意見書


国際環境NGO・地球の友ジャパン

2000年3月14日

 増大する途上国向けの民間投資が、世界の開発と環境にかつてないほど多大な影響を与えるようになっている現在、貿易保険を含む公的輸出信用機関の環境基準強化は緊急の国際的課題となっています。99年のG8ケルンサミットの首脳共同宣言を受けて、OECD輸出信用ワーキングパーティーにおいては国際共通環境基準への取り組みが2001年までの作業完了を目指して進められています。日本でもすでに旧輸出入銀行が昨年9月にガイドラインを設置し、ODA業務との共通ガイドライン策定の作業を進めています。

 国際環境NGO「地球の友ジャパン(FOEJ)」は、これまで通産省に対し、国際的な議論を踏まえて貿易保険の適用における社会・環境影響配慮のための政策の導入と情報公開、市民参加を求めてきました。今回、遅きに失したとはいえ、通産省が環境ガイドライン案の作成と公開を行ったことは、本来ならばわれわれにとっても歓迎すべき変化と言えたはずですが、残念ながらこのガイドラインは、その策定手続きにおいても内容についても、最低限必要な水準を満たしていると見なすことはできません。以下にその理由を述べます。

1. ガイドライン策定手続き上の問題

 ガイドラインに対する「意見公募」は3月1日から始まっていたが、FOEJがこれに気づいたのはすでに1週間を経過した3月8日であった。これまでFOEJは通産省の取り組みを促すために再三文書等でコンタクトをとっていたにもかかわらず、この間、通産省側からは意見公募の機会について何の情報も与えられなかった。しかもそのわずか3週間前にFOEJは通産省担当者を訪ねたが、ガイドライン策定や意見公募に関する一切の情報提供を拒まれていた。通産省はまた、関心を持つ国会議員の質問に対しても明確な情報提供を怠った。

 通産省は意見公募の機会を広報していないだけでなく、ガイドライン作成に関する一切の情報をNGO等に提供しておらず、案の作成にあたって意見の聴収も行っていない。「公募」した意見が最終案にどのように反映されるのか明らかでないが、4月1日からはすでに運用を開始する予定であるため、意見をもとに実質的な改善を行う予定はないのであろう。

 このように、運用開始予定のわずか1ヶ月前になって案を公開し、明らかに関心を表明している団体や議員にも意見提出の機会を広報せず、わずか15日しか意見提出期間を設けないようなやり方は、到底正当なパブリックコメントの要件を満たしているとは言えない。

 通産省は、ガイドラインの運用開始を遅らせても、関心を持つNGO等に十分な情報を提供し協議を行って、このガイドライン案を全面的に改定すべきである。

2. ガイドラインの内容について

 通産省のガイドライン案、「スクリーニング・フォーム」及び「環境配慮確認表」は、昨年9月に旧日本輸出入銀行が策定したガイドラインを形式上はほぼそのままコピーしたようなものである。しかし、旧輸銀のものと比べると、以下に詳しく述べるように、いくつかの重要な点で通産省のコミットメントは大幅に後退している。これでは通産省はプロジェクトに関する環境情報を集める努力も責任ある審査を行うこともできないだろう。

1)適切なアセスメントの欠如

 旧輸銀ガイドラインと比較すると、通産省ガイドラインの最大の問題は「環境配慮確認票」の位置づけである。旧輸銀の「環境チェックリスト」は、旧輸銀側が環境配慮を独自に検討するためのものであるが、通産省の「環境配慮確認票」は、保険を受けようとする企業が作成するものであり、しかも定義の曖昧な設問に対してYes/Noによる解答しか要求していない。たとえば「当該国の基準が著しく緩い」かどうか、その場合「日本の基準または世界銀行等の国際的な基準」を適用すべきかどうかは、通産省ではなく輸出者の判断に委ねられている。つまり通産省は、企業が適切な配慮をしていると考えていることを確認するだけで、独自の判断は何も行わないのである。

2)不適切なスクリーニング

 カテゴリーAプロジェクトに挙げられているような地域で行われるプロジェクトへの支援は原則禁止とすべきである。これらの地域内におけるプロジェクトだけでなく、これらの地域に影響を与えるプロジェクトも含めるべきである。カテゴリーA,Bとも環境や地域社会、住民の健康に重大な影響を与える可能性があるが、適切な環境アセスメントを行うための十分な環境情報は、輸出者からの「スクリーニング・フォーム」及び「環境配慮確認票」からは得られない。カテゴリーAプロジェクトについては、「必要に応じて通商産業省が独自に調査を行って入手」、カテゴリーBについても「入念な確認が必要と判断される場合は、必要に応じて個別の調査、確認を実施」するとしているが、環境専門家を備えていない通産省がどのようにして必要性を判断し、独自に調査を行えるのか疑問である。

 また、環境配慮確認を免除されるカテゴリーCには「輸出者等のプロジェクト実施者の関与度が低い場合」が含まれているが、その判断基準は明らかにされていない。

3)不明確な判断基準

 このガイドラインでは、プロジェクトが環境に重大な影響を与えることが明らかになったとしても、それが支援決定にどの程度影響を与えうるかが全く明らかにされていない。通産省は輸出者に対し、事前の相談時にすでに内諾を与えるようであるが、これは、環境影響が支援決定において真剣に考慮されるかどうかを疑わせる。「場合によって」「プロジェクト実施者に対して環境配慮の改善措置を求め」る場合や「貿易保険を契約しない等の対応を検討する」場合をどのように判断するのか、またどのような方法で改善を確認するのかも明らかでない。

4)情報公開・住民合意の欠如

 このガイドラインにおいては、プロジェクトに対する地元住民の合意がとれているか、適切な情報公開が行われているかは全く考慮の対象になっていない。

 同様に、日本の市民に対する情報公開についても何も定められていない。明確な基準が定められず、透明性が確保されないままでは、ガイドラインは恣意的に運用されることになってしまうだろう。

5)運用実施体制の整備

 このガイドラインの内容は全く不十分であるが、現在の体制では最低限の環境配慮確認さえ十分に実行できる保証はない。旧輸銀が不十分とはいえ専門家を備えた環境室を持っているのに対し、通産省には環境・社会開発専門家もいない。ガイドライン運用を実行するための審査体制の拡充やスタッフのトレーニングなどの整備が行われなければ、ガイドラインは実質的な意味をもたない。

 上に述べた理由により、私たちは適切で十分なガイドラインを策定し、運用するためには以下のことが必要であると考えます。

(1)4月1日からのガイドライン運用開始をあきらめ、改めて関心を持つNGO等に十分な情報を提供し、十分な期間開かれた協議を行って、ガイドライン案の全面的な改定を早急に行うこと。

(2)環境・社会開発専門家の助言を受けて、適切な環境配慮を行うために必要な環境スクリーニング及び環境アセスメントの手続きと基準を設置すること。

(3)ガイドラインにおいて情報公開と市民社会との協議を担保すること。

以上