持続可能な紙の生産・消費に関するNGO共同提言
私たちは、紙の生産・消費に伴う様々な環境負荷について関心を持つ市民・消費者団体です。私たちは、グリーン購入法の信頼性と実効性を高めるとともに、世界の森林資源の保全を生産側面のみならず消費側面からも推進し、2002年のヨハネスブルグ地球サミットで合意した「持続可能な生産・消費」を早急に実現するために、国や、製紙業界、ユーザーとなる事業者や消費者に対して以下を提言します。
第一部:偽装事件への対応に対する提言
- 環境省を筆頭に、これまで膨大な偽装再生紙を購入させられてきた省庁は、製紙メーカーを詐欺罪で告訴し、あわせて民事訴訟でも損害賠償を求めるべきである。
- 製紙業各社が挙げている今後の「環境貢献策」としての「海外植林の推進」は貢献策とは認められない。偽装問題の代償としての環境貢献策は、古紙の持続的な循環を支えるための基金を積むべきである。
第二部:紙の生産・消費についての提言
- 国は温暖化対策、循環型社会形成のために、わが国全体の紙の消費の総量削減を環境行政として真剣に進めるべきである。リサイクルや新規資源の環境配慮基準だけを議論せず、まず、徹底した紙の消費削減を進めなければならない。
- グリーン購入法などの紙の購入基準について、紙の消費量削減を明確に規定した上で、引き続き古紙の利用を最大限行うべきである。バージンパルプの利用にあたっては、国内産材を優先し、合法性証明を取得していると同時に、製材・合板工場からの端材、建築廃材、人工林からの間伐材や林地残材の「廃残材・間伐材原料を使用したバージンパルプ」を対象とする。コピー用紙の白色度は、65%以下とし、他の用紙の指標とする。
- 古紙配合率など法の求める実績確認は調達者である国の責任で実施すべきである。調査の結果、違反が見られた際には業者に指導するとともに速やかに公表し、悪質な場合、偽装を行った企業の法的責任を速やかに問えるよう同法および関連法を整備することが必要である。また、今後、製造・販売する再生紙で偽装が行われないようにするためには、古紙・バージン原料の投入量に関する情報を、製品、工場、会社単位で公開させることが必要である。
提言者
国際環境NGO FoE Japan、古紙問題市民行動ネットワーク、ナマケモノ倶楽部、日本消費者連盟、熱帯林行動ネットワーク(JATAN)、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)日本代表部(50音順)、坂本
有希、満田 夏花((財)地球・人間環境フォーラム)
賛同者
(団体・50音順、敬称略)
ウータン・森と生活を考える会、NPO法人 AMネット、エコハウスしずおか、葛飾区消費者団体連絡会、カフェスロー、カフェ・ド・アクタ、環境政策研究会、清瀬ごみともだち、持続可能な社会を実現する会Green・Up、特定非営利活動法人 グリーンコンシューマー東京ネット、「ゴミゼロプラン静岡」市民ネットワーク、栄工場のゴミを考える会、特定非営利活動法人 循環型社会研究会、スローウォーターカフェ有限会社、スロービジネススクール、特定非営利活動法人 地域環境ネットワーク、CheckActionNetworkめぐろ、DearChild、にっぽんこどものじゃんぐる、日本インドネシアNGOネットワーク(JANNI)、羽賀グループ、パプアニューギニアとソロモン諸島の森を守る会、特定非営利活動法人 森の生活、横浜リサイクラー会議、横浜・ゴミを考える連絡会、NPO法人 レインボー
(個人 48名)
提言の背景
◆ 2008年1月に発覚した一連の古紙偽装問題及びその後の経緯は、製紙業界ヘの信頼、およびグリーン購入法など環境行政に対する信頼を著しく損なう大変残念な事態です。
◆ 長年にわたる古紙偽装は製紙メーカーの幹部自らが認識していた、明白かつ意図的な詐欺行為です。にもかかわらず、製紙業界は「偽装問題」ではなく「未達問題」と表現する
など、事件の重要性に対して当事者としての責任意識があまりにも欠けていると考えざるを得ません。
◆ 偽装問題はまた、自主申告に委ねられているグリーン購入法の制度そのものの根幹を揺るがす事態でもありました。同法の趣旨に則って行動していた、多くの事業者や消費者の環境配慮行動を裏切ったからです。
