サハリン先住民族、JBIC総裁へレター提出
サハリンの先住少数民族協会が、1月21日付けで、国際協力銀行(JBIC)の篠沢総裁に対してレターを提出しました。先住民族は、サハリン開発がJBICの環境社会配慮ガイドライ
ンやILO条約にも違反していることにも触れ、JBICに対し以下の対応を求めています。
・独立した民族学的アセスメント(Ethnological Expertisa:文化影響評価)を行うようJBICの権限を行使すること。
・サハリン先住民族の開発基金を支持すること。
・サハリンII事業の危険な影響を緩和するための措置を即刻取ること。
・JBICの環境社会政策や指針を遵守すること。
・貴行が私たちの権利を尊重し、サハリンIIがこれらの条件に見合うまで融資を行わないこと。
また、同協会は同じくサハリンII 第二期工事への融資を検討している欧州復興開発銀行などにもレターを送ったもようです。JBICが早期に適切な対応を行うことが望まれます。
↑写真は、先住民族による抗議活動の様子。 右の写真のバナーには、「民族学的アセスメントの実施を求む!」の文字が見えます。
☆★☆みなさんのアクションを!!☆★☆
また米NGOパシフィックエンバイロメントのホームページから本件に関して 対応を求めるEメールを、エクソンとシェルのCEO及びサハリン州知事宛てに
送ることができます。(英語のみ)みなさまのご協力お願いいたします!! https://www.actionstudio.org/public/page_view_all.cfm?option=begin&pageid=5848
___________________
サハリン先住民族がJBIC総裁へ宛てたレター
2005年1月21日
国際協力銀行総裁
篠沢 恭助 様
サハリンIとIIへの先住民族の抗議及び民族学的アセスメントと先住民族基金の必要性に関して
尊敬すべき篠沢総裁
ロシアシベリアおよび極東・北方先住少数民族協会(RAIPON)は、サハリンエナジー社(SEIC
,シェル、三井、三菱)が行っているサハリンII事業がロシア、サハリンの先住民族の生活 や環境に及ぼす負の影響に、非常に深刻な懸念を抱えていることを謹んで提起いたします。
サハリンIIがニブフ、ウイルタ、エベンキ族の生活や環境に及ぼす負の影響と、これらの懸念に対するSEICの対応がなされないことから、先住民族は2005年1月20日、直接的な抗議活動を開始する行動に出ることにしました。
私たちは、サハリンU事業が独立した民族学的アセスメント(Ethnological
Expertisa:文化影響評価)を行うよう、貴行の権限を行使すること、サハリン先住民族の開発基金を支持するこ と、サハリンU事業の危険な影響を緩和するための措置を即刻取ること、そして貴行の環境
社会政策や指針を遵守することを要請します。また貴行が私たちの権利を尊重し、サハリン Uがこれらの条件に見合うまで融資を行わないよう要求いたします。
JBICの環境社会要件
サハリンUの第一期工事への融資者であり、第二期工事の融資の可能性がある機関として、 貴行は本事業が機構の環境指針を遵守するよう要求しています。指針には先住民族及び被
影響住民の権利に関して重要な要件が定義されています。
先住民族
プロジェクトが先住民族に影響を及ぼす場合、先住民族に関する国際的な宣言や条約の考え方に沿って、土地及び資源に関する先住民族の諸権利が尊重されるとともに、十分な情報に
基づいて先住民族の合意が得られるよう努めねばならない。 (第2部1.対象プロジェクトに求 められる環境社会配慮)
社会的合意及び社会影響
プロジェクトは、それが計画されている国、地域において社会的に適切な方法で合意が得られるよう十分な調整が図られていなければならない。特に、環境に与える影響が大きいと考
えられるプロジェクトについては、プロジェクト計画の代替案を検討するような早期の段階 から、情報が公開された上で、地域住民等のステークホルダーとの十分な協議を経て、その
結果がプロジェクト内容に反映されていることが必要である。 (第2部1.対象プロジェクトに 求められる環境社会配慮)
女性、こども、老人、貧困層、少数民族等社会的な弱者については、一般に様々な環境影
響や社会的影響を受けやすい一方で、社会における意思決定プロセスへのアクセスが弱いことに留意し、適切な配慮がなされていなければならない。
(第2部1.対象プロジェクトに求められる環境社会配慮)
法令、基準、計画等との整合
プロジェクトは、プロジェクトの実施地における政府(国政府及び地方政府を含む)が 定めている環境社会配慮に関する法令、基準を遵守しなければならない。また、実施地に
おける政府が定めた環境社会配慮の政策、計画等に沿ったものでなければならない。
しかしながら、サハリンU事業は、国際労働機関(ILO)「先住民族および部族民に関する
第169号条約」におけるロシアの義務に違反しています。
第4条
1. 当該民族の身体、制度、財産、労働、文化及び環境を保護するのに適当な措置が 取られなければならない。
2. このような特別措置は、当該民族が自由に表明する希望に反するものであっては ならない。
第7条
3. 政府は、立案されている開発活動が当該民族に与える社会的、精神的、文化的及 び環境的な影響を評価するために、適切な場合にはいつでも、当該民族との協力の下に調
査が行われることを確保しなければならない。これらの調査の結果は、これらの活動を実 施する際の根本的な基準とみなさなければならない。
4. 政府は、当該民族が居住する領域の環境を保護しかつ保存するための措置を、こ れらの者の協力の下にとらなければならない。
第15条
1. 当該民族の土地に属する天然資源に対するこれらの者の権利は、特別に保障され るべきである。これらの権利には、当該資源の利用、管理及び保全に対するこれらの民族
