「輸出・海外民間投資支援機関の環境基準の分析」
イエール大学(98年5月) 輸出・海外民間投資支援機関の環境基準の分析 (抄訳) 1.概要
2.序論
3.輸出・海外民間投資支援機関の背景 (1)機関の活動 イエール報告で取り上げられている各国の機関は、対外投資と輸出を支援することによって自国の経済成長を促進するために設置されたものである。それらは、貸付等の資金援助や保険などの財政援助を提供する。援助は単純な一回限りの輸出にも、大規模な長期プロジェクトにも提供される。一般的な用語としては、輸出を保証する機関を指す「輸出信用機関(ECA)や、輸出業者や投資家に貸付等の資金援助を提供するものを指す「輸出金融機関」がある。この報告では輸出支援や海外における民間投資に保険を提供するすべての機関を指す「輸出・海外民間投資支援機関」を使用する。 外国の顧客と取り引きを行う場合には通常よりも多くのリスクが発生する。まず、外国の顧客の信用性を評価したり、不良債権を回収するのは極めて困難である。これは、商取引上のリスクが買い手の所在地によって増大するだけなので商業上のリスクと呼ばれる。また、外国為替レートの変動リスクや、戦争、産業の国営化による輸出代金の不払いといった政治的リスク等、輸出特有のリスクもある。輸出業務というのは通常、国内業務よりも時間がかかる。特に大きなプロジェクトの場合、ある種の資金調達はしばしば業務に欠かせないものである。輸出援助機関が、買い手が購入の支払いを完了するまで輸出業者に支払金額を用意する直接貸付や融資は、輸出を援助する一つの方法である。けれども一般的に、不払いのリスクに対して輸出業者を保証するのはもっともありふれた方法である。支払保証が得られることで、商業銀行や政府機関からの資金調達が可能になる。 保険や金融の契約は短期と長期のものに分類される。短期とは一般に一年未満の契約を指す。これらの短期契約は消費財などをカバーすることが多く、概して購買者の債務不履行の“商業”リスクに対する保険である。長期契約はより大きなプロジェクトを対象とし、通常、商業リスクだけでなく“政治的”リスクをも保証する。ほとんどの場合、長期契約は政治的リスクがより大きい途上国の場合にのみ必要とされる。 こうした長期プロジェクトでは、外国投資保険と輸出保険の区別ははっきりしない。輸出業者は始めに多額の資金を投資し、たいていはプロジェクトの利益から長い時間をかけて資金回収する。この場合、輸出業者は投資家のような活動をしており、プロジェクトを実際には建設しない外国の投資家と同じような保険を必要とする。アメリカでは海外投資保険と輸出信用保険は別々の機関が扱うが、他の多くの国では、両方のタイプの業務は同じ機関によって扱われている。 長期プロジェクトは環境への悪影響を引き起こす可能性がより高いと考えられる。長期プロジェクトでは大規模な資源の消滅が起こったり、環境にダメージを与える建設作業や重工業が行われたりする。さらに、多くの途上国では先進国より低い環境基準しか持たなかったり、現存する基準が十分に実施されないことが多い。従って開発途上国におけるプロジェクトは、実施過程で環境に悪影響を及ぼす可能性が高いのである。 輸出・投資支援機関と開発機関の違いに注意することは重要である。開発機関(USAIDなどの二国間機関や世界銀行などの多国間機関を含む)の主要な目的は他国の利益となる開発を援助することである。対して、輸出・投資支援機関の主たる目的は自国の輸出業者を支援することなのである。しかしながら、これら二つのタイプの機関は同じプロジェクトに関わることが多い。開発プロジェクトはよく先進国から商品やサービスを買うことを必要とされるが、この場合、輸出業者は自国の輸出機関に輸出援助を要請するのである。従って、開発機関と輸出機関は一緒になって大規模プロジェクトを推進することが多いのだが、二つはまったく違う機関である。G8とOECD諸国のほとんどの開発機関がすでにプロジェクト支援における環境基準を採用していることは注目に値する。 