◆ 一方、紙原料の逼迫も深刻な問題となってきました。世界的に木材チップやパルプの価格も高騰しており、製紙原料の供給が逼迫してきています。2050年に世界人口が90億人に達し、新興国の急激な経済成長が予想されるなか、紙パルプだけでなく、食糧、バイオ燃料など生態的に利用可能な土地への需要はいっそう高まっていくと見られます
。
◆ 製紙各社は海外での植林地の拡大に奔走していますが、日本の紙パルプ用原料のために、とりわけ途上国の広大な土地を市場の原理だけで占有することは、地元の貧しい住民がもつ食糧確保等の土地利用の権利への侵害であり、水資源や水循環を圧迫し、生態系を破壊するなど、地元住民に対する公平性を無視した行為となりかねません。既に世界各地で製紙用産業植林や輸出用商品作物のための大規模プランテーションにともない、地元住民と土地の利用権や環境破壊に伴う対立など、様々な環境社会問題が噴出しています
。
◆ 産業用植林地の拡大は、地球上に残された貴重な天然林の直接的・間接的な開発にもつながっています。「CO2の吸収が少ない原生林を若い植林地に転換すればCO2の吸収が増加する」との趣旨の表現が濫用されていますが
、原生林が皆伐されて植林地に転換されると、蓄積している膨大な炭素の喪失により明らかな排出増となることが指摘されています 。インドネシアでは製紙用原料のための大規模な熱帯林の皆伐と産業用植林地への転換が続いており、膨大な炭素排出が指摘されています
。日本向け天然林木材チップ原料の最大の供給地である豪州タスマニアでも原生林の皆伐に伴う蓄積炭素の喪失が指摘されています 。このような森林減少・劣化からの温室効果ガスの排出は世界の全排出量の2割を占めており、電力部門に続く最大の炭素排出源となっています
。
◆ 製紙連合会や一部の製紙企業では、古紙利用が環境負荷の高いものであるという主張を未だに行っていますが、古紙生産の燃料は、年々非化石燃料化しており
、各企業の燃料選択により回避できる問題であることは明らかです。また、「バージンパルプでは副産物である黒液を燃料として使用するためカーボンニュートラルである」という主張は、黒液燃焼によるCO2排出は伐採時にカウントするという京都議定書の計算上の取り決めを都合よく解釈したもので、伐採地での蓄積炭素の減少分は大気中に放出されています。
◆ また、そもそも森林の価値はCO2の吸収量だけで測られるものではありません。とりわけ原生的森林が有する生態系の多面的な価値は、大規模な皆伐によって一度失われてしまうと、元に戻るまで数百年以上の年月を必要とします。製紙用の産業植林地は製紙メーカーが自ら「ツリーファーム」(木材農場)と呼ぶように、その生物多様性は原生林より著しく劣ります。森林のみならず草原や半乾燥地も独自の生態系をもっています。生物多様性条約の趣旨からも世界に残された自然生態系の保全を優先しなければなりません。
◆ 2005年の日本人一人当たりの紙の年間消費量は246.8kgで、世界平均の56.3kgを大幅に上回る大消費国です 。バージン原料(木材チップおよびパルプ)の約9割を輸入で賄い、その一方で国内の大量な人工林資源を放置している
日本の紙の生産・消費の現状は異常と言わざるを得ません。
◆ インドネシアの熱帯林を原料とするコピー用紙が大手小売店で格安の値段で販売されています。タスマニア製のチップも日本で印刷・情報用紙や家庭用紙となって、市場に広く流通しています。私たちの消費する紙パルプ原料の生産のために、世界各地で天然林の大規模な伐採や植林地ヘの転換が起きており、そのために森林減少や土地利用の問題が生じています。さらに古紙の循環利用に支障を来していることを鑑みれば、日本の紙パルプ需要は大幅に削減しなければなりません。製紙会社が表現するような「森のリサイクル、紙のリサイクル」だけではもはや「環境に配慮している」とは言えません。
◆ 以上のように認識し、私たちは、グリーン購入法の信頼性と実効性を高めるとともに、世界の森林資源の保全を生産側面のみならず消費側面からも推進し、2002年のヨハネスブルグ地球サミットで合意した「持続可能な生産・消費」を早急に実現するために、とりわけ国や、紙を扱う業界に対して以下の対策を実施するよう強く要望いたします。
第一部:偽装事件への対応に対する提言
《1》環境省を筆頭に、これまで膨大な偽装再生紙を購入させられてきた省庁は、製紙メーカーを詐欺罪で告訴し、あわせて民事訴訟でも損害賠償を求めるべきである。
