『21世紀初頭10年間のOECD環境戦略』
の実施状況の初回評価への環境市民団体による意見書
前文
この文書は、『21世紀初頭10年間のOECD環境戦略』の実施状況に対する、環境市民団体(以下、ECO)の意見を表明するものです。この声明は、European
Environmental Bureau、Climate Action Network、ANPED、Friends of the
Earth International、 Greenpeace International、World Wide Fund for
Nature International の各団体の責任において作成されております。また、OECD加盟国地域で活動する各国際機関・地域機関・国家機関等の支援も受けており、これら関係機関のリストは会合の当日に閲覧が可能となります。
序文
署名各団体は、以下の意見を申し上げます。
1. 2001年のOECD環境戦略の準備段階でECO各団体が意見を述べる機会をいただき、また、この初回評価への寄稿の機会をいただいたことに感謝しております。また、OECD
環境政策委員会OECD環境局による包括的で透明なプロセスを作り上げようとする努力と、環境市民団体による参加を可能とするギリシア政府による継続的な財政面での支援に祝意を申し述べるものです。
2. この「戦略」は、OECDの産業先進国への指針としての重要な意義があるもの、との確信を新たにするものです。これらの国々は、世界が直面しているグローバルな環境問題の責任の太宗を負い、よって、国連ミレニアム・サミットとヨハネスブルグでの持続可能な開発に関する世界サミットの目的に沿った形でこれらの諸問題を克服するための、効果的な政策の立案の責任も負っているからです。OECD諸国が加盟している多国間環境協定(MEA)の範疇にある既存の義務を厳格に履行していくことはよい出発点となると思われます。
3. OECD自身は組織として、OECD各国における持続不能な生産活動や消費パターンを変更するのに必要な国内政策の形成と、OECD各国が開発途上にある国で持続可能な発展の道が選択され、維持できるような対外政策の形成をするのに重要な役割を果たせるとの確信を新たにするものです。
4. OECDとOECD加盟各国に対して、2001年5月の環境閣僚理事会にECOが提出した共通意見で強調された以下の弱点を、改めて想起することを促します。これらの弱点とは、OECD各国での環境パフォーマンスの改善に向け、直面している問題の緊急性を反映した目標や期限を採用できなかったことと、OECD地域や全地球規模における、根本的に持続可能でない再生可能資源と有限な資源の使用に係る現状認識ができなかったことです。
5. 以下の個別具体的な意見は、『戦略』の全領域に対する回答ではありません。また、我々は、参照文書として提示されたOECD環境戦略の実施に関するドラフト(OECD環境戦略−2004年進捗レビュー)に感謝するとともに、OECD加盟国が、そこで謳われている考察や結論を真剣に受け止めるよう促すものです。
I. 気候変動とエネルギー
6. 迅速な対応を必要とする気候変動への取り組みの緊急性を強く訴えます。我々は、OECD事務次長の赤坂氏が国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)第9回締約国会議(COP9)の場で述べた以下のコメントに注目しております。これは「地球温暖化の影響はますます顕著になっている。気候変動の正確な影響については広範な不確実性があるものの、気候変動を制限する行動を取ることを正当化するに足りる十分な知識は今ある。1992年のUNFCCCに始まって、OECD加盟各国政府は、温室効果ガスの排出の大幅な削減の動きを先導していくことを確約した。」というものです。この科学的なコンセンサスの存在と、この現象の潜在的に破滅的な社会的影響や環境への影響を考えると、OECD各国が緊急に対応することは必須です。これらの対応は公平と正義の原則に基づいている必要があり、世界の80%を占める比較的貧しい国々に住む人々が、世界のエネルギーの40%しか消費していないにもかかわらず、地球温暖化の直接的な影響をもっとも受けやすいとの点をも反映したものである必要があります。OECDと加盟各国は、地球温暖化による気温上昇を、産業化以前の水準よりも摂氏で2度高い水準までに抑えるよう、世界を先導していくことを確約するべきです。このゴールの達成を可能とする僅かな機会がなくならないうちに、温室効果ガスの排出を現行の水準よりも大幅に削減するための迅速な対応が必要です。
