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トピック
Vol.17(19 June 2003)
 
 
資金メカニズム−気候変動特別基金の運用−

特定非営利活動法人
環境エネルギー政策研究所
中島正明

  昨年ニューデリーで開催されたCOP8では、気候変動がもたらす悪影響に対しての対策である適応策の必要性が途上国によって強調されました。 気候変動が現実のものとなっている今、影響を特に受けやすい途上国にとって、枠組み条約下での資金メカニズムを通して適応策実施のための支援を得られるかどうかは大変な懸念事項です。 また、条約にも明記されているように、先進国が適応策のための資金支援をすることも大切な義務です。 このため、今回の会合の適応策の実施に直接的な影響を及ぼす資金メカニズムの交渉では、特に途上国は適応策の必要性を主張しました。 しかし、急増する幾つかの途上国の温室効果ガス排出量の削減策も含める必要があるとする日米欧先進国と意見が衝突し、交渉は難航しました。

動き出した最後発開発途上国基金

  2年前のCOP7では、新たに3つの途上国支援を目的とした基金を、枠組み条約の資金メカニズムである地球環境ファシリティー(GEF)の運営管理の下に設けることが合意されています。 その中のひとつである「最後発開発途上国基金(LDC基金)」は既に運用が開始されており、最後発開発途上国が適応策を行う準備のために資金拠出を行う準備がすでに整っています。 先立って今年5月に開催された地球環境ファシリティの評議会会合では、同基金の運用についてNGOから基金へのアクセスのしやすさの改善など様々な要望が出されたものの、この基金の早期の運用が実現したことは様々な方面で評価されています。 これは、この基金の対象国が特に資金の不足する最後発開発途上国であることや、先進国が強く求めているように支援対象活動がその国の情報を提供するツールとしての機能を持つ国別報告書の実質的な提出準備であったこと、つまり基金の目的が明確であり、対象活動が先進国の関心にかなうものであったことが早急な運用を可能にした要因だったといえるでしょう。

気候変動特別基金の焦点

  しかし、今回の会合でその運用方法が議論された、「気候変動特別基金(SCC基金)」は、最後発開発途上国基金とは対照的といえるほど、もともと交渉を難航させる要素を多く持っていました。 二年前、第七回締約国会合で採択されたマラケシュ合意によると、気候変動特別基金の対象活動は、適応策、技術移転、様々な分野での排出削減活動、そして経済活動の多様化(石油利用の削減などの温室効果ガス排出量削減策による産油国経済への悪影響に対する支援)など多岐にわたり、かつ、昨年の第八回会合では、地球環境ファシリティが管理する他の基金が対象とする分野との重複を避けること(補完性の確保)、そして上記の同基金の支援対象活動の中で優先する活動を明確にすること(優先活動の定義)などが合意されました。 今回の会合はこうした各国の利害を大きく左右する方針について協議することが目的あったため、交渉の難航が予想されました。 この新しい基金の運用を開始するためには、締約国が地球環境ファシリティへの基金運営の方針を取りまとめ、12月の本会議(COP9)において決定することが必要です。

  そして実際の交渉では、予想されたように上記した優先活動の定義、補完性の確保について議論が集中しました。 優先活動の定義に関しては、途上国側が適応策への支援を対象とするよう強く求める一方で、先進国側は適応策の重要性を認めながらも排出削減策についても支援対象として重視するべきと主張しました。 また、途上国間でも意見は分かれており、特にサウジアラビアは石油輸出国機構(OPEC)を代表して経済活動の多様化に対する支援を求めましたが、島国の連合体である小島嶼国連合(AOSIS)を筆頭として他の途上国は適応策への支援最優先を強く求めました。 また対象活動としての技術移転についても適応策に関する技術移転の必要性が中国等によって主張されています。 補完性の確保に関しては、何の基金との補完性なのか、例えば地球環境ファシリティがすでに行っている気候変動プログラムに対して補完的なのか、既存の二国間・多国間開発援助のことなのかなどについて協議されましたが、途上国はいずれにしても適応策への支援は不十分として、補完性の確保における適応策への支援の正当性を強調しました。 かつて気候変動に関する政府間パネル議長(当時)ワトソン博士は、排出量削減、資金問題と並び、条約の下で変動する気候への適応適応対策がもっと重要かつ資金の手配が遅れているのだと語っています。 適応には既存の社会・経済インフラの予防体制整備、農業改革から予想される自然災害増への対応まで、それだけで膨大な資金を要すると見られており、現在の地球環境ファシリティの適応資金だけではとても追いつきません。

