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事業主体者の環境アセス準備報告書に対する現地NGOの意見書
2002年1月17日 No.7

環境保全と技術安全部部長
ロバート・B・ヒル様

拝啓
貴社開発準備中の「サハリンII」第二段階、ピリトゥン・アストフスコエ鉱区とルンスコエ鉱区の環境評価問題に関しまして、我々のコメントと提案を送らせていただきます。

環境安全向上のための我々の要求をご検討いただき、下記住所まで御連絡いただきたく、お願い申し上げます。

693020 ユジノサハリンスク市マカロフ通り27番地

敬具
・ ・・議長 バラニコワ・N・A


「サハリンエナジー投資会社」による開発準備中の「サハリンII」第二段階、ピリトゥン・アストフスコエ鉱区とルンスコエ鉱区の環境評価問題に関する「サハリン環境ウォッチ」のコメントと提案
公益団体「サハリン環境ウォッチ」は、サハリンエナジー投資会社が開発を行う「サハリンII」第2段階のピリトゥン・アストフスコエ鉱区とルンスコエ鉱区に関する環境影響評価の資料を詳細に検討いたしました。

その際、考慮したのは下記の点です:
LNGプラントの稼動は、周辺の環境に大きな脅威を与えます。
以下、理由を述べます。
  • 毎年、LNGプラントから245万トンの炭酸ガス、1000トンの硫黄化合物、窒素、一酸化炭素、炭化水素、水蒸気などが大気中に放出されます。このような大気への放出は、サハリン南部の大気状態の悪化に加えて、地球規模の気候変動に多大な影響を与える事になります。よく知られていることですが、温室効果の原因は大気中の炭酸ガス等の割合の上昇であり、第1には、地球の平均気温を上げる原因となる窒素化合物とメタンです。それ以外にも、二酸化窒素、二酸化硫黄、が相互に作用し合って、酸性雨となります。つまり、LNGプラントが稼動して酸性雨が降ると、必然的に、大地や川、沿岸部、植生にマイナスの影響を与えます。
  • LNGプラントからアニワ湾への排水、石油輸送用のターミナルとLNG船積み用のバースの建設、また、それらの稼動、タンカーに積み込む際の石油が流出する潜在的可能性、といったものが、湾の水質汚濁と海洋生物資源の悪化を生むのです。石油の大規模流出で、島の半分であるトニノ・アニワ沿岸とクリル(千島列島)沿岸部の汚染という潜在的危険性もあります。つまり、この付近で樺太ますを取っている漁業会社数十社が損害を被るのです。それ以外にも、アニワ湾の魚の購買需要という面からも同じ事が言えるでしょう。
  • プリゴロドノエのLNGプラント建設予定地は、アニワ湾の海岸を殆ど占拠してしまいます。この海辺は夏の間サハリン南部の大部分の住民が休暇を楽しむところで、樺太ますの許可制フィッシングも行われています。晴れた日には、40以上の漁師のゴムボートが浮かび、海辺は大勢の人でにぎわっているのです。LNGプラントの建設をすれば、住民と漁師はもうこのような事は出来ません。工場に隣り合った海辺は、工場から排出される汚染物質で空気が汚れ、アニワ湾には工場排水が流され、そこで遊ぶ事が果たして出来るでしょうか。
  • 生産と船積み、輸送、LNGの全てのサイクルがガス爆発という大きな危険性を持っています。
「サハリンII」はサハリン島民とロシアに経済的利益をもたらさない。
  • ロシア金融庁は、サハリンIとサハリンIIを総合的に検査し、上記の結論に至りました。
  • モリクパックで原油掘削、輸送をしたサハリンIIの第1段階は、既に貴社自身では採算は取れなかったことが知られています。
  • サハリンII第2段階実行にかかる費用(LNGプラントと船積み用バース建設、二つの追加プラットフォーム、二本のパイプライン敷設)は第1段階(モリクパック設置、オフィスと社員用住居建築)よりも相当高くなる上に、貴社が原料が占めるべき費用の額と内容に実質的制限を設けていないので、採算が取れて、サハリン島民とロシアに利益をもたらすという保証がどこにもありません。
  • 貴社が建築作業段階で計画しているサハリンの雇用者数は、全雇用者12,400人のうち、たったの3000人です。操業段階では、わずか600-850人の新規雇用枠しかありません。
  • サハリン州議会は1997年5月27日、サハリン州法を採択し、サハリンIIプロジェクトに関わるサハリンエナジーとコントラクター(請負人)、サブコントラクターすべてを、プロジェクト全期間に渡って、州税、賦課金、その他の支払い義務から免除する事を決定しました。それで、現在、州の予算は年間100万ドルもの税収を失っているのです。
  • サハリン南部のガス燃料への移行は、まず第一に、地域住民に多大なコストがかかります。貴社はサハリンにガスを世界価格より安くは売らないでしょう。しかし、世界価格というのは、ロシアの国内価格の10倍以上もするのです。つまり、電気代や燃料代が今でさえも法外に高いのに、更に値上がりするのです。住民は何らの利益も得られないのみならず、更に大きな損失を負う可能性すらあるのです。
  • 今現在、どこの潜在顧客ともサハリンのLNGガスを供給する長期契約や、同意書、プロトコールも交わされていません。日本は、オーストラリアから買っていた分、サハリンガスを2008年まで買う保証をしています。中国はLNGを受け入れるインフラが整っていない上に、近年新疆ウィグル自治区で巨大ガス油田が開発されているので、近い将来、上海までパイプラインの建設が始まるでしょう。韓国と台湾のガス需要は、サハリンのガスを全部引き受けられる程大きくありません。従って、これらの国々はガス供給長期契約を結ぶには至りません。上述より、サハリンのLNGガスを買う人がいないのに、LNGプラントを建設する意味はありません。
  • LNG生産の際、莫大な量のガスが液化の為に無駄に消費されています。そのような損失は許容できませんし、時代遅れの、多量のエネルギーを消費する工業です。
公益団体「サハリン環境ウォッチ」はLNGプラントの建設に反対します。

