サンロケ多目的ダムプロジェクト
環境影響評価書(EIA)の分析:概要



「フィリピン、サンロケ多目的ダム計画における環境アセスメントの分析」
 
堆積 :セルジオ A.フェルド 博士

1.1997年に提案されたダム計画は、事実上は堆積ダムとなってしまっている。これは採鉱業者の責任においてなされるべき汚染物質を含む土砂の廃棄、汚水のアグノ川への垂れ流しを許し、採掘業者の本来の責任を回避させてしまうものである。さらに大きな問題は、ダム貯水池に堆積した汚染物質の処理は、ダムが寿命を終えて廃棄物となった時点の一般市民の負担となってしまうことである。これは非常に重大な問題である。彼らはこうした環境的、技術的、財政的難題を前に唖然とすることになるだろう。また、このような非常に重要な要因は、サンロケダムの評価においては最終廃棄コストに含まれていない。

2.アセスメントが用いた堆砂率は信頼性がなく、構成要因のどれをとっても不充分な見積もりとなっている。サンロケダム貯水池内の土砂などの堆積物の蓄積は予想の2倍から3倍の速さで進み、その結果、36.6−66年、平均して約50年とされているダム稼動年数は事業実施主体が予測していたよりずっと短くなり35−65%短縮され、25年以下になることが推測される。これはまた、経済的効果や割引率、資産減価などの償還条件や、 ユーザーに対する利益の適正化にも影響することになるだろう。

3.アセスメントでは、堆積物は便利にも貯水池の無効貯水域(放水レベル以下の貯水池の底の滞留層)のみに蓄積すると仮定しているが、これは大変な間違いである。アグノ川上流にあるアンブクラオダム貯水池の実例に見られるように、サンロケダム貯水池の上流でも堆積が起こることが想定され、川底を堆積が埋めてしまうことは確実で、貯水池の上流域に深刻な洪水が予想される。


水質:ロバート E.モラン 博士

1. 提案のサンロケダムの工事は、溜まった水の中に多数の物質あるいは少数の化学成分の溶存濃度を高めるという状況を作り出す可能性を持っている。サンロケダムと状況が大変良く似た、上流に採鉱現場をかかえたダムの例から、深く溜められた水が鉄、マンガン、亜鉛、鉛、水銀、セレニウム、カドミウム、モリブデン、砒素、銅、ニッケルなどの溶存濃度を高めることに作用するかもしれないということがわかる。貯水池はウランなど高濃度化した放射線物質やシアン化合物を含むことになるかもしれない。このような水質の劣化は、高価な水処理の過程を用いて処理されない限り、予定されている農業や上水道に水を利用できなくなってしまう。
2. 上記のような水質の変化によって、貯水池や下流の川の水が水生生物の非常に敏感な種、特に特定の魚種に毒性を持つことにもなる。このように化学成分濃度が高まることにより、提案されている貯水池での養殖は難しくなるだろう。

 建設/地質/地震:ティディアノ・グリフォニ氏


1. 現在の資料を分析した結果、サンロケダムにおける地域ごとに特化した地殻の変動を明確にする調査についての記述はない。これは地震の危険性についての分析がなされておらず、すべての地震活動の可能性を把握していないということを意味している。その結果、ダムが予測されるもっとも大きな地震に耐えうる設計であるかどうかは疑問である。
2. ダムの設計で想定されているよりも大きな地震が起こった場合:
a. 貯水池の土手を侵食する静振波を誘発し、地盤のしっかりしない傾斜での地滑りを誘発する。また、ダムの上流の傾斜に影響を与える。
b. 大規模な地滑りの原因となる。もしこれが貯水池に溜まれば、ダムを圧迫する歪みが生じる。
c. ダムが崩壊する原因となる。
3. 貯水池誘発型地震の可能性について調査されていない。貯水池誘発型の地震の調査は、とりわけ200メートルという高い堰堤による大きな負担のため、非常に重要である。
4. このダムプロジェクトの一つの便益は洪水制御である。しかし、貯水池は最大出力と灌漑用水のために満たされるどころか、適切な貯水容量は大型の台風や洪水の水を溜めることでようやく確保できる。洪水で貯水容量を満たす場合は、事前によく洪水についての予測がなされた上で、多量の水を貯水池から放出するべきである。この調査では、150万人の暮らすダムの下流へ多量の水を放出すればどうなるのか適切な考察がなされていない。また、適切な洪水予測システムや洪水警報システム、余水路の管理計画や排出、地域準備計画についてはどこにも触れられていない。

洪水制御:ピーター・ウィリング 博士

1. 貯水池は5年に1度の洪水に耐えうるように設計されている。想定されている洪水は非常に小さく、実際には洪水はもっと頻繁に起こりうる。よって、より大きな洪水には対応できず、水は貯水池を超えてしまうだろう。1984年の環境アセスメントは、緊急時の貯水池や余水路の運営は自然災害よりももっとひどい洪水を引き起こすことになり、ダムを破壊しかねないということを認めている。
2. 5年に1度の洪水に対応するダムの建設は、安全性の面からこうしたダム下流の開発が不適切であるといわれているが、結果的に下流が5年に1度の大きな洪水に見舞われたときに、フラッドプレーン(季節的に軽い洪水が起こるか流域の平地)への被害を増大させ、洪水による荒廃をより一層ひどくすることになる。
3. アグノ川流域には、9つのさまざまな規模、年代、状態の堆積ダムがある。このうちいくつかの堆積ダムは、すでに使い物にならなくなっている。また、おそらくほとんどすべてのダムが洪水に絶えうるかどうか疑問である。もし、大型堆積ダムが崩壊すれば、その勢いづいた水や堆積がうねりとなって下流に流れ込み、目も当てられないような影響を及ぼすことになるだろう。また貯水池がほぼ満杯に近ければ、サンロケダムの歪みの原因ともなるだろう。こうした可能性については、分析を行った資料の中ではまったく考慮されていない。

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