クドレムク鉄鋼石会社の活動とNGOの代替案


KIOCLのずさんな体制

25年間に及ぶクドレムク鉄鉱石会社(KIOCL)の採掘がクドレムクの森林やバドラ川、バドラ野生生物保護区(下流のトラ保護区域)、そして下流の農業の生産性と住民の健康に与えた環境影響を正確に記述する事はきわめて難しい。これはKIOCLと規制機関の両方が、環境に関する情報を極秘にしてきたからだ。水・大気法と環境保護法によって、KIOCLは環境影響をモニターし、情報を市民に公開することを義務づけられているはずだが、KIOCLはそんな事を気にもかけていない。
さらにカルナタカ州公害防止委員会と環境森林省による汚染レビューも気力に欠けているため、KIOCLの無責任な態度はいっそう助長される始末である。まれにモニタリングがなされた時でも、州公害防止委員会は、ただバドラ川の鉄の含有量をはかるだけで十分と考えたのだ!

州の森林局による森林への影響モニタリングも、だらしないことでは引けを取らない。一日中続く爆破作業によって、野生生物は長い間脅かされ、追い払われてきたが、地元住民が抗議してようやく、爆破は日中だけに規制されるようになった。森林局がKIOCLの活動をまったく規制できないことは、ネリベドゥ地区を見ればよくわかる。KIOCLは、1994年に州が発行した相当疑わしい採掘許可条件の全てに違反した。全長40km以上の道路が採掘地を拡大するために建設され、ネリベドゥ地区のあちこちに井戸が掘られるなど、野生動物保護法は卑劣にも破られた。
何年にもわたってこうした事が行われたため、何度も地滑りが発生するほど破壊的な影響が引き起こされ、ドリリングによって泉の流れは遮られた。さらにラキヤダムの高さが違法に引き上げられたために広域に渡るショラの森が浸水する結果となったのだから、こうした事に対して森林局は処罰を行うこともできたはずだ。しかし、今日まで何ら効果的な対策はうたれていない。勤勉な役人達が行動を起こす度に、上からの弾圧や警察の妨害に打ち負かされてしまう。
これほど規制が弱いので、KIOCLは採掘の影響に関する情報を公開しようとせず採掘を続けている。採掘拡大の許可が出ることを見込んで、KIOCLは去年、ダムをもう一つ建設することを提案したが、この提案は市民の活発な活動と、1999年に3回行われたヒアリングの過程で、同社が提出しためちゃくちゃな「急速環境アセスメント報告書」が暴露されたために拒絶された。このヒアリングの報告書は、ヒアリングの間に公開が保障されていたにも関わらず市民に提供されなかったが、これは別段驚くことでもない。なにしろKIOCLは、市民がアクセスする権利をもっているはずの、半年ごとに行われる遵守レポートも秘密にしているのだ。

クドレムクでの採掘は適切なのか?

まったく当然のことだが、世界でも希れな森林とそこに住む野生動植物(これは個々の種を救おうとかいう話ではない)、そして南インドの重要な河川流域を、採掘がもたらす破壊から守ろうとするのは、採掘活動が利益を上げていようがいまいが、当然の行為である。それでもなお、私たちは生産性もあり利益を上げている企業を相手にしているのではないことを言っておかねばならない。たとえわれわれが「開発を優先しつつ、森林保護ともバランスをとろう」というような歪んだ考えを持っていたとしても、だ。KIOCLは、非常に不十分な技術経済観念に乗っかった企業である、これがわれわれの見解である。であるから、KIOCLが現在の場所に存在することを正当化する必要などないのだ。

まず始めに、クドレムクで採掘される鉄鉱石(含有量約38%)の質が非常に悪いという事があげられる。例えば北カルナタカのBellary地区にあるサンドゥールSandur鉱山の産出物は60%以上の含有量を持つ。従ってクドレムクでは、サンドゥールに比べてより広い範囲を採掘しなければならないのである。
さらに、鉄鉱石の質を高めて売れるようにするための加工処理過程の問題がある。この作業は大量のエネルギーを消耗し大量の水を必要とするため、結果として大量の採掘過重と土砂排出を伴う。耐用年限よりも早く、10年ほど前に埋まってしまったラキヤダムは、そのことをよく現している。このダムは、特に激しいモンスーンシーズンに決壊し、数名のKIOCL従業員が命を落とした上、広域にわたる農場や森林が浸水した。ダム強化のためにKIOCLはダム高を100フィートほど引き上げたが、その結果、ショラ森林が約300haも浸水してしまった。これは完全な違法行為である。
年平均で約7,000ミリメートル以上の降水量があるクドレムクでの採掘はかなり危険であり、森林や河川周辺の地域に有害な影響を与えている。モンスーン期には大量の土砂が鉱山から押し流され、支流やバドラ川に多量の沈泥を引き起こしている。