[解説]
◆ 今回の再生紙の古紙配合率偽装に対し、4月26日に公正取引委員会は製紙メーカー8社(日本製紙グループ、王子製紙、大王製紙、三菱製紙、紀州製紙、丸住製紙、北越製紙、中越パルプ工業)に景品表示法違反(優良誤認)で排除命令を出している。一方で、製紙業界は「偽装問題」を「未達問題」と表現するなど事件の重要性に対して責任意識が欠けていると考えざるを得ない。
◆ 省庁や関連施設ではグリーン購入法の基準にそって再生紙を購入してきた。そのおり必要に応じて製紙メーカーは「古紙100%」の保証書まで出し、高価格の再生紙を販売していたことは、意図的な詐欺行為である。牛肉など他の偽装事件では、経営者が詐欺罪で立件されている。国民の税金で購入していたわけであり、刑事罰、民事罰、行政罰が必要である。偽装古紙を購入させられてきた省庁は、刑事罰として製紙メーカーを詐欺罪で告訴し、あわせて民事責任を問うために損害賠償請求を行うべきである。
《2》製紙業各社が挙げている今後の「環境貢献策」としての「海外植林の推進」は貢献策とは認められない。偽装問題の代償として環境貢献策は、古紙の持続的な循環を支えるための基金を積むべきである。
〔解説〕
◆ 製紙メーカー各社が環境貢献策として挙げている「海外植林の推進」は、本業のための資源の確保にすぎず、環境貢献策として評価すべきものではない。むしろ、天然林の伐採と転換を直接的もしくは間接的に伴い、また土地の占有が地域社会へ悪影響を及ぼすことも懸念される。一般に海外植林の量的拡大は必ずしも環境に貢献しているわけではない。
◆ 偽装問題の代償として製紙業界が責任を持つべきは、古紙循環システムを支えることである。これまでのように利己的な古紙買取価格を古紙業界に押し付けたり、自治体の補助金を頼らずに、製紙業界自らが資源である古紙の持続的な循環システムの維持に責任を持つべきである。具体的には、古紙回収システムが成立しなくなるような古紙価格の低落や逆の高騰を緩和するための基金および取引ルールが必要である。
◆ 日本製紙連合会会員企業有志は、数年間にわたり計10億円を拠出するとしているが 、不当に低いと言わざるを得ない。拠出金額の規模は、過去十数年にわたって行ってきた偽装の損害に見合った金額とすべきである。具体的には、違法行為を行った期間の当該商品の総売上高の10%を国庫に納めさせるという独占禁止法の課徴金の算定基準が参考となる。
◆ 日本製紙連合会の報告で具体的な事業としてあげられている古紙回収PRや回収団体への援助・物品支援のみでなく、紙の流通業者、需要者、回収業者、市民社会を含め、紙の持続的な利用のための消費削減・分別徹底・回収利用のための啓発・教育、支援、仕組み構築などが必要である。これらによって古紙原料の持続的な確保および、紙の適正な価格の容認を目指すべきである。
第二部:紙の生産・消費についての提言
《3》国は温暖化対策、循環型社会形成のために、わが国全体の紙の消費の総量削減を環境行政として真剣に進めるべきである。リサイクルや新規資源の環境配慮基準だけを議論せず、まず、徹底した紙の消費削減を進めなければならない。
[解説]
◆ 再使用(裏紙使用などリユース)や再利用(古紙利用などリサイクル)を論ずる前に、使用削減(リデュース)の重要性を環境政策として強調する必要がある。日本は世界で有数の紙(特に上質紙)の消費国である。
◆ 行政は国内全体での紙消費の総量削減を進めるため、地球温暖化対策推進法や循環型社会形成推進法などの法律・制度による位置づけを与えるべきである。土地利用時から生産・廃棄までのライフサイクルを通して膨大なCO2排出などの環境負荷を与える紙の生産・消費に対し、法制度を活用し、わが国全体の総量削減目標を設定、大口需要者の使用量の集計・公開などを実施する必要がある。確実な削減を促すために、紙の生産・流通過程に対しては目的税としての環境税導入などを視野に入れた経済的誘導施策を検討すべきである。
◆ ペーパーレスシステムや古紙循環・古紙回収体制の維持強化のための支援や、紙需要の抑制と適切な循環利用のための啓発・教育、国内人工林の間伐材や林地残材の利用体制の構築を進めるべきであり、環境税が導入されれば税収をこれらにあてることも考えられる。