輸出支援機関のあり方もまた様々である。そのほとんどは元々地元の生産者や輸出業者を支援する方法の一つとして政府によって始められたプログラムである。これらは政府機関によって行われることもあれば、政府と契約を結んでいる民間機関によっても行われる。大規模で長期の政治的リスクは政府支援プログラムという後ろ盾を必要とするが、ほとんどの短期的商業リスクは、他の商業保険と同じように完全に民間会社が利益を得るための活動として扱っている。 (2)協力協定 輸出・民間投資支援プログラムは、一般的に、他国の輸出業者と競争する自国企業を援助する方法として政府が始めたものである。自国企業の利益を図るため、これらの機関は保険料を減らしたり他国の機関よりも有利な保険条件を提供したりした。政府資金の支援を受けているため、支払い請求に必要な額よりも保険料を減らすことができたのである。すると競争国の機関は、自国の企業に競争力を維持させるために、このような市場価格以下のレートに少なくとも合わせなければならなくなる。結局、このような競争はほとんどの国によって逆効果だとみなされ、競争を制限するための協定が設けられた。 公的輸出信用のガイドライン協定は、ほとんどの主要な輸出国間の間で、国家の支援プログラムによる輸出信用保険に妥当な条件を定めるものである。重要な特徴は異なる国の輸出業者間の費用を均等にするため、そして機関同士の競争による破滅を防ぐために保険料や手数料をある程度基準化した点である。ほとんど全ての先進国は加盟しているが、中国、ロシア、インドなどは加盟していない。1978年の設立以降、何度も拡大と改訂が繰返されており、最近では1999年実施予定の条項がある。これは加盟国に如何なる強制も強いない任意の協定である(加盟国間の調整を要するヨーロッパ連合を除く)が、ほとんどの国は協定に従っている。 協定の改訂や拡大はOECDによって遂行される。協定はOECDとは異なる機関ということになっているが、アイスランドを除く全ての協定加盟国はOECD輸出信用グループのメンバーかオブザーバーである。 もう一つの協力機構として、民間及び公的輸出保険業者の機関であるベルン・ユニオンがある。加盟メンバーは世界各国の政府機関や完全に民間の保険業者の両方が含まれる。これは輸出保険に関わる様々な企業や政府機関の間で協力やコミュニケーションを促進するためにあり、協定や基準などの拘束はない。 (3)環境基準に関する国際的イニシアチブ 異なる国の輸出機関同士の競争は、環境基準を考慮する上での要因でもある。各国機関は、国際競争において自国の輸出業者が不利になるのを恐れ、拘束性を持つ環境基準を採用する事に及び腰だった。この問題に取り組むため、いくつかの多国間フォーラムにおいて共通の環境基準に関する交渉が行われている。OECDの輸出信用グループにおいても共通の環境基準について討論しようとする試みが行われているが、これらの議論はいまだに合意に達していない。個々の事例に基づいて共通の基準を作る試みも失敗に終わっている。しかし1997年のG8サミット会議は、控えめではあるが、より成功に近づいたといえる。G8の首脳陣が発表した最終的な公式声明には「輸出信用機関の環境基準」というセクションが含まれており、「インフラや設備投資のための資金援助を提供する際、環境要因を考慮に入れることによって、持続可能なやり方」を奨励するよう、各国政府に呼びかている。この声明ではまた、OECDの作業への関心が表明され、この問題が次の1998年のG8でも再検討されるとも述べられている。 (4)主要機関の統計 この研究で取り上げられている機関だけで、年間約2,420億ドルの輸出(世界の貿易全体の約6%)を扱う。中期あるいは長期の輸出は603億ドル(日本の通産省貿易保険の予算は決定されていないので含まれない)、そのうち少なくとも500億ドルが開発途上国向けである。環境に最も大きい影響を与えると思われる機関は日本の通産省貿易保険、ドイツのヘルメス、フランスのCoface等がある。このレポートでは11カ国中6カ国を日本と比較対照している。 