プレスリリース
サハリンII・LNG出荷を目前に油流出対応の懸念高まる
2月9日−サハリン・ジャパン・ワイルドライフ・ネットワーク
2月18日、メドベージェフ大統領と麻生首相が出席してサハリンIIプロジェクトの液化天然ガス(LNG)工場完成式典が行われる予定だが、こうしたイベントの裏側で、オホーツクの自然環境や漁業資源の保全、また、大規模な油流出に対応する日露政府双方の体制整備が十分でないとして、日露の関係者の間で懸念の声が広がっている。
今年1月下旬、ロシア・サハリン州南部アニワ湾沿岸で、油まみれの鳥が大量に発見されたが、事件に対するロシア当局の対応に問題があるとして、地元環境保護団体が刑事告訴に踏み切るまでに発展している。サハリン州の州都ユジノ・サハリンスクに拠点を置く環境保護団体「サハリン環境ウォッチ(以下、SEW)」
は1月27日、アニワ湾沿岸7〜8kmに渡って、120羽の油まみれの鳥を発見。油流出対応の管轄である非常事態省に対し、調査を行うよう要請したが、同省はヘリコプターとボートがないため、油流出の調査はできないと回答した。
このためSEWは1月30日、自然保護検察局に対し、海鳥が死んだ原因を解明するための調査の実施を要求する刑事告訴を行った。これを受け、2月2日、自然保護検察局、非常事態省及び自然利用分野監督局で構成される委員会が調査を続行することを確認した。しかし、SEWのナターシャ・リシチナによれば、現在のところ、鳥が汚染されている油の種類を分析しようとする当局の動きはないという。従って、SEWは自ら、モスクワの研究所に調査を依頼している。リシチナは「ロシア当局による適切な対応・調査が行われないのが現状。同様の事件が今後も続く可能性は高い」と話す。
SEWは、実際に被害を受けた鳥の数は1000羽を超えるだろうとも話している(SEWウェブサイト:https://www.sakhalin.environment.ru/en/)。今回流出
した油の原因は未だ特定できていない。サハリンIIの事業者であるサハリンエナ
ジー社は、同社の施設から油漏れはないとしている。
猛禽類医学研究所(釧路)の獣医師で、サハリンおよびオホーツク海域の環境保全に取り組む「サハリン・ジャパン・ワイルドライフ・ネットワーク」の代表を務める齊藤慶輔氏は、「今回発見された汚染鳥以外にも、アニワ湾で越冬中の海鳥など野生生物が流出油の被害に遭っている可能性が極めて高い。ロシア政府は一刻も早く本格的な調査に着手し、汚染源の特定と現状の把握、野生生物への被害実態を明らかにし、速やかな情報開示と汚染が続いている場合には被害を最小限にとどめる策を講ずるべきである。また、今後、流氷の接近とともに油や汚染鳥が北海道のオホーツク海沿岸に漂着する可能性もあることから、日本政府はロ
シア当局と緊密に情報交換を行い、オホーツク海沿岸および海上のパトロールを行いながら有事に備えるべきである」とコメントしている。
また、「近く麻生首相がサハリンを訪問し、サハリンUの記念式典にメドベージェフ大統領とともに出席することに鑑み、エネルギー資源が安定供給される見返りとして、オホーツク圏の豊かな自然環境や漁業資源、貴重な野生生物を失う事が無いよう、石油流出事故等に対する必要十分な予防対策を講ずるよう、日本政府として改めて促してもらえるよう希望する」と述べた。
一方、LNGの本格出荷が迫る中、「日本政府側の取り組みも十分とは言えない」
ことが多くの油流出対応の専門家から指摘されている。サハリンIIではすでに昨
年12月から石油の通年生産を開始。LNGの本格出荷が始まれば、石油タンカーが4
日に1隻(年間約90隻)、LNGタンカーが2日に1隻(年間約160隻)アニワ湾を航行する。日本政府はロシアと協力し、タンカー航行増加に伴う宗谷海峡の安全対策を進めることが必要である。
サハリン大陸棚で現在稼動中の石油・ガス開発はI、IIだが、開発は今後もIXま
で続く可能性があり、さらにカムチャツカにも鉱区が設定されている。齋藤氏に
よれば、「サハリンで現在進行中もしくは計画段階にある石油・ガス開発鉱区及びパイプラインのルート上には、日露渡り鳥等保護条約にも指定されている数多くの渡り鳥の重要な繁殖地や渡りの中継地が数多く存在する」。したがって、
「日露共有の財産であるこれら野生生物との共存をいかに重視し、その保護活動をどのように実践していくかは、両国の環境保護に取り組む姿勢を映す鏡となる」
として、日露両政府による取り組みの重要性を指摘する。
去年の北海道洞爺湖サミットにおける日露首脳会談で、福田首相(当時)とメドベージェフ大統領は、オホーツク海の生態系保全のための日露共同調査を行うなど「政府間協力プログラム」を歓迎し、その後具体的な協力を進めていくことで
合意しているが、具体的な道筋はまだみえてこない。
オホーツクの自然環境や漁業資源を守るためにも、日露政府間のこうした取り組みの前進が急がれるが、油汚染鳥への対応ひとつとっても課題があり、今月18日の式典を前に大きな懸念を払拭できない。