7. OECD加盟各国に京都議定書へのコミットメントとその確約を実行に移すために必要な国内政策の実施の(再)確認を求めます。京都議定書に示された温室効果ガス削減の目標や計画は気候変動に対処する重要な第1歩です。排出削減を始めるのと同様に、京都議定書への継続的な確約は、全ての国がこの地球規模の問題に共同で対処する為に必要な信頼環境の醸成に役立ちます。我々は、明確に定義された目標と期限付きの拘束力あるコミットメントが、気候変動に対する有効な政策には、根本的な必要要件であると信じております。そして今や京都議定書でカバーされている期間を超えて、追加的に拘束力のある排出削減の確約に向けて動き始める時なのです。
8. OECD加盟国の中で、アメリカ合衆国、オーストラリア、そしてトルコが京都議定書への確約を拒絶していることに、大変失望しております。我々は、特に、唯一最大の温室効果ガスの汚染者であるアメリカ合衆国の態度に懸念しております。そして、他のOECD加盟国には、現時点では、現行の合衆国政府とは交渉をしないよう求めます。合衆国政府は、過去3年を通して、国内的なものであれ国際的なものであれ、如何なる拘束力ある温室効果ガス削減の制限には強く反対しているとの立場を十分に明確にしてきました。合衆国政府は引き続き京都議定書に対する大げさな攻撃を繰り広げており、自主的な排出目標付きの国内対応と通常の業務活動による排出増加との区別が殆どつかないような外観を作り出そうとしております。これは、計算づくの時間稼ぎの戦略であって、交渉のポジション作りでも代替政策提示との立場でもありません。拘束力ある目標へのコミットのいかなる後退も合衆国政府の主張の正当性に加担することになるだけで、合衆国の州レベルや合衆国議会での(協力に向けた)政治的意思の育成を遅らせることになります。他のOECD加盟国が合衆国の協力抜きで先に進み、合衆国が将来参加することになる、機能的で国際的な政策の枠組みを作らなくてはいけないというのが、不幸な現実です。
9. OECD諸国とOECD諸国に本拠を置く産業界に、共同実施(Joint Implementation)とクリーン開発メカニズム(Clean
Development Mechanism)の活用を通じて、明確で持続可能な開発と気候変動の抑制を確実にするよう求めます。再生可能エネルギー開発プロジェクトとエネルギー効率改善関連のプロジェクト、中でも特に小規模なものが優先されるべきでしょう。さらに、気候関連政策や温室効果ガス排出の削減の太宗は、本国でおこらなくてはいけません。先進工業国が自国で先導的な役割を果たしていくことが、強く求められます。これは、先進工業国には、人口一人当たりの排出量の多さや気候変動への加担してきた歴史的経緯と、将来にわたってさらに削減を進めるのに必要となる革新的な技術開発に必須の技術的・財政的基盤があるからです。我々は、非OECD諸国で適切な努力がされれば、低炭素型の開発の方向性を推進する技術と投資をもたらすことも認識しております。
10. OECD加盟国に、持続可能で環境にも悪影響のない政策の実行と再生可能エネルギー資源とエネルギー効率追求と排出削減技術のさらなる開発を呼びかけます。新技術の研究は、妥当な地球温暖化政策の重要な一部分ですが、数十年は実用の見込めない技術が、今すぐに利用可能な再生可能エネルギーやエネルギー効率追求と排出削減技術の活用に向けた効果的な政策の代替であってはなりません。
11. OECD加盟国に、非OECD加盟国での適応への支援を、呼びかけます。地球そのものがすでに後戻りできない動きをしている気候変動の影響への対処には、追加的な仕組みや資金が必要です。さらに申しますと、適応への懸念に適切に対応することが、将来の気候変動に係る国際協力に必要な要素なのです。(「適応」とは、温度上昇が起こったとして、海面上昇や疫病発生などに対処する対策に今から着手すること)
U. 環境への負荷と経済成長の要請を分離して考える
12. 現在の主流となっている経済開発のアプローチは持続可能でなく、現時点では、環境あるいは社会の外部不経済性を十分に考慮しておらず、また、各国経済が自らの天然資源基盤を維持するという基本的要請を十分に勘案していないことを認識することをOECDに強く求めます。またOECDに対して、持続可能な社会の創出に資する政策を実施することを強く要求します。更にOECD加盟各国政府に対しては、経済成長がいずれの方向であろうと、資源の消費量を絶対的に低減させることだけが、環境に必要かつ持続可能な改善をもたらすとの点に、注意を喚起したいと思います。環境への負荷と経済成長とを分けて考えることは、少しの地域でしか実施されていません。