◆ 紙のユーザーとなる事業者も含めて社会全体での紙の需要削減と適切な循環利用を進めていくことも不可欠である。例えば出版・印刷業は書籍流通の改革を行い、返本を見込んだ過剰な書籍・雑誌の発行量を減らすことや、再利用を難しくする塗工/表面加工をできる限り回避すること、コピー紙販売業は白色度や平滑性など過大な品質要求をしないこと、大口需要者は紙のグリーン購入のみならずダイレクトメールなどの抑制やオフィスのペーパーレス化を一層推進すること、などが考えられる。
◆ 現在の紙製品の価格は、紙の原料調達から生産・廃棄にかかる環境・社会コストを適切に反映していない。したがって、特に最終消費者の間で適正な価格に対する理解を広めることが重要である。
《4》グリーン購入法などの紙の購入基準について、紙の消費量削減を明確に規定した上で、引き続き古紙の利用を最大限行うべきである。バージンパルプの利用にあたっては、国内産材を優先し、合法性証明を取得していると同時に、製材・合板工場からの端材、建築廃材、人工林からの間伐材や林地残材の「廃残材・間伐材原料を使用したバージンパルプ」を対象とする。コピー用紙の白色度は65%以下とし、他の用紙の指標とする。
[解説]
◆ 古紙利用については、現在の基準達成が、本当に技術的に困難なのかどうか、価格など市場条件に基づく経済的判断により困難としているだけなのか、まず事実確認としての実態把握、検証作業が必要である。安易な古紙比率引き下げは容認できない。
◆ 再生紙に対し過度な白さを求めることは、漂白等による環境負荷を増大させ、またもや製紙メーカーを偽装に追い込むことにつながりかねない。ユーザーである事業者や消費者は再生紙に過度な白さを求めず、ちり等の存在を認めることが必要である。通常コピー用紙の白色度は、65%程度で使用できる。紙の製造については、再生しやすさを考えて、できるだけ漂白剤や薬品を使わず、塗工などの加工をしない。
◆ 昨年末に提示されたグリーン購入法基本方針の改定案 において「環境に配慮された原料を使用したバージンパルプ(フレッシュパルプ)」として定義されているものには、天然林を植林地に転換してしまうことで得られる木材も含まれてしまうため、必ずしも環境に配慮した原料とは言えない。特に植林木については、生態系や地域社会に大きな悪影響を及ぼしているケースも指摘されており、個別の環境社会影響評価が必要と考えられる。
◆ また、森林認証制度の中には、基準が低いために結果として環境破壊を及ぼしているものがあり、森林認証材のすべてを手放しで環境配慮の原料と考えることはできない
。
◆ さらに、配慮事項においては、持続可能な森林経営について言及され、林野庁のガイドラインを参照することとなっているが、林野庁の作成した「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」においては持続可能性について何ら定義されていない。「持続可能な森林経営」及び「木材・木材製品の持続可能性」について明記するにあたっては、これを示す指標に関する十分な議論がなされるべきであり、少なくとも、(1)保護価値の高い森林の生態系を破壊するものでないこと、(2)周辺生態系に著しい悪影響を及ぼす除草剤や肥料などの薬品の使用及び遺伝子組み換え樹種を含まないこと、(3)生態系に重大な悪影響を及ぼす大規模な天然林皆伐を行っていないこと、(4)伐採地における利害関係者との対立や紛争が生じていないもの、などの指標を組み込んでおく必要がある
。
《5》古紙配合率など法の求める実績確認は調達者である国の責任で実施すべきである。調査の結果、違反が見られた際には業者に指導するとともに速やかに公表し、悪質な場合、偽装を行った企業の法的責任を速やかに問えるようグリーン購入法および関連法を整備することが必要である。 また、今後、製造・販売する再生紙で偽装が行われないようにするためには、古紙・バージン原料の投入量に関する情報を、製品、工場、会社単位で公開させることが必要である。
[解説]
◆ グリーン購入法では、事業者、国民への取組みも推奨している。同法の基準は多くの企業や自治体のグリーン購入でも参照されており、非常に影響力が大きい。この制度が自主申告に依存したままならば、抜け駆けした供給業者による偽装の環境配慮物品が横行し、公正な競争環境がゆがめられ、環境配慮に真摯に取り組む企業の競争力を低下させることになりかねない。
