>English
サハリンU石油・天然ガス開発事業
欧州復興開発銀行ヘ宛てたコルサコフ住民からのレター
欧州復興開発銀行(EBRD) 御中
CC:サハリンエナジー社
2004年6月18日
サハリンのコルサコフ地方の住民からなるロシア連邦の市民主導のグループは、貴行がサハリンU事業の開発に対して資金提供を行う条件を決定する際に、私たちの利益・生活状況、私たちのニーズ、私たちの激しい憤りを考慮してくれることを願い、貴行に訴える。
2002年から2004年にかけて、私たちはプリゴロドノエ(Prigorodnoye)村にある工場―液化天然ガスでは世界最大級の規模(以下、液化天然ガス工場)―建設地のすぐ近くに住むことを強制されてきた。建設用地は私たちの住宅の中心地からおよそ10〜13kmのところにある。サハリンUの事業者はサハリンエナジー社であり、液化天然ガス工場建設の主な契約者はCTSD社である。液化天然ガス工場はサハリンU事業の開発枠組みの一環として建設されつつある。
この事業の規模、建設用地の規模およびサハリン島とその住民に及ぼす影響の規模は莫大である。そして、不幸にも、この規模の大きさがまさにやっかいで危険なのである。
この事業計画とその実施はその開始当初から、サハリン住民の抵抗と反対を引き起こしてきた。私たちは、サハリンの自然環境の特殊性に対する事業計画者たちの高慢な態度、石油とガスのパイプラインを敷設するのに近代的で安全な技術を彼らが使おうとしないこと、に憤慨している。私たちの懸念は、パイプラインの敷設地と液化天然ガス工場の建設用地における高度な地震の危険により、さらに深刻に悪化している。
私たちは、サハリンの独特で極度にもろい自然環境に対するこのあきれるほど残酷な扱いを受け入れることはできない。また、サハリンエナジー社が頻繁に感動的な印刷物―サハリンに生息する動植物に対する石油ガス企業の愛情を謳った物語をつづった葉書やカレンダー―を出していることと比べると、実際に行われているこの扱いは特に矛盾し、消極的なものに見える。
私たちは地球上で社会的に最も活性した地域に住んでいるわけではない。私たちは開発とインフラの利用に伴う多くの問題を抱えてきた。このように全面的で、高額な、島の天然資源の長期的な利用に基づいた事業が開発のために行われる時には、私たちは自分たちの生活状況が向上することを期待する権利を持っていた。
しかしながら、この開発の開始によって、(地元住民の不信感、不満、懸念を別にしたとしても)私たちの生活は以前より悪化し、より危険になってきている。
今、私たちは、工場建設の開始によって生じ、今日までも依然として深刻に感じられるあらゆる問題点を体系化することができる。その数はたくさんある。私たちはサハリンエナジー社から何ら回答を得ていない。サハリンエナジー社の社員は、自社の準備した公聴会にしか顔をださない。そしてその公聴会には、私たちの質問に答えられる専門家は出席していない。サハリンエナジー社は、私たちに日本やオーストラリア、南アメリカでの誰だかのすばらしい人生についてのビデオを見せ、彼らの「業績」についてうれしそうに語る。そして、どこかの誰かがよりよい生活を送るために、なぜ私たちは以前より悪い生活をさせられることになるのかということについて、住民たちとの対話をしようとはしない。事実、それを拒否している。
さらに、サハリンエナジー社の代表たちは自分たちが招待された地域住民の会合に出席しない。例えば、村への道が液化天然ガス工場の運送用車両によって通行不能になったため市街地とのつながりを失い、食料もないままに放置されたオゼルスキ(Ozerskiy)の住民が、2004年4月に路上のピケを張ったとき彼らは現れなかった。郊外の土地所有者の集会の際には、土地所有者たちは、事業の変更に伴って彼らの住居が取り壊されるという既成事実を突然提示された。この状況は、コルサコフ(Korsakov)地域における事業の進展に関連する問題について、国際環境組織Friends of the Earthの代表者も参加して、コルサコフ市により行われた公式会合においても繰り返された。しかもこれらはわずか一ヶ月半の間に起きている。
私たちは、サハリンエナジー社が主張する原則―行動の透明性、地元住民の利益の考慮、自然環境の慎重な取り扱い―は拘束的ではないと考えている。
私たちは、この市や地域の生活に対する、サハリンエナジー社やCTSDや彼らの無数の、その上統制の利かない下請業者たちによる、決して許されない、悪名高く破壊的な侵略という一撃を絶対に許すことはできない!
