このレポートは、「世銀のパプアニューギニア(PNG)に対する構造調整融資が、林業部門の構造改革を、そのコンディショナリティーとして、含んでいるにも関わらず、違法伐採・森林破壊が抑制されていない」として現地NGOsが世銀のInspection Panelに対して提訴した。これの背景と問題点を記述するものである。
TPNGの森林・林業の特徴
参照資料:パプアニューギニアの農林業−現状と開発の課題−2000年版、国際農林業協力協会
1) PNGの森林資源
PNGは4000m級の山があり、国土の3/4が森林で、その森林面積は日本の国土面積にほぼ匹敵する。樹種は多様であるが、経済的な価値の高いものは少なく、土地が急峻なこともあり、今までは回りの島嶼での伐採が進んだが、本島には道路も少なく、生態的に貴重な森林資源が広く残されている。疎林が多く、単位面積あたりの収量は低い。天然林より造林・育林の方が、生産性が高い場合がある。
2) 土地所有形態
PNGでは、他の東南アジア諸国と異なり、慣習地(Customary Land)のシステムが住民に認められており、その面積は国土の95%を占める。所有権、占有権、利用権が慣習により規制されているもの。 ただこれまで、地域住民の持続可能森林経営に対する認識が薄く,外部の伐採業者の甘言にのり、森林資源を略奪され、結果として生計の手段を喪失するケースがしばしば見られる。また土地所有の境界も、あいまいなため部族間・村どおしの争いもしばしばある、と言う。インドネシアなどの森林が国有で、海外企業の進出が比較的容易なのに比べると、PNGの土地利用の制約が大規模な森林開発を阻む要因になっている一方、伐採権の承認プロセスで林業省と業者の癒着・汚職構造がひどいようだ。
3)林業・林産物・伐採企業
1980年代に急増、1994年には370万m3に達し、その後は横ばいか、世界不況により減少傾向。森林持続性より短期経済性を重視した、伐採許容量を超えた、非持続的開発が行われているため、林業法の改正など、開発に規制が入りつつある。一方、これまでは木材生産の85%が輸出で、日本向けパルプ用チップ(10万m3/年)を除けば殆どが、丸太である。日本向けが6割を超えていたが、近年は中国にシフトしつつある。輸出用丸太の伐採業者はその8割以上が外国資本によるもので、華僑系マレーシアがその85%を占めている。さらにその70%はRIMBUNAN HIJAUグループと言われており。日系企業はパルプ用チップ事業を行う合弁企業を除いては撤退の方向にある。
4) バーネート・レポート
1987年4月、当時最高裁の判事だった、トマス・バーネット氏が,時の首相から「木材産業に関する調査」の委員長に任命された。これは主として木材産業協議会の脱税を摘発して政府の財源を補填する狙いであったが、この調査チームが主として法律家によって占められていたために、政府と産業界の癒着と汚職構造が明るみに出ることになった。
結果として、13社の大手企業に追徴課税が課されたが、時の林業大臣以下の官僚は、罰せられる事もなく、報告書は公表されなかった(コピーは出回っているが)。脱税の主な手口は、価額移転であった。いまもこれは第3国を絡めて続いていると言われる。そして業界と林業省の癒着・利権構造が、違法伐採・森林破壊を引起しているとして、世界銀行が関与して来たのだが。
U「森林の持続的管理」が世銀融資のコンディショナリティに
5) 世界銀行の森林開発への関与(資料1)
世銀はPNGへの主要ドナーとして1988年から、援助国を集めてのCG会合を主催している。95年以来、PNGの財政支出をレビューして、財政赤字・外貨準備高の枯渇など、PNGの深刻な経済状態を、改善するための、構造調整計画をPNG政府と協議してきた。この結果が添付資料1にあるように、2000年に90mドルの融資による支援となった。
これの第1回目の支払い35mドルは契約直後、フローティング20mドルは2001年7月に、
そして第2回目の35mドルが2001年12月18日に支払われた(世銀資料2)
この構造調整計画に財政改革・産業構造改革・貧困対策などと並んで、林業構造改革が入っており、これまでの林業局と伐採業者の癒着による、森林の乱伐・違法伐採に何らかの歯止めがかかることをNGOsは期待していた。Conditionalityの遵守状況についての、世銀側の判断は、資料2参照。
6) 独立レビューチーム