◆ 基準に適合していることを実質的にチェックできることが必要である。製紙メーカー等は使用される原材料の種類や量、調達先等に関する情報開示を行い、国など購入・使用が義務づけられている機関は詳細な情報を得て抜き取り検査等で自ら確認する必要がある。このようなシステムが構築されなければ環境物品に対する信頼性は確保されない。
◆ 現行グリーン購入法は今回のような偽装事態を想定していないために罰則がないが、前提としてきた信頼関係が存在しないことが明らかになった今後は、法を欺く行為に対する厳正で明確な罰則(違反行為による刑事罰、および不当利得を課徴金として課す行政罰)を規定するべきである。
◆ 今後の紙の基準の見直しに関しては、国際的な森林保全や古紙リサイクルに取り組んできたNGOや市民団体、また自然生態系や持続可能な森林経営に関する研究者や専門家も検討委員会に参加できるようにすること。
最後に「持続可能な紙の生産・利用のための役割分担」
今回の偽装事件は、環境に配慮するために再生紙を求めた需要者や消費者の思いを踏みにじり、古紙リサイクルをしようという市民・消費者の分別努力を軽視した、製紙業界のコンプライアンス(法令順守)無視の体質に責任があるのは明らかですが、その背景には、白く安い紙を大量に求めて大量に廃棄する私たちの消費優先社会があります。
資源小国のわが国では、昔から「もったいない」とものを大切に繰り返し使ってきました。その代表が「紙のリサイクル」であり、資源を循環させて使いまわすことが今後ますます重要なことは明らかです。紙の恩恵に浴している私たちすべてがこれまでの大量生産・大量消費のあり方を問い直し、国、製紙業界、ユーザーとなる事業者、消費者・市民はそれぞれの責任を自覚し、各自の役割を果たさねばなりません。
国の役割
◆ わが国の紙の消費量は世界的に見ても非常に多く、結果的に環境破壊を引き起こしている。産業や消費の論理にとらわれることなく、紙の総量規制や税制活用などを視野に入れた実効性の高い施策の実施を行う。
◆ グリーン購入法の基準作成においても、目先の需要量のためにいたずらに基準を下げるのではなく、今後の持続可能な社会実現のためのあるべき基準という視点を堅持する。
◆ ルールを逸脱した者への厳しい罰則規定を設ける。
製紙業界の役割
◆ 第三者による「偽装」のチェック体制を導入し、消費者をはじめとした需要者および市民団体やメディアに対して常に情報を公開し、生産や流通などがさかのぼってたどれるように保障する。
◆ 古紙業者、ユーザーとなる事業者、消費者、行政などの全ての関係者に対する社会的責任を自覚し、古紙循環システムを支えるために努力する責任がある。具体的には、古紙循環を支えるための基金制度や消費の削減、分別の徹底などを社会全体に向けて発信・啓発し、支援していく。製紙業界は基金の拠出により、これらの課題を解決するコストを引き受ける。
◆ 社会的責任として、国内人工林の間伐材や林地残材の利用体制の構築、輸入原料から国産原料への転換、国内人工林の生物多様性を回復するような森林環境の改善、海外植林地における地域住民の農林複合経営支援、非化石燃料の使用やグリーン電力の導入などに取り組む。
ユーザーとなる事業者の役割
◆ 特にコピー紙について、高い白色度や平滑性など過大な品質要求をしない。
◆ 出版や印刷する時に、再利用を困難にする塗工や表面加工をできるだけしていない紙を使う。
◆ 出版・印刷業界は書籍や雑誌づくりにおいて、返本を見込んだ過剰な発行をやめる。
◆ 紙の価格の安さばかりを追求せず、原料調達及び生産における環境保全のための適正コストを負担する。
◆ 大口需要者は紙のグリーン購入のみならず、ダイレクトメールなどの抑制やオフィスのペーパーレス化を一層推進する。
消費者・市民の役割
◆ 最終ユーザーである消費者は、紙は貴重な資源から作られたものであることを理解し、紙を使い捨てるのではなく、紙の消費削減や再使用などを実行する。
◆ 紙に対して過度な白色度や加工を求めず、古紙配合率の高い再生紙を使う。
◆ 現在の紙の値段は安く、原料調達及び生産における環境保全のための適正なコストが反映されていない。消費者はこれらのコスト負担を引き受ける。
◆ 市民団体・NPOは、市民・消費者の視点から、紙の大量生産と大量消費を見直し、広く社会に紙の生産・消費の抑制や削減への取り組みを働きかける
以上