サハリンエナジー社は、コルサコフ地域において持続可能な開発のための協力調整委員会(Partners Coordinating Board)の創設を主導し、いくつかの慈善事業に参加しようとしていることから、明らかに、自らの名声を気にかけている。しかし、サハリンエナジー社の契約業者や下請業者が国際的なおよびロシア国内の規範や規則を目にあまるほどに無視するのであれば、それらの活動はすべて意味のないものとなる。私たち全員の毎日の生活や私たちの地域の生活が危険にさらされ、極度にマイナスの影響を事業から受けている時に、つまらないことについて感情を揺さぶるような話し合いがどう役立つのだろうか。
私たちはこの訴えにおいて、私たちの土地における2年以上にわたる事業活動から生じ、特に事業の進展の新たな段階の着手に伴って私たちを不安にさせている、問題や懸念のすべてを要約しようと試みている。
現在のところ、私たちに残された現実的な解決策は以下の2つである。
1 建設現場に通じるすべての輸送幹線道路にある、ピケを越えた事業の進展を全面禁止することを政府から要求してもらうこと。
2 事業への融資について、追加的な条件の付与、及びその条件が、ロシア側の財政的な「責任を負うもの」に「転嫁」されずにサハリンエナジー社自身により達成されるという保証を要求すること。
一つ目の方法は、私たちにとってあまり建設的ではなさそうである。しかし、絶望的な状況においてはこの方法が現実的なものとなるかもしれない。
二つ目の方法の実施は、完全にあなた方次第である。
したがって私たちは、私たちの生活を困難に(ときには耐えられないほどに)し、私たちに深刻な懸念を抱かせる、そしてサハリンエナジー社が文書でも行動でも答えてくれていない様々な問題・疑問を簡潔に列挙する。
1 石油およびガスパイプライン用のパイプの敷設は、サハリンにとって技術的に危険な方法―水平堀(horizontal drilling)の方法により地下や魚の産卵地になる(spawning
rivers)川底へパイプを設置する―で行われている。私たちは、この方法が安全であるというサハリンエナジー社の議論に全く納得していない。
2 建設の過程において、アニワ湾の動植物の健全な存在についてすでに現実的な危険が生じてきている。
3 サハリンエナジー社の利益のため、および事業に関連して、アニワ湾の漁業水域のカテゴリーは「特級海域(Highest)」から「一級海域(First)」に下げられてしまっている。
4 オホーツク海の生物資源は、事業の開始当初から、すでに取り返しのつかない損害を被ってきている。
5 サハリンエナジー社はその活動情報の要求に対して閉鎖的である。
6 サハリンエナジー社は頻繁に、作業の法的期限について重大な違反をする。(道路の経路設定、貨物運搬の海洋ルート上にある自動フェリーの返還、橋脚建設のための海底作業など)
7 サハリンエナジー社はロシアの隅々から、および他の国々から連れてきた労働者のためのインフラ整備を確保しなかった。
8 サハリンエナジー社は私たちの市や地域のインフラを利用している。それについて関連する公的機関や組織に対する通知はなく、また、その侵害への補償および市や地域の住民だけのために作られた軽微なメンテナンスシステムへの負荷が深刻に増加していることへの補償もない。
9 サハリンエナジー社およびその契約者・下請業者のすべての輸送車両は私たちの市を通過していく。コルサコフを通過する重い積荷を積んだ輸送車両の量は非常に多く、市の道路が数ヶ月間利用不能になるほどである。輸送車両の流れを減らすようにという要求に応じて、サハリンエナジー社は貨物輸送を夜間に行いはじめた。交通量を制限するようにという地域の行政当局による再度の要求の後、サハリンエナジー社は輸送ルートを変更し、現在ではサハリンエナジー社の輸送車両は村の道路までも破壊している。
10 重量の大きい車両が大量に住宅の中心地を通過している間、住民の建物すべてが甚大なリスクにさらされる(振動によって壁や家具が揺れたり、壁や天井などが傾くため)。道路に隣接する教育機関・幼稚園の世話人や先生は、授業を行うことができない(彼らの声がまったく聞き取れない)。さらに、子供が猛スピードで走行する重量の大きい車両のタイヤで引かれて死亡する現実的な危険があることから、行政は子供用の横断歩道を設置するよう要求されている。
11 市の道路では、工場の車両の通行によって頻繁に事故が発生している。市の二車線の道路を通る六台またはそれ以上の車両の隊列は、ドライバーや歩行者にとって非常に危険である。
12 市の道路には、コルサコフを通過するサハリンエナジー社の輸送車両によって歩道がなくなってしまったところがある。現在、それらの道路に面して暮らしている人々は、家のドアから外へ出る度、日常的に生活が危険にさらされている。
13 工場建設において労働基準のすべてが遵守されていない。様々な国や地域から来た労働者たちは私たちのところへ連れてこられ、相応の生活条件さえも得られていない。彼らの宿舎は危険なほどに過密であり、非常に不衛生な状況で、大量中毒やノミ感染の発生は定着してしまった。また賃金労働者の多くは犯罪歴を持っている。そして、建設現場での労働者の権利は侵害されている。