  また、今回の会合の前には、ガイダンス策定をスムーズに行うために、各締約国や最後発開発途上国専門家グループ(LEG)、そして技術移転専門家グループ(EGTT)から意見書が提出されました。 先進国の多くはこれでは議論を行うための情報が不十分として、十二月の次回本会議までにさらなる意見書提出やコンサルテーションを行う機会を設けるよう働きかけましたが、基金の運用開始をこれ以上遅らせまいとして途上国が反発し、認められなかった経緯もあります。 これは先進国側が資金支援をする対象を明確にしてから、資金拠出を行いたいという思惑があります。 何を持って適応策とするのかという議論も先進国側から聞かれましたが、どのような適応策を行うかの判断は、あくまで支援の受領国の主導によって行われるべきということを考えても、資金活用情報の透明性を確保することを前提とした上で、途上国側の判断を尊重するべきでしょう。

  また触れておくべきこととして、気候変動特別基金の中に、地球環境ファシリティと国連環境計画(UNDP)が行っていて成功例として知られる「小規模プログラム(SGP)」と同様の制度を設けて、試験的に適応策プロジェクト実施を支援することもガーナによって提案されました。 これは、NGOによっても支持されましたが、この案は資金規模こそ小さいものの地球環境ファシリティの小規模プログラムが高く評価されていること、試験的実施による経験を今後の適応策に活かしていけること、そして交渉の滞りを打ち破る方法としても、これはひとつの有効策であるといえるでしょう。

補助機関会合(六月四日〜十三日)の結果

  最終的には、こうした議論を繰り返しつつも、会期最終日前日の12日に各国は議長結論文書草案に合意しました。 主な内容は、以下のとおりです:

  今回の会合では、予想されたとおり途上国と先進国との間で意見が分かれ、交渉は難航しました。 しかし、結果的には今回の会合で気候変動特別基金の運営を早急に開始するための足がかりを作ることができたといえます。 次回本会議(COP9)での方針策定という時限の設定は、既に昨年の本会議での決定事項であり、適応策が優先事項として確認され、基金の原則や補完性がより明確になったことは、先進国が資金拠出を行いやすい土壌がより整ったことを意味します。

  また、適応策が気候変動特別基金の最優先の支援対象として確認されたことは大きな意義を持ちます。 気候変動による途上国へ影響は避けられないことが明らかになってくるにつれて、適応策支援の要求は高まっていました。 しかし、枠組み条約の資金メカニズムである地球環境ファシリティが資金拠出してきた活動は主に温室効果ガス削減であるいわゆる緩和策に焦点が当てられてきており、これが途上国の不満を引き起こしていたことは明白です。 筆者の調査によると、国別報告書の作成支援を含めた適応策への支援額は気候変動関連活動全体の約40分の1にすぎません。 その一方で、先進国の温室効果ガスの排出量は伸び続けています。 途上国はこれを先進国による条約義務の不履行とみなし、先進国への不信感を高まらせていました。 昨年の本会議ではこれが顕著となり、南北の信頼再構築が必要であることが浮き彫りとなりました。 一方で先進国側にとってみれば、途上国からの排出量が急増するなかで将来の世界的抑制義務を伴った気候変動防止活動が必要であるということは明らかです。 このため、途上国の持つ不信感を拭い去り、温室効果ガス排出管理枠組みを世界的な規模で作り上げることが重要です。 そして途上国の主張を取り入れた資金メカニズム構築は、この事態緩和の有効な手段のひとつでしょう。

  また、資金メカニズム以外にも、今回は決裂してしまいましたが途上国支援活動に関する条約4.8、4.9条実施の交渉、技術移転、国別報告書の策定、IPCC第三次評価報告書の評価など途上国と先進国の溝を埋める役割を持つ議題は多数あります。 こうした交渉をもって、COP8で叫ばれた双方の信頼の再構築を進めていくことが中長期的な気候変動防止活動に大きな貢献をもたらすことでしょう。 日本政府にも、こうした議題が日本の利益や世界の利益を考えたときにどういう意味を持つのかについて十分な議論を持ち、長い視野をもって戦略的に資金メカニズム等の交渉に臨んでいただきたいと思います。 十二月の条約本会議では、最後発開発途上国基金と同様、地球環境ファシリティに対し特別気候変動基金の運用ガイダンスが策定され、2004年度に特別気候変動基金の運営準備そして開始を行うための土壌が築き上げられることを願います。

※本文中の内容は筆者によるもので、FoE Japanの見解を示すものではありません。

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