国際協力銀行(JBIC)の
新環境ガイドライン案
に対するコメント(02.04.2002)

これまでの背景

 国際協力銀行(JBIC)は、2001年12月28日、新環境ガイドライン案を発表してパブリックコメントの受付を開始した。これは、2000年10月から2001年7月25日まで開催された、「国際協力銀行の環境ガイドライン統合に係る研究会」*の提言を受けて作成されたものである。「研究会」は、NGO、学識者、関係省庁、JBICスタッフが個人として参加するJBICとは独立した組織として、新環境ガイドラインに盛り込まれるべき内容を議論し、提言をまとめた。JBICはこの提言を踏まえてガイドライン案を作成し、パブリックコメントに付すことを明らかにしていた。

 FOE Japan(旧称:地球の友ジャパン)はNGOとして「研究会」に参加し、さらに2001年11月16日から12月25日まで開催されたフォローアップ委員会**において、JBIC案が研究会提言を確実に踏まえたものとなるようドラフトの修正を試みた。研究会提言もNGOの立場からは完全に満足のゆくものではなかったが、最終的に公表されたJBIC案はいくつかの点で研究会提言よりもさらに後退している。また提言を踏まえて盛り込まれた重要なポイントについても、企業や政府の一部から異議が提出されている。

 特に重要な論点は、事業者(通常、円借款の場合は相手国政府、民間投資の場合は企業)にどこまで強く環境社会影響配慮の実施を求めるかという点である。少なくとも世界銀行並みの高い基準を求めるNGO等の主張に対し、JBICは世銀等と融資の仕組みが異なる(事前準備段階には基本的に関与しない)のでそこまで要求はできないとの主張がある。研究会では、基本的に一定以上の基準を満たした事前準備を事業者に要求し、それを満たさないものについては融資できないことを明確にするという方針で提言を行ったが、重要な被援助国や企業の反発が予想されている。特に円借款の場合には意思決定にJBICだけではなく政府が重要な役割を果たすので、環境社会面の判断が確実に融資の意思決定に反映されるように、JBICと関係省双方に強く働きかける必要があるだろう。

 以下は、新環境ガイドライン案に対するFoE Japanのコメントとして2月4日に提出したもの。

* **研究会及びフォローアップ委員会の議事録はwww.sg-egl-jbic.org/を参照。

 

国際協力銀行の新環境ガイドライン案に対するコメント

2002年2月4日
国際環境NGO FoE Japan
〒171-0031 東京都豊島区目白3−17−24 2F
Tel: 03-3951-1081, Fax: 03-3951-1084
E-mail: finance@foejapan.org
https://www.foejapan.org/aid

はじめに

 FoE Japanは、2000年10月から2001年7月25日まで開催された、「国際協力銀行の環境ガイドライン統合に係る研究会」に参加し、NGOの立場から多くの提案を行い、提言取りまとめに参加した。提言の最終的内容については完全に満足しているわけではないが、完全に透明で独立したプロセスによって、真剣で中身の濃い議論が行われたことを高く評価している。JBICには、ここまでの議論の本質を踏まえたガイドラインの作成と運用を心から期待する。

 JBIC案に対する私たちの意見は2001年11月16日から12月25日まで開催されたフォローアップ委員会においても表明したが、ここで改めて私たちの懸念と意見をお伝えし、改善および説明を求めたい。

全体について

  • 「研究会」提言に比べ、JBIC案のワーディングは、特に「前書き」や「基本方針」などの部分で明らかに曖昧になっている。提言のなかで明朝体で示されているJBICに対する注文(たとえば情報公開の時期・内容の明示や、国際基準・グッドプラクティス等の例示)に対しても、何ら具体的な考えは示されていない。ガイドラインは研究会の提言や議論を確実に踏まえて作成すべきである。また研究会の提言の中にはより長期的に検討すべきことも含まれており、今後これらを受けて環境パフォーマンスの向上に努めるよう求めたい。

  • このガイドラインは、円借款業務と国際金融等業務とを統一して記述することを基本にしている。もちろん環境・社会基準は全ての業務で共通でなければならないが、情報公開やモニタリング等、項目によってはむしろ融資形態別に記述した方がよいところもあるので、考慮されたい。

個別の項目について

  1. 「前書き」
「持続可能な発展」と人権に関する国際的原則を確認し、これに沿って融資業務を行うというJBICの明確な業務姿勢を打ち出した研究会提言よりも、JBIC案は非常に曖昧になってしまった。これ以外にも全般にわたって、JBICとして主体的に環境・社会パフォーマンスの向上に取り組む姿勢が弱く、ガイドラインが確実に実施されるのか懸念している。事業者が環境配慮を行うのは当然だが、それはJBICの主体的な取り組みを免責しない。「提言」通り、金融機関として明確な環境・社会政策をはっきりと示すべき。