こうした環境面の懸念もあり、1913年にSampath Iyengarで鉱床が発見されて以来、この地域での採掘に反対する活動がなされてきた。おそらくは森林伐採や採掘などの差し迫った脅威から森林を守るため、マイソールのマハラジャはクドレムクとその周辺の森林を1914年に州林と宣言した。しかしマハラジャの努力もどうやら空しかったようである。
国営鉱山会社がこの地域の採掘許可を得た1969年頃は、自然保護の重要性ははっきりと定義されず、むしろ軽視されていた時期だった。しかし採掘を開始するための出費が急増し、その結果利益確保が難しくなったこため、採掘計画は70年代初期にはほぼ完全に断念された。
計画が息を吹き返したのは、イラン国王が鉄鉱石と引き換えに6.5億ドルの融資を与えたためである。しかし国王はKIOCLが1976年に設立されてすぐに追放され、計画に手痛い打撃を与えた。イランは結局鉄を購入せず、ローンの話もなくなってしまったため、KIOCLの存続はカルナタカ州とインド政府の補助に頼るしかなかった。マンガロールのペレット工場はなんとか販路を捜し求め、始めは質のよくない鉄の輸入に乗り気なかった日本もペレットの輸入に同意した。日本は最終的にKIOCLから継続的に鉄を輸入する契約を結び、これによってKIOCLも70、80年代に被った巨額の損失から回復する力をつけることができるようになった。とはいえ、KIOCLが10年も非効率な活動を続けたために抱えた多額の債務を返済できていたのも90年代初頭の間だけであった。日本はKIOCLの輸出総量の約1/3を購入しており、KIOCLの存続を支える大きな経済基盤となっている。

KIOCLがクドレムク森林で採掘を続ける主な理由は、KIOCLがインド最大の輸出型公営採掘企業だからである。外貨建て収益は96年から99年の間で年平均約1億2千万ドルに上る。西ガッツ森林の中心部における採掘活動のために2,500人が雇用されており、用地拡大(主に森林)を理由に州が提供する大規模な補助金と電力費用免除(州電力局に支払われるべき10年分の電力供給額の最大半額が最近免除された)から利益を得ている。にも関わらず、同じ地域のソフトウェア産業と比べると、KIOCLの収益はとても低い。
例えばインフォシス社は5,000人以上の高賃金従業員を雇用していながら、近年一億9千万ドルの外貨収入を得た。全国ソフトウェア・サービス企業連盟によれば、インドのソフトウェア輸出は年間約40億ドルの利益をもたらしており、2008年までには10倍の500億ドルに達すると考えられている。もし外貨収入が国の最優先課題であるならば、森林地帯での採掘よりもソフトウェア開発に重点をおくべきだろう。そうすれば少なくとも森林は手つかずで残しておける。

首相秘書官のシン氏は、カルナタカ州政府に宛てた手紙の中で、「KIOCLの成長は現在の採掘許可を延長と周辺地域の新規採掘許可の決定にかかっている」として、採掘続行のための州政府の協力を求めた。しかし同時に「クドレムクの鉄鉱石埋蔵量はあと7,8年」しかもたず、それゆえに「長期的活動継続のためには周辺で新しい採鉱を開発する事が必至である」とも述べている。
ここから読み取られるべきことは、この地域での採掘活動はそもそも成り立ち得ないものであり、KIOCLの存続の可能性は、クドレムク国立公園のさらに広い地域への拡張によってしかありえないという事である。こうした要請を州政府にしながら、現在の問題はさておき、将来の拡張の結果が厳しく問われもしていないことを全く無視しているとは、首相府がいったい価値ある森林を保護していく気があるのかどうか疑われる。現在の経済状態で、こんなに無駄で巨大な企業をクドレムクの森に置き続けることを支持などできるだろうか。
従って、政府がKIOCLをサンドゥールに移動させるとすれば、それは国民に対する最大のサービスになるだろう。同地域はインドにおける鉄鉱石採掘と製鉄の中心地として足早に成長している。そうすればクドレムクの森林や河川が守られるだけでなく、州内の遅れた地域を発展させることにもなる――クドレムクのような環境破壊を引き起こさなければ特に。

*******これは、現地バンガロールの団体「環境サポートグループ」の

レポートから一部を訳出したものです。******