世界の十分の一以上の確認埋蔵量のイラクの石油生産量は、湾岸戦争後の国連禁輸下でも、比較的早く以前の水準に近い240万バレル/日に戻っており、大半は食糧輸入の交換計画に向けられています。
世界最大の国際石油資本エクソン・モービル社を上回る生産量で、潜在的には最大600万バレル/日以上の能力を有すると見られ、国際取引価格を大きく左右する力を持っています。
政府は近年、ロシア、フランス、中国系企業に総額380億ドル相当、470万バレル/日分の新規油田開発を発注しましたが、米英系資本はほぼ例外なくこれらの取引から閉め出されました。
これが経済よりも安保理対策のための政治的な契約とも言われる所以です。
もしフセイン政権が続けば、将来を潤うこれら石油の開発・運用は露・仏・中の企業が中核となっただろう一方、米英主導で戦争による政権交代が図られれば、米エクソン、英BPといった企業が復興の中で浮上することでしょう。
2年前9月11日の米国でのテロには、サウジ出身者が数多く関わっていました。
石油に於ける世界の中央銀行と豪語する同国の影響力は絶大で、それを下げる意味でも、米政権はイラク石油が潜在的に持つ生産量に強い関心を寄せています。
また、2月の米議会で戦費予想は軍事行動分だけで950億ドルに上ることが証言されましたが、その一方、初期だけで15億ドル程と見積もられるその戦後復興事業の最有力受注候補が、先に触れた世界最大の石油サービス・コンサルタント企業・米ハリバートン社とその系列企業です。
米軍侵攻で被害が出て、米企業がその復興を受注するという明ら様な還流の構図を懸念する声が米議会で出ているほどです。
米国テロ直後から最も強硬にイラク攻撃を主張したのも、副大統領と国防省次官だったと米紙は伝えています(10)。
数日前、米政府はこのハリバートンを含む米企業のみ数社に10億ドル弱の戦後復興初期の一連の発注を行う旨を発表しました(11)。
米議会に報告された見積もりでは、復興は250億から1000億ドルに上ると述べています。
大戦後の欧州復興マーシャルプラン以来の最大の事業に、米企業は熱い視線を注いでいます。
米国は異例の国防省主導により米退役軍人のもとでのイラク暫定政権の編成を進めており、すでに英蘭系石油資本シェル社元社長を当面のイラク石油関連施策の長に内定しているとも言われます(12)。
フセイン政権の瓦解に伴い、米政権は、イラクの石油施設の完全掌握と早急な輸出再開を最優先の一つに数えています。
2400万のイラク国民は、経済制裁の下でほぼ国連の石油と食糧の交換計画で養われてきました。
国連がイラク原油輸出管理を当面継続できるか、米政権の望む禁輸解除と自由輸出再開か、その行方が注視されています。