NGOの提言(99年10月26日)


海外経済協力機構(OECD)輸出信用及び信用保証ワーキングパーティーの環境に関する指令に対するNGO提言

OECDワーキングパーティー議長及び加盟国の皆様

 輸出信用活動が環境・社会に及ぼす影響に関心をもつNGOは、OECD輸出信用ワーキングパーティー議長から、OECD大臣会合及びG8の環境に関する指令に沿うような環境アセスメントの作成に関して提言を行なうよう求められた。我々はこのワーキングパーティーとの新しい対話の機会に感謝する。この声明において、我々は歓迎すべき変化の現われと相変わらずの問題点との双方に簡単に触れた上で多くの提言を行なうつもりである。我々は輸出信用機関が採用すべきガイドラインと基準の両方について提言を行ない、さらにそれを達成するためのプロセスについても提言を行なうこととしたい。

1 歓迎すべき変化

 OECDワーキングパーティー及び多くの輸出信用機関が環境ガイドライン・基準を強化しようとしているのは、我々NGOにとっても心強い。98年4月のワーキングパーティーでの合意がこうした動きの基礎となっている。この合意は、G8ケルンサミットにおける首脳宣言、OECD3ヵ年計画(1999-2001)及びOECD環境に関するハイレベルアドバイザリーグループの提言に沿うものである。ワーキングパーティーの加盟国はまた、特定のプロジェクトに関して立場調整を初めて行なおうとしている。我々は問題のプロジェクトは輸出信用機関が支援すべきではないと考えているが、しかしこの手続きが今後の先例となることを期待している。

 各国レベルにおいても、ワーキングパーティーの主要な加盟国であるカナダ、日本、スウェーデン、イギリス等が輸出信用機関の環境政策の改訂あるいは策定に取り組んでいる。ドイツ政府は連立合意の一つとして輸出信用改革を公約し、ノルウェーの輸出信用保証機関(GIEK)も2000年の課題に人権を盛り込もうとしている。環境によりよいプロジェクトに対するインセンティブを取り入れようとしている機関もある。その他の機関は特定のプロジェクトについて国内のNGOとの協議を行なっているが、こうした協議はまだ受け入れ国側では行なわれていない。

2 相変わらずの問題点

 これらは心強い変化ではあるが、ワーキングパーティーの重要な加盟国の中には輸出信用機関の環境政策をこれまでのところ全く強化しようとしていないものもあることが懸念される。また、ほかの国々がとり入れようとしている手続きの中にも、国際的に認められている模範的実施要領や基準に達していないものもある。そこで以下では、手続き面に関するガイドラインと実質的な水準の双方に関して簡単に述べる。また詳述は避けるが、人権やグッドガバナンスに関する外交政策と輸出信用との矛盾についても簡単に触れたい。

(1)手続き面に関するガイドラインの問題点

  1. 環境アセスメントガイドラインは多くの場合非常に視野が狭く、国際的に認められている模範的な実施要領の基本的かつ重要な要素を欠いている。たとえば多くの場合、非自発的移住のような重大な社会環境影響アセスメントが含まれていない。また多くの場合、プロジェクトスポンサーに対し代替案を考慮したりプロジェクトが現地に累積的に及ぼす影響を分析するよう要求していない。

  2. ワーキングパーティーのほとんどあるいは全ての加盟国において、輸出信用機関のプロジェクトや政策に関して、影響を受けるコミュニティーやNGOなど市民団体との間の協議あるいは参加は未だに不十分である。透明性、情報へのアクセス、協議は模範的な環境アセスメントの実施要領の重要な要素である。NGOと提起的に会って特定のセクターや国、プロジェクトについて情報へのアクセスを提供している機関もあるが、他の国々はいくらか情報を出すことはあったとしても、企業利益(の保護)とは何の関係もない場合でさえほとんどの情報を秘密にしている。またワーキングパーティー加盟国の中には未だにNGOと会うことさえ拒否し続けている機関もあるのである(一方で産業界とは提起的に会合をもっている)。さらに問題なのは、プロジェクトによって影響を受けるかもしれない受け入れ国のコミュニティーやNGOと協議を行なっている国は一つもないということである。現地における協議は、環境─そしてしばしば金融上の─リスクを避けるための最も有効な方法である。

  3. ようやく始まったばかりとはいえ、OECDワーキングパーティーのレベルにおいても情報へのアクセスとNGOとの協議はまだ不十分である。たとえば、我々はこうして環境影響評価の手続きに関して協議の機会を与えられたのであるが、この件に関する98年4月のOECDワーキングパーティー合意は未だに公にされていない。我々は結論において、特にこの協議のプロセス改善に関する提言を行なうつもりである。

  4. 多くの輸出信用機関は、環境基準やガイドラインを強化しようとしてはいるが個々の政策を十分に実行する能力を欠いている。環境評価や市民社会との対話を行なうための専門家を備えていないためである。