表1は調査対象の国及び機関、97年ないし96年の対象輸出・投資の総額、また長期・中期で分けた対象額の内訳と開発途上国向けの推定割合を示す。さらに、それぞれの機関の環境影響可能性の大まかな指数を得るために、開発途上国向けの長期保険対象額の推定総額を表した。 表2は、それぞれの国の国内総生産(GDP)、輸出額、GDPに対する割合、輸出に対する輸出支援機関の割合(各機関の投資保険額も含むおおよその見積もり)など、いくつかの基線データを示す。それぞれの機関は統計を違った方法で集約・報告しているので、これらの数字は比較の大まかな基準であるが、世界の開発における輸出・民間投資機関の重要性を示している。 表1 輸出・民間投資機関の統計概要(単位:10億ドル)
表2 輸出の相関的な重要性(単位:10億ドル)
(5)国別詳細 全ての金銭データは特に記載されていない限り10億ドル単位である。元のデータがアメリカドルの場合はUS$のみ、他の通貨が使われていた場合は現地通貨とUS$(1998年4月14日USA Todayのレートを元に換算)とで表示している。 フランス 経済:1997年のフランスの国内総生産(GDP)は1兆5,360億ドルであった。年間輸出は3,610億ドル、GDPの23%である(1ドル=6.11フラン(FRF))。 機関:フランス貿易保険会社 (Coface)は、商取引の保険を引き受け、その他にも信用やリスクに関する情報活動などを手がける民間会社である。また、政府の代理人としてOECD諸国以外を対象とする政治的リスクや、3年以上の長期保険も引き受ける。経済財政省の対外経済関係総局(DREE)及び財務局から保証の承認を受け、政府の委員会からの審査を受ける。
扱い額:Cofaceの年次報告には中期及び短期対象の総計が記されているのみで、また1996年に8つのプロジェクトに融資したことも記されてはいるが、その総額は示されていない。従って、正確な扱い総額を知ることは出来ない。 Coface 政府会計 1996年新規扱い額(単位:10億)
部門:イエール報告には、Coface政府会計について部門ごとの内訳は載っていない。 地域: Coface政府会計・新規中期扱い額(1996年、地域別)
ドイツ 経済:1997年のドイツ国民総生産は2兆5,359億ドル、年間輸出は5,702億ドルで、GDPの約24%である。イエールの調査時の通貨換算レートは、1US$が1.81ドイツマルクであった。 機関:主要な保険・保証団体はドイツ政府と契約した輸出保険を引き受けるコンソーシアムである。これは、ヘルメス信用保険会社とC&Lドイツ監査会社 という2つの民間会社から成り立っている。ヘルメスが全ての活動において主導権を持っている。200万マルクまでの保険の申し込みは、経済省によって運営されている省庁間委員会で討議された後、委員会の定めたガイドラインに沿ってヘルメスが承認する。
扱い額:(ヘルメスが政府会計として扱ったもののみ。この他に民間企業としての活動がある。) ヘルメス政府会計活動総額(単位:10億)
部門: ヘルメス政府会計活動 1996年新規扱い高 (中・長期のみ・部門別)(単位:10億)
地域: ヘルメス政府会計活動 1996年新規輸出高(短期含む)(単位:10億):
日本 経済:1997年の日本の国民総生産は4兆5,950億ドル、輸出は4,820億ドルで、意外なことにレポートではGDPにしめる比率が最も低く11%以下である。イエール調査時の通貨換算レートは1US=130円。 機関:日本輸出入銀行は主に輸出と海外投資の貸付を扱っており、通産省の貿易保険課(EDI/MITI)は国際取引の保険を提供する(両方がプロジェクトに関与することが多い)。海外経済協力基金(OECF)は二国間開発援助を扱う。1999年4月には輸銀とOECFの合併が予定されているが、それぞれの職務は別々の部署が扱うことになるだろう。 扱い高: 輸銀の新規扱い高(1996会計年度) (単位:10億)
