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NGOから日独・金融機関に提出した 「フィリピンのミンダナオ石炭火力発電所に関する要望書」
(2003.10.14) (日本語訳) |
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2003年10月14日
Palmengartenstr. 5-9
60325 Frankfurt/Main, Germany
Kreditanstalt fur Wiederaufbau(ドイツ復興金融公庫)
代表理事 Hans W. Reich殿
〒100-8144
東京都千代田区大手町1丁目4−1
国際協力銀行 総裁 篠沢 恭助殿
〒101-8359
東京都千代田区西神田3-8-1
日本貿易保険 理事長 今野 秀洋殿
フィリピンのミンダナオ石炭火力発電所に関する要望書
下記に署名した私たち19ヶ国のNGO58団体は、輸出信用機関の融資や保険が及ぼす社会環境影響について活発にモニターを続け、輸出信用機関の社会環境政策が世界銀行のセーフガード・ポリシーのような国際的な基準やグッドプラクティスのレベルにまで高められるよう改革を提言しています。
現在、貴機関らがミンダナオ石炭火力発電所の建設事業に融資、もしくは、付保を検討していると伺っています。同案件には、地元の多くの住民・市民団体や宗教団体の連合体であるPeople's Campaign against the Mindanao coal-fired thermal power plant (People's CAMP:ミンダナオ石炭火力発電所の建設に反対する人々の運動)などの現地グループより、人体・環境への悪影響や適切な情報公開・協議の欠如などを懸念する声があげられています。
私たちは、同案件が国内および国際的な基準やグッドプラクティスを満たしているか、また、影響を受ける現地グループの権利・利害を尊重しているかについて、貴機関らがより慎重な審査を行なうよう強く求めます。
(1)人体への健康被害と環境への損害に関する懸念
国際環境保護団体グリーンピースと英Exeter大学がフィリピン国内の既存の4つの石炭火力発電所(このなかにはJBICが融資した案件も含まれています。)において灰のサンプルを取り行なった調査では、水銀やその他の重金属(ヒ素、クロム、鉛)の微粒子が廃棄物中に高い濃度で含まれていることが明らかにされています (注1:"Coal-Fired
Power Plants and the Menace of Mercury Emissions (Greenpeace Southeast
Asia, August 2001)", "Hazardous Emissions from Philippine Coal-fired
Power Plants (Greenpeace Research Laboratories, Department of Biological
Sciences, and University of Exeter, Exeter, UK, July 2002)" "https://www.greenpeacesoutheastasia.org/en/seareports.html"参照。) 。この結果を受け、既存の石炭火力発電所の公害と健康被害に関する問題はフィリピンの上院でも調査が進められており、国レベルで新たな石炭火力発電所の建設への疑問が議論されています。
私たちは、貴機関らが新しい石炭火力発電所の建設に融資する用意ができたと表明することで、フィリピン国内の意思決定過程に影響を与えないよう、貴機関らがこの調査の結果を待ってから、ミンダナオ発電所の建設への融資、あるいは、付保の決定を行なうべきであると考えます。その調査が「既存の石炭火力発電所はフィリピンの環境に有害な影響をもたらしてきた」という結論に至ることは、十分に考えられます。融資機関として、貴機関らは持続可能な開発という貴機関らの政策方針を真剣に考え、国内の既存の環境問題を拡大するような案件への融資、もしくは、付保を行なうべきではありません。
また、現地グループは同発電所からマカハラー湾へ放出されることになる大量の温排水についても懸念の声を上げています。温排水によって、Agutayan環礁の魚類保護区をその湾内に含むマカハラー湾海域の海洋生態系、ひいては、漁業へも損害が及ぶことが懸念されています。現地グループによれば、実際に3000世帯以上がマカハラー湾内での漁業を生業としているとのことです。
さらに、現地グループは、環境影響評価(EIA)が対象としている地域より広範囲に及ぶ地域での環境及び人体への影響に関する調査の必要性を指摘しています。EIAでは、煙突から半径2km内、また、タゴロアン川河口の沿岸約6km内しか対象とされていません。影響を受ける住民らのこれらの懸念、意見を事業者が真摯に受け止め、適切な説明や対応が行なわれているのか、貴機関らは自身の環境チェックリストに沿って、慎重な審査を行なうべきと考えます。