代替案として、我々は、貴社に以下の事を検討するよう要求します。
  1. サハリン南部にLNGプラントを建設して、日本までラインパイプを引くこと放棄する。(長期契約を締結した場合)液化せずに、そのままの状態でガスを納入する。サハリン南部でガスを液化し、数10キロはなれた日本まで持っていき、また元に戻すというのは、経済的に無駄である。
  2. ジメチルエチル工場の建設。これは、周辺環境にとってはるかに安全。
  3. 石油とガスの掘削を完全に放棄する。その代わり、風力、太陽エネルギーの開発に努める。
LNGプラント建設断念を要求する以外にも、我々はサハリンIIプロジェクトの実行に当たって、貴社に下記のことを考慮するよう、要求します。

1. 2001年12月1日に開かれた公聴会は実質的に公聴会ではなく、サハリンIIプロジェクトのプレゼンテーションでした。30分で貴社の代表者がスライドを使ってプレゼンを行いました。それから、サハリン島民の質問の時間はわずか30-40分しかありませんでした。この際、各人、3分以内、二つまでの質問しか許されませんでした。多くの人が非常に重要な、深刻な質問をする事が出来ませんでした。プロジェクトに関する個人の考え、提案、注釈の発表する時間は全く設けられていませんでした。
よって、懸案事項を質問できて、自分の考えや提案を発表できる時間を一般の人々に提供する、完璧な公聴会を開くこと。また、公聴会までに、一般の人々が検討できるように完全且つ最終的なOVOS別案を提出すること。州立図書館に貴社が出した資料は環境への影響を正しく評価するにはあまりに少なすぎるからです。たとえば、1997年のサハリンII第1段階に関する一般相談の際、今よりもはるかに多い分量の情報が、数回提供されました。
2. プロジェクト作業は、プリモリエ、ハバロフスク、マガダン、カムチャッカなど、他の地域にも潜在的影響を与えます。これらの地方の漁業関係者は、基本的にオホーツク海で漁をしています。よって、これらの地域住民に一般相談会を開く事を要求します。
3. プロジェクトの中で、レッドブック(国際自然及び天然資源保護連盟)に載っているコククジラの索餌区域からごく近い、ピリトゥン・アストフスコエ鉱区に新しい掘削プラットフォームを建設する計画がありますが、我々は、新しいプラットフォームを沿岸から12マイル離れたところに作るよう要求します。コククジラを守る為には、まさに、12マイルの境界線が必要であり、この区域は禁猟区になるでしょう。また、コククジラの索餌区域の南限を通る海底パイプラインの建設には断固として反対します。その代わりに、パイプの通り道をクジラの生息地の外に移す事を要求します。
4. 貴社は、北東陸棚から南のプリゴロドノエ村まで石油ガスパイプを完全に地下に埋めるつもりでいますが、我々は、これは非常に危険だと考えます。地下に埋まっているパイプの状態を確認する事ができませんし、急激な圧力を早期発見したり、亀裂からの漏洩事故が起きた時に、すぐに処置をしたりしにくくなるからです。また、そのほかにも、地下パイプラインは、地上よりも地震を引き起こす引き金になりやすいということがあります。何よりも、パイプライン予定線は非常に活発に活動している断層の上を通っています。
以上の事から、我々は、地殻層の転移の際、パイプが破裂する事を効果的に防ぐには、パイプを全て完全に地上に建設し、更に、アラスカにあるような滑らかな補正板をつけた特別な支えをつける必要があると考えます。(「メタルサポーティングメンバー」をパイプに取り付けて、地震が起きた際には、パイプの破裂を防ぐ支えに平行してパイプが動く事できる)長年このような設備で稼動して、アラスカのパイプラインは、何度も亀裂を免れ、有毒な石油から自然を守りました。また、地殻層の転移によってパイプが左右に引っ張られるのを防ぐ為、トランスアラスカパイプラインから類推して、ジグザグにパイプを敷設する必要があると考えます。