(2)環境基準に関する問題点

  1. 多くの輸出信用機関が数量的に計測しうる環境基準(最大排出基準のような)を欠いている。カナダの輸出開発公社や日本輸出入銀行のように、新しい環境政策を定めたばかりの機関でも計量可能な基準を取り入れていない。またアメリカ輸出入銀行のように計量可能な基準を持っている機関の政策ですらも、常に国際的に認められた基準を満たしているわけではない。

  2. 環境水準とガイドラインが策定されていたとしても、多くの場合は強制力を持たず完全に自主的対応に任されている。また各機関の法規として定められていないことが多く、これは最近策定されたばかりの政策にさえ当てはまる。後述するように、われわれは数量的基準の実際の運用においてはある程度の柔軟性が必要であると考えてはいるが、純粋に自発的な基準だけではそれをきちんと守らせるための十分なインセンティブは与えられないと感じている。1998年のOECDによる金融機関調査およびカナダのKPMGによる環境リスクマネジメント調査はともに、金融機関の環境面に関する行動を改善する上では(自発的プログラムよりも)規制がはるかに重要なモチベーションになると結論づけているのである。

(3) 外交政策との矛盾に関する問題点

 グッドガバナンスや人権、汚職といった問題はこの会議における協議の対象ではない。しかしこれらは、グローバル経済と金融秩序に関する過去2年間のOECD加盟国および国際金融機関の議論において、よりはっきりと問題として意識されるようになっている。我々は、OECD加盟国が自国の輸出信用機関にこれらの点に関する明確なルールを策定させ、外交政策を一貫させることが緊急の課題であることを指摘しておきたい。この件に関してここでこれ以上詳述するのは避けるが、別の機会にこれらの課題に関する輸出信用機関のガイドライン強化の必要について話し合いたいという我々の希望を記録にとどめていただきたい。

3 手続きと基準の模範的な実施要領に関する提言

 環境配慮のための共通のアプローチおよびガイドライン策定に関するOECD大臣会合指令および99年G8サミット宣言に少しでも意味ある仕方で従おうとするならば、最低限、共通の公約と、共通かつ具体的なアプローチとガイドラインの実現がなされなければならないし、そうしたガイドラインは国際的に認められた模範的な環境アセスメント実施要領の要素を含むものでなくてはならない。これらの原則は手続き面に関するものではあるが、具体的かつ拘束力を持つものでなくてはならない。

(1)基準

 具体的な環境基準――特定の産業に関する公害や排出レベルのような――が、案件となっている投資やプロジェクトに応じて環境アセスメントのプロセスにおいて用いられること。環境アセスメントの手続き自体は明確に定義されかつ強制力を伴っていなければならないが、特定のケースにおいては通常適用される数量的基準に応じていくぶん柔軟な運用が許されてしかるべきであるとの主張もあるだろう。これが世界銀行グループのとっている立場だが、同時に世銀グループは非常に具体的な環境アセスメント手続きと分厚い環境基準参照資料(汚染防止ハンドブック)をもっており、このハンドブックは推奨に値する模範的実施要領と考えられている。また世界銀行と国際金融公社(IFC)は、個々のケースがこのハンドブックの基準から外れる必要がある場合にはそれを証明しなければならないという重い責任を負っている。これらによって、環境基準の柔軟な運用の必要性(これは輸出信用機関だけでなくIFCの主要な関心事でもある)と、特定のセクターにおいてどこまでが環境的に許される行動であるかを明確に示す必要性との間でうまくバランスをとることができるようになっている。

 ここで重要なことは、具体的かつ共通の国際的に認められた数量的基準――これは通常模範的実施要領と考えられるものの最低限の要素である――を環境行動の基礎として持たなければ、環境アセスメントガイドラインはたいして信頼のおけるものにはなり得ないだろうということである。世界銀行及びIFCの汚染防止ハンドブックは環境基準の模範要領としてますます多くの輸出信用・投資保証機関や国際的に活動する企業が参考にするようになっている。アメリカの海外民間投資公社(OPIC)はプロジェクトが受け入れ国基準と世界銀行基準の双方を満たすよう求めており、また世界銀行の基準との間に乖離がある場合には、関連するアメリカ連邦基準および他の国際機関(WHOなど)基準も満たすよう要請される。欧州復興銀行(EBRD)の場合、投資案件はその国とEUの環境基準の両方を満たさねばならず、EUの基準がない場合にはその国と世界銀行基準の両方が満たされなければならない。

(2)模範的な環境アセスメントの実施要領における必要な要素

  1. 環境アセスメント責任――環境アセスメントを作成するのは通常プロジェクトスポンサーだが、金融機関は環境ガイドラインと基準を明確に示し、各段階においてスポンサーあるいは借り手がそれらに従い、基準を満たしていることを確認する義務がある。

  2. スクリーニング――金融機関が行い、案件がアセスメント対象となるか、またどの程度のアセスメントが必要化を決定する。

  3. スコーピング――プロジェクトスポンサーが行うもので、完全なアセスメントの第一段階である。考慮すべき点や重大な環境・社会影響の可能性を明らかにし、アセスメントのための用語集を作成する。市民社会、特に地元や影響を受ける人々との協議と情報公開はスコーピングの重要な要素である。

