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Vol.18(03 December 2003)
 
 
COP9始まる

  イタリア・ミラノで12月1日から12日まで国連気候変動枠組み条約の下で187ヶ国が集まる第九回締約国会合(COP9)が開催されています。 J−Equityではこれから数号に渡り現地の様子をお伝えします。

  ロシアの批准が遅れ京都議定書の先行きに不透明感が漂う状況のなか開かれるこの会議はまた、議定書の運用規則の詳細を詰める最後の会議となると考えられています。 2年前のモロッコ・マラケシで合意された京都議定書運用規則はこれで、発効前に決まるべき全ての詳細が固まることになります。 既に批准した国々で議定書発効に向けた体制造りが進む一方、途上国に於ける温室効果ガスの排出状況やエネルギー等関連する情報収集・管理態勢の基盤を整える政府間交渉も着実に前進しており、条約の下で地球的な体制造りが進んでいます。

■世界の現状と傾向

  冷夏が続いた日本でしたが、2003年は欧州での熱波など観測史上、世界的に最も暑い年の一つと見られています。 この会合に先立ち、条約事務局は先進国がこれまでに提出した国別報告から現状と今後の排出量予測の報告を発表しました。 これによると、先進40ヶ国では約半分の21ヶ国が90年代、温室効果ガスの排出量を削減する一方、残り19ヶ国は依然排出量が増加し続けています。 40%前後増のモナコ、ポルトガルを筆頭に、日本は増加組中程で90年に比べ9.5%増、米国は13%増となっています。 報告の2001年で、経済移行国を除く先進国は90年水準から7.5%の増加ですが、経済移行国の39.7%減少を合わせた先進国全体では6.6%の減少となっています(何れも森林吸収を除く純排出量)。 2001年の排出ガス内訳は二酸化炭素が82%を締め部門別では64%がエネルギー部門、20%が運輸部門からの排出となっています。 ここで注目しなければならないのは、後半95年から2001年の期間の先進国全体の排出量は、経済回復に伴い経済移行国の削減量が減るに従い、その前5年間の7%削減から約1%の増加に転じている点です。 各国の報告を基に条約事務局では、90年水準に比べ米国の32.4%、日本の5.7%等を含めた先進20ヶ国が更に排出量を増やし、経済移行国の排出量も延び、欧州も0.6%の減少に留まるという傾向を示しています。 これは先進国全体で17%の増加を意味します(FCCC/SBSTA/2003/14)。 一方、京都議定書の批准は着実に増え、欧州連合を含め119ヶ国が既に批准を済ませました。

■本会合の焦点

  第二週目の10日、11日は閣僚級の円卓会議に充てられています。 今会合の議長国ハンガリーの提案で設けられたこの円卓会議では、「気候変動と排出削減、(主に途上国での)温暖化の影響への対策と持続可能な開発」、「技術(開発・移転)」、「評価」の3つのテーマが議論されます。 前回インド・ニューデリーでの締約国会議では、途上国の排出量対策も含めた2012年後の地球的枠組みへの話し合いの糸口を探る日欧と、新規義務へ繋がる議論を一切拒む中印など途上国ブロックや米・産油国が鋭く対立し、深い凝りを残しました。 将来の枠組みの議論は各テーマで横断的に取り上げられることになっていますが、先進国の義務の中心でもありロシア未批准で不透明感の増す議定書の行方もあり、全体を通じて、またとりわけ閣僚級会合では、改めて先進国と途上国の間の信頼関係の構築が一つの大きな目標となっています。

■ロシア批准と議定書発効の見通し

  議定書に反対する米豪抜きで京都議定書が国際法として発効するには、ロシアが批准しなければなりません。 しかしミラノ会合2日目、ロシア高官の話として同国は議定書を批准しないという英BBCニュースの報道が世界を駆けめぐりました。 NGOはいち早くモスクワのロシア政府筋と接触し、これは米石油企業と関わりがありこの件で過去にも同様の発言を繰り返した大統領の経済顧問が語ったもので、大統領や政府の決定とは関係のないものであることを明らかにしました。 これを確認する記事が翌日のウォールストリートジャーナルに掲載され、この件のおかげでかえって今回の会合への注目が高まる結果となっています。

