レスター・ブラウン氏講演会報告
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11月11日(土)、「ワールドウォッチ研究所」所長のレスター・ブラウン氏(*1)の来日を記念して、エコ・ネットワークの会主催により講演会が実施され、地球の友ジャパンも協賛として参加いたしました。
この会は、地球の友ジャパンのプロジェクトセミナーでも通訳を務めてくださっている枝廣淳子さん(*2)がブラウン氏に持ちかけてくださり、実現しました。
講演会の後、レスター・ブラウン氏の日本での通訳者・翻訳者として、またワールドウォッチ研究所のサポーターとして活躍中の枝廣淳子さんの激筆enviro-newsをまとめた本「エコ・ネットワーキング!」の出版を記念する「エコ・ネットワーキングの会」のパーティが催されました。
当日は日本全国より200人以上もの参加者が集い、氏の有意義な話に耳を傾け、その後のパーティでも熱心に議論を楽しんでおりました。
講演会では次の4点についてブラウン氏のお話がありました。
@温暖化による氷床の融解、 A再生可能エネルギー 、B税制、 C原子力
以下にその内容を要約いたします。
@温暖化による氷床の融解
・北極
北極海で氷の融解が進んでおり、通常2mあるべき氷の厚さが、今では1mしかなくなっており、海水が表れているところもある。来世紀半ばまでには北極の氷が完全に溶けて開けた海になるとの予測もある。
・グリーンランドの氷床
毎年ナイル川の年間流量に匹敵する量が解けている。3kmの厚さの氷床が全部解けたら、世界で海面は7m上昇する。
・ ヒマラヤの氷床
南極・グリーンランドに続いて地球上で3番目の規模をもつ淡水の貯蔵庫。温暖化により気温が上昇し、雪から雨に変われば、この蓄積量が減少しアジア各国の重要な河川(ガンジス、メコン、黄河、長江)が渇水になり、下流に住む人間にとって甚大な被害になる。アジアにおいては河川の水の殆どが灌漑用水として使われているため生活環境は大きく変わる。
A再生可能エネルギー
ヨーロッパでは風力が盛んになってきているが、海岸での風力発電のみで全欧州の電力需要をまかなうことが出来る。風力発電は世界で年間39%も伸びている。
−ヨーロッパにおける展開−
風力を積極的に活用している代表的な国デンマークでは全電力の40%を 、スペインネバダ州では22%、ドイツ北部の地域では14%を風力でまかなっている。
−アメリカにおける展開−
風力発電コストが下がったため、火力発電と競える力のある発電となった。農家が農地を貸すことで収入を得ることができ、さらにその収入は地域に還元されるため政治家にも魅力となっている。
−風力の更なる可能性−
夜間の発電分から水素のエネルギーを生み出せて、発電だけでなく燃料も作り出せる点に可能性がある。水素はクリーンエネルギー技術として有望な燃料電池の燃料となる。
また、日本は自然エネルギーが豊富。島国であるから海岸線が長く、風力資源が豊富。また地熱エネも相当ある(温泉は12000個所)のでこれらを積極的に利用するべきだ。
B税制(環境税)
タバコの話を引き合いに、 所得税を減らし害のあるものに課税するべき(環境税と所得減税のセット)。 将来は自動車から自転車にシフトする
C原子力
日本以外で原子力を推進してるところはほとんど無い。自由市場では原子力に競争力はまったく無い。日本などで原子力が安いのは補助金のおかげ。アメリカは22年間原子力発電所は作られておらず、イギリスではサッチャー政権時代の電力民営化の際、原子力発電所だけは無料にしても引き取り手がつかなかった。現在、日本で1000億円もの原子力補助金に関する法案が検討されている(*3)が、国民の税金を競争力の無い原子力に投入することは異常だ。
原子力は安全性や核廃物の問題だけではなく、経済的にもまったく成り立たない技術で、世界的に見ると今後2年でピークに達し、その後は減少していくだろう。
もし自分が日本国民であれば選挙区の議員に連絡して問いただすだろう。
*1 レスター・R・ブラウン
ワールドウォッチ研究所所長。環境・資源・経済の分野で、世界をリードする分析と提言を続けている。1934年、米国ニュージャージー州生まれ。ラトガーズ大学とハーバード大学で農学・経済学を学び、農務省に入省、国際農業開発局局長を務めた。74年に独立の研究機関ワールドウォッチ研究所を創設、現在に至る。
*2 環境ジャーナリストの枝廣さんが主宰するニュースマガジン「Enviro-News」への読者登録がこちらからできます。https://www.ne.jp/asahi/home/edahiro/
*3 原発推進特別措置法案が自民党から今国会に提出されようとしている。原発に隣接する地域に補助金をばらまこうとする法案。
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