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日本猛禽類臨床生態研究所 専門家による環境影響評価検証レポート
2004年2月
 日本猛禽類臨床生態研究所は、サハリンU石油・天然ガス開発事業の環境影響評価について、専門家による検証結果を公表した。下記はその概要である。開発による生態系への影響について環境影響評価が不充分であり、多くの欠陥があることを指摘している。

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サハリンU石油・天然ガス開発事業
環境影響評価 専門家による検証レポート 概要

  以下は、特に日本と関係性の深い野生生物の個別種について、サハリンU石油・天然ガス開発の環境影響評価を検証したレポートの概要である。


各レポートに共通した総合的結論
・ EIAのデータの収集、調査、解釈そのものに問題がある。
・ 日本国内環境影響評価法と比較しても、EIAには生態系全体を考慮した評価が全くないなど、構造的に大きな欠 陥がある。
・ 国境を越え移動する生物がいるにも関わらず、国際、越境する影響についての評価を欠いている。

 よって、本EIAは融資を判断するに足る材料とはなり得ないばかりか、これに基づく保護対策の構築やモニタリングの実行は不可能であるという結論に達さざるを得ない。本レポートで挙げられた懸念や疑問について、何らかの回答や追加的な情報を融資機関が持つ場合、それを公開し、環境影響の防止および最小化のために努力すべきである。融資決定に当たっては、中立的な第三者の専門家による調査委員会を設置し、EIAの検証や環境影響の対策の検討などを行うべきである。


鰭脚類(トド:国際自然保護連合(IUCN)、日本哺乳類学会および環境省により絶滅危惧種に指定、アザラシ:鳥 獣の保護および狩猟の適性化に関する法律(鳥獣保護法)の対象(日本))

検証者:石名坂豪(日本大学教員)、星野広志(北海道大学大学院水産科学研究科 海洋生態学 博士課程3年)、
    水野文子(宗谷海獣連絡会代表)、渡辺有希子(トドワーキンググループ)

・ Vol.2 1-34〜40:夏にしか生息状況調査が行われておらず情報が不十分である。アザラシでは繁殖期である冬  について、トドでは回遊期である秋から春について生息数が全く調査されておらず、開発地域周辺の生息数を過 小評価している可能性がある。海跡湖の河口域にはアザラシが集中し、また上陸場もあると思われるが、これら  の種が当該地域をどう利用しているかといった影響評価に不可欠な生態調査が欠けている。

・ Vol.5 1-47〜50:秋から春にかけてのアニワ湾周辺海域の情報が欠け、トドの上陸場となっているオパスノスティ 岩、また繁殖地となっているチュレニー島での季節的変動や年変動といった生息状況調査が行われていない。  アザラシについては、調査方法、アザラシの種、上陸数、季節利用などの基本情報が記載されておらず、さらに  開発が個体群に与える影響も評価されていない。また、調査時期が9月である点は、トド・アザラシ類の生態を知 る者にとっては理解できない。

・ Vol.5 3-44,3-47:トドやアザラシは、陸や岩礁に上陸している間は警戒心が非常に高く、上陸中の接近が続けば 、上陸場の放棄につながる。海中でのスクリュー音による影響や、餌となる魚類への影響について触れられてい ない。

・ Vol.5 3-53:原油の海棲哺乳類に対する毒性の過小評価。原油に暴露すると皮膚、消化管、神経系および呼吸  器系が急性の影響を受ける。慢性的には、内分泌かく乱、免疫力低下や発ガンなどが起きる。特に原油に含ま  れる多環芳香族炭化水素類は非常に有毒であり、その一種であるベンゾ[a]ピレンはダイオキシンと構造が類似  した発がん性物質である。そして、ベンゾ[a]ピレンはカナダセントローレンス湾のシロイルカにおける高いガン発生 率に関与している可能性が疑われている。

・ 全体:沿岸生態系の頂点に位置する鰭脚類の分布や生息数といった基礎的情報が欠け、開発に対する影響評 価はもちろん事故発生時の対応策を練ることは不可能である。過去の文献を参照しているのみ、またはコククジ ラ対象の調査時に付加的に得られた鰭脚類の情報を記載しているため、現況の生息状況を反映しているとはい えない。(EIA調査はコククジラがサハリン近海に来遊する夏期前後に限定され、北東部沿岸のみの非常に狭い  範囲で実施されている。コククジラと鰭脚類は、調査方法、対象海域、時期が異なる。)


ハマシギ固有亜種他(日露渡り鳥条約指定種のうち、サハリン北東部から繁殖記録があり絶滅が危惧されて  いる種または個体数の少ない種11種。ハマシギ固有種のように渡りの経路が判明していない機種も生息する。)

検証者:茂田良光((財)山階鳥類研究所 標識研究室 主任研究員)

・ Vol. 2 1-59(1.8.5):ハマシギのサハリン固有亜種(Calidris alpina actites)の発見場所があいまいである。

・ Vol.4 1-81、Vol.5:カラフトアオアシシギとハマシギのサハリン固有亜種が記載されていないのは、生息していな いためなのか不明確。

・ Vol.2 1-59(1.8.5),Vol. 4 1-81:Nechaev (1991)の調査などにより当該地域において繁殖している可能性が高い とされている絶滅が危惧されているカラフトアオアシシギとハマシギの固有亜種についての言及が十分とはいえ ない。また、生息に言及しながら油田開発がこれらの鳥に及ぼす影響についての考察がほとんどない。

・ 全体:鳥に及ぼす影響について考慮している調査をしているとは、到底考えられない。サハリン北東部にはカラフ トアオアシシギ、ハマシギの固有亜種,コシジロアジサシなど絶滅が危惧されている種または亜種が生息してい るが、これらの種または亜種がサハリン全体でどのように分布し、繁殖および生息個体数がどのくらいいるかを  推定し、油田開発がこれらの絶滅が危惧される種または亜種に対しどのような影響を及ぼすかを明らかにすべき である。


EIA全体:

検証者:長田英己(潟の生態史研究会世話人)

・ EIA全体として『個別種対応』に終始しており、該当地域における生態系の評価、またそれに基づいた事業の影響 評価、環境保全措置の検討が行われていない。これはこのEIAの構造的な致命的な欠陥と言える。これはデータ の収集、その解釈、評価以前の問題である。そもそもEIAのプランニング自体に多大な問題があると指摘できる。

・ 日本国内環境影響評価法に準ずるならば、上位性・典型性・特殊性から当然オオワシは評価対象とされるが、  EIAでは生態系という考えを欠いているため、河川域での事業による事業の影響→海跡湖への事業の影響→オ  オワシ類のエサである魚類への影響→オオワシへの影響、というような影響評価がまったく抜け落ちてしまってい る。また、アザラシ類もサハリン沿岸域の生態系に着目するならば、サハリン沿岸域にほぼ周年生息し、生態系  の上位種であることから、上位性・典型性・特殊性から当然リストアップされなければならない。しかし、EIAでは  過去文献のレビューのみであり、これは国内環境影響評価法で言えば「評価書」の前段階である「方法書」作成  のための「資料整理」にしか過ぎない。


連絡・問合先:日本猛禽類臨床生態研究所Institute for Raptor Biomedicine Japan(IRBJ)
         代表:齊藤 慶輔
         
 

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