(2)非自発的住民移転に関する懸念
ミンダナオ発電所によって移住を迫られる人々の数は依然として明確になっていません。その数は100人から100世帯(約500人から1000人に相当)と異なる見解が出されています。しかし、影響を受ける住民が住民移転に関して立案段階での参加の機会を与えられてこなかったことは、すでに明らかとなっています。補償に関する選択肢(土地補償か金銭補償かなど)も協議されていません。
さらに、(同事業の補償に関する)責任を負う政府機関であるPHIVIDECの住民移転パッケージで示されている家屋の補償に関する基準は、(減価償却分を考慮しないと明記した)世界銀行OP4.12などの国際的な基準を満たしていません。PHIVIDECの基準では「取り壊す構造物の査定額の10%」のみを補償支払額としています。
同地域(PHIVIDEC工業指定地域)内で過去に他の事業によって移転させられた農民の多くは、雇用機会を約束されたにもかかわらず、今日も依然としてそれを待っている状態です。また、現地グループは、(同事業の事業者であるSPDC (注2:SPDCはドイツ企業Steag社とフィリピン資本State
Investment and Trust, Inc. (SITI)の合弁企業。) によって)最近始められた社会開発計画の立案、実施やモニタリングへの参加の体制が整っていないことについても非難しています。このような同案件、また、PHIVIDEC工業地帯内での過去の案件における事業者との苦い経験から、現地グループは補償が正当に、また、適切に行なわれるのか疑問を提示しています。
非自発的住民移転に直面する人々が事業の恩恵を共有できるよう、移転対象者の生活水準の向上、最低でも生活水準の回復と、彼らに対する正当で公正な補償措置がとられる条件が整っていない場合、また、そうした補償手続きが世界銀行のあらゆる関連基準に沿って行なわれない場合には、貴機関らは融資、もしくは、付保に関する重要な意思決定を行なうべきではありません。
(3)代替案の可能性
上記であげられた社会環境問題に加え、計画されている石炭火力発電所は、ミサミス・オリエンタル州地方における最も持続可能なエネルギーの選択であるとは言えません。現地グループは、再生可能エネルギー、また、既存の水力発電所のリハビリテーションなど、経済的にも環境的にもより健全な代替案について、EIAの中でも、また、協議の中でも検討されなかったことを指摘しています。世界銀行の基準に沿うなら、経済的かつ環境的視点から実行可能な代替案を考慮に入れる必要があります。
特に、新規の石炭火力発電所の建設に関しては、あらゆる代替案が考慮されることが重要です。石炭火力発電のような大規模なインフラ事業はその長い寿命の間に、その排気ガスである二酸化炭素、一酸化窒素、また、二酸化硫黄といった汚染物質によって、大気汚染や気候変動を助長することになります。「持続可能な発展」という貴機関らの方針の一貫性を保つ観点からも、JBIC、NEXIまたKfWといった機関は、地球環境への負荷がより少ない電力代替源を見つけえない場合以外は、石炭火力発電のような事業を支援するべきではありません。
(4)経済的な実効性に対する疑問と電力購買契約に付随する負担に関する懸念
上述した環境社会の問題のほかに、同事業は事業の経済的実効性に関する問題も孕んでいます。まず、同事業で発電される電力が本当に必要とされているのか大きな疑問が残されています。現地グループは、新規の発電所の建設に投資するよりも、既存の発電所の効率を高めるほうがずっと安く上がり、また、より効果的であると主張しています。
第二に、国家経済開発庁(NEDA)第10地方局(ミンダナオ北部)が昨年6月に出した事業評価報告は、同事業が経済的かつ財政的に実効性がなく、また、25年間に年間約1000万米ドルもの補助金が必要となる可能性を指摘しています。
第三に、フィリピン政府内部の諮問委員会が民間の独立系発電事業体(IPP)との間で結ばれた35の不当な電力購買契約について調査を行なっており、ミンダナオ石炭火力発電事業もその一つとして調査が行なわれました。同委員会は、同事業の契約は財政的な問題を孕んでいると報告しており、この結果、上下院で問題に関する調査が継続されています。
私たちは、フィリピン政府やフィリピン国民の負担を増大させるような事業に公的な資金で融資・付保を行なうことがないよう、貴機関らが同事業に関する意思決定を行なう前に、これらの調査の結果を待ち、同事業の経済的実効性に関する追加調査を行なうよう強く求めます。
(5)適切な情報公開と協議、参加機会の欠如に関する懸念
現地グループは環境アセスメント報告書(EIS)をフィリピンの関連政府機関から入手しようとしましたが、これまで取得することができていません (注3:FoE
