ライオンの洗濯洗剤「トップ」のCMに関して、パーム油が環境にやさしいというような表現を改めることなどをFoE
Japan、地球・人間環境フォーラム、日本インドネシアNGOネットワーク(JANNI)など8団体13個人が求めた要請書に対し、ライオンは4月21日、「植物原料の使用は大気中のCO2増加抑制に貢献する」として、今後も「宣伝活動を続けたい」等の内容の回答を出しました。
>ライオンからの回答文書
しかしながら、パーム油の生産が熱帯林の減少に寄与することもある点、生産地において様々な環境・社会問題の引起すこともあることを踏まえると、効果の大きいCMにおいて、パーム油が環境にやさしいというような表現を繰り返し使用することの社会的責任は大きいと考えられます。また、今後バイオ燃料としての原料としてパーム油等の需要が拡大している中、このような論拠によって、乱開発が正当化されるという危惧もあります。
よって、FoE Japan、地球・人間環境フォーラム等の環境団体及び環境に関心を有する個人は、改めてこれらの点に注意を喚起する以下の見解書を発表し、皆様の賛同も得ながら、広く企業関係者や社会一般に警鐘を鳴らしたいと考えています。
ご賛同いただける場合は、5月12日までに個人のご賛同か団体としての賛同かを明記してご連絡下さい。
ライオン4月21日付け回答に関する見解(案)
(「トップ」のCM及びパーム油の環境・社会配慮について)
I.経緯
ライオン株式会社(以下ライオン)の「トップ」のテレビCMに関して、環境団体等が「パーム油が環境にやさしい」というような表現を改めることなどを求めた4月7日付け要請書に対し、ライオンは4月21日、「植物原料の使用は大気中のCO2増加抑制に貢献する」として、今後も「宣伝活動を続けたい」等と回答した。要請の2点目の「パーム油の原産地情報及び環境・社会影響を公開すること」については、「マレーシア産」であるとしているが、それ以上の情報は記述されていなかった。
II.見解
1. 生産地における環境・社会影響に関する認識について
ライオンが、パーム油が有用な植物油脂であるとしながらも、生産地においては、熱帯林の伐採や野生生物の生息域の縮小、過酷な労働条件等の環境社会問題が生じていることについての認識を表明したことは評価する。
2. テレビCMについて
一般的に、植物原料は適切に使えば石油原料に比べてCO2排出量削減効果があるとされているが(注1)、一方で、パーム油は、生産地において、森林生態系の急激な縮小その他の問題が生じている(4月7日付け要請文別紙参照)。CO2の排出量削減効果は、環境問題の一側面をしか表していないことに重ねて注意を喚起したい。
また、ライオンが現在、パーム油の生産において重大な環境・社会影響が起こりうる可能性を認識しながら、そうした点に十分な説明が無いままに、「植物原料(パーム油)を使用しているから環境にやさしい」との表現で製品の宣伝をしていることは、ISO14020の原則などにも反しており(注2)、問題がある。とりわけ消費者への影響力の大きいテレビCMや新聞広告においてこのような表現を繰り返し使用することは、パーム油にまつわる環境・社会問題について消費者に誤った認識をもたらし、さらには生産地における乱開発を正当化するという点において、社会的責任が問われる問題と考える。
3. 原材料の確認について
ライオンが、今年3月27日、RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil:持続可能なパーム油のための円卓会議)に参加したことは評価するが、RSPOへの参加のみをもって、現在ライオンが調達している原料の環境影響が回避されていることにはならない。ライオンがRSPOに参加している企業として、積極的にRSPOの持続可能なパーム油のための原則と基準(注3)を使用して原材料を確認することを希望する。
III. 結論
以上のような理由から、私たちは次の2点について、重ねてライオンに求めていくとともに対話を継続する。
1. ライオンが使用している原材料の生産地、及び生産に当たっての環境・社会影響を確認し、その結果を誤解が無いように十分に公表すること
2. CM等広告・宣伝の中で「植物原料だから環境にやさしい」という表現を使用しないこと(注4)
また、一方で、今後拡大が予測されるパーム油等植物油脂輸入に当たって、生産地における環境・社会影響を需要側においても配慮していくため、企業、行政、消費者団体、NGO等の関係者の間で具体的な検討・議論を進める必要がある点、関係者の注意を喚起したい。
以 上
(注1)一方でパーム油使用の温室効果ガス排出の寄与度を判断するためには、パームの収穫から消費までのCO2評価のみならず、熱帯林におけるカーボン・ストックとオイルパーム・プランテーションのカーボン・ストックとの比較、搾油・精製段階等での排水からのメタンガス発生の評価なども必要である。
(注2)企業による広告・宣伝もその対象に含まれる、ISO(国際標準化機構)の環境ラベル規格の一般原則5には「環境ラベル及び宣言の作成は、製品のライフサイクルにおける、関連する側面のすべてを考慮したものでなければならない」とされている。また、環境広告も適用範囲とするISO14021(タイプII環境ラベル規格)においては、「環境にやさしい」といったあいまいな環境主張はしてはならないとしている。公正取引委員会も同様の留意事項を述べている。
(注3)RSPO原則と基準
原則1:透明性へのコミットメント
原則2:適用法令と規則の遵守
原則3:長期的な経済的・財政的実行可能性へのコミットメント
原則4:栽培者及び加工業者によるベスト・プラクティスの利用
原則5:環境に関する責任と自然資源及び生物多様性の保全
原則6:栽培者や製造・加工工場によって影響を受ける従業員及び個人やコミュニティに関する責任ある配慮
原則7:新規プランテーションの責任ある開発
原則8:主要な活動分野における継続的な改善へのコミットメント
(注4)仮に生産過程の環境・社会影響を確認したことを前提に、例えば、「生産段階でも環境・社会に配慮した植物原料を使用しています」、あるいは「環境や社会に配慮した製品をめざしていきます」などの表現が考えられる。