  露政府は既に議定書批准による経済効果の評価を済ませましたが、議会への法案提出が遅れており、批准は来年まで持ち越しとなっています。 これは国政選挙、そして来年春の大統領選を控えていることが一つの理由です。 また、世界貿易機関(WTO)への露加盟問題で、欧州側が露国内エネルギー市場の開放やエネルギー関連の独占企業体の民営化前倒しを強く求める一方、同じ一連の首脳会談で議定書批准を働きかけ、露側の反発を招いたことも影響しています。 ガス関連のエネルギー企業はこれまで露産業界のなかで議定書批准の要となってきたからです。 また、エネルギーを中心に急成長するこういった企業群が政治への影響力を強めた結果、選挙を控えた大統領との間で熾烈な権力争いとなっていることも、状況を一層不透明にしています。 一方、最近タイで開かれたアジア太平洋経済協力フォーラム首脳会談ではプーティン露大統領が日加首相に個人的に改めて批准の意志を伝えたと言われています。 今回のミラノ会合では、このロシアへの多国間の働きかけが注目されます。

  先行きに不透明感の漂う議定書ですが、ミラノ会合では、議定書発効をにらみ日欧他先進国で進む国内体制整備と併せ、途上国の報告体制の整備が直実に進むことが期待されています。 国際温暖化対策、強いては将来の地球的エネルギー政策の体制造りに不可欠なインフラの整備が着実に進んでいます。

■2012年を越えた長期的な国際対策の枠組み

  先進国と途上国の鋭い対立に終わった前会合の経験から、途上国も含めた地球的排出量管理の枠組みの議論は政府間交渉では抑えた調子となるであろう一方、会場では研究機関や意欲的な政府のこの件での発表・議論の場が幾つも設けられ、かつてない活発な意見交換が図られることが予想されています。 この件に繋がる幾つかの議題がありますが、その最たるものが、国連の科学機関・気候変動政府間パネル(IPCC)が二年前に出した第三次評価報告書の知見を今後の政府間交渉の議題に如何に生かしてゆくかの交渉です。 政府間では来年六月の事務級定期会合から報告書の内容を継続的に取り上げて行くことに合意をしており、今会合直前にもこの件で非公式折衝が設けられました。

  この報告書では、今世紀中の厳しい気象条件の変化や、とりわけ途上国を中心に社会・経済的に大きな変動の予測が成されています。 このことから、途上国がこれら変動の被害対策のため求める追加資金や技術移転等の支援(適応)体制造りを求める一方、先進国側は被害を抑えるためには途上国の排出量増加を抑えることも必要とし、途上国が反発する地球的な次期削減目標の議論を始める道を探っています。

■今後予想される気候変動の影響と対策(適応)

  上記で触れた気候変動への適応の必要性にどう対応するかの議論は、議題に限らず他の幾つもの交渉議題に横断的に関わる大きな問題となっています。 地球の気候が変わってゆくに従い、単なる気温や海面の上昇に留まらず、大きな影響を受ける農業やそれに伴う食糧供給や穀物貿易の変動、淡水から、洪水や飢饉等の大規模災害対策や救済まで、必要となる資金量は膨れあがることが予想されています。

  二年前のマラケシ会合で、条約の下で後発発展途上国基金と特別気候変動基金が設けられ、前者はその名の通り後発途上国での適応計画作りに充てられ、既に運用が開始されています。 ミラノ会議から特別基金の実際の運用が開始されることになっており、その運用指針合意が交渉されます。 すでに特別基金の重点対象を適応対策に充てることが合意されていますが、この適応対策の範囲はどこまでなのか、一部途上国の求める様な洪水対策の為の大規模ダムやエネルギー、運輸インフラ対策から、気候変動に対応する農業や国際穀物市場の変動の補償までも将来的に賄うことになるのか、また増大する大規模災害への被害予防や救済も入るのか、といった地球的な気候変動へ対応する話に繋がる一つの糸口でもあります。 また、日米等は条件や恩恵が地域に限られる適応対策は、国連条約の様な機関の下での地球的な体制より既存の開発援助や地域的な協定等に振り分けた方がよいと考えているようです。 欧州連合はこれら基金への資金拠出を表明していますが、当面これら基金への先進国の拠出はそれほど大きな額になるとは見られず、将来に渡り増大し続けるであろう適応対策への資金・技術援助の必要性にどの様に対処するのか、答えには程遠い状況です。

