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油流出市民対策フォーラム 〜北海道が油まみれになる日〜 報告

日時:2003年3月22日(土) 午後1時30分〜4時30分
場所:北海道クリスチャンセンター(札幌市北区)

3月22日(土)札幌市内で表記フォーラムを開催しました。 札幌市内ばかりではなく、道内一円から約80人の方々が参加してくださり、中には漁業関係者、行政関係者の方々にもお越しいただき、サハリンの影響に関する北海道での関心の高さをうかがい知ることができました。 後日詳細な記録を掲載する予定ですが、まずは簡単にご報告をさせていただきます。

フォーラムの様子

今回のフォーラムの主な目的は、サハリンと北海道の地理的、環境的つながりに注目して、サハリン開発の環境影響を多くの方々に知っていただくことでした。 参加者の方々からもさまざまなご意見や質問が出され、活発なやりとりが行われました。 中には、親子3代に渡ってニシン漁をされてきた方、漁業に長年携わってこられた方もおられ、このような方々から挙げられた懸念の声はとても深刻さを持って伝わってきました。

●沢野伸浩氏 「油流出事故発生時、北海道はどうなるか?〜ナホトカの教訓から〜」

星稜女子短期大学の沢野氏からは、「油流出発生時北海道はどうなるか」と題してナホトカ事故を例に挙げ、現在でも油が残留している現状や事故以降砂浜の生態が変化してしまった様子などについてお話いただきました。 またナホトカ事故対応の問題点を挙げ、この教訓が未だに全く生かされていない日本の油流出事故対応の現状についてお話をいただきました。

油流出時の問題について話す沢野氏

具体的には、沿岸は管轄が複雑に別れており、どこが責任を持って対応するのか不明確であること、またナホトカ事故の際には「災害対策本部」という名前のものが5つもあった事実、回収装置など「もの」はそろえても、「ひと」をどう動かすのかはまったく決まってない点などです。 サハリン沖で生産された油を積んだタンカーが事故を起こした場合、同じような混乱状態になる恐れがあります。 韓国や欧米は、関係機関を「横断」させるために現場指揮官を置き、そこから全ての指示が下りる形態をとっており、「防除支援チーム」がそれを支援することになっているとのことです。 日本の油流出時の対応もさることながら、サハリンU石油・天然ガス開発でサハリンエナジー(事業者)が作成した緊急時対応策は、日本への影響が想定されておらず、唯一日本の関与があるのは、油流出時の連絡先のみであり、本来であれば日本への影響も想定して作られるべきであるし、何よりその作成プロセスに日本の専門家が係わるべきであるとおっしゃっていました。 最後に沢野氏は、「事故は起こらないように予防することが大事であるが、必ず起きるという前提に基づいて対策をとらなければならない。 しかも最悪のシナリオも想定しこれらの計画を作ることが何より重要である」とおっしゃっていました。

●齋藤慶輔氏 「北海道とサハリンの自然環境のつながり〜オオワシを例に〜」

(社)野生生物保護公社の齋藤氏からは、サハリンでオオワシの営巣地が開発地帯と隣り合わせにあり、ダメージを受けている事実をお話していただきました。 齋藤氏はモスクワ大学のカウンターパートと2000年より毎年サハリンに行き、雛に発信機を装着し、渡りのルートやサハリン個体群の道内越冬状況を調査されています。 その調査に基づくと、サハリンIとUの開発地帯の湾沿いには多くのオオワシの営巣地があり、ここを巣立ったオオワシの多くは北海道に渡り越冬していることが分ったとのことです。

オオワシへの影響について話す齋藤氏

サハリンIとIIの開発地帯だけでなく、間宮海峡にも多くのオオワシの巣が確認されています。 オオワシはサハリンだけでなくロシア極東地域全体に営巣地を持っていますが、一日数分しか飛行できないため、サハリンはこれらのオオワシの中継地としても重要な地だそうです。 開発自体による営巣個体数の減少など既にダメージを受けていますが、もし掘削地で油流出が起きて、オオワシの餌場であり内水面のようになっている湾に油が流れ込むようなことがあれば壊滅的な被害を受ける可能性があります。 オオワシはレッドデータブックに絶滅危惧種として登録されており、日露渡り鳥条約の中で保護指定対象となっています。 このように国家間で保護されるべき種でさえサハリンエナジー(事業者)による環境影響評価の中ではほとんど調査の記載がないとのことです。

●松本郁子 「私たちのお金がサハリン開発に?」

更にFoE Japanの松本が、サハリンIおよびU石油・天然ガス開発に日本の特殊法人である国際協力銀行(JBIC)を通して公的資金が融資されていることについて報告しました。 国際協力銀行は、サハリンUに対して1997年に1億1600万ドル(約140億円)、サハリンTに対して2002年に1,100億円の融資を行っています。 更に日本が第二の出資国である多国間金融機関である欧州復興開発銀行(EBRD)からも1億1600万ドル(約140億円)の融資が行われています。 JBICもEBRDも第2期工事について更に融資する可能性が高いと思われます。 国際協力銀行は「国際金融等業務」で、日本企業が海外で行う事業のリスクを軽減する業務の部分からサハリンに融資を行っています。 その原資の中には、財政投融資という年金や郵便貯金を運用しているものがあり、要するに日本の市民のお金が出ていることになります。

JBICが融資してきた事業の中には、地元住民やNGOから強い反対の声が挙げられてきたものもあります。 融資を行う日本政府の責任として、事業を決定する前に経済的な利益だけではなく環境などマイナスの影響を十分に検討し、適切な環境影響調査が行われることが求められています。 しかし現実には、環境影響調査がどれほど十分かには疑問をもたざるを得ません。 環境影響調査の中には、関係者、関心のある市民や研究者にこれを公開し協議をすることが含まれています。 そして出された意見が取り入れられ、調査されなければいけません。 これは日本政府が融資をする際の条件です。 しかしサハリンでは、油流出時の影響、オオワシの影響、森林破壊の影響、パイプラインによる河川への影響が十分調査されているかといえば、そうではありません。 取り返しのつかない環境への影響は経済評価と同等に取り入れられなければなりません。 これだけ大きな事業で、しかも日本にも影響がある事業で、これまでどれほど事業者から日本の市民、NGO、研究者に情報公開や説明が行われてきたか、大変疑問です。 油流出の対応についても、事業者がもっと責任を持つ必要があります。 計画変更や中止も視野に入れてプロセスを進めるべきでしょう。

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