することに合意した。
環境モニタリングに関する未対応提言
影響が明確でない騒音被害を最小限に抑えるために最も有効な策は地震探査をシーズンの出来る限り早い時期に行うことだ。さらに、―@クジラがいるときの調査時に要求される騒音レベルを最低限に抑えるAクジラがいるときに必要情報を時間外でも得られるような制度の構築―を目的とした将来の事業実施の重要性を強調する。
2009年地震探査のモニタリングに関する詳述
以前地震探査によるヒゲクジラへの影響データ不足がニシコククジラへの影響審査の障害となったこと繰り返さないため、関連データの収集を最大限行い、より効果的な緩和策を立てられるよう十分なモニタリング努力がなされることが重要である。
タスクフォースは、2009年モニタリングの最終計画完成の十分前に、適切な専門家チームがSEIC科学者と共に完全なフィールドプランの策定と提案された分析を行うべきであるとし、パネルもそれに同意した。
石油流出提言に対するSEICの反応
石油流出経路のモデリングに関して、SEICは以前あげられた三つの事項がWGWAP-3以来取り上げられていないことを認めた。WGWAP-5に採食エリア、クジラの移動経路、船舶の運行経路の変更による影響などの情報を更新することを推奨した。また、冬季の訓練に関して2008年と2009年に予定されているリストと終了した訓練とその教訓を述べたレポートを要請した。
ピルトゥン潟に関する提言も油流出時対応計画(OSRP)に組み込まれたそうだが、今会合のパネルの提言により環境モニタリングタスクフォースが更に修正する必要がある。
Pacific Environment とWWFロシアからのレターへのパネルの返答
SEICは条約に該当するかどうかにかかわらず全ての汚染の責任を果たすことを強調した。社の保険補償範囲はOSRPに明記されており、パネルは予定されたOSRPの改訂版の審査時にこれも審査することを確証した。
パネルは緊急時対応訓練の正式なレポートを求めた。
パイプラインからの油流出を最低限に食い止めるにはパイプラインの定期的な検査や清掃管理が重要である。
SEICのWGWモニタリングと調査に関する2008−2010年間の計画
2002年から2007年までの調査を以下の項目等について続ける:(1)船舶調査、(2)海岸からの分布調査、(3)写真認証調査、(4)海底調査、(5)行動モニタリング、(6)騒音モニタリング。概念的、構造的に大きな変更の予定はない。
パネルとSEICの考えの不一致により将来的調査・モニタリング計画に有意義なインプットはなされなかったが、パネルは年間報告に多くの時間と努力が注がれているのを理解した上で、複数年次に渡る分析に力を入れることを推奨した。また、プログラムの各部門の予定開始日と終了日及びそれらが工業活動とどのような関係にあるかを把握することの重要性を強調する。提出された資料にはそのような情報が欠けていた。
提出された資料に示された調査・モニタリングプログラムは意欲的に見えるが、データや情報をいかに収集、分析、統合するかに必要な技術面での詳細が不足している。
▼助言
・航路から外れて、ニシコククジラの採食エリア内に入った船舶の航行を記録し、年間MMOレポートに発表することを続けること。
・座礁したクジラの調査の為、サハリン島の戦略地点に計三つの検体キットを用意すること。
・ クジラとの衝突等を避けるために、クジラの採食エリア内における受信機の設置及び回収に用いる船舶は、できる限り小さく、かつ速度を落とし、慎重に運転すること。
・透明性のために、顧問パネルから推薦された独立オブザーバーが地震探査に立ち会うことの重要性に鑑み、サハリンエナジー社はWGWAP-5までに、その可能性についてパネルに報告すること。
・WGWAP-5での検証のために、芳香族化合物含有量(aromatic content)、乳化特性、波浪水槽または海上実験、現場燃焼及び生分解性、その他実施中の調査と終了予定時期に関する最新情報を提出すること。
・ 油流出対応計画の改訂版が融資候補者アドバイザーに提出されたが、検証し、コメントできるように、パネルに改訂版が提出されること。
・プログラムの資力のより多くを統合的な多年間に渡る分析に当てること。
・アニワ湾地域での油流出モデルの更新を次項に関してWGWAP-5までに提出すること:(1)ニシコククジラ採食エリア、(2)ニシコククジラ移動経路、(3)予想される船舶航行パターンの変化によるリスクの増大。