 2.「本校の環境配慮確認にかかる基本方針」(第1部-1)

「ステイクホルダー」の定義 NGOをはっきりと意見が認知されるべき存在として明記したことには大きな意義がある。ただし、たとえば環境情報の提供等においては専門性をもつ国際NGOや専門家等もステイクホルダーとみなされるべき場合があるので、明記されているグループ以外について排除するものでないことを確認したい。

JBICによる環境配慮 提言では「銀行の環境社会配慮の方針」と言いきっていたものを、「環境配慮確認」というタイトルにしたことはやはり見過ごせない。第1部-3のタイトル(「環境配慮確認にかかる基本的考え方」)と紛らわしいだけでなく、プロジェクトの環境配慮を行う主体はあくまで事業者であってJBICではないとの姿勢がにじみ出ている。JBICによる環境に配慮した融資業務の原則と、そのために個別案件の環境レビューでしっかりと確認を行うこととを明確に整理する必要がある。ここはすっきりと「本行の環境配慮」とすべきであろう。

同様に、「環境配慮の確認」と「環境レビュー」という言葉の使い分けが混乱を招く。JBICの説明によれば、「環境配慮の確認」は案件の審査からモニタリング・フォローアップを含むのに対し、「レビュー」は審査のみを指すとのことだが、英語でも日本語でも、適切な説明がなければ意味が通じないだろう。

  1. 環境配慮確認に関する情報

    研究会提言では、「特に影響が重大と思われる案件や、異論の多い案件」について、専門家からなる委員会を設置することを提案したが、JBIC案では単に「外部専門家の意見を求めることができる」とされている。タイの汚水処理場のケースにも見られたように、審査プロセスがアカウンタブルなものでなければ、専門家の意見を聞くだけでは問題の防止につながらない場合がある。コントロバーシャルな案件こそ、専門家委員会を設置する等の手段によってレビュープロセスの透明性と独立性を高めるべきである。国際EIA委員会の設立も検討されており、こうした事例をさらに研究するなどして、レビュー委員会の設置をぜひ続けて検討されたい。

  2. カテゴリ別の環境レビュー

    カテゴリFIの環境レビューの記述は、委員会提言に比べて非常に簡素化された。さまざまなケースがあって一律に表記できないとのことだが、具体的なレビュー手続きが外部に明らかにされないことは問題がある。ガイドライン本文でなくとも、より詳細な説明を付すべきであろう。特殊な融資形態案件についても、より詳細な記述を添付すべきである。

  3. モニタリング及びフォローアップ

    この環境ガイドライン案は環境審査に重点を置いたものになっているが、研究会でも議論があったように、事前にすべての環境リスクを正しく予見することはできない。実施段階で影響緩和策の効果を確認しながら問題を早期に発見し適切に対処できるよう、環境モニタリング体制の強化が重要である。特に円借款はマイナスの効果をもたらさないだけでなくプラスの効果をもたらすことが期待されているのであるから、中間評価を確実に行い公表することが不可欠である。たとえば世界銀行等のように、少なくともカテゴリAにあたるものについてはモニタリングの実施期間や現地調査によるモニタリングの実施などをさらに細かく規定する等、検討すべきである。問題が指摘された場合に解決をはかるためのSAPI、SAPS等のスキームを充実し、また事業者から提出されたモニタリングレポートおよびJBICによる監督状況についても公開を進めるべきである。

  4. 本行の環境配慮にかかる情報公開

    プロジェクトの概要情報 研究会案の「名称、場所、実施者、事業概要、資金規模、想定される融資等の種類、想定される主要な環境影響などカテゴリ分類の根拠となった情報」は、少なくとも円借款およびアンタイドローンについては確実に公開されるべきである。民間投資案件について公開が難しい項目があれば具体的な理由を示すべきだが、少なくともカテゴリーA案件については名称、場所、事業概要、環境影響等の情報公開が必要である

    具体的な情報公開の時期および期間 「意思決定に先立ち十分な時間的余裕を確保して行うよう努める」という努力規定では、恣意的に運用され情報公開の意味がなくなる可能性がある。情報公開を行ったときには実質的に融資が決定されていることがあってはならない。環境情報を十分な期間公開する目的は、プロジェクトの詳細がまだフレキシブルなうちに、多様な意見・情報を取り入れて審査に生かすことである。したがって現地調査等が行われる前など、まだ計画の修正が検討できる時期に情報公開を開始しなくてはならない。

    フォローアップ委員会ではJBICの扱う案件の種類は様々であり、世界銀行や他のECAとは異なるとして、具体的な期間を示すことには消極的な意見が聞かれた。しかし重要なのは、どの時点をもって実質的な意思決定が行われ、そこから遡ってどの時点までであれば外部からの情報が有効に生かしうるかということである。融資形態の違いに応じて実質的な意思決定プロセスを明らかにした上、具体的な目安を定める必要がある。

