たとえばここで回転してみる。右足の踵を上げ、その右足の軸の延長上に心臓と左腕を配置する。すると視界はわずかに傾くだろう、その量およそ23と0.4°。さあ、ゆっくりと回転してみよう。ゆっくりと。きっと何かが見えるはずだ。たとえば、動植物は活動を鈍らせているし、色彩は均質なある一点に向かって変化を始めている。つまりもう夏ではなくまだ冬でもなく、今、季節は、秋。
ここでは秋〜冬は伐採作業が中心となる。伐採された木々は主に炭材に利用される。他に利用しても良い。そして今回はそんな伐採作業の講習会だ。我ら参加者11名は宇津木の森にその道の権威、上野先生を迎える。
講習の内容というのは、例えば木の倒し方や竹の切り方、道具の手入れ、だいたいそんな類だ。
舞台のひとつはエゴノキのある萌芽更新地。数年がかりで少しずつコナラの森に変えている場所でありこの冬の活動計画の一つだ。そしてもうひとつは極太竹三昧のくぼ地。これら一帯には伐るべき木・竹はいくらでもある。
右前にあるし、左前にもあるし、右後ろは今、倒れる。教えられた通りの軌跡をゆっくり、ふわりと描き、倒れた。
いずれのエリアでも指導の下で伐り倒す方向や伐り方、切り口の形を確認をしながら一本一本確実に倒していく。参加者には伐採未経験者といくらかの経験者もいたが、その違いも今は意味を持たない。一様に先生の話を聴き、技能を学ぶ。あるいは学び直した。
そしてここからが講習の大きなポイントだ。全てにおいて優先されるのは安全作業だという。その安全とは何かって?答えははじめから示されている。 そ・れ・は、
「あ」
「ん」
「ぜ」
そしてもうひとつ「ん」
−あんぜん− この言葉は伐採作業での絶対的なものであり他意を孕む事は、決して、無い。
(お兄さんもお姉さんもおじさんも、危険作業の前では常に謙虚でいましょうね。ノーモア過信。)
作業も終わって一息つくと、身体は夏の除草作業とは違った疲労感を持つ。詳細をいうと、前腕筋、お前だ。講習会ということもありスロウ作業だったはずだ。しかし終わってみれば前腕筋は筋肉痛によって鈍くなっている。身体も冬作業に向けて変化を始めたということか。これで良い、まだ助走で良いのだ。
今日は来る冬に必要なものを−知識と技能を−身体に刻むことができた。
確かに刻み込んだだろう?
さあ、これで準備はできた。そう、これは冬の疾走への準備だ!
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