通産省貿易保険課:1996年輸出保証額は1,480億US$ 部門:両機関とも部門別の情報はない。 地域: 輸銀の新規扱い高(1996会計年度) (単位:10億)
通産省貿易保険課:地球の友ジャパンの概算では、貿易保険課の扱い額のうち40%が開発途上国向けである。 スイス 経済:スイスの1997年の国民総生産は2,940億ドルであり、輸出は1,080億ドル、GDPの58%である(報告された国の中では最も高いパーセンテージである)。イエール調査時の通貨換算レートは1US$=1.51スイスフラン。 機関: Geshaftsstelle fur die Exportriskogarantie (ERG)、または 輸出リスク保証機関Export Risk Guarantee Agency が輸出リスク保険を扱う。公的な輸出金融機関やスキームはない。 扱い高: ERG新規保証 1996年(単位:10億)
部門: ERG 新規保証 1996年 部門別(単位:100万)
地域: ERG総扱い高 1996年末
イギリス 経済:イギリスの1997年の国民総生産は1兆1,530億ドル。年間輸出は3,130億ドル、GDPの27%である。通貨換算レートは1ドル=0.60ポンド。 機関:輸出信用保証局(ECGD)は、貿易産業省の中にある政府部門である。ECGDは長期保険とプロジェクト保険、また再保険や、リスクの多い短期取引の民間企業援助を扱う。全ての短期保証ビジネスは1991年に民営化された。 ECGDはまた、利益率を保証することにより輸出金融を行う民間銀行の支援を行う。 開発援助は、海外・連邦オフィスの海外開発本部(ODA) によって行われる。 扱い高: ECGD 資本財及びプロジェクトビジネスの総扱い高(単位:10億)
部門: ECGD 資本財及びプロジェクトビジネス 96/97 (単位:10億)
地域:ECGDは地域別統計を出していない。 ECGDの新規ビジネスの上位10市場 1996/97年(単位:100万)
このリストが1995/96年の上位市場によったものであることに注意。総額のうち開発途上国向けの割合を見積もるため過去3年間の上位市場を調べたところ、91%が途上国向けであった。この表でも上位10市場が全体の72%なので、総扱い高のうちの91%が途上国向けというのは妥当な数字といえよう。 アメリカ 経済:1997年のアメリカ国民総生産は7兆3,880億ドル、輸出は7,930億ドルである。 機関:アメリカ輸出入銀行は輸出金融と保険の両方を取り扱う政府機関である。このほかに海外投資を保証・融資する海外民間投資公社(OPIC)がある。公的開発援助機関は米国際開発局(AID)である。 扱い高: アメリカ輸出入銀行新規扱い高 1997年(単位:10億ドル)
海外民間投資公社 部門別ポートフォリオ 1997年 (単位:10億US$)
OPICの全てのプロジェクトは長期又は中期である。 部門: 部門別OPICポートフォリオ(1997年末) (全ての貸付及び保険)
米輸銀は部門別内訳を作っていない。全ての取引は年次報告に載っているので、部門別内訳を作成することは可能。 地域: 部門別OPICポートフォリオ(1997年末)
米輸銀は国別の内訳を出しており、地域別の総計はない。全てのプロジェクトは非工業国向けである。 4 輸出・民間投資支援機関の環境審査 アメリカ輸出入銀行と海外民間投資公社以外の大手の輸出・民間投資支援機関は実質的な環境評価ガイドラインを持っていない。だが環境ガイドラインを採用することの法的な問題などあったとしてもわずかなものだし、多くの機関は統一基準を採用するつもりがあることを示している。イエール報告では、色々な環境面での問題に対していくつかの機関がどのように対応したかをまとめている。調査で取り上げられた4種類の環境問題に対するそれぞれの機関の立場は、更に詳しい説明と共に表に要約されている(回答には機関の声明を分析した著者による解釈も含まれる)。 (1)手法 この研究は書簡による調査をもとに行われた。