13. OECDおよびその加盟国に対して、加盟国における資源消費削減に向けた中期的(2020年まで)および長期的(2050年まで)目標に、(環境効率/資源効率に係る)ファクター4ならびにファクター10に合意し、推奨し、実施することを求めます。こうすることにより、OECDは政策策定に(必要な)意欲を明示することになります。また、これによりOECDは、各国が前記目標を一緒に達成するのに必要な指導力の発揮が可能となります。これと併せて、OECD加盟国に対しては、世界的な環境及び社会的正義に加えて、自らの直面している生態系の課題を認識し、対応を図れるよう、キャリング・キャパシティー、エコロジカル・フットプリントやエコロジカル・スペースといった概念を適用するよう促します。
14. OECD及び同加盟国に対して、世界的及び地域的に、持続不可能な使用により脅威にさらされている上位20種の資源を明らかにし、持続可能な管理のための定量的目標を定め、かつかかる目標達成に有効な手段を開発するよう要求します。このような優先順位付け並びに目標に向けての進捗状況は5年ごとに評価されなくてはいけません。
15. 資源利用を他国に仰ぐことにより自国の環境に対する負荷を軽減することは、持続可能な解決手段ではないことを、強く主張します。
16. 一部のOECD加盟国では、環境への関心が国内農業政策の中でより大きな比重を占めるに至っていることは評価します。しかしながら、OECD環境戦略が国内レベルでの「2010年までに、また合意された日程に沿って、環境に有害な農業政策及び補助金を段階的に撤廃または改革する」との確約が、農業政策の、より実体的改革なくしては、遵守されないことを懸念しています。多くの国に見られる、ある生産活動への補助金から他の所得支援手段へとシフトすること自体は、補助金がa)環境に有害な農業活動、及びb)生産コスト以下での世界市場への農産物のダンピングに利用されないことを、担保するものではありません。農業補助金は、現在よりも、農場の環境パフォーマンスにはるかに協力にリンクしたものとすべきであり、こうすることにより、持続可能な農業が環境に有害な農業に比して、経済的に存立可能かつ競争力を有するものになります。同時に、すべての輸出関連補助金は、同様の日程に従って、段階的に撤廃すべきだと考えます。輸出関連補助金は輸出国側では生産量を拡大させる一方、世界の他の地域、特に発展途上国において農業部門の発展を阻害し、結果的に環境に悪影響を及ぼすからです。
17. エネルギー及び輸送の分野において一部OECD諸国は、環境税を導入または増額(その一方で他の税及び加算税を削減することにより、社会全体として税負担の安定性を維持)することにより、市場が環境に有利に作用するよう、重要な取り組みを実施していることは理解します。しかしながら、企業団体及び産業団体がかかる取り組みに反対の運動を続けていること、並びに往々にして政治家並びに政府がこうした運動に屈することは、遺憾です。このような反対運動は、この手段の重要性を損ない、更に、環境税の効果、及び信頼性を失墜させるような例外措置の実施につながっていると認識しています。OECDは、(税制面及び補助金面での)環境財政改革促進という価値ある任務を継続し、みせかけの議論を暴くとともに、障害の排除に専念するよう求めます。
18. OECD及び加盟国に対して、「公共部門による調達のグリーン化を実施」することにより、持続可能な生産及び消費パターンの採用が大幅に促進されるよう求めます。更にあらゆるレベルでOECDが行政当局を各段階で支援して、環境的にも社会的にも健全な技術、建築方法、クリーンに生産された食物、輸送手段等の使用を、後押しする方法を探る具体的プロジェクトの実施を求めます。このために、環境的及び社会的に最も健全なライフサイクルを有する製品サービスを行政当局が選択するのを阻害しかねない法的障壁を、OECD加盟国は撤廃すべきです。
V. グローバル化
19. 原則として、外交・通商・投資に関わる政府の一切の政策及び活動に、環境、及び関連する社会正義への配慮を、統合・包括することを求めます。
20. 過去に例を見ない水準にまで世界の生態系が危機に瀕していることに照らして、「グローバル化の環境に及ぼす影響を管理する」ための、OECD加盟国の歩みが余りに緩慢だと考えます。WTO、世界銀行及びIMFの政策並びに、多国籍企業の活動は引き続き環境に脅威を及ぼしています。国際経済(活動)のガバナンスは持続可能な開発に沿ったものではなく、国際的な環境ガバナンスは、依然として弱すぎて、効果を発揮していません。OECD加盟各国政府にとっての真の課題は、環境影響を持続可能な水準にまで削減し、その一方でグローバル化された世界の万人に相応の生活の質を提供することです。