  4. 環境アセスメントの作成。完全なアセスメントは通常、最低以下の要素を含むものと考えられる。

    案件についての記述
    ii 予想される環境影響の記述。案件によって引き起こされる環境影響を特定し評価するのに必要な具体的情報を含む
    iii 具体的な代替案の記述
    iv 案件および代替案によって起こると思われる、あるいはその可能性のある環境影響の評価。直接、間接、累積的、短期、長期的影響を含む
    v 案件による得境を緩和するために取りうる方法の特定とその記述、さらにそれらの方法のアセスメント(環境アクションプラン)

  5. 関連する社会影響のアセスメント及び緩和。これには非自発的移住、文化的・建築学的遺産、先住民および社会的弱者である少数民族が含まれる。

  6. 利害を持つステイクホルダーとの協議および環境関連情報の公開。環境アセスメントの実施過程では、影響を受ける、あるいは利害関係のあるステイクホルダーとの協議及びアセスメントのドラフトを含む環境情報の公開が行われなくてはならない。案件を進めるようなすべての決定はこれらに先立って行われてはならない。透明性と情報公開は環境アセスメントを効果的に行う上で不可欠な要素であり、投資案件のデザインと結果を改善するために必要な情報を多様なグループから収集することを目的としているだけに、実際、プロセス全般にわたって中心的な位置を占めるものである。環境アセスメントと海外金融に関するフィンランド外務省による最近の調査は、「効果的な情報公開及びステイクホルダーの参加」の要素として以下を挙げている。「環境アセスメントは、ステイクホルダーの意見を伝達し考慮することを目的とし、オープンで双方向に情報を提供するプロセスでなくてはならない。金融機関は支援を検討中のプロジェクトに関する情報を提供しているか?環境アセスメントの情報は一般に公開されているか?ステイクホルダーはアセスメントのプロセスに参加するか?参加はどのようにまたどの段階において計画されているか?金融支援に関する決定と契約の中の環境状態に関する情報は公にされるか?」

  7. 環境に関するレビューと決定に関する、明確で公に公開されたクライテリア環境アセスメントを評価し、またアセスメントで明らかにされた事項を最終的な案件承認に関する意思決定に反映する上では、明確であいまいさを廃したクライテリアが必要である。ケースバイケースのアプローチや意思決定の基準が極端にあいまいなアプローチ、また何の定義もなく、基本的には金融機関の自由裁量に完全に任されているようなものは、国際的に認められた模範的実施要領とは考えられない。どの程度の環境配慮が要求されているのかが明確でないと、借り手側にとっては高くつく可能性もある。意思決定に関する明確なクライテリアの例としては、IFC,OPICなどの機関が採用している禁止カテゴリー、また環境アセスメントにおける手続き面での規定がある。(多少柔軟性のある)具体的な基準の達成を要求したり、環境影響の矯正手法やアクションプランによってこれを達成するというのも一つの方法である。フィンランド外務省はこれに関して以下のような質問を挙げている。「金融機関は作成された情報の妥当性をチェックするか?意思決定のために特に情報を作成したり、アセスメントの主内容をそのために利用しているか?意思決定のための提案はプロジェクトの環境持続性に基づいているか?どのような環境基準が要求されているか?必要な場合、金融契約の中に環境に関する条項が含まれるか?」

  8. モニタリング――モニタリングプランと報告義務が盛り込まれている必要がある。

4 現在の改革プロセスに関する提言

 我々は、環境ガイドライン・基準は今後さらに強化されるものと期待しているが、全く新しい政策を策定するプロセスはもっと透明で対話に基づくべきであると考えている。これは各国レベルでもOECDワ―キンググループでも同じである。ワーキングパーティーの加盟国は大臣会合の指令を実現するために作業を行うのであるから、以下に述べるような基本的な原則に従うべきである。

  1. NGOを含む関心を持つ市民社会は、協議と政策の策定プロセスのデザインから始まる最初の段階から参加を保証されるべきである。

  2. このプロセスは、関心ある人々に協議やその他の会合の予定、また意思決定について知らせるなど、透明かつ責任ある仕方でなされるべきである。

  3. 市民団体との協議のためには十分な時間が確保されるべきである。

 特にOECDのレベルに関しては、ワーキングパーティーが半年ごとに行われる会合の前にNGOとの協議を続けるよう提言したい。またワーキングパーティーが特定のプロジェクトに関する意見調整を行うときにはNGOとの間においても協議を行うことを提言する。このどちらとも、協議は公式・非公式を問わないが、公式会議の議題などの関連情報は提供されることが前提である。最後に、OECD加盟国の輸出信用・保証の受け入れ国側のNGOもまた、特定のプロジェクトおよび政策に関するこのようなプロセスに参加を保証されるべきであることを提言する。