    世界銀行は融資決定前少なくとも120日程度のコンサルテーション期間を設けており、円借款およびアンタイドローンのカテゴリーA案件はこれに近い規定を設けるべきである。民間投資についても、IFCは90日、保険を扱っているアメリカのOPICも60日のコンサルテーション期間を確保するようにしている。この点については今後さらに議論を続けられるよう要望する。

    情報管理・広報の改善 なお、今後JBIC事業の透明性を高め、外部との情報交流を促進するためには、現在の広報室のありかたや情報システムの見なおしが不可欠である。世界銀行では、プロジェクト情報が担当者レベルから確実に集められ公開されるよう、情報管理強化を進めている。NGO担当者による情報提供サービスの質も高い。こうした事例を参考にして改善を検討されたい。

  5. 意思決定、融資契約等への反映

    環境レビューの結果をなるべく融資契約に反映させることを明記したことは、環境影響緩和策等の実施を確保するうえで非常に重要である。しかし現状では、融資契約につけられた環境・社会関連条件は、契約締結後に一部が公開されるにすぎない。融資契約の内容や付属の覚書等の公開を進めるべきである。また円借款の場合、環境・社会問題よりも外交関係を優先して融資表明が行われることがあってはならない。JBICの環境・社会審査が確実にクリアされてから政府によるプレッジがなされるよう、関係省庁と調整し確保すべきである。

  6. ガイドラインの適切な実施・遵守の確保

     異議申立て機構の設置について、表現は曖昧であるが記述されたことを評価する。このような機構が新に意味のあるものになるためには、独立性と透明性、強力な権限を備えていることが必要である。今後、具体的な内容について透明性と幅広い参加のもとに議論を進めていくよう求める。

     しかし異議申立て機構への訴えは現地住民等にとっては最後の手段であり、その前に問題を発見し早期に解決をはかるための組織体制や能力形成が何にも増して重要である。世界銀行の質保証グループのように、機関内部に独立した機構を設けチェックアンドバランスがはたらくような仕組みを造ることを早急に検討すべきである。ガイドラインを確実に実施し、環境パフォーマンスを向上させるための組織的改革案をなるべく早く具体的に示されるよう期待する。

  7. ガイドラインの適用及び見なおし

     新ガイドラインの施行前の周知期間は旧ガイドラインが利用されることになるが、なるべく新しいガイドラインの考え方に沿って融資業務を行うよう求める。またガイドライン見直しの際には運用の経験を踏まえて改善策が検討されるよう、遵守状況をモニタリングし評価する独立の機構の設置を求める。

  8. 対象プロジェクトに求められる環境配慮

    提言では、「一般的に、以下に示す考え方に基づき、事業の性質に応じた適切な環境配慮が行われていることを要求する」となっていたのが、JBIC案では「…原則とする」という表現に変わっているが、このために緩やかな運用になる恐れはないか懸念する。必要な条件を満たさなければ融資しないということをより明らかにしていただきたい。

    個別政策の策定 先住民族、非自発的移住、ジェンダーなどは、それぞれ重要な問題であり、このガイドラインにすべてを書き込むことには限界がある。各分野に関する国際的議論や研究の進展が生かされるよう、個別に政策・ガイドラインを策定することが必要である。今後専門家やNGO参加のもとに具体的な検討の場を設置されるよう求める。

    EIAの公開 現地での情報公開および地域住民等のステークホルダーとのコンサルテーションが意味のある形で行われることは何よりも重要である。EIA公開も他の項目と同様、「要求される」ではなく「公開されていなければならない」と明示すべき。

  9. その他

グッドプラクティス・国際基準 事業者がガイドラインのほかに参照すべきグッドプラクティスや、JBICがレビューの際に参照する重要な環境基準を明示すべきである。この中には、たとえば世界銀行のセーフガード政策、汚染防止ハンドブック、情報公開・協議グッドプラクティス、世界ダム委員会のガイドライン、アジア開発銀行の先住民族政策、等が含まれるべきである。また、JBIC自身の経験の蓄積も文書化し共有することがのぞましい。

チェックリスト等の見なおし 今回のガイドライン改定に伴い、チェックリストやスクリーニングフォームの内容についても見なおしを行うべきではないか。

事業者に対する事前の助言等 JBICは基本的に事前段階では事業に関与しないが、今回のガイドライン見直しによって、今以上に事業者への事前の助言や支援が重要になるだろう。JBIC内でも能力構築をはかるとともに、国際協力事業団等によるマスタープランやフィージビリティースタディー支援における環境配慮との整合性を図る必要があろう。

以上

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