サハリンエナジー社(以下SEIC)が、オオワシなど鳥類の重要な生息地として知られるサハリン北東部のチャイボ湾で、鳥類の繁殖期にあたる5月現在、パイプライン敷設工事を行なっていることが明らかになりました。
FoE Japan はSEICに対して抗議するとともに、ただちに建設工事を中止するよう要請するレターを6月5日付けで送りました。
レターの詳細はこちらをご覧下さい。(PDFファイル・英語)
SEICへの建設工事中止要請の抗議レター
チャイボ湾は、天然記念物のオオワシのほか、カラフトアオアシシギなど
「日露渡り鳥保護条約」記載種を含む
鳥類の重要な繁殖地として知られるため、同社のルート選定に対して、同地域に生息する鳥類の生態に詳しい
日本の野生生物専門家らは強い懸念を表明していました。
SEICは、同社が一般公開した環境文書の中で、同地域を「鳥類の貴重な生息地」と認識した上で、緩和策として「チャイボラグーン横断には水平掘り工法を採用」
「レッドブック記載鳥類の繁殖域である湿地生息域での工事は冬期に実施」などを公約として掲げていました。
◆危惧される鳥類の繁殖行動への影響(猛禽類医学研究所 解説)
繁殖期は、鳥類が一年中で最も神経質になる時期であり、繁殖行動に対して何らかの妨害行為があった場合、速やかに営巣放棄等による繁殖失敗をきたす恐れがある。
一般に繁殖ステージ(求愛、造巣、抱卵、育雛)が早いほど、妨害行為に対して敏感であるとされ、繁殖地の破壊や直接的な繁殖妨害のみならず、人間
や車両、重機の立ち入り、騒音、照明なども繁殖行動に悪影響を与える要因 となる。特にオオワシやオジロワシなどの大型猛禽類では、繁殖期が早期に始まる傾向にあり、オオワシでは2月下旬から本格的な繁殖行動に入るものもいる。また、コシジロアジサシなどでは、特定の地域における安全性、充実した採餌環境などの要素が複雑に関与しあい集団繁殖地(コロニー)を形成する。したがって、コロニーとして成り立つうえで必要な条件が、開発行為によって何かしらの影響を受けた場合、集団繁殖地そのものが崩壊する危険性がある。
カラフトアオアシシギなど希少性が極めて高く、特異的な地域・環境を繁殖地としている種(代替地が少ない)にとっては、彼らの繁殖行動を妨害する行為は種の存続に大きな影響を与えかねない。
さらに、本来人間が立ち入ることの無かった地域に道路の造成などが行なわれることにより、二次的にヒグマやキツネといった捕食動物が容易に鳥類の繁殖地に入り込み、鳥類に対する捕食圧が高くなる可能性も否定できない。
さらにハンターや釣り人などのアクセスルートにもなる可能性があり、人的影響も工事活動によるものに留まらない。