1998年2月25日にそれぞれの機関に最初の手紙を書留郵便で送り、同時に同内容を電子メールでも送付し、確実に質問が届き、電子通信でも返答できるようにした。この手紙で求めたのは、一般的な情報と環境に関する質問への回答である。初めの手紙と電子メールに回答のなかった機関には、3月11日に2回目の手紙を送った。そして3度目に、返答のなかった機関に対して、返事がなければ“返答なし”と記録する事を伝える手紙を3月25日に最終的に送付した。さらに、より多くの情報を得、質問に対する答えを明確にするため、調査した機関全てに電話と電子メールで連絡を取った。 質問状を送付したのは、第一に現在どのようなガイドラインや手順があるのかを確認するためである。第二に、あるとされた基準が実際に効果を持っているのかを知るため、環境面の問題を理由に却下されたプロジェクトがあったか、データを入手しようとした。第三に、環境基準実施の上で障害の一つとなりうる問題、すなわち環境影響などの要素をこうした機関がプロジェクト承認において考慮することの法的問題を検討した。最後に、もしOECDで環境基準が設置されたとすれば、そのような基準を採用するつもりがあるかどうかを各機関に尋ねることにした。 (2)国別の分析 フランス Cofaceは何ら環境審査メカニズムを持たず、環境を根拠にプロジェクトを拒否したことはない。環境審査に関する法的権限もないが、もしOECDが統一環境基準を定めれば採用するであろう。だがそれでもCofaceには技術専門家がいないので、環境影響を審査するのは難しいという。 ドイツ ヘルメスとC&Lの財政援助を受けようとする輸出業者は、2500万ドイツマルク以上の取引となる全てのプロジェクトについて、以下のような環境面に関する質問表に答えなければならない。その回答はメモランダムに記され、委員会による最終承認審査を経る。
両機関は融資を受けるためにどんな環境基準を満たさなければならないかを明らかにしなかった。また、環境的理由によりプロジェクトが却下されたかどうか述べなかった。輸出業者による機関の基準違反としてはっきり示されているのは、業者が質問表やメモランダムの内容を偽ったことが発覚したときだけである。従って、両機関は融資したプロジェクトの予測される環境影響についての記録を持っていると思われるが、これらの記録を一般に発表したり、必ずしも環境影響評価を基にプロジェクトを却下するわけでもない。 日本 日本輸出入銀行は環境についてのチェックリストはもっているが、それはプロジェクトが計画された後に適用され、また緩和要件も明記されていない。プロジェクト受け入れ国の基準の他に公的環境基準はなく、チェックリストの結果は公にはされない。ドイツの機関と同じように、JEXIM はプロジェクトの環境影響の情報と、おそらく内部に非公式の審査方法を持っているように思われるが、業務内容を一般に公開しない。JEXIMには6人が地球環境部で働いているが、この中に技術専門家がいるかどうかはわかっていない。通産省貿易保険課は環境ガイドラインを持っていない上、環境担当者もいない。 スイス ERGは、輸出業者に対して5000万スイスフラン以上の取引には環境に関する質問表に答えることを義務づけている。しかし環境を理由にプロジェクトを却下したことは一度もない。機関が環境影響を考慮しなければならないという法律はないが、ERGの職員はOECDが環境基準を定めれば採用するであろうと述べた。 イギリス 輸出信用保証局(ECGD)は、プロジェクト受け入れ国の基準の他には環境基準を持っておらず、環境影響を査定するための技術者もいない。支援承認の上で環境考慮を採用することに法律的な障害はない。ECGD職員は統一環境基準の方向性を支持すると示唆した。明らかに、ECGDは多国間で決定されるのであれば環境審査ガイドラインを採用することに前向きである。 (3)輸出・民間投資の支援における環境基準に関する法律論 一般的に輸出・民間投資支援機関が環境基準をまったく持たなかったり、あるいは低水準のものしか持たない現状を鑑みると、国際法を検討することが現在OECDやG8で行われている討論に有効であろう。それは取引当事者間や開発の意味において、環境基準を採用あるいは統一することに関係するからである。イエール報告の法律的分析は、次のような問題を提起している。