の参加の権利を含む。
2. 国が鉱物又は地価の資源の所有権、もしくは土地に属するその他の資源について の権利を保有する場合には、政府は、これらの民族の土地に属する当該資源の探査もしく
は開発のための計画に着手し又は許可する前に、これらの者の利益が損なわれるかどうか、 またはどの程度に損なわれるかを核にすることを目的として、これらの民族と協議するた
めの手続きを確立し維持しなければならない。当該民族は、可能な限り、これらの活動の利益に参加し、またこのような活動の結果として受けるあらゆる損害に対して公正な補償
を受けなければならない。
コモンアプローチ
JBICは、経済協力開発機構(OECD)の輸出信用グループのいわゆる「コモンアプローチ」に 賛同している。コモンアプローチは、事業がホスト国、地域開発銀行または世界銀行グルー
プの環境基準や指針、セーフガード政策を、より厳しく遵守するよう要求するものである。 本件の場合、適切な地域開発銀行とは欧州復興開発銀行(EBRD)である。
EBRD環境政策及び先住民族:
EBRDは、カテゴリーA事業の事業者に対して、十分な環境影響評価(EIA)を実施することを 要求している。私たちは、EBRDがサハリンU第二期工事のEIAは我々の懸念するのと同様
の多くの理由により目的に適していないと決定した、と理解しています。EIAを十分であ ると結論づける前に、独立文化影響評価は、EBRDやJBICが要求している追加の材料に含め
られるべきだと考えます。文化影響評価は独立したものであるべきです。言い換えれば、 この審査に関わる専門家はシェルやSEICによって選ばれるべきではなく、先住民族自身に
よって選ばれるべきです。
EBRDの環境政策はまた、「銀行(EBRD)は、関連のある国際環境条約や協定における国の
義務に違反している事業に融資をしない」と述べています。
国際金融公社(IFC、世界銀行グループ)の要件:
サハリンU事業は、特に以下の点で、IFCの先住民族に関する実施指示書(operational directive)4.20に違反しています。
先住民族に影響を及ぼす投資事業においては、借入者は当行の政策に整合する先住民族開
発計画を準備しなくてはならない…。
条件…[調査を含む]事業によって生じそうな負の傾向を予測するために全力を尽くし、
悪影響を避けるか緩和する方法を策定しなければならない。
開発計画は、主な投資の準備と平行して作成されなければならない。多くの場合、先住民
族の権利の適切な保護には、主要事業の目的の領域外にある特別な事業構成部分の実施を 要求される。これらの構成部分は健康、栄養、生産的社会基盤、言語及び文化の保護、自然資源への権利、教育と関係する活動を含め得る。
専門家は、ロシア連邦と多国籍企業の間で契約されている生産分与協定(PSA)で得られるロ
シアの経済利益を問題にしています。サハリンにおける、8年間に及ぶ石油とガスの採掘 で土地と海洋資源に依存する先住民族ニブフ、エべンキ、ウイルタは当然のこと、島民
への著しい利益はありませんでした。先住民族は、既に事業の実施による損害や影響、特 に漁業やトナカイ飼育への影響を感じ始めています。
サハリンの先住民族‐ニブフ、ウイルタ、エベンキは、漁業、狩猟、トナカイ飼育、野生植物採取に基づく伝統的で独自の経済で成っています。そして過度に事業実施の負の環境影響を被るのです。土木建築工学は、トナカイの牧草地や森林を破壊しており、大陸棚
での建設は、急激な漁業資源の減少や先住民族の漁業への制限を引き起こしています。サハリン北部の先住民族はいかなる持続可能で長期的な生活手段もないままに残されていま
す。
サハリンUの事業者であるサハリンエナジー社(SEIC:ロイヤルダッチシェル、三井、三菱)
は、先住民族の利害をほとんど考慮していません。発行された影響評価の分析は、先住民族の伝統的なライフスタイルへの、累積的で長期的な負の影響についての真剣な配慮は見
られない。今後数十年にわたって実施されるような、長期的な緩和プログラムや、事業の深刻な環境影響に対して先住民族が承認したプログラムもありません。経済、社会そして
文化への長期的影響の評価に関する先住民族組織の石油ガス企業との交渉の試みは、失敗に終わっています。
独立した民族学的アセスメント(文化影響評価)は、要求されている先住民族開発計画の重要な一部となり得ます。しかしながら、私たちはサハリンによって策定されている先住民族開発計画というものがあるのかを知りません。
SEICは、私たちに完全で信頼性のある事業情報を提供してくれたことはありません。さらに、誤った情報が公表されている事業の資料にふくまれており、また先住民族組織との真剣な対話を渋る姿勢が、私たちを抗議活動へと追い立てたのです。サハリン地域の北部の
先住民族の第五回目の議会が10月29日に開催され、以下のような決定が下されました。 「国際的な正義やロシアの規制の原則や規定にあるような、先住民族の権利を侵している
石油会社に対する抗議活動を通じての我々の法律上の権利を防衛するプロセスを開始する こと」この決定は、ロシアシベリアおよび極東・北方先住少数民族協会に支持されています。
そしてこれが2005年1月20日に始まった抗議という形となって表れています。この抗議の 期間は、石油ガス企業や機関から受け取った回答次第です。
JBICにおける貴殿のリーダーシップ、またロシアの先住民族の将来への関心を持ってくださりありがとうございます。私たちの懸念の重大な性質に鑑み、この事態に貴殿 に個別の配慮をいただけると幸いです。早期のご回答お待ちしております。
ロシアシベリアおよび極東・北方先住少数民族協会 副代表
パヴェル・スリャンジガ(Pavel Sulyandziga)
|