この構造調整融資は、新規伐採権の付与を禁止すると言う、Conditionalityが入っていたにも拘わらず、林業大臣や林業省はこれを無視して、新規伐採権の発行を企図、世銀との間でしばしば問題になった。このため、2000年の11月から、新しい伐採権の許可プロセスを調査するための、第3者によるレビューが行われる事になった。レビューチームは世銀により選ばれ、豪政府から資金を提供された。このチームは最初の報告書を2001年の3月に提出した。33項目、500頁に上るもので、PNGの現行の森林管理のプロセスを批判する、告発的なものである。土地所有者の権利・ガバナンス・汚職・住民参加プロセス・違法行為など様々な問題が指摘されている。新しく申請された30の伐採許可願いの中、5件しか、審査を可能にするデータや諸元を含んでおらず、申請のやり直しを示唆するものとなった。この調査をもとに世銀とPNG政府は交渉を重ねたが、結局は世銀が譲歩して、レビューチームの指摘で伐採権付与プロセスを見直すこともなく、チームの最終レポートの作成は、融資の中断に繋がらないと言うことで調査のみ続行となった。
7) Kiunga-Aeanbak 道路建設による違法伐採
本件の伐採許可証は1994年4月に発行された。道路建設の場合は、40m巾の伐採のみが許されるが、これにはそのような規制の記述がない。許可証保持者(Paiso Company)と伐採業者(Concord Pasific)の間の契約を見ると、巾2km、km当たり4,200m3(246kmの道路では100万m3となる)となり、これは明らかに1991年に成立し、その後修正や改正が行われている「森林法」や各種環境保護法に違反している。森林省は数度に亘って、このプロジェクトを停止する命令を出したが、業者側はNEC(国家執行委員会?)の排除命令を申請して、許可証の範囲と条件を拡大し事業を継続している。これは道路建設に名を借りた、悪質な大量違法伐採行為であり、道路自身も木材搬出後まもなく使用不能になると、レビュウチームは報告している。土地所有者に対する地代も規定値以下である。本件は道路建設を主目的にしたため、世銀のConditionalityに触れないように見えるが、「森林法の遵守」「土地の権利の擁護」という事では大いに関わりがある。PNG財務省からの輸出税50%免除のエビデンスもある。
8) 世銀およびGEFの森林・林業に対する新しいローン・グラント(資料3)
上記の構造調整融資が終わると同時に、新しいローンとグラントが承認された。これは前記の融資でPendingであった「既存の伐採許可証を持続可能森林管理の観点から見直す事」および「PNGの貴重な森林資源を保護・保全する事」で、前者は政府・林業省に有償で、後者はNGOs中心に無償で供与される。前記の構造調整融資で世銀がPNG政府に譲歩したのは、この融資の実行中に問題点がクリアになればと考えているのかも知れない。NGOsがもっと早くInspection Panelに駆け込まなかったのも、このグラントが欲しかった為かも知れない。
9) PNGの森林に関するNGOs
過去の経緯は、私は知らないが、今は「Eco−Forestry Forum」と言う連合体があって、この下に個別のNGOがある。さらにこの1年半位前から、特に違法伐採や林産業における汚職などに注目するメンバーが集まった「PNG Forest Watch」というネートワークによる活動が起こっている。今回Inspection Panelに提訴したのはEco−Forest Forum参加の「Centre for Environmental Law and Community Rights」(CELCOR)と言う法律家集団のNGOである。世銀のPNG事務所との折衝は非常に頻繁に行われたが、2001年の後半は見るべき進展はなく、特にレビューチームの勧告は日の目を見なかった。最もアクティブなのは、グリーンピース(PNG・Australia・US)のようだ。
10)TI(Transparency International)PNG (添付資料)
TI・PNGも独立レビューチームの立場を基本的に支持している。
TIは世銀との連携でガバナンス問題に取組んでいるのは周知のこと。
以上は2002/02/06 現在の報告書 (未完) 岡崎 時春
世銀:資料1〜3
World Bank Activities and Projects
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