  資金に関する交渉はこれまでも常に先進国と途上国間の不振と対立をもたらしてきました。 途上国が不満を募らせるこの資金問題で話がこじれた場合、ミラノ会合自体の結果に響くことが懸念されます。

■途上国での吸収源事業の運用規則:最後のマラケシ部分

  京都議定書の下では、途上国で排出削減事業を行うクリーン開発メカニズム(CDM)が設けられました。 ミラノ会合ではこのCDMの下での植林・再植林事業の運用規則の決定が予定されています。

  植林した森林が火災などで失われると、そこに蓄えられた炭素も二酸化炭素、メタンガスの形で大気に放出されてしまいます。 また生長した木はいずれ枯れてやはり吸収量が失われます。 この永続性の欠如の問題をどの様に解決するかで、欧州連合の五年毎に吸収量をモニターする案と、金融的な面の保証のみでよいとするカナダの案が提案されています。 また先進国がCDMを使って自国内での排出量削減を怠ることのないよう、既存の開発事業では実現出来ず、CDMがあって初めて可能となる事業のみが認められることになっています。 この追加性を判断する基準に事業国の市場や制度面のバリアーを加えるかどうかも焦点です。 またCDMの下では必要と見られれば事業実施前に環境影響評価を行うことができるようになっていますが、これを国際的な評価基準を設けて行うかどうかで、国際基準は事業国の主権に抵触するとする中南米諸国や日加と欧州連合、ノルーウェー等が対立しています。

  これら一連の技術的に複雑な議論の背景には、商業植林事業をCDMの下で振興したい前者の国々と、補助金をつぎ込まれ、しかも地域に環境や社会問題を起こしがちなこれら商業プランテーションをCDMに含めることに疑問を持つ欧州諸国や一部途上国との相違があります。

  複雑で分かりにくい議論であるためしばしば報道関係者にも敬遠されがちだったこの議論ですが、議定書発効が遅れ他に大きな懸案がないこともあり、ミラノ会合の大きな焦点のひとつとして脚光を浴びることになっているという面もあります。 この交渉は、二年前マラケシで大枠が合意された議定書の運用規則の最後の部分で、これをもって、発効までに必要な詳細の交渉は全て終わることになります。

■そしてつきまとう米政権の影、予算問題

  以前のJ−Equityで、事務局級会合の様子に触れましたが、そこでの条約事務局の二〇〇四−〇五年予算の問題は依然合意できず、ミラノ会合まで持ち越されています。 米国は米議会決議を理由に、京都議定書関連の支出への資金拠出を拒否、条約事務局長は前回、予算が合意できなければ来年二月には事務局閉鎖を避けられないと警告しています。 先の三割の予算増額を含む案は見直され、増額を7%に抑えた案と増額無しの二案が提案されていますが、米国は事務局の議定書関連活動の見積もりはまだ低すぎるとしています。 この関連予算の主な部分はCDM関連の理事会活動や途上国の能力育成の予算で、とりわけ同メカニズムへの影響が懸念されます。 欧州連合及び途上国は、資金拠出国が自国の政治的理由で国連条約下の活動を取捨選択できるようであってはならないと強く反発しています。 気候変動枠組条約は米国が滞り無く資金拠出を続けてきた数少ない国連機関のひとつであるため、米国の要求を拒絶し脱退に繋がるようなことになってはと、間に挟まれた形の日本は苦しい対応を迫られています。

お問い合せ:気候変動プログラム・小野寺ゆうり
Email:energy@foejapan.org
現地携帯:(+39) 338-9752248
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