21. OECD加盟各国による、多国間環境協定や地域環境協定の批准・実施の進展があまり見られないことに失望しています。以下の協定は、完全かつ緊急の批准および遵守が必須で、かつ優先すべきものです。京都議定書及びバイオセイフティーに関するカルタヘナ議定書、国際貿易における特定有害化学物質および駆除剤についての事前の情報に基づく同意手続に関するロッテルダム条約、残留性有機汚染物質(POP)に係るストックホルム条約、更には環境被害補償分野で合意済みの全ての国際的な合意。
22. 国際環境保護体制の弱点を認識し、多国間環境条約の効果的実施及び遵守を含め、かかる合意の調整改善を担保することを目指した、国連環境計画(UNEP)の根本的かつ劇的な強化を望みます。OECD加盟各国政府に関連の予算措置を増やすことにより、UNEP並びに多国間環境協定がそれぞれに課された任務を整合的に果たすとともに、環境政策立案に対する企業の影響力を低減させることを、強く求めます。
23. UNEP、UNEP理事会及び多国間環境協定が、WTO規則との関係も含めて、貿易及び環境交渉においてリーダーシップを取り、より民主的かつ開かれた話し合いの場を提供できるよう、OECD各国が後押しすることを求めます。
24. 一部のOECD加盟国、とりわけ米国が、遺伝子組み替え食品や化学品に関してWTOを恫喝の手段として用い、環境法制の更なる発展に「冷水を浴びせる」ことを許しません。OECD加盟国は環境政策立案に対抗する目的でWTO規則を使用することを慎み、発展途上国のニーズに充分配慮しながら、予防原則及び環境規則を支援する必要があります。
25. 貿易交渉2が開発及び環境に及ぼす影響を見直すためのWTO加盟国間合意があるにもかかわらず、OECD加盟国がWTOに、この点を促進する方法を提出していないことに注目しています。国連がWTO決定を独立した立場から検討することにより、かかる決定が多国間環境協定との整合性を判断し、持続的開発を促進できるよう、OECD加盟国は勧告すべきです。
26. 多数の諸国は、自らの貿易政策の持続可能性に及ぼす影響評価を実施しているものの、かかる評価はこれまでのところ実際の交渉プロセスには何ら影響していません。評価は政策策定プロセスに影響力を持ちうるよう、十分早い段階で実施する必要があります。またフォローアップのメカニズムに強制力を持たせることにより、(評価)結果が政策策定プロセスに確実に組み込まれるようにする必要があります。さらに、OECD加盟国は、国レベルでの評価が実施できるよう、発展途上国及びUNEPへの資金援助を約束し、かつ増額することが望ましいと考えます。
27. 企業の社会的、環境的説明責任は単に自主性に委ねることはできません。また世界の企業の社会的/環境的責任及び説明責任を実現していく手段はグローバルなレベルで国連において規定されるのがベストであり、2002年のヨハネスブルグ・サミットでの合意3に沿って、かかる目的に向けて法的拘束力を有する枠組みを策定すべく、OECD加盟国が協力することを強く求めます。
2. ドーハ宣言第51パラグラフ
3. ヨハネスブルグ実効計画第45パラグラフ
28. 多国籍企業OECDガイドラインに関するOECDレベルの議論にECOが継続的に参加する機会をご提供いただきありがとうございます。また、OECD加盟国すべてが2000年のOECDガイドライン合意を実施し、各国連絡ポイント(NCP)に持ち込まれたあらゆるケースを早急かつ真摯に処理することを、強く求めます。更に、最近ガイドラインが狭められ、大半の社会問題・環境問題が見られる企業のサプライ・チェーンの大部分を排除して、投資関係のみに視点が向いていることを憂慮しています。
29. 「環境及び輸出信用に関する共通アプローチ」に関わる勧告への、OECDによる2003年の合意を歓迎します。しかし、「輸出信用と環境保護政策の整合性を促進し、それにより持続可能な開発に貢献する」という点も含め合意の目的に沿ってOECD加盟国政府及び諸機関が(合意を)解釈、実施し、その際に合意に含まれる様々な規定に留意して初めて、環境政策及びガイドラインがより厳格なものになると考えます。前記の機関から出される環境評価及び情報に、公衆が最大限アクセスできることを求めます。更に、輸出信用機関の環境政策が、関連する他国間環境協定、基本的人権法、ILO条約、特に世界ダム委員会(WCD)の勧告、及び世界銀行グループがスポンサーを務める採取産業レビュー(EIR)の勧告に沿ったものとなることを要求します。更に化石燃料及び原子力の利用支援は中止すべきです。