14 私たちの市にとって健康と安全に対する本当の脅威が増している。他の都市からくる労働者たちは、実際に、コルサコフにHIVや梅毒を持ち込んできている。こういった事実は、労働者たちが市の領域に住んでいるにもかかわらず、コルサコフ地域の医療機関に登録されていない―コルサコフの医者を代表して多くの機会にこのような登録を要求しているにもかかわらず―という事実と関連して、特にやっかいな問題となっている。その上、私たちはデリケートで、当然起こりうる、しかし非常に深刻な問題に極度に悩まされている。というのも、コルサコフはこの市の女性住民にとって危険になってきている。私たちの市では、男性に必然的に生じる生理的問題を処理する特別な施設は存在しない。サハリンエナジー社の労働者たちは、予防的措置として、監視員のもとで全力で作業することを強いられている。様々な地域から連れてこられ、市内に家族や近親者もいない、生理的状態において性的欲求の強いこれらの人々、また(その中の多くの)犯罪歴を持つ人々―そのような人が1500人いる―がこの市の女性住民を挑発して回る。市では強姦未遂が深刻に増加している。
15 アニワ湾では工場の橋脚建設が進行している。これに関連して、湾を深くするため、海底の浚渫が行われている。この作業の完了期限は、5月1日と明確に定められている。今は6月だが、湾の浚渫が続いている。アニワ湾は、南サハリン全体の住民の食料源である。すべての生物は、陸から数マイル離れた海底で行われる浚渫と土砂投棄のために、二度も殺されている。私たちは2つの死の地帯(dead zones)を有しているのである。さらに、6月にはサケが産卵をする予定だが、サケは濁った水には入ってこないだろう。このことは、この地域が生命の持続性を失うということだけでなく、私たちの漁業や水産物加工業すべてがその生産性を失うということをも意味する。
16 第一級の森林は、現在、行政取極めに基づいて伐採されている。この取極めは、財政的に弱く、それゆえ自立的でない組織からの利益を期待しているサハリンエナジー社によって獲得されたものである。
17 この地域では、事後に作成する文書をもって様々な領域へ侵入する事態が頻繁に発生している。住民たちの伝統的な保養地など、予期しなかった場所に採掘場や伐採地、拡張された道路が存在するのである。
18 コルサコフ住民が伝統的な保養地を失ったことは、また別の問題でもある。私たちは浜辺を失い、メレイスカヤ渓谷(Mereiskaya Valley)を保養地として利用できなくなり、多くの保養地へのアクセスを失った。人々は、何年もかけて蓄積してきた、郊外にある週末用の家の家財を奪われ、補償もされていない。浜辺の喪失に対する市への補償としてサハリンエナジー社が確保した金額は、サハリンエナジー社が独自に決定した金額であり、審査はされなかった。しかしながら、この金額は、市の住民のために保養地を創設する有意義な事業をたった一つ行うにも不充分である。
19 液化天然ガス工場の建設に際してアニワ湾で行われていることは、私たちの将来だけでなく近隣の住民の将来をも侵害し、恐怖をもたらしている。オゼルスキ(Ozerskiy)村の行政当局は、日本の姉妹都市である猿払村の行政当局から会合を要請するレターを受け取った。アニワ湾とラペルザ(Laperuza)海峡の未来は、それらの存続が「今世紀最大の事業」の進展による直接の脅威にさらされているため、日本側からも懸念されている。
20 私たちは私たちの地域とサハリンの双方において生態系状況が悪化することを懸念している。まだ実際には起こっていないが、しかしながら、将来の二酸化炭素の膨大な排出とこの市の水処理に関して将来発生する問題を私たちはすでに予想している。私たちは
、サハリンエナジー社が私たちの安全、健康、生活、最低限の生計手段や運動に対して何ら関心をもたないことをすでに承知している。さらに私たちを待ち受けているものは、安全性確保のための承認された取組みもなく行われる、湾への貨物輸送用タンカーの乗り入れである。
21 私たちは、自らの生計手段の安全性について非常に不安に感じている。この恐怖は、サハリンエナジー社の活動により蓄積された様々な体験―事業にとってマイナスになるあらゆる情報の隠蔽―によってさらに強くなっている。このことは、−私たちが既に実際に見てきたことであるが−サハリンエナジー社がその過ちの解決よりも隠蔽をより気にかけているということを意味する。
22 サハリンエナジー社が問題解決のために、ロシア法制の不完全性・不明瞭さや、周知の官僚の孤立を利用することも含めて、何でもするつもりであるということに、私たちは懸念を感じている。私たちの考えでは、取極めの基準は、最低限、近代的な国際基準を適用し(そうでないとしたら、どうやって事業の近代性と国際基準の質を標榜できようか?)、(このような「巨大な」事業によって私たちの小さな市が天然ガスを利用できるかどうかによらずに)地元住民の利益を認めたものであるだろうし、そうあるべきである。
今までのところ、私たちの生活は改善されないばかりか、腹立たしさがつのり、非常に危険な状態にさらされている。
このレターに対する欧州復興開発銀行の回答をエレナ・ヴィクトロヴナ・ラシュウプキナ・ロプヒナ(コルサコフ市民グループ「Knowledge is Strength」代表)あてに提出してほしい。
* 私たちはコルサコフで行われるEBRD代表者との会合の際、このレターに署名を添えて提出したいと考えている。
コルサコフ市とコルサコフ地域の住民の署名(省略)
(合計120の署名、さらに署名を集めている)
|