地震地帯において、パイプラインを地上に敷設するという規定は、「建築基準規定」の2.05.06−85、「大規模パイプライン」の中にあります。

第5条27項:パイプライン予定線が活断層を横断する場合は、地上への敷設に変更すること。
第5条39項:地上パイプラインの支柱建設にあたっては、地震の際、パイプラインを移せるようにしておくこと。
第5条40項:地上ラインパイプの振動を吸収するため、各スペースにダンパーを取り付けること。但し、ダンパーは、気温や内部を通過する物質の圧力の変化に際して、パイプの動きを妨げないものであること。
第5条41項:パイプライン予定線のある地域が、地震の危険性が最大限である場合、パイプの非常用スペースに自動切断管理システムを設置する事。
第5条42項:直径が1000mm以上のラインパイプで、予定線が河川、その他の障害物を通る場合は、地震の際、周辺地帯とパイプの振動を記録する為に、地震計測器を取り付けること。
5. 河川の大部分の流れを止めないために、貴社はトレンチ(溝)を河床に横切るように堀り、その中にパイプを埋めなければなりません。また、当然のことながら、この作業は河川を著しく著しく濁らせ、泥の層が鮭の産卵場を覆ってしまいます。貴社は「産卵期間内」にこれらの工事を行おうとするかもしれませんが、それでは状況の改善にはなりません。秋冬、鮭は河川にはおらず、魚卵もありませんが、春には幼魚が海へ降河します。浮遊物質が産卵用の突起物を覆うと、卵が死んで、鮭が何世代にも渡って失われてしまう事になります。この際、産卵場の質も著しく低下し、長期にわたって鮭は自然なサイクルから逸脱してしまうでしょう。
ですから、我々は、パイプが河川を横切る場合は、産卵場の上に特別なスタンドを作って、河川の生態系に、より安全な方法を取るよう、要求します。パイプをそのように設置すれば、河川とそこに住む生物への影響は最小限で済みますし、石油が漏れた場合でも、亀裂をすぐに発見できるでしょう。
6. 石油を掘削する際に出る廃棄物は、絶対に海に捨てずに、地中に埋めて戻すこと。または、それと同じくらい自然環境に安全な方法を取る事。
7. 石油掘削の副産物であるガスの液化を中止すること。ガスは、サハリンII第1段階で予定していたように、地中に戻す事。サハリンII第2段階でも、噴流でガスを液化する事は完全にやめること。
8. 貴社が行ったり、資金を提供した科学調査のデータや資料は全て誰でもアクセスできるようにすること。(例えば、オホーツク・韓国のコククジラの個体数調査、プラットフォームのモニタリング、環境影響評価、等)現在、貴社は一般市民が資料を閲覧して評価できるようにしていません。
9. 関心を持つ一般市民、招聘された独立専門NPOが「ビーチャズ」と将来的構築物を定期的に訪問し、客観的モニタリングをできるようにする事。例えば、一般市民がパイプ敷設を観察できるようにする。個々人が、河川や、森林、土壌にどのような影響があるのかを見るためです。
10. サハリンエナジーは自発的に、州と市に税金その他課徴金の支払いをする事。これは、サハリンの漁業、鉱業、農業、林業など、他の企業はすべてやっていることです。もし貴社がサハリン社会の完全な一員でありたいと思うならば、どこでも同じですが、税金を払うことです。
11. アラスカの専門家、リック・シュタイナーとデン・ロアン、シェトランド諸島のジョナサン・ウィルソンが書いた報告書、「サハリンの石油―いかにして安全性を確保するか?」には、石油流出の予防と対応策が更に詳しく書かれています。プロジェクトの実行に当たっては、これらを参考にするよう、要求します。
以上

(翻訳 濱本 慶絵)
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