政府が支援する投資プロジェクトにおいて環境基準を採用することを支持する有力な議論の一つは、持続可能な開発に関して、広く受け入れられる国際的原則を作ることに役立つというものだ。援助機関が環境基準を持つことで、プロジェクトによる環境破壊や持続不可能な影響を防いだり、和らげたりする事ができる。多国間協定は個々の機関に実行を強制しないとしても、環境基準の採用はこれらの協定の原則と精神に調和するであろう。
(4)適用可能な条約条項、命令、規則、決定等 ・ストックホルム宣言 第24原則
(5)結論 イエール報告は、調査対象の国のうちアメリカ合衆国以外の機関は公式な環境評価ガイドラインを持っていないことを明らかにした。米輸銀とOPICが環境評価ガイドラインを採用して以来、他の輸出・民間投資支援機関にも環境審査基準を採用したり、また多くの機関が基準を調和させる動きがでてきた。だが、これらの機関はお互い自国の輸出を増加させるために競争しているため、一方的に高い環境基準を採用することには消極的である。したがって、競争利益が生じることを防ぐためには、ある程度多国間で調和した基準を採用することは必要であろう。貿易当事者間の環境規制融和に関する現在の法的文献は、輸出信用機関と投資保険業者の環境基準の細かい問題点または欠如にはふれていない。しかしながら、リオ宣言やアジェンダ21,EU条約、WTO設立文書のような国際的合意や条約は、輸出援助機関が環境基準を採用することが個々の条約で具体化された原則と一致し、また様々なレベルで原則を推進することになるという主張に一定の根拠を与えるものである。 カナダやヨーロッパ、日本、アメリカの輸出機関による年間国際取引の額を見れば、これらの機関が国際貿易と開発の重要な貢献者であることは明白である。より厳しい共通の環境審査手順と、融資支援を行うかどうかを決定する政策とが設置されれば、これらの機関が基準を下げて競争することなく、環境破壊防止が成し遂げられるだろう。結果として、環境破壊プロジェクトに伴うその他のコスト──人々の健康や美観、住居、生物多様性のコストだけでなく金銭的コスト──も減らせるに違いない。
4.ケーススタディー (1)はじめに ここで取り上げるのは、日本輸出入銀行が支援した中・長期のプロジェクトで、環境に多大な影響を与えたと考えられる例である。これらの多くは、先住民の立ち退きや発病率の増大、伝統文化の破壊など、社会的・文化的に甚大な被害を与えたと指摘されている。 −インド・シングローリダムプロジェクト
(2)教訓 NGOやその他の人々から抗議を受けて、プロジェクトの援助を延期又は停止したことのある機関は日本輸出入銀行だけではない。特に、環境及び社会的影響のために何年も中断したまま、時には決して完成することのない大規模な水力発電プロジェクトの例はたくさんある。たとえばナイジェリアのエプパ(Epupa)ダムやインドのテリ(Tehri)ダムは、輸出機関などから融資の約束を得ながらも世界銀行に支援を拒否され、今日までプロジェクトを進めるのに十分な政治的援助を受けることが出来なくなった。ここに取り上げた全てのケースは反対運動のためにプロジェクトが遅れ、結果として関係した企業と銀行はより高い費用を負担する羽目になった。もし日本輸出入銀行が環境基準を採用していれば、プロジェクトが緩和措置もなく進行して人々の抗議を引き起こすような事態に至らずにすんだだろう。後に述べるように、ほとんどの輸出・民間投資支援機関はほとんど、あるいは全く環境基準を持たない。こうした状況が変わらなければ、相変わらず環境破壊プロジェクトに参加する機関が跡を絶たないだろう。
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