各国の輸出信用機関の環境政策改革に向けての動き(1999.10.14)


■ OECD各国の動き

 現在、イギリス、ドイツ、カナダ、ノルウェー、スウェーデンが、各国の輸出信用機関の新しい環境ガイドラインの作成に向けて動き始めている。アメリカでは、米輸出入銀行、海外民間投資公社(OPIC)ともに、世界銀行のレベルに近い社会環境ガイドラインと情報公開制度を持ちあわせている。

1) イギリス
 OECD貿易委員会輸出信用グループの会合では、米国に並んで常に輸出信用機関共通のガイドライン作りに前向きな姿勢を示している。1999年のG8ケルンサミット以降は、一層ガイドライン策定に向けて積極的。
2) ドイツ
 1998年10月に緑の党が連立政権を設立したときに、その公約の中にヘルメス信用保険会社(HERMES)および復興金融公社(KfW)の環境ガイドラインを作成することを盛り込んだ。
3) カナダ
 1998年11月に輸出開発公社(EDC, Export Development Corporation)は、新しい環境ガイドラインの枠組みついてどのようなものが良いのか、NGOに電話インタビューを行った(別紙参照)。また、1999年7月には新しい環境ガイドラインを作成するにあたって、環境アセスメントについての技術的な課題について理解を深めるためのワークショップを開催した。
4) ノルウェー
 1998年11月26日にGIEK(Garanti-Institutet For EksportKreditt)の環境ガイドラインを発表した(別紙参照)。また、今年9月にはThe Taskforce on Internationalisation of Norwegian Industry(AGUNN)が海外で事業展開を行っているノルウェー企業へのオンブズマン制度を提案し、これは政府や貿易関連組合に受け入れられ政府内で検討が進められている。このオンブズマン制度は海外で事業展開しているノルウェー企業の活動が環境破壊、人権侵害を引き起こすものでないかどうかを政府が審査するもので、ノルウェー語ですでにこのガイドラインが作成されている。企業活動がこのガイドラインに反するものであれば、開発援助機関や輸出信用機関は融資を止めなければいけないことになっている。このオンブズマン制度については、政府特別委員会、貿易関連組合、企業、NGOも共同で議論を行っている。
5) スウェーデン
 スウェーデン輸出信用保証局(the Swedish Export Credits Guarantee Board, EKN)は現在のところ、国内法による環境配慮以外に何の社会・環境政策も持ち合わせていないが、今年中に新しい環境政策を策定する予定。この新しい環境政策には、環境ガイドラインの策定および実施のための具体的手続きも含まれることになっている。政府は不定期でNGOとの意見交換を行っているが、今年9月にはNGOが具体的にガイドライン策定にあたって、どのような形で関わるのがよいのかについて意見交換を行った。

■ ガイドライン策定時におけるNGOの参加

1) アメリカ
 1998年2月に海外民間投資公社は環境政策の改訂版のドラフトを120日間コメントの期限を設けて、ホームページで公開した。米輸銀はガイドライン改定の際に30日間のコメントの期間を設けた。NGOはこれらのドラフトが作成されるまでに、何度もドラフトへの意見を述べる機会を設けられた。国会議員のメンバーからもドラフトの作成前、その過程、策定後にわたって意見を求めた。ガイドラインの策定にあたっては、世界銀行グループの国際金融公社(IFC)、多国間投資保証機関(MIGA)が民間セクターに対して同様の金融サービスを行っているため、最低限の国際基準としてこれらを参考にするように勤めた。
2) カナダ
 1998年11月に輸出開発公社(EDC, Export Development Corporation)は、新しい環境ガイドラインの枠組みついてどのようなものが良いのか、NGOに電話インタビューを行った(別紙参照)。
3) ノルウェー
 ドラフト作成前に、ガイドラインにどのような要素を盛り込むべきかについて政府より非公式にNGOに打診があった。オンブズマン制度については、政府特別委員会、貿易関連組合、企業、NGOも共同で議論を行っている。
4) スウェーデン
 不定期でNGOとの意見交換を行っているが、今年9月にはNGOが具体的にガイドライン策定にあたって、どのような形で関わるのがよいのかについて意見交換を行った。

■共通の環境基準に向けてのこれまでの交渉の動き


出来事
1960年―
EC内で何度か共通の輸出信用機関の基準作りに向けての取り組みがあったが失敗。最近では1995年にこの試みが失敗している。
1994年
OECD貿易委員会輸出信用グループで、米輸銀が中心となって共通の環境基準作りに向けての動き。
1994年後半
OECDの輸出信用グループに質問表の配布(半数が共通の基準作りに興味)。
1995年
米国が共通の環境ガイドラインについての第1回目の提案(フランスのCOLFACEとドイツのHermesが強く反対)。
1997年6月
G8デンバーサミットの8カ国首脳共同宣言の「輸出信用機関のための環境基準」の項目の中で「先進国からの民間資金の流れは、世界の持続可能な開発に対して重要な影響を有する。各国政府は、インフラ及び設備投資に対する金融上の支援を供与する際、環境要因を考慮することによって、持続可能な慣行の促進を助長しなければならない」との声明が出される。
1997年6月
クリントン米国大統領は、国連特別総会リオ+5で、米国の輸出信用機関、海外民間投資公社が新しいガイドラインを策定中であることに触れ「我々は同等の機関や関連機関等が同様のガイドラインを近々採用するであろうことを期待している」と述べた。
1997年11月
OECD貿易委員会輸出信用グループ会合で「共通の環境基準の実施に向けての交渉において、各国の輸出信用機関の限界と柔軟性について理解するための質問表」の配布。
1998年3月
G8サミットに向けてのOECDの輸出信用機関の特別会合の開催。
1998年4月
OECD貿易委員会輸出信用グループの会合ではドイツ、フランス、カナダが共通のガイドライン策定に強く反対。
1998年5月
G8バーミンガムサミットの外相総括で「我々は公的輸出信用機関の支援を与える際には、環境についての要素も勘案することについてのOECDにおける努力をふまえ、OECDがこの目的のためにさらなる作業を行うことを奨励するとともに、来年報告されることを要請する」との声明。
1998年11月
OECD貿易委員会輸出信用グループ会合前にNGOの代表が「輸出信用機関:持続可能な社会のためのより厳しい共通の政策、手続き及びガイドラインの必要性」についてのプレゼンテーション。
1999年3月
G8環境大臣会合の宣言で「環境の側面を国際金融機関および輸出信用機関の業務により良く統合させること」、「輸出信用機関の業務における環境配慮の手続きを強化する観点から、OECDで行われている作業を歓迎する」との声明。
1999年6月
G8ケルンサミットの8カ国首脳共同宣言で「環境保護努力の更なる強化」の32項において、「我々は、国際開発金融機関が環境上の配慮を活動の不可分の一部とすることを引き続き支持することに合意しており、我々も自ら支援を行う場合には同様の配慮を行う。我々は、OECDの枠組みの中で、輸出金融機関のための共通の環境上の指針の作成に向けて作業を行う。我々は、この作業を2001年のG8サミットまでに完了することを目指す」との声明。