しかし、今回の会合でその運用方法が議論された、「気候変動特別基金(SCC基金)」は、最後発開発途上国基金とは対照的といえるほど、もともと交渉を難航させる要素を多く持っていました。
二年前、第七回締約国会合で採択されたマラケシュ合意によると、気候変動特別基金の対象活動は、適応策、技術移転、様々な分野での排出削減活動、そして経済活動の多様化(石油利用の削減などの温室効果ガス排出量削減策による産油国経済への悪影響に対する支援)など多岐にわたり、かつ、昨年の第八回会合では、地球環境ファシリティが管理する他の基金が対象とする分野との重複を避けること(補完性の確保)、そして上記の同基金の支援対象活動の中で優先する活動を明確にすること(優先活動の定義)などが合意されました。
今回の会合はこうした各国の利害を大きく左右する方針について協議することが目的あったため、交渉の難航が予想されました。
この新しい基金の運用を開始するためには、締約国が地球環境ファシリティへの基金運営の方針を取りまとめ、12月の本会議(COP9)において決定することが必要です。
そして実際の交渉では、予想されたように上記した優先活動の定義、補完性の確保について議論が集中しました。
優先活動の定義に関しては、途上国側が適応策への支援を対象とするよう強く求める一方で、先進国側は適応策の重要性を認めながらも排出削減策についても支援対象として重視するべきと主張しました。
また、途上国間でも意見は分かれており、特にサウジアラビアは石油輸出国機構(OPEC)を代表して経済活動の多様化に対する支援を求めましたが、島国の連合体である小島嶼国連合(AOSIS)を筆頭として他の途上国は適応策への支援最優先を強く求めました。
また対象活動としての技術移転についても適応策に関する技術移転の必要性が中国等によって主張されています。
補完性の確保に関しては、何の基金との補完性なのか、例えば地球環境ファシリティがすでに行っている気候変動プログラムに対して補完的なのか、既存の二国間・多国間開発援助のことなのかなどについて協議されましたが、途上国はいずれにしても適応策への支援は不十分として、補完性の確保における適応策への支援の正当性を強調しました。
かつて気候変動に関する政府間パネル議長(当時)ワトソン博士は、排出量削減、資金問題と並び、条約の下で変動する気候への適応適応対策がもっと重要かつ資金の手配が遅れているのだと語っています。
適応には既存の社会・経済インフラの予防体制整備、農業改革から予想される自然災害増への対応まで、それだけで膨大な資金を要すると見られており、現在の地球環境ファシリティの適応資金だけではとても追いつきません。
また、今回の会合の前には、ガイダンス策定をスムーズに行うために、各締約国や最後発開発途上国専門家グループ(LEG)、そして技術移転専門家グループ(EGTT)から意見書が提出されました。
先進国の多くはこれでは議論を行うための情報が不十分として、十二月の次回本会議までにさらなる意見書提出やコンサルテーションを行う機会を設けるよう働きかけましたが、基金の運用開始をこれ以上遅らせまいとして途上国が反発し、認められなかった経緯もあります。
これは先進国側が資金支援をする対象を明確にしてから、資金拠出を行いたいという思惑があります。
何を持って適応策とするのかという議論も先進国側から聞かれましたが、どのような適応策を行うかの判断は、あくまで支援の受領国の主導によって行われるべきということを考えても、資金活用情報の透明性を確保することを前提とした上で、途上国側の判断を尊重するべきでしょう。
また触れておくべきこととして、気候変動特別基金の中に、地球環境ファシリティと国連環境計画(UNDP)が行っていて成功例として知られる「小規模プログラム(SGP)」と同様の制度を設けて、試験的に適応策プロジェクト実施を支援することもガーナによって提案されました。
これは、NGOによっても支持されましたが、この案は資金規模こそ小さいものの地球環境ファシリティの小規模プログラムが高く評価されていること、試験的実施による経験を今後の適応策に活かしていけること、そして交渉の滞りを打ち破る方法としても、これはひとつの有効策であるといえるでしょう。