Japanは2003年5月にJBICより同事業のEIAを入手。JBICおよびNEXIは(環境ガイドライン上、)カテゴリAに分類した事業について、EIAを公開することとなっている。) 。世界銀行の基準では、EIAは公開されている必要があり、また、影響を受ける住民らは協議に参加し、EIAへコメントをする機会をもつ必要があるとされています。この点で世界銀行の基準は満たされておらず、現地グループがあげている懸念やコメントがEIAの中で十分に取り扱われ、事業計画に反映されるのかについては疑問が残ります。このような社会的合意に対する疑問から上院で環境適合証明書(ECC)の承認に関する決議が出され、現在、調査が行なわれています。
モニタリング計画やMulti-partite Monitoring Team(MMT)、Environmental Guarantee Fund(EGF)、Environmental Monitoring Fund(EMF)といった、環境社会配慮に関する苦情の受付、あるいは、フォローアップの体制が、EISや社会開発計画の中で事業者によって提案されていますが、この点も懸念されるところです。これらの仕組みが適切に実施されるために重要である、地域住民や現地NGOへの十分な情報公開や適切な参加・議論の機会は、フィリピンで行なわれた過去の事業において確保されてきませんでした。ミンダナオ石炭火力発電所事業の場合においても、影響を受ける住民への情報公開や参加の欠如は批判を受けています。また、現地グループは、PHIVIDEC工業団地敷地内の土地の所有権を持たない農民がPHIVIDECの管理下で(特に、PHIVIDEC工業庁のガードマンによるハラスメントの恐れのため)、発言権および住民参加を抑圧され、制限されているとの指摘をしています。
貴機関らは、苦情の受付の仕組みが将来、予期されなかった問題を満足のいく形で解決することを期待できるのか、また、影響を受ける住民の参加を可能にしていけるのかについて、現在および過去の案件における事業者の実績を考慮しつつ、慎重な審査を行なうべきです。
以上のように、ミンダナオ石炭火力発電所計画の社会・環境・経済的な実行可能性に関する深刻なかつ未解決の問題が依然として多く残っていることから、私たちは、貴機関らに以下の点を強く求めます。
(i) 国際的な基準やグッドプラクティスを同事業において満たすために、貴機関がいかなる意思決定をする前に、上述した幾つかの面について追加的な綿密な調査が行なわれる必要があることに特に留意しながら、事業の審査を慎重に行なうこと。私たちはさらに、同事業の具体個別の面に関するあらゆるフィリピン国内の調査が終了するまで、貴機関らが同事業に対する最終判断を延期するよう提言します。
(ii) 現地踏査を行ない、事業者からの情報だけでなく、地域住民・現地NGOからの意見・情報を積極的に聴取すること。
(iii) 地域住民・現地NGOのあげる懸念が貴機関らの審査過程および意思決定過程に反映されることを保証するため、融資・付保の意思決定前にも、地域住民・現地NGOを含むあらゆるステークホルダーに対し、十分な透明性とアカウンタビリティを確保すること。
(iv) 事業への適切な環境社会配慮が事業者によりなされない場合、また、融資・付保等の決定後も事業者により環境社会配慮が適切に実行されないと判断される場合には、貴機関らの融資・付保を実施しないこと。
本要望書にご配慮いただき、貴機関らのご返答がいただければ幸いです。
以上
連絡先:
国際環境NGO FoE Japan
開発金融と環境プログラム
波多江 秀枝
Urgewaod - Germany
金融機関キャンペーン
Barbara HAPPE
Cc: ドイツ財務大臣Mr. Hans Eichel
ドイツ経済大臣Mr. Wolfgang Clement
ドイツ外務大臣Mr. Joseph Fischer
ドイツ環境大臣Mr. Juergen Trittin
財務大臣 谷垣 禎一殿
経済産業大臣 中川 昭一殿
State Power Development Corporation
STEAG Shareholder Association
PHIVIDEC工業庁
フィリピン国家経済開発庁
フィリピン環境天然資源省
フィリピン電力公社
フィリピン ミサミス・オリエンタル州知事Mr. Antonio Calingin
川崎重工業株式会社 取締役社長 田 雅元殿
日商岩井株式会社 代表取締役 社長 西村 英俊殿
本レターは以下の団体から賛同を得ています。
(賛同団体)
*以下、賛同を受けた19ヶ国(オーストラリア、バングラデッシュ、ベルギー、ブラジル、カナダ、中国(香港)、フィンランド、フランス、ドイツ、インド、イタリア、日本、マレーシア、オランダ、フィリピン、ポルトガル、ウクライナ、イギリス、アメリカ)のNGO56団体の団体名、国名。
>英語本文はこちらへ
>JBIC環境ガイドライン遵守の観点から FoE Japanコメント (2003.10.16)
>JBIC環境チェックリスト遵守の観点から FoE Japanコメント (2003.10.16)
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